プラシーボマジック(9:05)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は、偽薬の心理的効果について興味を持ってきました。偽物だと思われているものがなぜか本物になるという共通点を考慮しなければ、マジシャンである私がこんな事に興味を抱くのはおかしいと思われるかもしれません。これは、いわゆる砂糖の錠剤が、ある研究ではかなりの効果を上げるというプラシーボ効果の事です。理由は単に、当人が薬か何かが効いていると信じ込むからです。鎮痛効果を例にとると、患者が十分効果があると信じている時、プラシーボ効果とよばれる成果が体内で現れます。その人の認識が、偽物を本物にしてしまうのです。
ここで、理解を深めるため、基礎的でとても簡単なマジックをお見せしたいと思います。これは、1950年代からあらゆる子供のマジック本に載っているトリックです。私自身、これを1970年代にボーイスカウトで学びました。まずお見せして、その後種明かしをしましょう。そして、なぜ種明かしをしたのか説明します。
では見て下さい。何が起こるでしょう。ナイフと私の手、調べて頂いても結構ですよ。私は単純にナイフをこの様に握りますから。袖から何か出てきたり入ったりしないように袖をまくりましょうか。ここで手首を握ります。ご覧のように、何かが行き来することは絶対ありません。袖からは何も行き来できません。タネはとても単純です。手を開きます。すると、成功していれば体から発する天然の磁気がナイフを固定するはずです。実際、とてもしっかりと固定されていて、この様にゆすっても離れませんね。袖もとからは何も出ていません。トリックはなしです。全て調べていただいても大丈夫です。ジャーン!(拍手)
これが、私が、マジックに興味のある小さな子供達によく教えるトリックです。なぜなら、方法はとても単純ですが、騙しの大きな効果を学ぶことができるからです。多分、会場の多くの皆さんがこのトリックをご存じでしょう。タネはこうです。手にナイフを握ります。ここで袖から何かいかさまが出来ないよう手首を握るといいましたね。これが嘘だったのです。
手首を握っている事が、実はこのマジックの種なのです。私の手が皆さんの方から反対向きに変わる瞬間、ここの人差し指がこの場所からこの様に指さすような形になる位置へと移動します。なかなかいいでしょ。子ども時代にマジックで遊ばなかったようですね(笑)。
では腕をこの様に握って、向きを反転させながら指を動かしてみましょう。なぜ、下からのぞく指が3本だと気付かずだまされたのか考えてみましょう。理由は、頭の中では指を1本2本3本と数えずに、グループとして捉えているからです。でもそれだけじゃありませんね? 次に手を開きます。無論ナイフは磁気で張り付いているのではなく、インチキな人差し指が裏側から抑えています。次に指を閉じるときも同じです。元の向きに戻る際、人差し指を戻すところを見えないようにします。そして手を離します。次にナイフをとります。これで友達や隣人の前でマジックができますね。
さて(笑)、これがプラシーボ効果と何の関係があるのでしょう? 一年前くらいに読んだ研究報告が、本当に私の中に新風を吹き込んでくれました。私は医者でも研究者でもありませんから、これには本当に驚きました。アスピリンのような形の白い錠剤の偽薬を投薬してみると――実際にはそれはただの白くて丸い錠剤なんですが――目に見える効果を上げることが明らかになっています。しかし、もし偽薬の形を変えてみると――例えば小さくしてみて、青色にして、小さなスタンプを押すと――実際、より大きな効果をあげているのです。もちろんその二つともただの砂糖の錠剤であり、薬学的成分は何も含んでいないんですよ。しかし白い錠剤は青い錠剤ほど効果をあげません。なんですって?(笑)本当に驚きました。
でもまだ終わりじゃないんです。もしカプセルを投与すれば、どんな錠剤よりも効果的だそうです。色つきのカプセル――片方が黄色でもう片方が赤色――これは白いカプセルよりも効果的なのです。服用量も影響しているみたいです。1日に2錠では、1日に3錠程の効果はない…すみません、統計をあまり覚えていません。しかし重要なのは、服用量も影響を与えるということです。そして、その形も何か影響を与えるようです。もし最高の効果を望むなら、針が一番です。注射器に、なんでもいいのでなんの作用もない液体数ccを入れて患者に打ちます。患者の頭の中では、点滴はとても効果があると認識されているので、白い錠剤に比べると絶大な効果を生み出します。
グラフをみせましょう。ポイントは白い錠剤よりも青い錠剤、錠剤よりもカプセル、なにより注射器の方が効き目があるという事です。そしてどれも実際、薬剤などは含んでいません。患者の認知のみが、偽物を本物に変えて効果を作り出しているのです。私はこれを応用してマジックに生かせないかと考えました。そこで明らかに、偽のトリックを本物にしてみましょう。この研究からリアル感を追求する時、針に行きつくということが分かりました。
この針は18cmあります。とてもとても鋭いですよ。これをまず少し殺菌しましょう。これは本当に私の手です。偽物じゃありませんよ。これは私の体で、ハリウッドの特殊効果でもありません。腕を刺し、針を反対側まで貫通させます。
吐き気を催しやすかったり、すぐ気を失う方は目を――実はこれを昨夜ホテルの部屋で友達と何人か知らない人の前でやったんですが、女性が一人気を失いかけていました。なのでもし気持ち悪くなってしまう方は、これから30秒ほど目をそらして――最初の怖い一部は隠してやりましょう。見えてしまいますが、いやでしたら目をそらしてくださいね。
では始めましょう。腕の下の方をスタート地点にして、ここから貫通させましょう。すみません、怖がらせていませんかね? それでは皮の下を少しだけ破って反対側まで貫通させてみましょう。基本的に、我々がやっていることは先ほどのナイフのトリックと同じことです(笑) ――ある意味ではね。でも今は指を数えることができないでしょ? 見てみましょうか。1本、2本、3本、4本、5本。そうですね…何を考えているかわかりますよ。「数分のエンターテインメントの為に自分の腕を刺すなんてことはしないだろう」ってね。では少しだけ見てみましょうか。どう見えますか? 上手くいきました。分かってますよ(笑)後方の席の方々は「よく見えなかったな」って言ってるでしょう。中継室にいる方はスクリーンに近付いているでしょう。もう少しよく見てみましょうか。これは本当に私の腕です。ハリウッドの特殊効果ではありません。私の体ですから少し揺することもできます。すいません、気分が悪くなりだしたら目をそらして、見ないでください。
後方の皆さんや、後にビデオでこれを見る人は「そうだな、なんか上手に出来てるみたいだけど、もし本当に腕を貫通しているなら出血するだろう」と言っているでしょうね。こことここに穴があるんですよ。では少し出血させてみましょうか(笑) ――ほら出てきた(笑)
普段ならここで針を抜いて、腕をふき、穴がない事をお見せするんですが、この状況下では、何か偽りのものを本物に変えるというアイデアと一緒にとっておきましょう。そしてステージから去りましょう(笑)
ありがとうございました。
砂糖の錠剤、偽の注射など、偽薬(プラシーボ)は想像以上に実際に効果を発揮することが研究で明らかになっています。
TEDMEDで、マジシャンのエリック・ミードはあなたが本物ではないと認識している時でさえ、効果があるかの様な反応を見せることを証明してみせます。
※この公演は注射器や血に拒絶反応を示す方には好ましくない内容を含んでいます。