ISISのような武装集団が勢力を伸ばす驚くべき理由(5:38)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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この十年間、私は非国家的武装集団―すなわちテロリスト、反乱軍や市民兵といった武装集団について調査してきました。このような集団の 非戦闘状態における 行いについて記録してします。その目的は、このような暴力的集団への理解を深め、戦闘から非暴力的な対立へと移行するよう促す方法を探ることです。私が作業する場所は現場や政治の世界、そして図書館です。
非国家的な武装集団を理解することこそ、進行中の多くの紛争を解決する鍵です。戦争のあり方が変わったからです。かつては国家間の戦いでした。もはやそうではありません。現在の戦争は、国家と非国家的主体との衝突です。例を挙げると、216もの平和協定が1975年から2011年までの間に結ばれましたが、その内196件が国家と非国家的主体間の協定です。ですから彼らを理解する必要があります。紛争解決を成功させるには、その過程で彼らと関わり合うか制圧しなければなりません。
ではどうやって? このような組織の動機を知る必要があります。彼らの戦い方や戦う理由はよくわかっていますが、非戦闘時の行動には誰も注目しません。軍事行動と非戦闘時の政策は関連しています。すべては表裏一体なのです。彼らの全体像を把握しない限り、制圧はおろか理解などできません。
今日(こんにち)の武装集団は複雑な組織です。暴力によりイスラエルと対峙するレバノンのヒズボラを例にとってみます。1980年代初頭に組織されて以来、ヒズボラは政党や社会福祉事業を行うネットワークや軍事機構を立ち上げています。同様に、イスラエルに対する自爆テロで知られるパレスチナのハマスは、2007年以来、ガザ地区を支配する組織でもあります。ですから、戦闘以外にも多くのことに携わり、複数のタスクを並行して進めます。彼らは複数の通信手段を確保しました。ラジオ局・テレビ放送・ウェブサイト、それにソーシャルメディアなどの提供です。ここでお見せしているのは、ISISが発行する雑誌で、人員募集のために英語で印刷されたものです。武装集団は複合的な資金調達手段を有しています。略奪するわけではなく、建築会社などの収益が上がるビジネスを展開しているのです。このような活動が理解のカギとなります。こういった活動を通じて彼らは勢力を増し、資金力を得て、さらにメンバーが増え評判を高めていきます。
武装集団はこんなこともします。社会福祉事業に投資することで人々との絆を深めていきます。学校の建設、病院の経営、職業訓練プログラムや小規模ローンの提供も行っています。ヒズボラはその他のサービスも提供しています。武装集団は国家よりも高い評判を人々から得るために、国家が与えてくれないもの―安全や警備を提供します。戦争で疲弊したアフガニスタンでのタリバンの勃興、それにISISが勢力を拡大し始めたことさえも、安全保障を提供しようとした彼らの努力を鑑みれば理解し得ることです。これらの例では、残念ながら安全を提供されたことで住民は極めて大きな犠牲を払うことになりました。しかし、一般的には社会福祉事業により政府が放置していた統治の空白が埋まり、集団は基盤を強化し力を高めていきます。例えば、2006年の選挙においてパレスチナのハマスが勝利したことは彼らの社会活動を無視しては理解できないことです。
西側諸国にとっては、とりわけ武装集団を理解することは困難です。暴力的な側面しか見ていないからです。でも、それでは彼らの強さや戦略や長期的方針を十分には理解できません。これらの集団は複合的な組織です。政策の空白を埋めることで力を強化し、武力的にも政治的にも勢力を強め、武力闘争をする一方で統治もしています。
このような組織がより複雑化し、かつ洗練されていくと国家と逆の立場にいるものという考えが薄れていきます。皆さんはヒズボラのような組織をどう思いますか? 国土の一部を管理し、あらゆる職務を運営し、ごみを収集し、下水道を管理する。これは国家でしょうか? それとも反乱軍? いや、もっと異なるもので新しい何かでしょうか? ISISはどうでしょうか? 線引きは曖昧です。私たちが生きる世界には、国家や非国家やその中間があり、現在の中東のように国家が弱体化するほど非国家的主体が介入し、空白を埋めていきます。これは政府にとって由々しき問題です。彼らに対抗するには、非軍事的なことに投資を増やさねばならないからです。統治の空白を埋めることこそ、持続可能なアプローチの中心になるはずです。これは和解し平和を築くためにも重要です。武装集団をより深く理解できれば、彼らの気持ちを動かし、暴力から非暴力へと誘うより良い方法を見出すことが出来るでしょう。
国家と非国家の間の、この新しいタイプの戦いにおいて、軍事力では多少の勝利は得られるでしょうが、平和や安定は得られません。このような目的を達成するには、彼らの力の源泉となった安全保障の空白と統治の空白を埋めるために、長期的な投資をする必要があるのです。
どうも有難うございました。
観衆:(拍手)
ISIS、ヒズボラにハマス。これらの3つの異なる集団は暴力で知られます。しかし、それは彼らの一側面に過ぎないと、政策分析家のベネデッタ・ベルティは主張します。彼らは社会福祉事業、学校や病院の経営、さらには安全と警護を提供することによって、弱体化した政府が放置した空白を埋め、人々の人気を勝ち取ろうとしています。これらの集団による広範囲な活動を理解することで、暴力を終わらせるための新たな考えがもたらされるでしょう。