料理の錬金術(9:34)
講演内容の日本語対訳テキストです。
自動スクロールはしませんので、映像に合わせてスクロールさせてご覧下さい。
ベン・ロシェ:私はベンです。
ホーマロ・カントゥ:私はホーマロです。
ベン:私達はシェフで 2004年に 「Moto」をオープンしましたが これが よく日本料理店に 勘違いされました おそらく名前や日本語のように見えた ロゴのせいでしょう とにかく そのため 店にない日本料理の リクエストがずいぶんありました 巻き寿司の注文を1万回ほど 受けた頃 私達はリクエストに 応えようと決心したのです これは印刷した食べ物です 味の変身とでも呼ぶ 初めての 挑戦でした 巻きずしの 材料や全ての風味が この小さな紙切れに 印刷されています。
ホーマロ:お客さんは じきに このアイデアに飽きてきたので 同じ料理を2度提供しようと考え 私達は印刷した巻き寿司と 同じ方法で 料理の写真を撮り 実際の料理と一緒に出しました この料理は 基本的に シーフードとシャンペンだけです ご覧のシャンペンは 実際は炭酸化したグレープです シーフードと生クリームを加えたこの料理と この写真は全く同じ味なんです(笑)。
ベン:食用の写真だけではありません 食材にちょっと変わった事をして 私達のよく知った味に 変身させてみました 例えば キャロットケーキです これをミキサーにかけ キャロットケーキジュースにし 風船に流し込み 液体窒素で凍らせます 中が空洞のキャロットケーキアイスが できました お皿の上に木星が 浮かんでいるみたいでしょう 私達は素材を変化させ 未知の食材を 作り出すのです。
ホーマロ:これも私達が 食べた経験のないもの キューバン・ポーク・ サンドイッチから作った キューバ葉巻です 肩肉用のスパイスを 灰のように形造り キューバポークを カラードの葉で巻きます コイーバ・シガーのラベルを真似た 食べられるラベルを貼り 2ドルの灰皿に入れ 20ドル請求します(笑)おいしいですよ。
ベン:それだけじゃありません 食べられないものに似せて 食べ物を作るだけでなく 食材を私達になじみのある料理に似せて 料理を創る事にしました これはナチョスです 他のナチョスと 私達のナチョスの違いは これはデザートだという事です チップスは飴掛けしてあり ビーフはチョコレート チーズはマンゴーシャーベットを 細くしたものを液体窒素で 固めてあります 素材の形を 崩したり造り直したりして このような事ができるのは なかなかクールだと気づきました お客さんに出す時 料理は本物のように見えるんです チーズは溶けだしますし― テーブルでこれが出されたら 本物のナチョスが出てきたという 錯覚を起こすでしょう 味わって初めて デザートだと気付き ドッキリすることでしょう(笑)
ホーマロ:キッチンというより 整備工場に近いようなキッチンで これらの料理を 作ってきました 次の段階は このような最先端のラボを 設備することでした 地下室に備え付け 食べ物の研究にまじめに 取り組みました ベン:私達の研究室がスゴイのは キッチンにサイエンス・ラボが あるからだけではありません 新しい装置や方法で 夢想だにしなかった 創造的な試みができるのです 私達の挑戦する 実験や食材や料理は 少しずつ 変わったものになっていきました。
ホーマロ:ここで 味の変身による 面白い料理の話をして実際に作ってみます 牛が舌を出していますね 何かおいしいものを 食べようとしていますが 牛にとってのごちそうとは? 牛のえさは 基本的に トウモロコシとビーツと大麦です スタッフにはいつも 突拍子もない挑戦を させるのですが― 牛肉を使わずに 牛のえさだけで ハンバーガーを作れるでしょうか? たいてい このような 反応をされます(笑)
ベン:彼はシェフの クリス・ジョーンズです 変な仕事をさせらせて 困惑するのは彼だけではありません 私達のアイディアの多くは 咄嗟には理解しがたいでしょう 全ての料理に 多くのリサーチや 試行錯誤が必要で 特に多くの失敗はつきものです 人に説明するのにも 大変時間がかかります。
ホーマロ:私とクリスは一日中 頭を突き合わせ 本物のハンバーガーのパティに 近いものを 考え付きました 三つの材料からできています ビーツと大麦とトウモロコシです ハンバーガーのように焼き 見かけも味もそっくりです それだけではなく 牛肉も使いません 食材を別の材料で再現し このように次の次元へ昇華するのが 私達の目指すところなのです(拍手)
ベン:たしかに世界初の血のしたたる 野菜バーガーです クールな効果だと思いませんか そして「奇跡のべリー」 これは天然素材で 特別な特徴があります ミラクリンという糖タンパクを含み 私は食べるたびに 未だに混乱させられます 舌の ある受容器官を だます能力があり 酸っぱさやピリッとした味は なんだかとても甘い味が するように変わります。
ホーマロ:レモンを食べたら レモネードの味がするでしょう そういう技術の経済的効果を 少し考えてみましょう お菓子やソーダの糖類を 完全に天然果実と 入れ替える事が できるかもしれません。
ベン:これはスイカを 切っているところです このスイカを使ったアイデアで 食物の輸送距離や エネルギーの浪費 マグロの乱獲を減らそうと考えました つまり地元の有機農産物を使い マグロや遠い場所の 珍しい野菜や料理を作るのです。このスイカは ウィスコンシン州産です。
ホーマロ:「奇跡のベリー」は酸味を 甘味に変えますが この「妖精の粉」を スイカにかけると 甘味は旨味に変わります その後 真空袋に入れて 少量の海苔や 香辛料を加えて巻くと マグロに見えて来ます 次は本物に 近づけるコツです。
ベン:素早く液体窒素に浸し きれいな焦げ目を付けると 本物とちょうど同じ 味と歯ごたえになります。
ホーマロ:このマグロが実は何であるかは 重要ではないと 覚えておいてください 人や環境にやさしい限り 構わないのです このアイディアの行く末は? 味覚をだます技術を もっと発達させたら どのような革命を起こす フード・テクノロジーに なるでしょうか? さて 次の挑戦です 野生植物をたくさん採って 食材にしようと スタッフに言いました 人体に毒でないかぎり シカゴの歩道から採った植物を 混ぜ合わせて 焼いて 皆でMotoで味見をしよう お客さんに高額を請求して 感想を聞いてみようと―(笑)
ベン:こんなに大変な仕事を させれば スタッフに 嫌がられるのも分かるでしょう でも最初から料理についての 考え方を変えなければならなかったのです これらの食材は なじみのない植物です 普段食べる事がないため 私達は料理方法を 知りませんでした クリエイティブな調理法や味付け 舌触りを変える方法を 考えなければならず それが一番の問題でした。
ホーマロ:さあ 今こそ未来へ足を踏み出し 飛躍する時です 想像して下さい 発展途上国と先進国が 野生植物をもっと食べたら 食料の輸送距離はキロから メートルに短く変わるでしょう もし「食材」の意味を 根本的に変え 原材料の 百科事典を新たに開けば― 例えば 小麦粉の代わりに これらの材料の1つを使ったら エネルギーの節約にもなるし 無駄も減るでしょう 私達がお客さんに 供したものの例を1つ こちらはわら1梱と 野生リンゴです この2つの材料から バーベキューソースを作りました 皆さん本物だと信じましたが タダで手に入れた材料しか使っていないのです。
ベン:どうもありがとう(拍手)
シカゴにあるレストラン「Moto」のシェフ、ホーマロ・カントゥとベン・ロシェは、新しい料理と食べ方を提案しています。この楽しい味との遊びには真面目な動機があります。この新しい食の技術で、世界を良くする事が出来るでしょうか?