数百年後、人類はどんな姿だろうか?(15:45)

フアン・エンリケス(Juan Enriquez)
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対訳テキスト
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まず重要な質問をさせてください [人体を進化させるのは倫理的か?]

人類は自身を進化させるのに必要な 手段をすべて入手し始めているからです 私達は バクテリアや植物や動物を 進化させることができます そして今 私達は 問題を提起すべき時期に来ています それは本当に倫理にかなったことか? 私達は人類を進化させたいか? この質問について考えるため 人工装具の系譜について お話ししましょう 補装具の過去 現在 そして未来です

これはあるドイツ人伯爵が使っていた 鉄製の義手です 伯爵は戦いを愛し 戦いで腕を失いました でも彼はそれをものともせず 一揃いの甲冑を作り 義手を装着しました 完璧な人工装具のできあがりです 「鉄拳による支配」というコンセプトは ここに由来しています

もちろんこのような装具は ますます便利になり ますます現代的になりました 半熟卵すら持つことができます あらゆる制御が可能だと 皆さんが考えているうちに ヒュー・ヘアのような偉大な人たちが これまでにも全くもって素晴らしい義肢を 開発してきましたからね かのエイミー・マリンズは 外出する時こう言うでしょう 「今晩はどのくらいの身長がいいかしら」 ヒューは「次はどんな崖を登ろうか」 と言うでしょう マラソンを走りたい人は? 社交ダンスをしたい人は? これらの願いを叶えるうちに 補装具は面白いことに 人体内部に使えるようになりました かつて身体の外側につけていた装具が 現在では 人工膝関節となりました 人工股関節となりました ここまで進化したのは ただ快適だからだけではなく 不可欠だからなのです

心臓のペースメーカーも 一つの補装具とみなせば 「ぼく脚がないんだ」 ではすみません 「これがなければ 死んでしまう」  となってしまいます 現在もはや 補装具は人の身体と 共生する関係になりました

私がこれまでに会った最も優秀な4人の人物 — エド・ボイデン、ヒュー・ヘア ジョー・ジェイコブソン、ボブ・ランダー 彼らはMIT先端生体工学センターで 働いています 驚くべきことにこのセンターでは 現在 装具を骨に埋め込もうと しているのです さらに皮膚 筋肉にも埋め込みます さらにエドは別の研究もしており 光や他のメカニズムを利用することで 脳と補装具を 直接結びつけようと考えています もしこれが現実となれば 人間性の基本的な性質を 変化させ始めます 例えば あなたが何かに反応する速度は 神経の直径に影響されます 光や液体金属を使った 体外の神経や人工の神経なら 太い神経にすることもできます 理論上は 発火炎さえ見えれば 弾丸から逃れられます このような程度の変化なら すでにお考えだったことでしょう

さらなる次の段階は 「フォナック補聴器」です この技術がすばらしいのは 補装具の閾値を越えたからです 従来の補装具は 「障がい」を持つ方たちのものでした しかし こうなると「健常者」も 手に入れたいと思うようになるのです 驚くべきことに この補聴器があれば 聴力を補助するのみならず 音の焦点が合わせられるのです つまり あちらの会話も聞き取れるわけです まさに「超」聴力が手に入ります 全方位の音を拾えるし ホワイトノイズを聞けて 録音もできて さらには電話を埋め込むこともできます 補聴器であり 電話機でもあるのです ここまでくれば 補装具を自ら求める人もでてくるでしょう

何千もの様々な進歩が ひとつになろうとしています さて ここで質問です 私たちは次なる世紀 人類をどのように進化させたいですか? ある偉大な哲学者に伺ってみましょうか とても聡明な方です どうやら ヤンキーズファンのようですが…

(笑)

ヨギ・ベラは言いました 「予測をすることはもちろん難しい 特に 未来については」

(笑)

それでは未来を予測するかわりに トニー・アタラ達の 現在の取り組みに注目しましょう 30余りの臓器の 再設計をおこなっている人物です 究極の補装具とはおそらく 外部に金属を取り付けるようなことではく 多分 私たちの遺伝子を使って 人体の一部を作ることです 従来の補装具よりも はるかに役に立つはずです その間 クレイグ・ヴェンターや ハム・スミスが開発しており 私たちも取り組んでいるのが 細胞のプログラムを組みなおすことです これが可能となれば 臓器中の細胞を変化させられます 細胞の変化によって 放射線への抵抗性を高めたり より多くの酸素を吸収させられます または体内で不要なものを もっと効率よく 排出できるかもしれません

ここ数週間 よくニュースで見かけるジョージ・チャーチ氏は このプログラム可能な細胞を取りだして その中に ヒトゲノムの全部を注入しました 細胞にヒトの全遺伝子を注入することが 可能となれば ある疑問が浮かび上がります 「人間はゲノムの一部を 『改良』したいのか?」 「人間は身体を改良したいのか?」 「どのように改良したいのか?」 どこまでが道徳的で どこからが非道徳的なのか? 突然 私たちが行っていることは 多次元のチェス盤の様になります 私たちはウイルスを使って 遺伝子発現調節を変化させ エイズなどを攻撃したり また遺伝子治療により 遺伝情報を書き換えることで 遺伝性の病気から逃れられたりします 環境を変え エピゲノムを介して 遺伝子発現を変化させ それを次の世代に 引き渡すことができます それらは ほんの少しの変化にはとどまりません ほんの少しが集まることで ある一部分を形成します 部分的な変化がいくつも合わさって まったく別のものができあがるのです

こうした研究を懸念する人も多くいます 恐ろしく聞こえます リスクもあります では なぜ我々は このような研究を望むのでしょう? なぜ我々は人体を根底から 改良したいのでしょう?

答えの一部を イギリスの天文学者 リーズ卿が教えてくれます 「宇宙は悪意が100%である」 彼の好きな言葉です どういう意味でしょう? 人間の誰かを 宇宙のどこかに置いてみるとします 宇宙空間に置くと 死にます 太陽に置くと 死にます 水星の表面に置くと 死にます 超新星のそばに置くと 死にます しかし 実際の悪意はせいぜい80%までです

かつて 偉大な物理学者が言いました 「生物とは エントロピーの流れに 逆らって秩序を作り出す渦である」 つまり 宇宙はエネルギーを 散逸させていきますが その流れに逆らって 生物学的な秩序を生み出す渦があるのです ここで問題なのが 渦は消えてしまうということです また 渦は流れに乗って移動します 渦の変化に伴って 地球が氷の球になることによって 地球がぐっと暑くなることによって 小惑星の衝突によって 火山の大噴火によって 太陽フレアによって 絶滅レベルの大事件によって ― 今度の大統領選のように

(笑)

突然の大絶滅は 繰り返し起きています 地球上でこれまで5回起こりました つまり私たち人類も いずれは絶滅します 来週ではなく 来月でもないはずです 11月かも あるいは1000年後かも この結果を踏まえて 大絶滅が当たり前で自然で 普通のことで 繰り返し起こるなら 種を多様化させるのが 道義的責務でしょう

なぜならば 人体を根本から改良しない限り 今の私たちでは 火星に住むことは不可能ですから ですよね? 人間は一つの細胞から生まれます 母親と父親が出会い 一つの細胞を生み出し やがて 次々と 10兆もの細胞になるのです 重力を大きく変えると 人体に変化が起こるかは分りません でも もし人体が 大量の放射線に曝されたら 私たちが死んでしまうことは 確かです つまり 火星で暮らすことを考えたら 私たちは身体を設計し直す必要があります 海王星の衛星や木星へ行くなんて 考えてもみないでください

ニコライ・カルダシェフのように 人類の存在を 縮尺をもとに考えてみましょう 第1文明は まず 人体の見た目を 変えることから始まります 実際に 人類が何千年とおこなってきたことです 腹部整形手術や そういった類の 見た目を気にしておこなうことです 必ずしも 手術は医療目的ではないようです

(笑)

おかしいですよね

第2文明はそれと異なったものです この文明では 人体を基礎的な部分から変えてしまいます 背を伸ばすために 成長ホルモンを注射したり 太ったり痩せたりするために 何かしら取り入れたり そういった種類のものです 人体機能を根本的に変化させます

そして 「太陽系文明」へと進歩するため 第3文明を造りださなければなりません 現在の私たちとは全く異なります ダイノコッカス・ラディオデュランスの 遺伝子を導入して 放射線を浴びせると 細胞が新しい性質を持つかもしれません 肺を使わなくても 血液に酸素を取り込んで 呼吸ができるかもしれません つまり劇的な再設計のことです 興味深いことに この10年で たくさんの惑星が発見されました そしていくつか地球に似たものもあります 問題は そこにたどり着くためには 最速の移動手段 ― ジュノーやボイジャーなどですら 最も近い太陽系でも 何万年とかかってしまうことです どこか違う星の浜辺を散策したければ あるいは二つの太陽の夕日が見たければ とんでもない変化が必要です なぜなら時間の尺度や人体を 似ても似つかぬものに 変化させなければならないかも知れません それこそが第4文明です

今の私たちはそれを想像することすら 出来ません しかし そこへ辿りつくための手段を 掴みはじめてはいます 2つの例をご紹介しましょう

この人物の名は フロイド・ロームズバーグ 彼が今取り組んでいるのは 生命の元となる 根本的な化学反応への挑戦です すべての生命はATCGの4つの塩基の配列 つまり遺伝子からできています バクテリア 植物 動物 人間 牛 あらゆるすべての生命がです フロイドは4つの塩基のうち 2つを変えてしまいました それがATXYです これにより並行した生命系が生まれました 子を生み 繁殖し 進化します これは地球上のほとんどの生物 いや 事実上すべての生物と 交配することができません すべてのバクテリアに感染されず すべてのウイルスに抵抗する植物も 開発できるでしょう では なぜこのことがすごいのでしょう? つまり 現在の人類のカタチが 唯一の正解ではないということです 私たちのものとは違う 化学反応系を持ち 全く違う惑星に適合し そこで生命を作り 子孫を遺すのに適した 化学システムもあり得るのです

この実験には 第二の意味合いもあります 我々 すべての生命が20のアミノ酸から 成り立っていますが もし2つの[塩基]を入れ替えるのではなく ATXYではなく 「ATCG+XY」とするならば もとは20種だったアミノ酸を 172種まで増やせるのです 172種類のアミノ酸が使えれば 全く異なったカタチの生命が創れます

2つ目の実験はとてつもなく変わっていて 中国で行われているものです この人物は 数百ものネズミの頭を移植してきました いいですか? 何が面白いかというと 昔の心臓移植を思い浮かべてください かつてそういった手術では 術後に心臓提供者の妻や娘を連れてきて 医者が心臓の提供を受けた患者に質問します 「あなたはこの人を知っていますか? この人を愛していますか? この人に対して何か思いますか?」 現在ではおかしな話です なぜなら 心臓が筋肉であることは当たり前だから しかし何十万年も 何万年もの間 「心を捧げた ハートを奪った ハートブレイク」と言って ここに感情があると考えていました 心臓と感情が一緒に移植されると考えました しかし 違いました

では脳はどうでしょう? ネズミの脳移植実験から 二つの可能性が考えられます 手術が機能的にも成功すると 脳はまっさらになっている そんなことはないでしょう ここに重大な意味があります 二番目の可能性 移植されたネズミは恋人を覚えている 恐怖の対象を覚えている 迷路の進み方も覚えている もしこれが実証できれば 記憶や意識を移植することは 可能だということです さらに重要な問題は もし移植できるなら 脳活動の入出力系は 首より下にあるのでしょうか? ならば意識を他の物体に 移植できるでしょうか? 何か人間とは全く異なり 宇宙でも存在でき 何万年と生きながらえる 完全に再設計された人体に 非常に長い期間 意識を維持できるものに

ここではじめの質問に戻りましょう 「なぜ人を改良したいのでしょう?」 理由をお教えします それが究極の「セルフィー」だからです

(笑)

この写真は100億キロ彼方から見た 地球です ここに私たち皆がいます その小さな星が滅びれば 全人類も滅びます そして人類が自らを改良したがるのは 結局は あそこにも あそこにも あそこにも人類が住んでいると 言える写真が欲しいのです そうなることで 絶滅を乗り越えられるのです だからこそ人類を改良しないことは 倫理に反するのです たとえ恐ろしくても たとえ困難でも 探求し 生き延び 現在想像もつかない場所へと たどり着くことなのです 私たちの孫の孫の孫の孫の世代が いつか行くかもしれない場所へ

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

バクテリアや植物、動物を進化させることができる私たち人類。そこでフアン・エンリケスは「人体を進化させることは道徳的なのか?」と問いかけます。中世の義手から現在の神経工学や人工DNA科学におよぶスピーチの中で、人体の進化に関する倫理と向かい合い、そして地球とは違う惑星に移り住むために必要な人体の改変について想像します。

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