あなたの知らない、ラクダの本当の故郷(12:27)

ラティフ・ナサー(Latif Nasser)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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これは 私たちがどうやって 知識を得るのかという話です

話の主役は この女性 ナタリア・リプチンスキー 古生物学者で 太古の死骸を掘るのが専門です

(声)ナタリア・リプチンスキー: 人には「死骸博士」って呼ばせてたわ

ラティフ・ナサー: 特に面白いと思ったのは 発掘現場が 北極圏のはるか北 人里離れた カナダのツンドラ地帯だからです

2006年の夏のある日 彼女はファイルズリーフベッドという 発掘現場にいました 磁北極まで緯度10度もありません

(声)ナタリア: 退屈だと思うかもしれません リュックを背負って GPSとノートを抱え 化石らしきものを拾いながら 1日中歩き回るだけですから

ラティフ:ある時 彼女は 何かに気づきました

(声)ナタリア:古い 赤褐色をした 手のひら大のもので 地面に落ちていたんです

ラティフ:最初は ただの木片だと思いました というのも ファイルズリーフベッドでは 太古の植物の破片が よく見つかったからです ところが その夜キャンプに帰り ―

(声)ナタリア:ルーペを取り出して もう少し よく見てみると 年輪がないんです 保存状態のせいかもしれませんが それは見れば見るほど — 骨でした

ラティフ:彼女は それから4年以上 何度も この地点を訪れ 最終的に 30個の 同じ骨の破片を集めました ほとんどが とても小さなものです

(声)ナタリア:数は多くありません 小さなビニール袋に収まるくらいです

ラティフ:パズルのように 破片を組み合わせようとしましたが 本当に大変な作業でした

(声)ナタリア:割れて 粉々になっていたので 砂とパテを使おうとしましたが うまくいきません だから結局 3Dスキャナーを使いました

ラティフ:すごいな! ナタリア:でしょ?

(笑)

ラティフ:画面上で作業した方が ずっと簡単です

(声)ナタリア:全部 組み合わさった時は ちょっと感動しました

ラティフ:組み立て方が正しいという 自信は どのくらいありました? 別の組み立て方をしたら 違うものになる可能性は? 実はインコだったとか?

(笑)

(声)ナタリア:いいえ 間違いありません

ラティフ:彼女が発見したのは けい骨 つまり脚の骨で しかも偶蹄類のものでした 牛や羊の仲間のことです ただ この骨は牛や羊のはずは ありませんでした 大き過ぎたのです

(声)ナタリア:特大サイズでした すごく大きな動物です

ラティフ:どんな動物だったのでしょう? 行き詰った彼女は 骨片の1つを コロラドの同僚に見せました その時ひらめいたんです

(声)ナタリア:私たちが のこぎりで 骨の端に切り目を入れると 特徴のある匂いがしたんです

ラティフ:焦げた肉のような匂いで 不気味な解剖室で ナタリアが 頭蓋骨を切断した時に 嗅いだのと同じ匂いでした コラーゲンです コラーゲンは骨の構造を保つ 役割を果たします 年月が経つと 普通は 分解しますが この場合 北極圏の気候が 天然の冷蔵庫となって保存したのです

それから1〜2年経って ナタリアがブリストルで学会に参加した時 マイク・バックリーという学者仲間が 「コラーゲン鑑定」という新しい処理法の デモをしていました 動物はそれぞれ コラーゲンの構造が少しずつ 違っていて 未知の骨のコラーゲンの特徴がわかれば 既に分かっている動物のものと 比較でき ひょっとしたら 特定できるかもしれません

だから 骨片を1つ送ったのです 宅配便でね

(声)ナタリア:大切なものだから 追跡したかったんです

(笑)

ラティフ:彼は骨片を処理して 37種類の現代の哺乳類と比較し 一致する動物を見つけました ナタリアが高緯度の北極圏で 発掘した 350万年前の骨の持ち主は なんと ラクダでした

(笑)

(声)ナタリア:「え?」って思いました 本当なら すごいことです

ラティフ:多くの骨片を 検査しましたが どれも結果は同じでした ただし 発見した骨の サイズから考えると このラクダは 現在のものより 3割も大きかったのです 背の高さは およそ2.7m — 体重は約1トンでした

(ざわめき)

そうです ナタリアが発見したのは 「巨大 北極ラクダ」だったんです

(笑)

みなさんがラクダと聞いて 思い浮かべるのは 東・中央アジアに生息する フタコブラクダか 頭の中の 絵はがきのイメージは きっと こちらのヒトコブラクダでしょう 砂漠の生き物といえば これです 中東やサハラ砂漠といった 高温の砂漠に暮らし 背中の大きなこぶに 砂漠の長旅用に水を蓄え 大きな幅広い足で 砂丘を踏みしめて進みます 一体なぜ そんな動物がカナダ北部の 北極圏に到達したのでしょう?

実は 科学者が以前から 知っていたことがあります ナタリアの発見以前からです 実は ラクダの原産地は アメリカなんです

(アメリカ国歌)

(笑)

ここで誕生したんです ラクダが出現してから 約4,500万年経ちますが そのうち ほぼ4,000万年の間 北米だけに分布し 種類は およそ20種類 多分それ以上いました

(声)ラティフ:全部 並べたら 違いは分かったでしょうか?

ナタリア:ええ 体の大きさはまちまちで とても首の長い種類もいました キリンの首と同じようなものでしょう

ラティフ:ワニのような 顔をしたものもいました

(声)ナタリア:初期の 原始的なラクダは とても小さくて ウサギくらいの大きさでした

ラティフ:ええっ? ウサギサイズのラクダですか?

(声)ナタリア:初期の種類です 見てもわからないでしょうね

ラティフ:ウサギ・ラクダを飼ってみたいな

(声)ナタリア:ええ きっと最高ね

(笑)

ラティフ:その後 3〜700万年前に ラクダの群れが南米へと下り ラマやアルパカになりました 別の種類はベーリング陸橋を渡り アジアやアフリカに行きました 前回の氷河期の終わり頃 北米のラクダは絶滅しました

ここまでは すでに判明していることです とは言え あれほど北で発見されたことが 完全に説明できるわけではありません 例えば気温の面で サハラ砂漠とは正反対ですから 確かに 350万年前の気温は 現代より平均22度 高かったんです だから針葉樹林が広がっていて 今のユーコン川流域やシベリアに 似ていたかもしれません ただ それでも 冬は6か月間も続き 池は凍りついたでしょう ブリザードもあれば 夜の暗闇が 24時間続く時期もあったでしょう では一体全体 このサハラ砂漠の スーパースターは どうやって 北極圏の気候を 生き延びることができたのでしょう? (笑)

ナタリアと仲間の学者たちは 答えを見つけたと考えています しかも見事な答えです サハラ砂漠のような場所に 適応するためだと 私たちが考えてきた ラクダの特徴が 実は 冬を乗り切るために 進化したものだとしたら? 幅の広い足は 砂の上を歩くためではなく かんじきのように 雪上を歩くためのものだとしたら? 背中のこぶには — 私は知らなくて 驚いたんですが 水ではなく 脂肪が詰まっています

(笑)

そのこぶが 食料の少ない 半年に渡る冬を乗り切るのに 役立っていたとしたら? その後 陸橋を超えてから しばらく経って 冬向きの特徴を 高温の砂漠の環境に役立てたとしたら? 例えば こぶは暑い気候でも 役立つかもしれません というのも 全身の脂肪を リュックのように1か所に蓄えれば 断熱材の役割を果たす脂肪で 体中を覆う必要がなくなります そうすれば熱を逃がすのが楽になります この途方もない発想によって 砂漠に適応したことの 代表的な証拠と考えられていたものが 実際は かつて高緯度北極圏に 住んでいた証拠になりうるのです

この話をするのは 私が初めてではありません 他の人たちは この話を通して 進化生物学の驚異を語り 将来の気候変動を解明する 手がかりにしてきました でも私が この話が好きな理由は別なんです 私にとって これは自分自身の話であり 自分たちの世界観や それがどう変化するかという話なのです

私は歴史家として 教育を受けてきました わかってきたのは 科学者も大部分が歴史家だということです 彼らも過去を理解しようとします 宇宙や惑星や 地球の生命の歴史を語ります そして歴史家として 物語の展開について 発想することから始めるのです

(声)ナタリア:私たちは物語を作り それにこだわります 例えば砂漠のラクダという物語です すごくよく出来た物語です ラクダは完璧に適応しています ずっと砂漠にいるんですから

ラティフ:でも いつか 小さな証拠が見つかるかもしれません 小さなことを理解することで 自分が信じていたこと すべてを 組み立て直すことになるかもしれません この場合も そうです 一人の科学者が発見した 木片のような化石が きっかけで ドクター・スースの絵本に 出てきそうな この動物が なぜ こんな姿なのか まったく新しい 常識を超える仮説に 科学はたどり着いたのです ラクダに対する私の考え方は 一変しました 砂漠という特定の環境にしか 適応できない 極めて特殊な動物という見方から たまたまサハラ砂漠にいるけれど 本当は世界を股にかけ どこでだって生きられる動物という 見方に変わったんです

(拍手)

こちらはアズーリ やあアズーリ こんにちは ほら お食べ

(笑)

アズーリは普段 ラジオシティ・ ミュージックホールに出演していますが 休憩中なんです

(笑)

冗談なんかじゃありません さて

このアズーリこそ 私たちの世界についての物語が ダイナミックなものだという 生きた証拠です 私たちは 物語を組み立て直し 想像し直さなければなりません

(笑)

そうだろ?アズーリ

ひとかけらの骨の向こう側に 世界の新しい見方が 存在するんです

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

ラクダは砂漠にとてもよく適応しているので、他の場所で暮らす姿など想像できません。でも、ラクダに対する見方が完全に間違っていたとしたらどうでしょう?あの大きなこぶも、足や目も、別の時代の違う気候に適するように進化していたとしたら?ラジオ番組『Radiolab』のラティフ・ナサーが語るのは、とても小さな奇妙な化石によって、彼のラクダに対する見方と世界観が一変するまでの驚くべき物語です。

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