健康はあなたの住む場所次第(9:25)
講演内容の日本語対訳テキストです。
自動スクロールはしませんので、映像に合わせてスクロールさせてご覧下さい。
地理情報はあなたを健康にできるのでしょうか。
2001年、私は心臓発作という列車にはねられました。気がつくと集中治療病棟にいて、緊急手術からの回復中でした。私には、何がなんだかわかりませんでした。自分に問いました。『なんで私が?』 『なぜ今?』 『なぜここなのか?』 『医者は警告できなかったのか?』
今日は、「健康な人生の秘訣」についてお話ししたいと思います。遺伝、生活習慣、環境、これらが持つリスクにうまく対処できれば、健康的で素敵な人生を過ごせるでしょう。遺伝や生活習慣というのは良く分かります。なぜかというと、医者はいつもこればかり聞いてくるからです。
病院で、あの長い記入用紙に記入しなければいけなかったことはありませんか? 運が良ければ、そんな機会に度々恵まれますね (笑い声) 。その度に同じことを何度も...そして、あなたの生活習慣、家族の病歴、処方歴、手術歴、アレルギー歴などについて質問してきます。
しかし、環境ということに関しては、私も医者もよく理解できていないと思います。環境とはどういう意味でしょう? いろんな捉え方がありそうです。これは私の人生で、これらは生活空間です。みなさんも同じですね。今まで何か所くらい異なる場所で生活をしたことがありますか?
考えてみてください。振り返ると、意外に多くの場所で時間を過ごしているのがわかります。仕事でも、それ以外でもね。私のような人なら、かなりの時間を移動の飛行機の中で過ごしているでしょう。そう、生活や仕事の場を尋ねる質問は意外と複雑なんです。そして、どこで目に見えないリスクに身をさらしているのでしょうか。私の場合、人生の約75パーセントをある一定の場所で過ごし、ほとんどの時間をそこから離れずに生活している―という結果になります。これでも私は世界中を回る旅人なんですけどね。
こちらをご覧ください。ペンシルバニア州スクラントンから始まりました。ここに同郷の人がいるかわかりませんが、ここで私の若い肺は19年間を過ごしました。高濃度の二酸化硫黄、二酸化炭素やメタンガスを不特定量吸い続けました。19年の間ずっとです。ここに行ったことがあればご存知でしょうが、これは燃えくすぶる石炭廃棄物の山の様子なのです。
私はこの地域を去り中西部に移動し、ケンタッキー州ルイビルに住むことになり、ラバータウンという地域の近くに落ち着きました。そこはプラスチックを生産していて、大量のクロロプレンやベンゼンを使用します。ここでは25年間、中年期の肺で過ごし、それらの化学物質が濃縮された空気を吸っていました。晴れた日はいつもこんな感じで、目には見えませんが、少しずつ、しかし確実に蝕まれていたのです。
そして極めつけに、西海岸での仕事を選び、カリフォルニア州レッドランズに越しました。いい感じです。そこでは私の年老いた肺を、粒子状物質、二酸化炭素、高濃度のオゾンで満たしたのです。国で最も高濃度のオゾンです。天気が良くてもこの眺めです。ここにいた人ならわかりますよね?
これのどこが問題なんでしょう? 実は大きく欠落しているものがあります。それは、病院では起こることのないことです。『どこで暮らしたことがあるか?』 と尋ねてきた医者は誰ひとりいません。どのような質の水、食べ物などを摂取していたか。そういうことは全くと言っていいほど聞いてきません。このデータを見てください。これは世界中から集められたもので、多くの国がこのような研究に何十億ドルも投資しています。
私が住んだ所にマルをつけてみました。どうやら、私がいた所は、心臓発作の要因にはもってこいの場所だったようです。白のスペースで人生の大部分を過ごした人はどれくらいいます? ラッキーですね。赤のスペースにいた人は? うーん、よくないですね。世界中にある地図帳には、このようなマップがいくつも記載されています。これらは病気の要因へのヒントを与えてくれます。しかし、私たちのカルテには一切こういったものがないのです。
同僚のポールは、この2年間、彼の携帯電話を年中2時間ごとに追跡させ、彼が訪れた場所を全て記録させたのです。彼が国内の数か所に行ったことがわかりますね。これは彼が最も時間を過ごしたところです。よく見ると、ポールの趣味はなにか? というヒントが隠れています。わかりますか? そう! スキーです! さらに拡大すると、彼が過ごした場所の詳細がわかります。この黒の点は、米国環境保護庁によって確認された、有害物質の排出場所を意味します。
こういうデータがあることをご存じでしたか? 合衆国では、どのコミュニティーでもこの個人用マップを作ることができるのです。これで所在地歴は携帯電話で作れます。ポールが彼のiPhoneでやったようにね 。診察室に入ると、このマップを持った医者がイスに座って待っている…こういった風になるのではないでしょうか? そして、医者はそれを見てこう言うでしょう。『ビルさん! いつも暖かく美しいカリフォルニアにいるからって、午後6時にジョギングをするのはこのレポートの結果上お勧めできませんね』
みなさんには2つの課題を託したいと思います。ひとつ目は、私たちの医者に地理情報の大切さを教えることです。それは地理医学と呼ばれ、世界中で複数の計画が現在取り組まれています。まだ発展初期段階にあり、サポートを必要としています。そして、今日みなさんにお話しした内容の大切さを、未来の医者たちに教えなければいけません。
ふたつ目には、何十億ドルもの資金を電子カルテの作成に費やすと同時に、この所在地歴をカルテの中に確実に入れることです。これは医者だけでなく、研究者にも重要なことで、私たちにとっても役に立つことなのです。もしこのことを知っていたら、アメリカのオゾン首都には引っ越さなかったかもしれませんし、上司と移動についての交渉も可能になるかもしれません。会社と私自身のためにもね。
ジャック・ロードは『地理は医療の鍵である』と言いました。これは、ダートマス・アトラスの結論で、地理の変動は病気や健康状態、健康管理システムに大きく影響するということを、あの言葉の中で言っていたのです。彼は10年も前から分かっていたのです。私は、この地理情報が私たちのカルテに入るチャンスをつかんで欲しいのです。この私なりの見解を、みなさんに託したいと思います。地理情報はとても重要で、私たちをより健康にできる―そう信じています。
ありがとう(拍手)
あなたの住む場所は遺伝や食習慣と同じようにあなたの健康に大きな影響を与えます。しかしそれはカルテには載っていません。TEDMEDでビル・ダベンホールは地理データ(心臓発作レートから有害廃棄物の情報まで)がどのように携帯電話のGPSと組み合わさり、医者たちにその情報を与えられるかを説明します。それを“地理医学”と呼びます。