機関よりも赤の他人 — 現代人に広がる新しい「信頼」とは(17:08)

レイチェル・ボツマン(Rachel Botsman)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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「信頼」の話をしましょう。何事も信頼が要であることは常識ですが 他人に対する信頼に関して言えば とてつもないことが起こりつつあります。 会場の皆さんの中で Airbnbを ホストまたはゲストとして 利用したことのある人は手を挙げてください わぁ とても多いですね。

ビットコインを所有している人? なかなか多いですね。
では Tinderを使って 恋人を探そうとしたことがある人は? では Tinderを使って 恋人を探そうとしたことがある人は?

(笑)

これだと皆さん小さく手を挙げるので 数えるのが難しいですね。

(笑)

今のは3つとも 技術の進歩により 未知の人 会社 アイデアを 信頼できるようにする仕組みが 生まれているという例です。しかし 同時に 既存の機関に対する信頼は 銀行 政府 そして教会に対してでさえ 崩れつつあります。一体何が起こっているのでしょうか? 今 私たちが信頼するのは誰なのでしょうか?

まず フランスにあるプラットフォーム というか企業ですね。むしろ変な響きの名称ですが BlaBlaCarです。長距離移動の際に同乗する人を探す、ドライバーと乗客を引き合わせるサービスです。移動距離は平均で 320キロメートルです。その間の同乗者は 賢く選びたいですよね。利用者はプロフィールやレビューを 参考にして相手を選びます。喫煙者かどうか どんな音楽が好きか 犬を連れてくるかどうかも わかるようになっています。でも実を言うと ここでの人選に肝心な要素は その人が車の走行中に どれだけ喋る人なのかです。

(笑)

「Bla」が1つなら口数少なめ、2つなら 多少のお喋りを楽しむ人、3つだと ロンドンからパリへの道中 話し出したら止まらない人 という意味です。

(笑)

これが上手くいっていること自体 驚きですよね。普通の人が 子供の頃に 言い聞かされてきたことと矛盾します。「知らない人の車に乗っちゃダメ」なのにBlaBlaCarで移動する人は 毎月毎月400万人以上いるのです。比較してみると これは ユーロスターやジェットブルー航空の 利用者を超える数です。BlaBlaCarは 技術の力で 世界中何百人もの人々の間に実現している、「信頼の飛躍」を表す 見事な実例であると言えます。

「信頼の飛躍」とは 私たちが何か 新しいことや 従来と違うことをするという リスクを冒すときに生まれるものです。これを頭に描いてみましょう。では 目を閉じてください。バッチリ目を見開いて 視線を送ってきている人がいますが ステージ上の私には分かりますよ! 目は閉じて下さいね!

(笑)(拍手)

私も閉じますから 目を閉じて 思い浮かべてください。自分と未知の何かとの間に 隔たりがあるとしましょう。この「何か」とは 今 会ったばかりの人だったり 訪れたことのない場所だったり 全く経験のない物事かもしれません。頭に浮かびましたか? では目を開けてください。確信の世界から飛び出して 未知の何かや誰かに賭けてみようと 思えるに至るまでには 隔たりの向こう側に 引っ張り込んでくれる力が要ります。そんな驚くべき力が「信頼」です。

「信頼」とは 捉えどころのない概念ではありますが、人生が機能するためには 欠かせない要素です。私は 自分の子供たちが 夜寝るときに電気を消すと言ったら 子供たちを信頼します。ここに来るときは 安全運航をするはずだとパイロットを信頼しました。頻繁に使われる言葉ですが 使う人はこの言葉が 実際に何を意味するのか、異なる状況下ではどう機能するのかなど 常に考えたりはしません。

事実 「信頼」という言葉には 何百とおりもの定義があり、そのうちほとんどは煮詰めれば 一種のリスクアセスメント―物事がどれくらいうまくいきそうか という意味合いになります。でも私はこの定義は苦手です。「信頼」が合理的で 意外性のないものに聞こえるし、信頼によって何が可能になるのかとか、他の人とのつながりを作るにあたって どんな力を生み出すのかというような 人間の本質の部分に触れないからです。

そこで私は 少し違う定義を考えました。「未知のものとの間に築く、安心できる関係」です。このような見方で「信頼」を捉えると、なぜ信頼には 唯一無二の性質があるのかが分かってきます。人に先が見えない状況を切り抜け、赤の他人に信頼を置き前に進み続ける力を与える性質です。

人間は 信頼を飛躍させることに 驚くほどに長けています。クレジットカード情報を 初めてオンラインで 入力したときのことを 憶えていますか? これが「信頼の飛躍」です。私は今でもはっきり憶えていますが eBayで見た中古の紺色のプジョーを 買おうと思っていると父に話したら ごく正当な指摘を受けました。「出品者名が『姿なき魔法使い』だぞ この人から買うのはやめたほうがいい」。

(笑)

さて 私が携わる研究では どのようにして 技術により 社会で人同士をつなぐ役割を持つ 人間の信頼関係に 変革が起きているのかを調べています。非常に面白い研究分野です。私たちが まだ知らないことが 本当にたくさんあるからです。例えば 男性と女性ではネットの世界での 心を開き方が異なるのかどうか。生身の人に会って信頼を築く方法が オンラインでも通用するのか。信頼は使い回せるのか。つまり Tinderでの恋人探しに 抵抗がない人は BlaBlaCarで相乗りするのに 抵抗もないのかどうか。

でも 何百もの マッチングサービスを調べた結果、利用者の行動に 共通のパターンが見られました。私が「信頼の階段を上ること」と呼ぶ流れです。現実味を持たせるために BlaBlaCarの例を使いますね。最初の段階では そのアイデアに対する 信頼から入ります。他人と相乗りすることを 安全で試す価値があると 信頼しなければ始まりません。次の段階にあるのは プラットフォームへの信頼です。何かあればサービスの運営側が 力になってくれると信じることです。そして第3段階では、手に入る多少の情報を使って 相手のユーザーが信頼に値するかを 決めるというわけです。

この「信頼の階段」を上るとき、初めは ぎこちなさや リスクさえ感じるものですが、そのアイデアがごく普通だと 思えるようになった時点から 私たちの行動が一変します。たいていは比較的 素早い変化です。別の言い方をすれば 信頼は変化と革新をもたらすのです。

さて 私にはとても 気になっていることがあります。社会における個人の行動が 大きく移り変わる傾向は 「信頼」というレンズを通すことで 理解しやすくなるでしょうか? 実を言うと、人類史の中で信頼の形は 大きく3つの段階を踏んで 変遷してきたに過ぎません。直接築く信頼 機関を通した信頼 そして今 台頭している 分散型の信頼です。

長い間 19世紀中頃まで 信頼とは ごく近しい人同士の間で 築かれるものでした。私が ある村に住んでいたとします。前から5列目の皆さんまでが 村の住人です。誰もが誰もを知っている間柄で、そこで私がお金を借りたいとします。先ほど目をバッチリ見開いていた方は 貸してくれるかもしれません。もし私がお金を返さなかったら みんなの信用を失います。評判が下がってしまい、これからの取引は 断られてしまうというわけです。信頼とは主に身近な関係の中で作られ、責任に基づくものだったのです。

19世紀の中頃に 文明は凄まじい規模で 変遷を遂げました。人々はロンドンやサンフランシスコなど 急発展する都市部に移り 大企業が 地元の銀行業にとって代わりました。私たち客との 個人的な関係はありません。ここで人は 信頼を 「権威」という 中身の見えない仕組みに 託すようになりました。法的な契約書 規制や保険が これにあたります。そして他人を直接信頼することは 減っていきました。機関や委託に基づく信頼に 移り変わったわけです。

これは あちこちで言われていますが 機関や多くの企業ブランドへの信頼は どんどん減少していますし、今後も その傾向が続きます。信頼を大きく裏切る事件の数々には 開いた口がふさがりません。大手メディアの電話盗聴スキャンダルに フォルクスワーゲンの排ガス検査不正 カトリック教会に蔓延する性的虐待 金融危機が起こってから捕まった ケチな銀行家は たった1人であったということ。もっと最近のパナマ文書では 富豪によるオフショア取引が 明るみに出ましたよね。本当に驚かされるのは 上に立つ人々の態度です。信頼を裏切ったことに対し 誠実に謝罪するのをここまで渋るとは 理解できません。

機関への信頼は機能していないと 結論づけるのは簡単です。だって 私たちはもう 嘘つきのエリートたちの 厚かましさにうんざりなのですから でも 現在起こっている現象は 機関の仕組みや規模への猛烈な不信よりも もっと深いところにあります。みんな 気づき始めているのです。機関への信頼は デジタル時代には向かないのだということです。信頼が築かれ 管理され 失われ 修復されてきた従来の形―ブランドや 指導者や 制度全体でのやり方は ひっくり返ってしまいました。

この状況に期待は膨らみますが 恐ろしくもあります。多くの人にとっては 信頼がどのように築かれ 壊れるのかという常識が覆されるからです。顧客や雇用先との間だけでなく 愛する人々との間の信頼もです。

先日 世界有数のホテルのCEOと 話していたときのことです。よくあることなのですが Airbnbの話になりました。Airbnbの成功の理由が 全くわからないと言われました。他人同士 信頼し合おうとする―人の気持ちに依存している企業が どうやったら191か国で こんなにも繁盛できるのだろうかと理解に苦しんでいるようでした。そこで「実は今まで言わなかったれど」と切り出すとその人は訝しげな顔をしました。私はこう言いました―覚えのある人も多いはずです―「ホテルを出るときは タオルを 散らかしておくこともあるけれど Airbnbで宿泊するときは 絶対にしません」。なぜ 絶対にしないのかというと、ホストに評価を書かれると 分かっているからです。この評価次第で 今後 同サービスを利用するのに 不都合が出るかもしれないからです。シンプルな一例ですが オンラインでの信頼によって 私たちのリアルでの行動が 変わるという―しかも 私たちには 到底想像できないような形で 責任ある行動が促されるという例です。

ホテルや従来の権威が必要ないと 言っているわけではありません。でも 確実に言えるのは 社会における信頼の流れが 変わりつつあるということです。大きな方向転換が起こりつつあり、機関への信頼で成り立っていた 20世紀に背を向けて 分散型の信頼で動かされる 21世紀を突き進んでいるのです。信頼は もはや トップダウン型ではなく バラバラになって 反転した形になっています。不透明な 直線型の信頼は もうありません 信頼を作る新たな方法が登場しました。繰り返しになりますが 人と人との間に分散する信頼であり、各自の責任ある行動で 成り立つ信頼です。

ブロックチェーンの台頭により この動向は高まる一方です。これはビットコインの基盤である 革新的な台帳管理技術です。さて、正直な話 ブロックチェーンの仕組みを 頭で理解しようとすると 訳がわからなくなります。そうなる理由の1つは この仕組みが 極めて複雑な概念から成る処理を要し、用語もひどく難解だからです。「暗号アルゴリズム」に「ハッシュ関数」「マイナー」(採掘者)という者が認証する「トランザクション」(取引)そして これを全て作り出したのが「中本 哲史」なる謎の人物または集団であるなんて、これこそとんでもない信頼の飛躍です。こんなことは前代未聞です。

(笑)

でも 想像してみましょう。『エコノミスト』誌では ブロックチェーンのことを 物事への信頼が連鎖した 見事な仕組みであると雄弁に述べています。私の言葉で できるだけ噛み砕いて言うと、ブロックはスプレッドシートのようなもので、アセット(資産)で埋まっています。土地の所有権であったり 株式であったり 音楽の著作権といった 創作物としての資産もあります。ここで 何らかのアセットが 台帳内の ある場所から 別の場所に移動すると、そのたびにタイムスタンプがついて ブロックチェーン内の 公開記録となります。こんなにもシンプルな話なのです。

ブロックチェーンがもたらす 真の影響は何かというと、取引を円滑化するのに いかなる第三者も―つまり弁護士や 信用ある仲介業者 おそらく国の仲介機関さえも関わらずに済んでしまうことです。「信頼の階段」に話を戻すと、アイデア自体への信頼も プラットフォームへの信頼も必要です。でも 今までの常識的な意味での 相手に対する信頼は 必要なくなります。

これは重大な影響をもたらすでしょう。インターネットによって 情報化時代の扉が 誰に対しても開かれたのと同様に、ブロックチェーンによって「信頼」に世界規模の革命が起きるでしょう。

さて ここまで意図的に Uberには触れないようにしていました。賛否両論があり、ネタとしても 使われ過ぎだと見ているからですが、新しい信頼の時代という文脈では Uberは優れた事例になります。この先 分散型の信頼を 悪用したケースが現れるでしょう。実際に発生してもいますし、最悪な事態が起こる可能性もあります。世界中でタクシー協会が 抗議運動を起こしており、安全性に問題があるとして 政府に対してUberの禁止を訴えているのは 意外なことではありません。これらの抗議運動が起こったとき私は たまたまロンドン市内にいたのですが、たまたま見かけたツイートが ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣 マット・ハンコックのものでした。

こんなツイートでした「みんなが話題にしている#Uberの アプリについて教えてほしい――

(笑)

――今日まで知らなかったんだ」

さて ここでタクシー協会は Uberに対する信頼の 最初の段階を証明してくれました。自分たちが廃絶しようとしている アイデアの正当性を証明してしまい、24時間でUberの登録者数が 850パーセント伸びたのです。これは非常に分かりやすい例です。いったん ある行動についての信頼や、ある産業における信頼が転換してしまえば もう後戻りはきかないということです。毎日 500万人が 信頼を飛躍させて Uberを利用しています。中国では Didiという ライドシェア(相乗り)サービスを利用して毎日1100万件の相乗りが起きています。1秒あたり127件の計算です。この現象が文化を超えて 起こっているという証拠です。

何が面白いかって ドライバーと乗客の双方が 名前が見えるということや 誰かの写真や評価が見えることで 安心感が高まると証言しており、経験者もいるかもしれませんが、タクシーに乗るときよりも多少感じよく振る舞うかもしれないのです。UberやDidiは まだ進化途上ながらも、技術によって 人と人の間の信頼が かつて存在しなかった方法や かつては不可能だった規模で 生まれているという格好の例です。

こんにち、知らない人が運転する車に 平気で乗れる人はたくさんいます。アプリで条件が合う相手を見つけて 実際に会ったりもします。自分の家を見知らぬ他人と シェアしたりもします。

これは ほんの始まりでしかありません。いま社会に起こっている真の変動とは 技術そのものではなく 技術によって起こる「信頼の変革」だからです。私自身は この新しい信頼の時代を 人々が理解するための力になりたいと思います。私たちが道を外すことなく、より透明性が高く、懐も広く、責任の所在も明確な社会を求めて 世の中を変えていけるチャンスを 喜んで迎えられるように。

ありがとうございました。

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

私たちの考える「信頼」の概念に、何かとてつもない変化が起きつつある、とレイチェル・ボツマンは語ります。かつては政府や銀行といった機関に信頼を置いていたのに、現代では他人、しかも赤の他人や、AirbnbやUberといったプラットフォーム、そしてブロックチェーンのような技術に、どんどん頼るようになってきています。この「新しい信頼の時代」、私たちが道を外さない限り、より透明性が高く、懐も広く、責任の所在も明確な世の中に変わっていくでしょう。これからの時代、誰を信頼しますか?

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