不貞の真実 ~誰かを愛したことのあるすべての人に~(21:31)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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なぜ 私達は浮気するのでしょう? なぜ 幸福な人達も 浮気するのでしょう? 「不貞行為」と呼ぶときに 具体的には何をさすのでしょうか ナンパ、ひと時の恋、買春、チャットルーム はたまた性風俗はどうでしょう なぜ 男性は退屈や深い関係を避けるために浮気をし 女性は寂しさと愛情を求めて浮気をすると 考えられているのでしょうか? 浮気は必ず 夫婦関係に終わりを告げるものになるのでしょうか?
この10年間 私は世界中を飛び回り 何百もの夫婦を広範囲に研究しました 彼らは皆 不貞行為により打ちのめされた夫婦です あるシンプルな背徳行為が 夫婦から親密な関係や 幸せやその人自身までも奪います それは姦通です しかし こんなありふれた行為が まだ十分に解明されてはいません ですので この話は 誰かを愛したことのあるすべての人に向けたものです
不倫は 結婚という制度が作られた当初からありました そして 当時から禁じられたものでした 実際に 結婚が嫉妬するほどに 不貞は頑強なのです そのため 不貞だけは 聖書の戒律として2回繰り返されるほどです 一度目は不貞を働くことに対して 二度目は不貞を企むことに対して (笑) 普遍的に禁じられていながら 普遍的に実行されていることについて 何か答えはあるのでしょうか
歴史を通して 男性は 重大な結果に至らずに浮気をする許可証を 実質的に有していました 多くの生物学および進化学的理論を裏付けに 男はふらつき回るものなんだと 説明します このダブルスタンダードは 不倫そのものと同じくらい古いものです しかし シーツに隠されて 本当のところは誰にも分からないものです なぜなら セックスの話になると 男性には 自慢し 誇張する圧力がかかり 女性には 隠し 矮小化し 否定する圧力がかかります この違いは次のことからも分かります 未だに9つの国では 女性は不倫を理由に処刑されることがあります
昔は 一夫一婦制は 一生に一人のパートナーを意味していました 今では 一夫一婦制は その時どきに一人の意味です(笑)
こんな言葉に覚えはありませんか 「私は 恋愛においてはいつも一途だ」 (笑)
昔は 結婚し 初めてセックスをしていまいた しかし今は 結婚してから 結婚相手以外とのセックスをやめます 実際に 一夫一婦制は愛情とは関係ないのです 男性にとって 目の前にいるのが誰の子か 死後 誰が遺産を相続するかは 女性の貞操頼みです
さて 皆さん誰もが 浮気をする人の割合を 知りたいようです このカンファレンス会場に着いてから 私は何度もこの質問を受けました (笑) 皆さんの中では何割でしょう しかし 浮気の定義がどんどん広がっています 性的なメッセージを送ったり ポルノを観たり こっそりデートアプリを使ったり その理由は 何をもって浮気と呼ぶのか 幅広く合意された定義がないからです 割合の推定も 26%から75%まで様々です しかし何と言っても 私たちは歩く矛盾と言えます 例えば 95%の人は ひどい過ちだと言います パートナーが不倫について嘘をつくことを しかし 同じ割合の人が 自分が不倫したらそうする とも言います(笑)
ところで 私は不倫に関するこの定義を気に入っています それは主に3つの要素から成ります 1つ目は「秘密の関係」です これは不倫に関する最大の原則です 2つ目は「感情の繋がり」 程度の差はあるにせよです 3つ目は「セックスの魔力」です ここで 魔力がキーワードになります その理由は欲情のスリルにあります 想像しかできないキスというのは 実際のセックスの時間と同じくらい 強力で魅惑的なんです マルセル・プルーストはこのように言っています 「愛を呼び起こすのは自分の想像力だ 相手ではない」
それで 浮気をするほど簡単なことはなく 秘密を守り続けるほど困難なことはありません これまで 不貞はこれほど精神的なダメージを 与えるものではありませんでした 結婚が経済活動だった時代には 不貞は私達の経済的安定を脅かすものでした しかし今や 結婚は情愛的な結びつきなので 不貞は感情的な安心に対する脅威となりました 皮肉にも かつては 私達が純愛を探し求めるときに 不倫に頼ったのでした しかし今 結婚の中に愛を求めるようになると 不倫はそれを壊すものになりました
不貞による人の傷つき方は 3つの点で変わったと思います 私達の 恋愛における理想像とは 一人のパートナーと向き合って 尽きることのない欲求を満たしていくというものです 最愛の恋人になってほしい 一番の親友になってほしい 最高の親になって 腹心の友となって 共感できる仲間になって 対等な知性を備えていてほしいと願います そして まさに私であること 私が選ばれ 私が特別で 私がいなければだめ 誰も代わりになれない たった一人の私でありたい― ―そうではなかった と示されるのが不貞行為です 究極の裏切りです 不貞は 愛という壮大な思いを打ち砕きます しかし歴史を振り返ってみれば 不貞は常に苦痛を伴い 今日では 心の傷になることもあります なぜなら 自己という感覚を揺るがすのが不貞だからです
フェルナンドという患者がいますが 彼は本当に苦しんでいます そして こう言います 「自分の人生を分かっていると思っていた 妻が何者なのか 私達がどんな夫婦で 私が誰かを分かっていると思ってた だけど 今はすべてを疑ってしまう」と 不貞行為 それは信頼を破壊し 自己認識を脅かします 彼は言います 「もう1回 妻を信じることなんてできるか? この先 誰かを信じることなんてできるか?」
そして ヘザーという患者も同じことを言っています 彼女はニックに関する話をしてくれました 彼らは結婚し 二人の子どもがいます ある時 ニックが出張に出かけた後で ヘザーが ニックのiPadで息子たちと遊んでいると 画面にメッセージが現れました 「会いたくてたまらない」 彼女は奇妙に思いました さっきまで居たのに すると 次のメッセージが来ました 「早くこの腕で抱きしめたい」 ヘザーは気付きました 2つのメッセージは自分宛ではないと ヘザーによれば 彼女の父親も浮気をしていたそうです 彼女の母は 夫のポケットから小さなレシートを見つけ シャツのカラーに付いた口紅にも気が付きました ヘザーも調べてみました すると 何百通ものメッセージがあり 写真がやり取りされ 欲望が言葉にされていました 2年間に及ぶニックの情事の様子が ヘザーの目の前に 鮮明に浮かんできます これを聞いて私は思いました デジタル時代の不倫は 身を切り刻む殺し方です
しかし そうすると現代に生きる上で 別の矛盾にも直面します 恋愛における理想ゆえに 私たちは 代えがたく熱烈に パートナーの貞操に頼っているのです しかし 道を外れようと これほど誘惑される時代もありません それは最近 新しい欲望が生じたからではなく 私たちが生きる現代において 自分たちには 欲望を追及する権利があると感じ 自分は幸せになるに値するとみなす 文化が根付いているからで またかつては 不幸せだから離婚しましたが 今や より幸せになるために離婚します そして 離婚がすべての恥を負っていたというなら 今や 別れられるのに離婚しないという選択は 新たな恥になります ヘザーの場合 彼女は友達に話せなかったそうです なぜなら 彼女が今でもニックを愛していることを 非難されるからです そしてどこに行っても ヘザーは同じ助言を受けました 「ニックと別れなさい 道路脇に犬を捨てるみたいに」 そして逆に言えば ニックも同じ状況に置かれていたでしょう 結婚生活を続けることは新たな恥でした
では 離婚できるのであれば なぜ私達は浮気するのでしょうか? よく言われる説明として 誰かが浮気するということは 本人の恋愛関係か 本人自身に問題があるからだと しかし 浮気をしている数百万人が皆 病的なはずはありません 言い換えれば 必要なものがすべて家庭にあれば 他に探しに行く必要はないという理屈です そこでの前提は 完璧な結婚というものがあり それは移り気からの予防になるというものです でも もし熱愛には賞味期限があるとしたら? もし 良好な二人の関係からは 得られない何かが 存在するとしたら? 幸せな人達でさえ浮気するなら 何が浮気の本質でしょうか?
実際に私がカウンセリングを行った人の大部分は 浮気癖のある遊び人とは程遠い人達です 殆どの人は 一夫一婦制を重んじていて 少なくとも パートナーに一途です しかし 彼らは葛藤に気が付きます 価値観と行動の間での葛藤です 彼らの多くは 実際に数十年貞操を守ってきています しかしある日 絶対に越えることはないと思っていた― 一線を越えてしまうのです すべてを犠牲にする危険を顧みずに でも 何を求めて? 情事は裏切りを体現した行為です そしてまた 切望と喪失の表現でもあります 情事の核心部では こんなものが求められ熱望されています 感情的な繋がり 日常生活からの解放、自由奔放 自己決定、情熱的なセックス 私たちの失われた部分を 取り戻したいという願い 人の死や悲劇を経て 生きる感覚を取り戻したいという試みなどです
こんな話から プリアという患者を思い出します 彼女はこの上なく幸せな結婚をし 夫を愛していて 自分の夫を傷つけようなどとは 夢にも考えませんでした でも 彼女はこう言いました 自分はいつも期待通りに振る舞ってきた 良い子 良い妻 良い母で 移民の両親の面倒も見てきた プリアは ハリケーン・サンディーの後で 自宅の庭の木を片付けてくれた 庭師と恋に落ちました トラックを運転し タトゥーも入れているこの男は 彼女と正反対でした この浮気は 47歳のプリアに 訪れた初めての青春でした 彼女のエピソードのエッセンスは 私達が他者の熱い視線を求めるとき 自分のパートナーから 目を逸らしたいのではなく むしろ 自分自身の現状から 目を逸らしたいのだということです 他の人を捜し求めているというよりも むしろ 私達は別の自分を探しているのです
ところで 世界中で 情事を体験した人は必ず ある一言を発します 「生きている」と感じるのだそうです また 彼らはよくこんな話をします 最近 亡くなった人がいた 親をなくした 若くして亡くなった友人がいた 主治医から悪い知らせを聞いた 情事の陰には 死や寿命にまつわる話が潜んでいます なぜなら こんな問いを投げかけられるからです 今の生活で良いのか? これ以上はないのか? この先25年間 同じ生活でいいのか? あの感覚はもう味わえないのか? おそらく これらの問いが 最後の一線を越える後押しとなったり また 死に対抗するための 特効薬であるかのように 情事に走る例もあると思います
また 皆さんの想像に反して 情事はセックスよりも 欲望の方に大いに関わるのです 注目されたい欲望 特別だと感じたい欲望 大切な存在だと感じたい欲望 そして まさに情事の構造というのは 愛人と一緒になれない現実があるからこそ 欲望が刺激され続けることなのです このこと自体が 機械のように欲望を生み出します 不完全で 曖昧さがあるからこそ 人は手に入らないものを 求め続けてしまうのです
こう思うかもしれません オープンな恋人関係だったら 浮気なんて起きないんじゃないかと しかし あるのです まず 一夫一婦制の話と 不貞の話は同じではありません しかし 事実 セックスの相手が 他にいることが 許されているときでさえ 私達は 禁じられた行為に 惹きつけられるのです してはいけないことをしているときに 自分が本当にやりたいことをしていると感じるのです そして 私は多くの患者にこう言ってきました もし夫婦関係に 浮気のために注いでいる ― 大胆さやイマジネーションや情熱を たった1割でも良いから 持ち込めたら きっと私が診察する必要はなくなるでしょう(笑)
では 不倫から立ち直るにはどうすれば良いでしょうか? 欲望は根深く 裏切りも根深いものです ですが 修復は可能です 不倫が死を告げる鐘の場合もあります 元々 関係が破綻しかかっていた場合です しかし 新しい可能性に目覚めさせる不倫もあります 事実として 大多数の夫婦は 不倫を経験しても 一緒に居続けます 単に離婚しなかっただけの夫婦もいますが その危機をチャンスに変えることができる夫婦もいます 何かの生まれる経験と捉えられる人たちです 浮気をされた側が こんなことを言うときに 特に思うことです 「私はそれ以上求めていなかったと思ってる? でも 浮気をしたのは私じゃない」 でも不倫が発覚すると その人も もっと要求するようになります そもそも上手く行っていたわけでもない― 現状を維持する必要がなくなるのです
私の知るところでは 多くの夫婦が 浮気で揉めた後から 混乱を経験し そこから新たな秩序を導く中で 誠実さと寛容さをもって 深く話し合います 数十年間無かった話し合いです また 互いに性的関心を失っていたカップルが 突然 自分達の中に どこから来るのかもわからない 強い欲望を見出すこともあります 失うことへの恐れが 欲望に再び火をつけ まったく新たな真実への道を開くのです
不倫が発覚した時 夫婦には具体的にどんなことができるでしょうか? トラウマの研究から 回復は 加害者が 自ら非を認めることから始まると 分かっています 不倫をした側にとって 例えばニックの場合 まずは 情事を終わらせることです また さらに不可欠で 重要な行動は 妻を傷つけたことに対する 罪悪感と自責の念を示すことです しかし 現実には 不倫をした人のうちかなりの人数が パートナーを傷つけたことに激しい罪悪感を覚えている一方で 情事の経験そのものには 罪悪感を覚えないことが分かりました この違いは重要です ニックの場合 ヘザーとの関係のために 気を張り続ける必要があります 彼は暫くの間 国境警備隊のようになる必要があります そうするのが彼の責任です なぜなら 彼が関係のことを考えていれば ヘザーを強迫観念や 浮気を忘れてはならないという思いから 救い出し また それ自体が信頼回復のきっかけになります
しかし ヘザーや 浮気をされた側にとって 何より重要なのは 自分の価値に自信を取り戻すよう努め 愛情を感じたり 友人に囲まれたり 喜びや生きる意味 アイデンティティを取り戻せる活動をすることです しかし さらに重要となり得るのは 情事の詳細に関する好奇心を 抑えることです どこにいたの? どこでやったの? どのくらいの頻度で? 彼女はベッドで私より良かったか? こんな質問をしても 傷は深まるばかりです 答えを聞いても 眠れなくなるだけでしょう だから代わりに 別のことを聞いてみましょう 名付けて調査質問です これは浮気の意味と動機を掘り下げるものです 「この浮気はあなたにとってどんな意味があった?」 「私と一緒のときにはできないどんなことを 表現できた? 経験できた?」 「家に帰って来た時 どんな気持ちだった?」 「私たちの関係の中で あなたが価値を置くものは何?」 「この一件が終わって 嬉しい?」
どんな不倫であっても 関係が改めて定義されます そして すべての夫婦が 情事が後に残すものは何かを 定めます しかし 不倫をしたという事実は変わりません 無かったことにはなりません そして 愛情と欲望のジレンマには 白か黒か 良いか悪いか 被害者か加害者かという 単純な答えはありません 夫婦関係における裏切りは 様々な形で行われます パートナーを裏切る方法は沢山あるのです 軽視や無視 無関心や暴力など様々です 性的な裏切りは パートナーを傷つける方法の1つに過ぎません 言い換えれば 浮気の被害者が 常に結婚生活の被害者とは限りません
ここまでの話を聞いて おそらく あなたはこう思っているでしょう 彼女はフランス語訛りだ 彼女は浮気を推奨しているに違いない (笑) 不正解です 私はフランス人ではありません (笑) (拍手) そして浮気を推奨しません ただし 浮気の結果が 良い方向に向かうこともあると考えるため よく そのような奇妙な質問をされます 浮気を推奨することなんてあるでしょうか? 癌を薦めることが無いように 私は浮気を薦めることなんてしません 癌を薦めることが無いように 私は浮気を薦めることなんてしません 病気にかかった人たちから 病気によって 新しい視点が得られたと 聞くことがあっても ということです
このカンファレンス会場に着いて この場で不貞の話をするというと 特によく質問されたのは 私が不貞に賛成か反対かです それには「イエス」とだけ答えておきました(笑)
私は不倫を2つの視点で捉えています 苦痛と裏切りが一面です もう一面は成長と自己発見です 不倫がパートナーに何を与えたか 自分はそこにどんな意味を見出したか そこで 不倫が発覚して 混乱に陥った夫婦が 私を訪ねてくる時 私はこんな話をします 欧米では今日 殆どの人が2-3回の恋愛関係や 結婚を経験します それを 同じ人と繰り返す人もいます あなたの1回目の結婚は終わりました これから 2回目の結婚生活を 2人で築いてはいかがでしょうか?
ありがとうございました
不貞は究極の裏切りです。 しかし、そこまでの悪事なのでしょうか。愛情セラピストのエステル・ペレルは人が浮気する理由を探り、不倫が大きな傷を残す理由は、安心の感覚を脅かすからだと解き明かします。そして、不貞の中に、期待感と喪失感という予期せざるものを見出します。 浮気したことのある人、浮気されたことのある人、そして愛情関係を理解する新しい枠組みに関心のある人にお薦めです。