愛を語る数学(17:02)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今日のテーマは 「愛を語る数学」です 皆さんご承知のとおり 数学者というのは 非常に素晴らしい 愛の探究者です でも それは 私たちが肉食系で 卓越した話術を誇り 最高の筆箱を携えているだけでなく 実際に 非常に多くの研究を行い 完ぺきなパートナーを 見つける方法を 計算してきたからです。
この研究の中で 私のお気に入りの論文は 「なぜ僕には彼女がいないか」です(笑) ピーター・バッカスは 理想の恋人と出会える確率を計算します ピーターは さほど高望みはしていません イギリスにいる フリーな女性のうち ピーターが探しているのは 近くに住んでいて 彼に見合う年齢で 大卒で ピーターと馬が合い 魅力的で ピーターを魅力的と 思ってくれる人です (笑) はじき出された数字は イギリス全体で26人というものです あんまりですよね ピーター これが どれくらいの 数字かというと 最も確かな予測で 存在するとされる― 地球外生命体の数の 400分の1です さらに ピーターが 一晩 遊びに繰り出して この特別な女性に 出会うチャンスは 28万5千分の1です これが理由で 数学者はわざわざ 夜遊びなんて しないんでしょうね。
でも 私はそんな悲観的には 考えていないんです というのも 皆さんもそうだと思いますが 愛は そんな計算どおりには 行かないからです 人間の感情は 無秩序で 非合理的で予測が難しいものです でも だからといって 数学は何の役にも立たない ということではありません 愛は 人生の多くがそうであるように パターンにあふれており 数学は つまるところ パターンの研究だからです パターンも様々です 天気から 株式市場の変動 惑星の動き 都市の成長の 予測まであります はっきり言って これらはすべて まさに無秩序で予測困難でしょう 数学はとてもパワフルで ほぼすべての事象に対して 新たな見地を授けてくれるものだ と信じています たとえ それが愛のように ミステリアスなものであっても さて 皆さんに 数学がどれほど 素晴らしく 身近なものか ご納得いただくため 数学的に検証可能な 愛の秘訣 トップ3をご紹介します。
それでは 1つ目の秘訣です 「オンラインデート必勝法」 オンラインデート・サイトで 私のお気に入りはOkCupidです 何と言っても 数学者チームが 立ち上げたサイトだからです 数学者らしく 彼らは ほぼ10年にわたって 全ユーザーの情報を 収集してきており そこに パターンを 見い出そうとしています サイト上で どんな風に自分のことを話し どんな風に交流するか といったパターンです そして 冗談抜きに 興味深い発見がありました その中でも 大のお気に入りは 「オンラインデート・サイトでは 魅力的な容姿の人がモテるとは限らない」 というものです むしろ 残念な容姿と 思われた方が 有利に働くこともあるのです 詳しく説明させてください ありがたいことに OkCupidでは任意で 異性のルックスを 1~5の尺度で 評価できるように なっています この平均スコアを 受け取るメッセージの数と 比較することで オンラインデート・サイトにおける 魅力と人気の相関関係がわかります オンラインデート・サイトにおける 魅力と人気の相関関係がわかります。
こちらは OkCupidの人たちが 作ったグラフです 注目すべきは 必ずしも 魅力が高いほど 多くのメッセージを受け取るわけではない ということです しかし 不思議なことに この青枠の人たちは 魅力は同じくらいなのに この赤枠の人たちより かなりモテています なぜでしょう? ルックスが良ければ良い というものではないからです 具体例を挙げて ご説明しましょう 例えば 女優のポーシャ・デ・ロッシのような人が いたとしましょう 誰もが ポーシャ・デ・ロッシは とても美しい女性だと言います 誰も彼女が醜いとは思いませんが 彼女はスーパーモデルでもありません サラ・ジェシカ・パーカーのような人と 比べたらどうでしょう 私も含め 多くの方はきっと サラ・ジェシカ・パーカーは とても素晴らしく この地球で 一番美しい生き物だと 認めるに違いありません でも 中には― たいていはネット上の書き込みで 彼女はちょっと馬に似ている と言う人もいるようです(笑) サラ・ジェシカ・パーカーと ポーシャ・デ・ロッシがどれだけ魅力的か 1~5の尺度で 評価をしてもらったら 二人の平均値は ほぼ同じになるでしょう でも 評価の分布は まったく違うものになると思います ポーシャの評価は 4のあたりに集中します 誰もがとても美しいと 考えるからです 一方で サラ・ジェシカ・パーカーは 意見が分かれます 評価にも広がりがあります 実は この広がりが 重要なんです 評価に幅があるからこそ こうしたサイトでは より人気を獲得できるのです つまり 自分の魅力を 認めてくれる人がいる限り 他の人には 魅力なしと思われた方が うまく行くのです 皆に「近所の可愛い子」と思われるより だいぶ良いのです。
メッセージを送る側の立場に 立って考えれば 理にかなっていることが 分かるでしょう 例えば あなたが 魅力的と思う人がいたとします 他の人は必ずしも その人に さほど関心を抱かないとすれば あなたには 競争相手が少ないことになり コンタクトするインセンティブも 高まります。
もし あなたが魅力的だと思う人が 誰もが魅力的と考えそうだったら どうでしょう 正直なところ わざわざ恥をかきたいですか? 面白いのはここからです オンラインデート・サイトに 載せる写真を選ぶとき 人は 魅力がないと思われそうなことを できるだけ隠そうとします 典型的な例は 肥満気味の人が 意図的に体型を隠すよう 写真に修正を加えたり ハゲている人が 帽子をかぶっている写真を 選んだりするようなものです でも もし成功したければ これと逆のことをすべきです つまり たとえ 魅力的でないと考える人がいたとしても 他の人と違うところを アピールすべきです。あなたを好きになる人は どうやっても好きになります そうでない人は あなたの良いところしか 見ていないので 重要ではないのです。
2つ目の秘訣は 「完ぺきなパートナーの見つけ方」です 恋愛が 絶好調で 進んでいるとしましょう。でも ここで問題なのは 恋愛での成功を いかに永遠の幸せに結びつけるか、特に いつの時点で「その人」と決めるかです。一般的に あなたに好意を示した― 最初の人に 慌てて決めて 結婚すべきでないと 言われます でも それと同時に 永遠の幸せをつかみたいなら あまり長くは 待ちたくもないでしょう 私の大好きな作家 ジェーン・オースティンは言います。「27歳の未婚女性は 二度と― 愛情を感じ 愛情を呼び起こすことを 望めはしない」 (笑) ジェーン ありがとう さすが 愛を熟知していますね。
つまり 問題は 人生でデートできる人が 限られている中で 落ち着くべき時を どうやって知るかです 幸いにも ここで使える かなり美味しい数学があります 「最適停止理論」というものです 想像してみましょう 15歳でお付き合いを始めて 35歳までに結婚するのを 理想とします その間に お付き合いできそうな人に たくさん出会います。長所のレベルも様々です 誰か一人に決めて結婚すると その後 どんな人に出会えたか 知ることはできず 同様に 時間を戻して 決断を変えることはできません 少なくとも 私の経験では 他の人がいるという理由で お断りされて 何年もしてから また誘われるのは嫌なものです 私だけではないでしょう。
ですから 数学的には このようにすべきなんです デート相手の候補リストにいる 最初の37%は 真剣な結婚相手としては 全員お断りするのです(笑)そのあと それまでに会った誰よりも「良い」と最初に感じた人を 選ぶのです 例えば こうです これに従えば 数学的裏付けをもって 完ぺきなパートナーを 見つける確率を 最大化する最良の方法を 実践できるのです ただ残念ながら これには リスクを伴うこともご承知おきください 例えば 完ぺきなパートナーが 最初の37%に現れた場合です 不幸にも あなたは お断りすることになるでしょう(笑) そして この数学的方法に従う限り 前に会った人より 良い人に 会うことはありませんから あなたは ただ断り続けて 死ぬまで一人というわけです(笑) おそらく最期は 猫に囲まれて 看取られることになるでしょう。
さて もう一つのリスクです 今度はこう考えてください 最初の37%に 会った人たちが 異常につまらなくて 退屈で最悪の人だった場合です まあ このときは お断りの段階にいますから 大丈夫、お断りすることができます でも 次に会う人が 辛うじて 退屈でなく 面白くて マシだったとしたら どうでしょうか この方法に従っている限りは その人と結婚しますから ずばり 次善の関係に 落ち着いてしまうわけです。残念なことです でも ここを好機と 市場に応えて ホールマーク社が 決めにかかる余地があります。こんなバレンタイン・カードとかね(笑)「親愛なる夫へ あなたは私がデートした 最初の37%の人たちより 辛うじてマシだったわ」私にしては かなりロマンチックです。
ですから この方法に 100%の成功率は期待できません でも これより 良い戦略などないのです 実際 野生界では ある魚は これと全く同じ戦略を 実践しています その魚は 交配期に現れた求愛者の 最初の37%を拒否し 次に出会う これまでのどの魚よりも より大きく たくましい魚を 選ぶのです。人間も無意識のうちに これをしていると思います 私たちは少しの間 いろんな異性と出会って 若いうちに いわば市場感覚を磨きます。そして 20代半ばか それ以降になってから まじめに結婚相手を 探し始めます。これこそが決定的な証拠で 脳には元々 ちょっとした数学的回路が 埋め込まれているのです。
秘訣の2つ目を お話ししました。さて 3つ目の秘訣は「離婚の回避法」です 皆さんは 完ぺきなパートナーを選び その人と 一生を 共にしようとしています。誰もが できることなら 離婚は避けたいものだと思います まあ ピアーズ・モーガンの奥さんは 違うでしょうか。でも 現代の 悲しい事実として アメリカでは 結婚したカップルの 2組に1組は離婚します。それ以外の地域でも 数字は大して変わりません 結婚生活が破たんする前に 起こる口論は 数学の研究対象としては 理想的ではない とも言えるでしょう。何しろ 計測する対象や 数値化の対象を設定するのが とても難しいですから それでも この研究をやってのけたのが 心理学者のジョン・ゴットマンです。ゴットマンは 数百のカップルを対象に 会話を観察し 考え得る あらゆることを 記録しました。どんな会話が 交わされているかを記録し 皮膚コンダクタンス反応も記録し 顔の表情も 心拍数 血圧も記録しました。つまり 妻が常に正しかったかを除き すべてを記録したわけです。まあ 妻がいつも正しいんですけど。ゴットマンのチームが 導いた結論によれば あるカップルが離婚するか 予測をする上で 最も重要な因子の一つは 会話中の二人が どれだけ ポジティブか ネガティブかです。
リスクがとても低いとされたカップルは ゴットマンの基準では ネガティブより ポジティブの要素が多かったのです。関係がこじれている場合 つまり 離婚に向かうであろう人たちは 負のスパイラルに 陥ってしまっているのです。このような非常に シンプルな考え方だけで ゴットマンのチームは あるカップルが 離婚をするかどうか 90%の確度で 予測することができました。でも 数学者のジェームズ・マレーと 共同研究をして初めて このような負のスパイラルが起きる理由とメカニズムが 解明されるようになりました。彼らがたどり着いた結論は 感銘を受けるほど シンプルで面白いものです。これらの等式は 会話をしている夫妻が 自分が話すときに どう反応するか ポジティブ・ネガティブの度合いを 予想します。これらの式は その人が一人でいるときの機嫌と パートナーと一緒にいるときの機嫌で 変わりますが 最も重要なのは 夫妻がどれだけ お互いに影響し合うかです。
ここで ぜひ申し上げたいのは、これらの方程式が もう一つ 完ぺきに描写し得るのは 軍拡競争にある2国間の関係ということです(笑)ですから 口論をして負のスパイラルに陥り 離婚の瀬戸際に 追いつめられたカップルは 実は 数学的には 核戦争の始まりと同等なわけです(笑)
でも この等式で重要なことは 人々が互いに与え合う影響 特に「ネガティブのしきい値」と呼ばれるものです。ネガティブのしきい値、これは 夫がどこまで悪さをしたら 妻がキレてしまうか 臨界点のようなものです。逆も然りですが 私はこれまで 良い結婚とは 歩み寄りと相互理解 互いの空間を許容することが すべてだと思っていました。つまり 最も成功している関係というのは ネガティブのしきい値が非常に高いのだ と思っていたのです。些細なことには目をつぶって 大事なことだけを話し合う カップルのようなものです。でも実際 数学と チームが導き出した答えは その正反対こそが真である ということでした。ベスト・カップル――最も成功しているカップルは ネガティブのしきい値が 非常に低いのです。これらのカップルは 何事も 気づかないふりはせず お互いに不平不満を 言えるようにしています。さらに 常に 関係を修復しようとしていて 結婚生活の先行きを かなりポジティブに捉えています。何でも とことん話し合うか 些細なことには 目をつぶるかで 大きな違いが生まれるのです。
もちろん ただネガティブの しきい値を低くし 妥協せず 良い関係を 築こうとするだけでは不十分です。でも 怒りをため込んではいけないことの 数学的な証拠が 本当に存在するということは 非常に興味深いことです。ここまで 愛と恋愛関係において どのように数学が役立ちうるか 3つの秘訣をお伝えしました。こうした数学の使い方に加えて 数学が持つ力について ちょっとした私見をご紹介します。私にとって 等式や記号は 無味乾燥なものではありません。それらは 声を持っています。息をのむような自然の豊かさや 私たちの身の周りで ねじれ 展開するパターンの 驚くべきシンプルさを 声高に語りかけています。世界の躍動から 私たちの立ち居振る舞いに至るまで カップルの皆さんには 愛を語る数学に 少し耳を傾けていただき 数学を少しでも 愛していただければと思います。ありがとうございました。
(拍手)
ふさわしいパートナーを見つけるのは簡単なことではありません―でも、数学的にはどうでしょうか? 数学者のハンナ・フライは、この魅力的な講演で、愛を求める私たちの姿に見られるパターンを解説し、運命の人に出会うための3つの秘訣(数学的裏付けあり!)を紹介します。