優れたリーダーはどうやって行動を促すか(18:04)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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物事がうまく行かなかったときに、それをどう説明しますか? あるいは、常識を全てひっくり返すようなことを誰かが成し遂げたときにそれをどう説明しますか? 例えば、どうしてアップルはあれほど革新的なのか。毎年毎年、他の競合のどこよりも革新的であり続けています。でもコンピュータの会社には変わりありません。他の会社と似たようなものです。同じような人材を同じように集め、同じような代理店やコンサルタントやメディアを使っています。では、なぜアップルには他と違う何かがあるように見えるのか。なぜ、マーチン・ルーサー・キングが市民権運動を指導できたのか。市民権運動以前のアメリカで苦しんでいたのは彼だけではありません。彼だけが優れた演説家だったわけでもありません。なぜキング牧師だったのでしょう。ライト兄弟が有人動力飛行を実現できたのはなぜでしょう。人材を揃えて資金も潤沢な他のグループでも有人動力飛行を実現することはできず、ライト兄弟に負けてしまいました。何か別な要因が働いています。
三年半前のことです。私は発見しました。この発見によって、世界がどう動いているのか見方がすっかり変わりました。そればかりか、世界に対する接し方もすっかり変わりました。明らかになったことは、あるパターンです。わかったのは、偉大で人を動かす指導者や組織は全て ―アップルでも、マーチン・ルーサー・キングでも、ライト兄弟でも― 考え、行動し、伝える仕方がまったく同じなのです。そして、そのやり方は他の人達とは正反対なのです。私はそれを定式化しました。世界でもっとも単純なアイデアかもしれません。私はこれをゴールデンサークルと呼んでいます。
なぜ? どうやって? 何を? この小さなアイデアで、ある組織やリーダーが、なぜ他にはない力を得るのか説明できます。用語を簡単に定義しておきます。世の中の誰にせよ、どの組織にせよ、自分たちが何をしているかはわかっています。100%、誰でもどうやるかをわかっている人もいます。それは、差別化する価値提案とか、固有プロセスとか、独自のセールスポイントと呼ばれるかもしれません。でも「なぜやっているのか」がわかっている人や組織は非常に少ないのです。
「利益」は「なぜ」の答えではありません。それは結果です。いつでも結果です。「なぜ」というときには目的を問うています。何のために? 何を信じているのか? その組織の存在する理由は何か? 何のために朝起きるのか? なぜそれが大事なのか? 実際のところ、私達が考え、行動し、伝えるやり方は外から中へです。それはそうでしょう。明確なものから曖昧なものへ向かうのです。でも、飛び抜けたリーダーや飛び抜けた組織はその大きさや業界にかかわらず、考え、行動し、伝える時に中から外へと向かいます。
例を示しましょう。私がアップル製品を使っている理由は、分かりやすく誰でも理解できるから。アップルが他の会社と同じだったら、こんなCMを作るでしょう。「我々のコンピュータは素晴らしく、美しいデザインで簡単に使え、ユーザフレンドリー。ひとついかがですか?」いりません。我々のほとんどはこんなふうに伝えます。マーケティングや売り込みもそう。我々の対話のほとんどがそんなふうに行われます。何をして、どう違いどう優れているかを述べ、相手に何か行動を期待します。購入とか投票とかのたぐいです。
私たちは新しい法律事務所を開所しました。最高の弁護士たちと大手のクライアントを抱えています。私たちは常にクライアント第一で行動します。
これが私達の車のニューモデルです。低燃費でシートは総革張り。いかがですか? ―これでは心を動かされません。
アップルならこんな風に伝えます。「我々のすることはすべて、世界を変えるという信念で行っています。違う考え方に価値があると信じています。私たちが世界を変える手段は、美しくデザインされ、簡単に使えて、親しみやすい製品です。こうして素晴らしいコンピュータができあがりました」一つ欲しくなりませんか? 全然違うでしょう? 買いたくなりますよね? 今したのは、情報の順番を逆にすることでした。これが示すのは、人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるということです。人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。
だから、この場にいる人はだれもが安心してアップルからコンピュータを買っているのです。そしてまた、MP3プレイヤーやスマートフォンやビデオレコーダーも安心してアップルから買えるのです。でも、アップルは単なるコンピュータ会社です。アップルと他社とで何か仕組みが違うわけではありません。競合会社にだって同様の製品を作る力があります。実際、挑んだこともあります。数年前にはゲートウェイが平面テレビを出しました。ゲートウェイにはそのための卓越した技術があります。PC用の平面モニタを何年も作ってきたのです。しかし全然売れませんでした。デルは、MP3プレイヤーとPDAを発売しました。非常に高品質な製品です。デザインも申し分ありません。でも全然売れませんでした。実際、今となってはデルのMP3プレイヤーを買うなんて想像すらできませんよね。コンピュータ会社のMP3プレイヤーなんて誰が? でもみんなアップルからは買うのです。人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。一番肝心なのは、自分が提供するものを必要とする人とビジネスするのではなく、自分の信じることを信じる人とビジネスするのを目標とすべきなのです。
私がお話していることは、私の意見ではなく、全ては生物学の原理に基づいていることです。心理学ではなく生物学です。ヒトの脳の断面を上から見ると、脳は3つの主要な部位に分かれているのがわかります。それはゴールデンサークルと対応しています。一番新しいホモサピエンスの脳は、大脳新皮質であり「何を」のレベルに対応します。新皮質は合理的で分析的な思考と言語とを司ります。内側の二つは大脳辺縁系に対応し、これは感情、信頼、忠誠心などを司ります。またヒトの行動を司り、全ての意思決定を行いますが、言語能力はありません。
言い換えれば、外から中へのコミュニケーションを行っているとき、確かに大量の複雑な情報を理解できます。機能やメリットや事実や数値などです。しかし、行動につながりません。中から外へのコミュニケーションを行っているときには、行動を制御する脳の部分と直接コミュニケーションすることが出来ます。言葉や行為によって、理由付けは後からすることができます。直感的な決定はここから生まれます。時には、誰かにあらゆる事実やデータを伝えても「細かい事実は分かったけど、どうも納得感が得られない」と言われることがあります。どうしてここで「感」なんでしょうか。理由は、脳の意思決定をする部位は言葉を扱えないからです。せいぜい「分からないけど納得“感”がない」という言葉なのです。時には、胸の内一つとか魂の導きに従ってとも言いますが、でも、別に頭以外の部分で意志決定するわけではありません。すべては大脳辺縁系で起きています。辺縁系は意思決定を司り、言語は担当しません。
人々は「なぜやっているのか」に反応するのに、なぜやっているのか自分でわかっていなければ、投票してもらうにせよ何か買ってもらうにせよ、みんなを引き付けられるわけがありません。さらには、あなたがしていることに忠誠心を持って加わりたいなどと思わせられるわけがない。自分の商品を必要とする人に売るのではなく、自分が信じるものを信じてくれる人に売ることを目指すべきです。単に仕事を求めている人を雇うのではなく、自分の信念を信じてくれる人を雇うことを目指すべきです。私がいつも言っていることですが、仕事ができるというだけの理由で採用した人はお金のために働くでしょう。しかしあなたの信念を信じてくれる人を雇えば、その人は血と汗と涙を流して働くのです。このことを示す例として、ライト兄弟ほどふさわしいものは他にありません。
サミュエル・ピエールポント・ラングレーについては知らない方が多いでしょう。20世紀の初頭には、有人動力飛行の追求は今日のドットコムのようなもので、誰もが試みていました。そして、サミュエルは成功のレシピと言えるものを備えていたのです。誰かに聞いたとしましょう。「製品や会社が失敗した理由は何ですか?」返ってくる答えはいつも同じ3つの項目です。資金不足・人材不足・市場環境の悪化。いつもこの3点です。詳しく見てみましょう。サミュエル・ピエールポント・ラングレーは、5万ドルの資金を陸軍省から与えられ、飛行機械を開発していました。資金は問題無し、ハーバード大に在籍し、スミソニアン博物館で働いていた彼は人脈豊富です。当時の頭脳たちと通じていました。金にものを言わせて最高の人材を集めました。市場の環境は絶好、ニューヨーク・タイムズは彼を追い掛け回し、みんなラングレーを応援していました。ではどうして皆さんはサミュエル・ラングレーのことを聞いたことが無いのでしょうか。
そこから数百マイル離れたオハイオ州デイトンにいたライト兄弟のオーヴィルとウィルバーは、成功のレシピとはまるで無縁でした。お金がなく、夢に挑む資金は自分たちの自転車店から持ち出しで、ライト兄弟のチームの誰ひとりとして大学を出てはいませんでした。オーヴィルとウィルバーも違いました。そして、ニューヨーク・タイムズに追いかけ回されたりもしません。違っていたことは、オーヴィルとウィルバーが大義と理想と信念に動かされていたということです。彼らはもしこの飛行機械を作り上げることができたら、それは世界を変えることになると信じていました。サミュエル・ラングレーは違っていました。彼が求めていたのは富と名声です。それによって得られるものが目的であり、富を追求していたのです。そしてどうなったのでしょうか。ライト兄弟の夢を信じた人々は、血と汗と涙を流して共に働きました。もう一方のチームはただ給与のために働きます。ライト兄弟は、外へテストに出かけるたびに部品は5セットずつ持って行ったと言います。夕食に帰るまでには、5回ぐらい壊れるようなものだったからです。
そしてついに、1903年の12月17日のこと、ライト兄弟は初飛行に成功。それをその場で目撃した者もいませんでした。そのことが広く伝えられたのは数日経った後です。そして、ラングレーの動機が適切でなかったことを示すさらなる証拠には、ライト兄弟が飛行した日に彼は諦めたのです。彼はこうも言えたはずでした。「連中はよくやった、我々の手でもっと改良してやろうじゃないか」でもそうはせず、一番になれず、金持ちになれず、有名にもなれなかったので彼は諦めました。
人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。そして自分が信じていることについて語れば、そのことを信じてくれる人たちを惹きつけるでしょう。では、なぜ自分の信念を信じてくれる人を引き付けることが重要なのでしょう。「イノベーションの普及の法則」と呼ばれるものがあります。もしも知らないなら言葉を覚えてください。人口の2.5%はイノベーターです。13.5%はアーリーアダプタと呼ばれる人たちです。34%はアーリーマジョリティー、レイトマジョリティーにラガードと続きます。この人達がプッシュホンを買う理由は、ダイヤル式が買えなくなったからに他なりません(笑)
人はみんな、この軸上のいろいろな時点に位置づけられます。イノベーションの普及の法則が教えるところは、マスマーケットで成功したいなら、あるいはアイデアを幅広く受け入れて欲しいなら、そのためには臨界点である15から18パーセントの市場浸透率が必要ということです。そこまで行くと状況が一変します。私は「新しいビジネスのコンバージョンはどれくらい?」とよく聞きます。相手は「10%です」と自慢げに教えてくれます。ええ、10パーセントの顧客を得るところまでは行けます。自分から飛びついてくれる人が10%程いるのです。そうとしか言えないのですが。彼らは直感でただ飛びついてきます。問題は、売り込まなくとも飛びつく人と食いついてこない人の違いです。ここにある小さなギャップをどう埋めるかが問題になります。ジェフリー・ムーアのいわゆる「キャズムを越える」ということです。なぜかというと、アーリーマジョリティーが試そうという気になるのは、だれか他の人が先にトライした後だからです。イノベーターとアーリーアダプタは、自分の直感に従って決める人達です。彼らは世界に対して信じることに基づいて、直感的に判断するのを好みます。入手が難しくとも問題にしません。
iPhoneが登場した日に6時間並んで買う人達です。次の週になれば、歩いて店まで入っていって、すぐその場で買えるというのに、この人たちが最初の薄型テレビに400万円払うのです。その技術がまだ標準になっていなくともお構いなしです。ちなみに彼らがそうするのは、技術がすごいのが理由ではなく、自分たちのためです。一番乗りをしたいのです。人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。そして信じることをただ行動で示すのです。人は自らの信じることを示すために行動します。iPhoneを買うために6時間も列に並んで立ちっぱなしで過ごすわけは、彼らが世界について信じていることのためです。他の人にもその思いを見せたいのです。自分が1番だったと。人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです
ここで有名な例を紹介します。イノベーションの普及の法則に関する有名な失敗例と、有名な成功例です。まず有名な失敗例ですが、これは商品の例です。ほんの少し前にも言いましたが、成功のレシピは金と人材と市場環境です。これがそろえば成功します。TiVoを見てください。TiVoが登場したのは、今から8-9年前で、市場に投入されている唯一の高品質製品でした。断然間違いなし。資金調達も極めて順調でした。市場の状況もすばらしかった。TiVoは動詞になりました。私はいつも「スゴ録」でTiVoってるよ(笑)
でも、商業的には失敗でした。お金を生み出せなかったのです。株式公開をしたときの株価は30-40ドルでしたが、それから急落して10ドル以上で取引されることはありませんでした。実際、何回かの単発的な上げを別にすると、6ドル以上で取引されることさえなかったと思います。お分かりのように、TiVoが製品を投入したときには、彼らはそれが「何か」を説明しました。「生放送を一時停止したり、CMをスキップしたり、巻き戻して見たりできるテレビです。どんな番組が好きかを、頼まなくとも記憶してくれます」疑い深い大衆は思います。「信じられないね。そんなのいらない。気に入らない。ぞっとしない製品だ」もしTiVoがこんな風に言っていたら?「自分の生活のあらゆる側面を、自分でコントロールしたいという方にはぴったりの製品がここにあります。生放送を一時停止したり、CMをスキップしたり、好みの番組を記憶します」などなど。 人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。何をするかは、信じることを示す限りにおいて意味を持つのです。
今度は、イノベーションの普及の法則がうまく行った例を見てみましょう。1963年の夏のこと、25万人もの人が集まって、ワシントンの通りを埋め尽くし、キング牧師の演説に耳を傾けました。招待状が送られたわけではなく、日にちを告知するウェブサイトもなく、どうやったのでしょう。キング牧師だけが偉大な演説家というわけではありませんでした。市民権運動以前のアメリカで彼だけが苦しんでいたわけではありませんでした。実際、彼のアイデアのなかにはひどいものもありました。でも彼には才能がありました。彼はアメリカを変えるために何が必要かなどを説かず、彼は自分が信じることを語ったのです。「私は信じている。信じている。信じている」と語りました。彼が信じることを信じた人々が、彼の動機を自らの動機とし、他の人にも伝えたのです。さらに多くの人々に伝えるため組織を作った人もいました。そして、なんとまぁ25万人が集まったのです。その日、その時に、彼の話を聴くために。
その中で、キング師のために集まった人は何人いたでしょう。ゼロです。みんな自分自身のために集まったのです。彼ら自身がアメリカに対して信じることのために、8時間バスに揺られてやってきて、8月のワシントンの炎天の下に集まったのです。自分が信じることのためです。白人と黒人の対立ではありません。聴衆の25パーセントは白人だったのです。キング牧師は、この世界には2種類の法があると信じていました。神によって作られた法と、人によって作られた法です。そして、人が作った法がすべて神の法と整合するまでは世が公正になることはないと信じていました。市民権運動はたまたま、彼の人生の目的を果たす上で完璧な追い風でした。人々がついて行ったのは彼のためではなく自分自身のためでした。その中で「私には夢がある(I have a dream)」という演説をしたのです。「私にはプランがある」という演説ではありません。
現代の政治家の12項目の総合計画と比べてください。誰かを動かすものではありません。リーダーと導く人は違います。リーダーというのは、権威や権力の座にある人です。でも、導く人というのは皆を動かすのです。個人であれ組織であれ、我々が導く人に従うのは、そうしなければならないからではなく、そうしたいからです。導く人に従うのは、彼らのためでなく自分自身のためです。そして、「なぜ」から始める人が周りの人を動かし、さらに周りを動かす人を見出せる力を持つのです。
どうもありがとうございました(拍手)
サイモン・シネックがシンプルで強力なモデルを使って周りを動かすリーダーシップについて説明します。全てはゴールデンサークルと「何のために」という質問から始まります。成功例として、アップルやマーチン・ルーサー・キング、ライト兄弟を取り上げ、失敗例として (最近の勝訴で株価が3倍になったものの) 苦難の続くTiVoを取り上げます。