リンゴから耳を作るマッドサイエンティスト(7:05)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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白状すべきことがあります 人々が捨てたがらくたを あさるのが好きなんです でも不気味なことを しているのではありません たいていは ただ 自分の作業場で利用できる 古い電子製品を探しているだけです 私はCD-ROMドライブのフェチで どれにも異なるモーターが3つ付いており 動くものを作ることができます スイッチもあるので オン・オフだってできます レーザーだって付いているので カッコいいロボットを 凄いヤツに改造できます
私はごみ箱からの部品で 多くのものを作りました 中にはちょっと役立つものだってあります 聞いて下さい 私にとって ごみは 創造力を働かせ 自らを楽しませるモノを作る 遊び心を楽しむ機会を与えてくれます 大好きなので これも自分の仕事の一部にしてしまいました 私は 大学で生物学の研究室を率いており そこでは 我々は好奇心や探求心に 何よりも価値を見出しています 何か特定の問題に集中的に 取り組んでいるわけでも 特定の病気を解明しようと しているわけでもありません ただ 人が入ってきては 興味深い疑問を投げかけ 答えを見つける そんな場所です ずいぶん前のことですが 必要とする装置を 私が見つけたがらくたから作れないか― そんな課題を与えることが 創造力を育む素晴らしい方法だと 気づきました 何が起きたかと言えば 世界中から芸術家や科学者が 私の研究室に集まってきたのです それは単に 我々が 独創的なアイデアを重視するだけでなく 科学的な厳密さで それらを試験し 検証しているからです
ある日 私は何かを作ろうと がらくたを分解し始めました その時 この考えがひらめいたのです 生物学をハードウエアと同じように 扱えないだろうか? 生物学的なシステムを分解して パーツを組み合わせ 新しく創造的な方法で 再構成することはできないだろうか? 研究室ではこの作業に取り掛かりました その成果をお見せしたいと思います
これは何の果物だと思いますか?
(聴衆)リンゴ!
その通り リンゴです さらに気づいて欲しいことがあります これは普通のリンゴよりも赤みがあります 中でヒトの細胞を培養したからです マッキントッシュ種の 穢れなきリンゴを手にして リンゴの細胞とDNAを全て取り去り ヒトの細胞を移植しました リンゴの細胞を全て取り去ると 残ったのは― このセルロースの 骨組みだけです これが植物の形や触感を 作り出しています 小さな穴が見えますが ここにあったものは全て リンゴの細胞でした 次に 哺乳類の細胞を移植しました 青く見えているものです 何が起こるかと言うと これが増殖し 骨組み(足場材料)を完全に満たします
このとおり不気味であると同時に 我々の生体組織がこのように組織化されたら どうだろうと考えさせます 臨床試験前の研究で分かったことは これらの骨組みを 体に移植することができ 体は細胞を送り込み 血液を供給するので これらの細胞は 生き続けるということです この段階に至り 人々は私に質問し始めました 「アンドリュー リンゴから体の一部分を 作ることは可能だろうか?」 「そういうのが得意なラボなんです」と私(笑)
私は妻と共にこれを思いつきました 彼女は楽器の制作技師です 木を削ることで 生計を立てています そこで彼女に頼みました 「文字通り リンゴから 耳の形を作ってくれないか?」 作ってくれました これを研究室に持ち込み 我々は準備を始めました 分かります 皆さんのお気持ち(笑)
いい研究室でしょう?(笑)
これを使って細胞を育てると こうなりました
さて 私の研究室では 耳を作る事業はしていません 人工耳を作ろうと何十年も 研究してきた人たちがいますが 問題点は― 市販の足場材料はとても高価で しかも問題を抱えています 特許のあるものや 動物、死体から作られているからです 我々はリンゴを使いました しかもただ同然です
本当に優れている点は これを作るのが簡単なことです 必要な装置は がらくたから作ることが出来て 主要な工程で必要なのは 石鹸と水だけです 全ての手順を オープンソースとして ネットで公開しました 次に 目的を特化した会社を立ち上げ 流しと半田ごてさえあれば 誰でも自宅で作ることができる キットを開発しています こんなことが出来たら― いつの日か キッチンで作った材料で 我々の体を修復、再生、拡張が出来たなら 素晴らしいことでしょう
キッチンと言えば ここにアスパラガスがあります 美味しくて これを食べると おしっこが変に匂います(笑)
キッチンにいて 気づいたことがあります アスパラガスの茎を 覗いてみると このような微小な管が見えます これを研究室で撮影すると セルロースがこれらの構造を 作り出している様子が分かります これは2つのことを思い起こさせます 血管 それに― 神経と脊椎の構造や組織のことです
ここで疑問が湧きます 軸索やニューロンをこの管内で 成長させることができるだろうか? なぜなら それが出来るのならば アスパラガスを使って 切断された神経の端と端を 新たに接続することが 可能になるかもしれないからです 脊髄だって可能かもしれません でも誤解しないでください これは非常にハードルが高く 大変な困難を伴います 我々以外にも このことを研究している人たちがいます でもアスパラガスを使っているのは 我々だけですね(笑)
今では とても望みのある 初期的なデータを手にしました 生体組織工学の研究者や 神経外科と手を組んで 何ができるか 見出そうとしています
いいですか お見せした全ての作品 このステージの私の周りにある 私が作成した全てのもの それに― 私の研究室が関与している その他の全てのプロジェクトは どれも皆さんが捨てたごみから 私が遊び心で作ったものばかりです 遊び心 これこそ 私の科学的実践の本質です こうやって私は独創性、創造性を磨き リンゴからヒトの耳を作ってみようと 決めました
今度 皆さんが何か 古くなって― 壊れて 機能しなくなった がらくたみたいな部品を見つけたら 私のことを思い出してください 私がそれを欲しいからです(笑)
真面目に言っています 何とかして私に連絡をとってください そして何が出来るか試してみましょう
有難うございました(拍手)
TEDフェローのアンドリュー・ぺリングはバイオハッカーです。機器ではなくて自然の物をハッキングします。彼のお気に入りの材料はとってもシンプルなものです(そして、しばしば彼はそれをごみ箱から見つけ出します)。リンゴを形作っているセルロースを骨組みとして、本物そっくりの人間の耳を「育て」ます。この先駆的な方法は、将来、体の一部分を安全かつ安価に修復するのに使われるかもしれません。彼はさらに大胆なアイデアを紹介します―「いつの日かキッチンで作った材料で我々の体を修復、再生、拡張させることが出来る日が来たら本当に素晴らしいだろう」と彼は語ります。