はっきり主張できるようになるには(15:08)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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思ったことをはっきり言うのは 難しいものです。その本当の意味が分かったのは ちょうど1ヶ月前 私たち夫婦に子供が 誕生した時のことです。感動と 心躍る歓喜の瞬間でした。と同時に怖くて身がすくむ思いもあり 特に赤ちゃんを初めて 我が家に迎えた日がそうでした。妻も私も 母乳からの栄養で十分なのか 確信が持てませんでした。それで小児科医に 電話したかったのですが、第一印象が悪くなってもいけないし 神経質で常識外れな親だと 思われたくなかったので ただ心配しながら 待ちました。翌日 小児科医を訪れると かなりの脱水症状を示していた息子はすぐにミルクを与えられました。今では元気ですし 担当医は いつでも電話していいと 言ってくれています。あの時 電話して 思っていることを 言えばよかったのでした。
一方 発言すべきでない時に 言ってしまう場合もあります。10年以上前 私の双子の弟を 落胆させてしまった時がそうです。弟はドキュメンタリー映画を 製作しています。ある初期の作品に対して 映画配給会社から 契約の申し出がありました。弟は興奮して 承諾するつもりになっていました。しかし 交渉に関する研究をしていた私は 逆提案をすべきだと主張し 完璧な提案を練り上げる 手伝いをしました。それは完璧に・・・完璧に無礼なものだったのです。その会社は 酷く憤慨し オファーを取り下げ 全てがフイになってしまいました。
さて私はこの自己主張のジレンマに関して 世界中の人々に質問をしてきました。自分を強く主張できる時とは? 自分の利益や関心を押し通せる時とは? 自分の意見を表現できる時とは? 野心的な要求ができる時とは?
内容は幅広く様々なのですが 一方で それらが織りなす模様は万国共通です。上司がミスをしたとき 進言してもいいだろうか? いつも口出ししてくる嫌な同僚に 直接 注意してもいいだろうか? 無神経な冗談を言う友人を いさめてもいいだろうか? 心の奥底にある不安を 最愛の人に明かしてもいいだろうか?
私は こうした調査を通して 人には それぞれ 許されている言動の範囲が あることに気がつきました 時には押しが強すぎることがあります それが弟の身に起きたことです 逆提案をすること自体が 弟に許される範囲外の行為だったのです しかし押しが弱すぎる時もあり 先程の妻と私のケースがそれです この1人1人が持つ許容範囲— 自分の許容範囲内での言動なら 見返りがありますが その範囲から一歩出てしまうと 様々な形で罰せられます 冷遇されたり見下げられたり 疎外されたりさえします 時には昇給や昇進を逃したり 商談を棒にふったりです。
それで まず知るべきことは 自分の許容範囲ですが その範囲の幅は一定でない ということが鍵です 実際かなり変動するんです 状況により その範囲は 広がりも狭まりもします 許容範囲の決定に 何よりも大きく影響するのは 私たち自身の「力」です 私たちの力がその範囲を 左右するのです この「力」とは何でしょう? それは様々な形で現れます 交渉の際には選択の余地 という形で現れます 弟の場合 その余地がなく つまり力が足りなかったのです 相手の会社には多くの選択肢— つまり力があったのです 力の無さは移民のように 新しい国に来たばかりの人や 組織の新メンバーや 何かを初めて経験する人々 — 例えば妻と私のような 新米の親などに見られます ある時は 職場で 一人が上司で もう一人が部下という状況で生まれ ある時は 人間関係で 一方が もう一方よりも 相手に入れあげている場合に表れます。
ここでの鍵は 力が大きければ 許容範囲は うんと広くなり 許される言動の幅が かなりありますが 力が無ければ その幅は狭まり 余裕はほとんどありません 問題は許容範囲が狭くなると 「ローパワー・ダブルバインド」と 呼ばれるものが生まれます 力の弱さゆえの二重拘束のことで それが起きるのは 黙っていれば 誰の目にも留まらず 思い切って言えば 罰せられるという時です。
みなさんの多くは 「ダブルバインド」と聞くと ジェンダーに関する話を 連想したのではないでしょうか ジェンダーによるダブルバインドとは 黙っている女性は目立たず 発言する女性は 嫌な目に遭うというものです 女性も男性と同様 発言しなければなりませんが 問題は それを阻む 障壁があることです 過去20年に渡る私の研究で こういうことが分かりました 女性だから起きていると 思われていたダブルバインドが 実は そうではなく 個人の「力」の弱さから来る ローパワー・ダブルバインドだったのです つまり 性別に関係なく 力の差の現れにすぎない ことが多いのです 男性と女性の違いを 個別に見ても 男女別の集団を見ても 「生物学上の根本的な違いだ」と 思うのが常ですが 研究を重ねた結果 分かったのは 女性特有のダブルバインドだと 思われていた事柄は 実は 「力」から来るもので ローパワー・ダブルバインドが 要因となっていたのです この二重拘束は 力に欠けているせいで 言動の許容範囲が狭くなると いうものです 許容範囲が狭いと 強力なダブルバインドが生じるのです。
さて 許容範囲を広げる方法が 必要だということで 過去20年の間に 私は同僚と共に それに関わる 2つの要素を発見しました 1つ目は 力がありそうだ という自分に対する自己判断 2つ目は 力がありそうだ という自分に対する他者の判断 自分に力が みなぎっていると感じる時 私は自信に溢れ 物怖じせず 自ら許容範囲を広げています 他者の目にも 私が力強く映っていれば 許容範囲を広げる許可が与えられます では その許容範囲を広げる道具が 必要になりますが 今日はその道具一式を 皆さんにお渡ししましょう 意見を述べることには リスクが伴いますが そのリスクを下げてくれる道具です。
最初の道具は 交渉に関する研究で発見された 重要なものです 概して 女性は控えめに提案するため 交渉は 男性より女性にとって 不利な結果となってしまいます しかしハナ・ライリー・ボウルズと エミリー・アマナトゥラの研究で ある状況下では 女性も 男性と同じくらい強気になれ かつ男性と同じような結果を 出せることが分かりました その状況とは 女性が他者のために発言する時です 他者のために発言する時 女性は自分の許容範囲を把握し 自ら押し広げ より自信を持って発言できます これは「母熊効果」と 呼ばれることがあります 自分の子を守る母熊のように 他者のために発言する時 自分の意見が述べられるようになります。
しかし時には自分のためにも 発言しなければなりません その方法とは? 自分のために発言するのに 最も重要な道具の1つに 「他者視点取得」と 呼ばれるものがあります 他者視点取得とは実に単純で 他者の視点を通して 世の中を見るということです これが 自分の許容範囲を広げてくれる 最も重要な道具の1つです 相手の視点を取り入れて 相手が本当に望んでいるものを考えると 相手から 自分の望んでいるものを もらえる可能性が高まります。
しかし ここに問題があります 視点取得は難しいのです ちょっと実験をしてみましょう このように手を挙げて下さい 人差し指を突き出して 大文字の「E」を おでこに書いてください できるだけ早く はい 「E」を書くのには2通りありますね これは元々 視点取得のテストとして 考案されたものです 2つの写真をお見せします おでこに「E」を書いた人の写真です 教え子のエリカ・ホールです 左に見えるのは 正しい「E」ですね 自分の書いた「E」が 他の人にも「E」に見えます これは視点取得型の「E」です 他者の観点から見た「E」だからです しかし右のは自己注目型の「E」です 自己注目は よくあることですが 特に危機に陥ると そうなります。
ある危機のお話をしましょう カリフォルニア州ワトソンビルで 銀行に1人の男が入って来ました 男は言いました 「2千ドル出せ さもないと銀行ごと爆破する」 銀行の支店長は お金を渡さず 一歩引いて考えました その男の立場に立つと 非常に重要なことに気づきました 男は特定の金額を要求してきています。
そこで男に尋ねました 「どうして2千ドルなのですか?」。
男は答えました 「今すぐ2千ドル渡さないと 友達が強制退去させられるんだ」。
そこで支店長は言いました 「それなら銀行強盗なんかではなく ローンを組んだ方がお得ですよ」。
観衆:(笑)
「私のオフィスへどうぞ 書類を作りましょう」。
観衆:(笑)
支店長の迅速な視点取得が 一触即発の状況を鎮めたのです 他者の視点を取り入れると 野心的になれる上 自己主張でき それでいて感じもいいのです。
もう1つ自己主張できて 好ましく思われる方法があります それは柔軟性を示すことです 例えば あなたが営業マンで 車を売ろうとしていると思ってください 選択肢を2つ示すことで 売れる可能性が高くなります 例えば 選択肢Aは 2万4千ドルで保証期間5年 選択肢Bは 2万3千ドルで保証期間3年 という風にです 私の研究で分かったことは 人は選択権を与えられると ガードがゆるくなり 与えられた提案を 承諾しがちだということです。
これは営業マンに限らず 親にも言えます 私の姪が4才の時 着替えるのを嫌がり どの洋服も拒絶しました しかし母親に 素晴らしい考えが浮かびました 娘に選択肢を示し 選ばせたらどうだろう? どっちのシャツがいい? こっちね どっちのズボンがいい? こっちね 見事にうまく行きました 姪はグズることなく さっさと着替えたのです。
私は世界中の人々に こんな質問をしてきました 「思っていることが 気軽に言える時とは?」 最も多い答えは 「聞き手の中に 支持者や仲間がいる時」 では 自分の側に立ってくれる 仲間を得るには どうしましょう? 1つの方法は「母熊」になることです 他者のために発言する時 自分だけでなく他者の目から見ても 自分の許容範囲が広がり 同時に強力な仲間を得られます。
強力な仲間を得るもう1つの方法 特に権力のある人を味方につけるには 助言を求めることです 他者に助言を求めると 好ましく思ってもらえます 相手を立てているし 謙虚さを示してもいるからです もう1つのダブルバインド解決にも とても効果的です 自己PRから生じる ダブルバインドのことです どういうことかと言うと 自分の功績を宣伝しなければ 誰も気付かないが ひけらかすと好ましく思われない というものです。
しかし自分の功績に関して 助言を求めると 相手の目に映る自分は有能で さらに好ましく思ってもらえます この方法は とても強力で 誰かが相談に来ると わかっている時でさえ効果的なのです 「力」の弱い人が紹介を受けて 私の所に助言を求めに来ることを 前もって知らされるというケースが 今まで何度もありました ここで気付いて欲しいことが 3つあります。
その1 私は助言を 求められると知っていた
その2 助言を求める行為には 戦略的な利点があることを 私はよく知っていた
その3 そう知っていても 効果的だったのです!相手の視点を受け入れ 彼らのために もっと力を尽くすようになり より熱心に相談に乗りました 助言を求められたからです。
自信を持って意見が述べられる場面は 他にもあります 専門分野がある場合です 専門性によって信頼が得られます たっぷり力を持っている場合は すでに信頼があるので そこそこの証拠を示せば 十分です 力が無い場合は 信頼がありませんから 優れた証拠が必要になります。
専門家として印象づける方法の1つに 自分の情熱を表す というやり方があります 皆さんに やってほしいことがあります 向こう数日の間に 誰か友達をつかまえて その人が情熱を傾けていることについて 語ってもらってください 私は世界中の人々に これをやってもらい その後こう尋ねました 「自分の情熱を語る人を見ていて どんなことに気がつきましたか?」 その答えはいつも同じでした 「目が輝き イキイキとしてきた」 「満面の笑顔になった」 「手ぶりが大きくなって 避けなきゃいけないほどだった 当たりそうで」 「早口になり ちょっと声がうわずっていた」。
観衆:(笑)
「秘密を明かすかのように 身を乗り出してきた」。
さらに こう尋ねました 「それを聞いていた あなたはどうなりましたか?」。
こんな答えでした 「私の目も輝き 笑みがこぼれ 身を乗り出しました」。
自分たちの情熱に関することとなると 自ら発言する勇気が 奮い起こされるものですが 同時に 発言することに対し 周りも寛容になります 自分が弱すぎるように見えてしまう状況でも 情熱を表すとプラスに働きます 性別を問わず職場での涙は ひんしゅくを買いますが リジー・ウルフの研究では 強い感情が情熱という形で表された場合 男性であれ女性であれ 涙は 非難されないことが分かっています。
最後に 今は亡き父が 弟の結婚式で 述べた言葉で 締めくくりたいと思います その時の写真です 父は私と同じく心理学者でしたが 父が本当に愛し 情熱を持っていたのは映画でした 弟と同じです 父が結婚式のために書いた スピーチの題材は 人生を喜劇に喩え その中で 私たちが演じる役柄についてでした。
「人との関わりが 軽やかであればあるほど 上手に立ち回れるようになり 人生を充実させるのに長けてくるものだ 自分の役割を受け入れ 向上しようと努力する者は 自分を大きく成長させる 自分の役割をうまくこなせば 人生は概ね 楽しいものとなるだろう」。
父が言わんとしたのは この世界で私たちは皆 役割と自由を与えられており— この講演の核心でもあるのですが— その役割と幅は常に広がり 発展しているということです。
必要とあらば 母熊のように勇猛になり 謙虚に助言を求めてください そうして優れた証拠と 心強い仲間を得て 情熱を持って 他者の視点を取り入れましょう そして 皆さんが この道具を使えば― 誰でも使えるようになれば 自分の言動の許容範囲を 広げられるようになり 人生は概ね楽しいものと なることでしょう。
ありがとうございました。
観衆:(拍手)
はっきり考えを述べることは、そうすべき時でも難しいものです。社会心理学者アダム・ガリンスキーの賢明な助言から、意見をはっきりと述べ、難しい状況もくぐり抜け、自分自身の力を強化する方法を学びましょう。