新規事業を成功させる一番の原因(6:26)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今日皆さんにお伝えしたいのは、自分でも驚かされた発見です。とりわけ、何が事業を成功させるのか―新規事業の成功に最も影響する要因についてです。
新しい企業組織は、世の中を良くするための理想的な形だと思います。人を集め、適正な株式のインセンティブを与え新規事業を組織すれば、今まで出来なかった方法で人類の可能性を開拓できます。信じられない偉業が達成できるのです。
では、新しい企業組織がそこまで素晴らしいならば、なぜその多くが失敗するのか? それが私が知りたかったことです。事業の新規立ち上げにとって最も重要なのは何かを見つけたかったのです。
私は、失敗の理由を体系的に探したいと思いました。多くの企業を長年観察した経験からの直感や、間違った思い込みを避けたかったのです。
私が起業の重要項目を知りたかった理由は、私は12歳から起業を行ってきたからです。
中学校のバス停でキャンディ売りをし、高校ではソーラーエネルギーの装置を作り、大学では拡声器を作りました。大学を卒業したとき、私はソフトウェアの会社を始めました。そして20年前にアイデアラボを始め、この20年間で100以上の会社を立ち上げ、多くの成功と大きな失敗を経験しました。私たちは失敗から多くを学びました。
そのため私は、どのようなファクターが会社の成功や失敗に最も影響を及ぼすか見通そうとしました。私は、5つのファクターに注目しました。第1にアイディアです。以前はアイディアが全てだと思っていました。私が、自分の会社をアイデアラボと命名したのは、アイディアが浮かんだ時の「やったー」という瞬間への信奉からです。でも、時が経つにつれ考えるようになったのは、 チーム、運営、適応性がアイディアよりも重要かもしれない、ということです。
まさか、TEDのステージでマイク・タイソンを引用することになろうとは―でも、彼によると「顔面にパンチを食らうまでは、誰もが計画を持っている」(笑)。ビジネスにも全く同じことが言えると思います。
チームの実行力は、顧客から顔面パンチを食らうことに対する適応能力に負うところが大きい。顧客はこの上ない現実ですからね。ですから私は、一番大切な要素はチームかもしれないと思うようになったんです。
次に私は、ビジネスモデルに注目し始めました。
その会社には顧客から収益を得るための明快な手段があるか? 成功にとって最も重要なのは何かということについての、私の思考の中でトップの座を占め始めました。
次は資金調達(財源)です。
企業は、時として潤沢な資金を受けることがあります。もしかしたらこれが一番大切かも?
最後はもちろんタイミングです。時代を先取りすぎていて世の中が準備できていないかも? 例えば時代より少し先におり、世の中を教育する必要があるのでは? 最適な時期? あるいは遅すぎてすでに競合企業が多すぎる?
そこで、この5つのファクターを基準に、多数の企業を丁寧に分析しました。
私はアイディアラボの企業100社全部と、それ以外の100社を吟味し、科学的結論を導こうとしました。
最初に、アイディアラボの企業のトップ5の企業― Citysearch、CarsDirect、GoTo、NetZero、Tickets.comーは、全て10億ドル規模の成功を収めています。下位5社―Z.com、Insider Pages、MyLife Desktop Factory、Peoplelinkーは、我々の大きな期待に反して成功しませんでした。
そこで、全ての属性をランク付けするため、これらの企業の5つの要素について採点してみました。そしてAirbnb、Instagram、Uber、Youtube、LinkedInなど、アイディアラボ以外の大成功企業についてもやりました。
そして、失敗例はWebvan、Kozmo、Pets.com Flooz及びFriendsterでした。下位グループの企業には、資本が潤沢でビジネスモデルがあるものもありましたが、失敗に終わっています。そこで私は、どの要因がこれらの企業全ての成功や失敗に最も大きく影響を及ぼすかを見極めようとしました。そして、その結論には大変驚かされました。
最高位にタイミングが来たのです。
タイミングは、成功と失敗の違いの42%を説明します。2番目は、チームと運営でした。そしてアイディア。アイディアの差別化やアイディアのユニークさは、フタを開けると3位でした。
これは最終的な結果ではありませんし、アイディアが重要でないとは申し上げません。でも、アイディアが一番ではないことに私はとても驚きました。抜群なタイミングは、アイディアより重要なのです。
下位の2つがビジネスモデルと資金調達であることは納得できました。ビジネスモデルの重要性が低い理由は、ビジネスモデルなしで起業して、あとで顧客の要求に応じて付け加えれば良いからだと思います。同様に資金調達も、初めは資金が不足していても、事業に弾みがつけば ―とくに現代では―非常に容易に潤沢な資金を得られるからです。
ではここで、個々の事例を説明させてください。Airbnbなどはみなさんご存知の 爆発的な成功例です。この企業は、賢い投資家が見過ごしたことで有名です。なぜなら、投資家は「誰も自宅の空部屋を他人に貸さない」と考えたからです。もちろん、あとで間違いとわかりました。でも、成功した理由の1つは、ビジネスモデルやアイディアや運営が優れていたからではなく、タイミングです。
この企業が創業したのは不況のどん底の時期で、副収入を必要とした人が「誰も他人に自宅の空部屋を貸さない」という壁を乗り越えられたのかもしれません。
Uberも同じです。Uberの起業は、企業が素晴らしく、ビジネスモデルが素晴らしく、経営も素晴らしいですが、ドライバーをビジネスに取り込むこの上ないタイミングで起業したからです。ドライバーが副収入を求めたことがとても重要なのです。
初期の成功例―Citysearchの創業はウェブページの需要が出始めた時期でした。1998年に我々がTEDで紹介した「GoTo.com」は、当時、企業が低コストで利用できる交通手段を探していました。最高のアイディアだと思いましたが、実際にはタイミングがもっと重要だったようです。
次に失敗例もご紹介します。オンラインの娯楽企業「Z.com」を起こしたとき、私たちは興奮しました。資金が潤沢で、ビジネスモデルも素晴らしく、超有名ハリウッドタレントとも契約済みでしたが、1999-2000年のブロードバンド普及率は低すぎました。ビデオをオンラインで視聴することは困難で、自分のブラウザでデータの圧縮・解凍が必要でした。結局、Z.comは2003年に倒産しました。
ところが、わずか2年後、Adobe Flashによりデータ圧縮・解凍の問題が解決し、米国でブロードバンドの普及率が50%を超えたとき、YouTubeの機が熟しました。良いアイディアに加え、最高のタイミングでした。実は、YouTubeは発足時にビジネスモデルがありませんでした。ものになるかすら分かりませんでした。でも本当に最高のタイミングでした。
要するに私の結論は、運営は絶対重要で、アイディアも重要ですが、タイミングはもっと重要なのです。そして、タイミングを見極める最高の方法は、皆さんが世に出す製品を、顧客が使う準備ができているか真に見極めること。そして、どんな結果がでても否定的にならずに真摯に受け止めること。自分の好きなものがあれば世に出したいと思うでしょうから。でも、タイミングという要素に対して真摯にならねばなりません。
先に申し上げた通り、新規事業により世の中は変化し、より良い場所になれると思います。今日お話しした小さな知恵で、みなさんの事業の成功率が少しでも上昇し、普通では生まれなかった素晴らしいものが、世の中に出る一助になればと思います。
ご静聴ありがとうございました。
ビル・グロスは多数の新規事業立上げと起業支援を行う中で、新規事業の成功、不成功の理由について興味を抱きました。そこで自社・他社の企業データを数百集め、各社を5つの主要ファクターでランク付けしました。その結果、1つのファクターが他のファクターよりも突出していることがわかり、グロスすらをも驚かせました。