キャリー マリスの危険な感染症に対する次世代治療法について(4:35)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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4、5年前の頃でした。私は、こんな袋を持ってフィラデルフィアのステージにいたんだと思います。そして、袋から分子模型を取り出し言ったのです。
「皆さんはこの分子をあまりご存知ないと思いますが、体はこれを非常に良く知っています」
その時、私たちの体がこれを嫌っているものだと考えていました。なぜなら、これに対して免疫が働いているからです。
これはアルファ-ガル エピトープ(α-galactosyl epitope)と呼ばれています。豚の心臓弁に沢山これが存在するため、人と豚の心臓弁の移植を簡単に行えません。
実は、体はこれを嫌っている訳ではありません。これらが好物で食べてしまうのです。
免疫システムの細胞は、いつもお腹を空かせています。もし抗体が細胞上でこれらの一つに結合すると、それはつまり「これは食べ物だ」という意味です。この事を考えていた私は言いました。
「自分の産生しないこの変な分子に私たちの免疫系は反応しますが、同様な現象を他の動物にも見る事ができます。でも、私たちはこれから逃れる事はできません。なぜなら、心臓弁の移植を試みた全ての人々はこの免疫から逃れられないことを発見したからです」
そして私は「これを利用してみようか」と言ったのです。もし、この分子を、ちょうど肺に侵入してきた病原菌にくっつけることが出来ればどうなるでしょうか。5、6日かけて準備することもなく、即座に既存の免疫反応を引き起こすことができます。これにくっついているありとあらゆるものに即座に攻撃をしかけるでしょう。例えば、ロサンゼルスで交通違反の切符の為に警察に止められて、警官が車の外の後ろにマリファナの袋を落とし、マリファナの所持で告発することと同じような事です。人々を非常に早く、効率的に道路からつまみ出すようなものなのです(笑)。
これらを全く作り出さない 細菌に これらをうまく結合させることが出来れば、彼らをつまみだすことが出来ます。そして、特定の細菌ではそれらを排除する効率的な手段はもうありません。細菌に対して抗生物質は効きにくくなっています。――というか、世界もだめになりつつあるので、恐らく、50年後は連鎖球菌のような菌が蔓延し私たちはこの世にいないので、関係ないかもしれませんが――もしまだ生きているのだとしたら(笑)、細菌に対して何らかの対策を講じなければいけません。
そこで私は、大勢の共同研究者とこれに対する研究を始め、私たちが嫌いな細菌の特定のターゲット部位に結びついたものにこのエピトープ(epitope)を結合させようとしました。
今、私はまるでジョージ・ブッシュ(注:本講演時はアメリカ大統領)になって「任務完了」と宣言する気分なので、私は、彼が当時やっていたようにくだらないことをやっているのかもしれませんが、基本的に私がそこで話したことは、現在うまく機能しています。この方法で免疫が実際に細菌を食べ始めているのです。
あの図では、この分子は小さな緑色の三角形として表されています。これをDNAアプタマー(Aptamer)と呼ばれるものに結合させることができます。そしてDNAアプタマーは、選択した特定のターゲットに対して特異的に結合するのです。次は、好きじゃない細菌に対してそのターゲット部位を選び出します。私はブドウ球菌が特に好きではありません。なぜなら、私の友人である教授を昨年死なせたからです。抗生物質が効かなかったことから、私はこの細菌が嫌いです。そこで、このエピトープと結合したアプタマーを作り、それが体内におけるブドウ球菌の侵入を検知し、免疫システムに警告を発するようにしました。
実際こういう事が起きました。一番上の、小さな点で表されている線が見えますか。私たちの友人であるテキサスのブルックス空軍基地にいる科学者達によって、炭疽菌に感染させられたマウス達を示しています。また、それらのマウスは私たちが用意した炭疽菌のみを免疫システムの標的とする薬剤を投与されています。
一番上の線のマウスは全て生存しました。これは100%の生存率を示しています。
そしてマウスは更に14日間生存し、28日目に処分し解剖して一体何が起きたのか解析するまで生きたのです。なぜ彼らは死ななかったのでしょうか? 彼らの体内に炭疽菌がいなくなっていたからです。
ということで、私たちは成功したんです。
任務完了!(拍手)
薬剤耐性菌の犠牲者は世界有数の病院でも報告されています。しかし、高い病原性をもつ黄色ブドウ球菌や炭疽菌などによる感染症は今後大いに驚くことになりそうです。強力な抗生物質の効果が無いまま死亡した友人を目の当たりにしたノーベル賞化学者キャリー・マリスは、驚くほど将来性のある、革新的な治療法を明らかにします。