宇宙から地球を見るのはどんな気持ちか(12:05)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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1968年のクリスマスイブの日 アポロ8号は月を3回 周回したところでした ケープ・カナベラルでの 打ち上げの3日後で これは人類が初めて 地球低軌道を越えて 旅に出たときでした 宇宙船が4回目の 周回をしているとき 地球がゆっくりと視野に入り 月の地平線に その姿を現しました 宇宙飛行士のウィリアム・アンダースは 慌ててカメラを探し ハッセルブラッドを掴むと 窓に向けてカメラを構えて シャッターを押し 歴史上 最も重要な 写真を撮りました 「地球の出」です。
数日後 無事地球に 戻った乗員たちは ミッションについて 質問を受けました アンダースはこう答えています 「私たちが月に行って 発見したものは— 地球でした」。
彼と仲間の飛行士たちは そのものすごい瞬間に いったい何を感じたのでしょう? 昨年発表されたばかりの 研究ですが ペンシルベニア大学の研究チームは 宇宙から地球を見る機会のあった 数百人の宇宙飛行士の 証言を集めました その分析により 3つの感覚が よく見られることが明らかになりました 1つめは 地球の美しさに対する 感謝の気持ち 2つめは 他のすべての生命と 繫がっている感覚が強まったというもの 3つめは予想外でしたが 感情に圧倒される感覚です 地球を離れて見ることによって 見ているものを理解する 新たな認知的枠組みが発達するのだと 研究者たちは考えています 宇宙飛行士たちは この新たな視野 新たな視点 新たな視覚的真実によって 永久に変わったのだと この感覚は「オーバービュー(概観)効果」として 知られています。
これまで宇宙に行ったのは たった558人だけです 558人の人々が 畏敬の念をもって 無限に広がる暗黒の海に浮かぶ 地球の姿に 心奪われたのです でもその人数が もっと多かったらどうでしょう?
3年前に私は あるミッションを開始しました この圧倒的なスケールと美の感覚を もっと多くの人に 体験させられないものか ニューヨークの 狭い私のアパートにある 1台のちっぽけな コンピュータを使ってです 2013年に「デイリー・オーバービュー」 というサイトを立ち上げました 毎日 衛星画像を使って 地球の広大な俯瞰図を作っています これまでに作った画像は 1000枚を超え この日々の視点を一服しようと フォローする人が 60万人以上います 使っている画像は デジタルグローブ社の膨大な 衛星画像から見付けています この会社は5機の衛星を 運用していて それぞれが救急車くらいの大きさで 常時 地球の画像を撮り続けており 時速28,000kmで 地球を周回しています。
これは何を意味するのでしょう? それぞれの衛星は 焦点距離16メートルの カメラを搭載しています 通常のデジタル一眼レフカメラの 55mmレンズと比べ 290倍も長いものです オックスフォードにある この劇場の屋根に そのような衛星を 取り付けたとすると アムステルダムの競技場にある サッカーボールの写真を きれいに撮影することができます 450km離れたところからです とても信じ難い強力な技術です このプロジェクトを始めたとき この信じがたいほどの 素晴らしい科学技術を使って 人類が地球に影響を与えた場所を 取り上げようと決めました。
人類という種は資源のため 地球を掘り返し はぎ取り 燃料を製造し 食料となる動物や作物を育て 都市を築き 移動してまわり 廃棄物を生み出しています そして これらの活動を行う中で 陸地や 海洋や 都市の景観を形作り 罰を受けることなく 制御を強めています そのことを念頭に置きながら 私の作った地球の俯瞰像を 皆さんに見ていただきたいと思います。
貨物船や石油タンカーが シンガポール港への入港を 待っているところです 取扱貨物量で世界第2位の港で 全世界の輸送コンテナの20%と 原油の50%を 扱っています。
この俯瞰図を良く見ると 小さな斑点が見えるかと思います テキサス州サマーフィールドの 肥育場にいる牛です 牛が一定の体重に達すると 大体300kgくらいですが 牛はここに移され 特別な食事を与えられます それから3〜4カ月で 牛は体重を180kg増やした後 屠殺場へと出荷されます 写真上部のこの鮮やかな池を 訝しんでいるのではと思います この色は 肥料と化学物質と 淀んだ水に育つ藻類の 独特な組み合わせによるものです。
これは西オーストラリアの ピルバラ地方にある ホエールバック鉄鉱石鉱山で 地球に付けられた 美しくも恐ろしい傷跡です 世界の鉱山で採掘された鉄鉱石は 98%が鉄鋼の生産に使われますが 鉄鋼はビルや自動車の 主要材料となり 食器洗い機や冷蔵庫といった 電気製品の主原料にもなります。
これはスペインのセビリアにある 太陽光集光装置です この施設は 140mのタワーを中心に 2,650枚もの鏡が 同心円状に配置されています タワーの頂上部には 溶融塩が入ったカプセルがあり 地上の鏡で反射した光が集められ 溶融塩を加熱します 溶融した塩は地下の貯蔵タンクに送られ その熱で水蒸気が作られ タービンを回転させて 7万戸分の電力を生成し 年に3万トンの 二酸化炭素を削減します。
この俯瞰写真はボリビアのサンタクルスの 森林破壊の様子ですが 手付かずの熱帯雨林と 隣り合わせになっています この国の森林破壊の最大要因は 機械化農業の拡大と 牛の放牧で 人口増加に伴う食糧需要に応えようと この国は尽力し そのために森林が 犠牲となっているのです 2000〜2010年までの 10年だけで 1万8千平方キロの森を この国は失いました。
こちらはスペイン バルセロナの アシャンプラ地区です 俯瞰して見る画像は 都市の機能を理解するのに 非常に有効で 都市計画の巧妙な策を 考え出す参考になります 2030年には 世界の都市人口が 49億人になると 予想され 都市問題の重要性は 増すばかりです バルセロナのこの地域は 厳密な碁盤目状で 共用の中庭があるアパートと 8角形の交差点を特徴とし 日照と風通しが良く 路上に駐車スペースを確保できます。
こちらも碁盤目状ですが 状況が大きく異なります これはケニア北部の ダダーブ難民キャンプで 世界でも最大規模の 難民キャンプです 飢餓と紛争が起きているソマリアから 逃れてくる難民の 流入に対処するために 国連は この左側の 格子状の区画を作り 増え続ける難民に 住む場所を与えようとしています 難民はたどり着くと 白い点に居住します これらの点は実はテントで 時と共にこのエリアを 埋めていきます。
このような俯瞰画像を 1枚手に入れたら ある瞬間を把握できます でも時間差のある2枚を入手したら その間にあった変化の背景を 語ることができます 私はサイトのこの機能を 「並置」と呼んでいますが その例をいくつかご紹介します。
オランダでは毎年4月に チューリップ畑が満開になります 開花の数週間前の3月中に 撮られた画像と その数週間後の画像を 比較します 開花したチューリップが 壮麗な色彩の川のようです オランダではチューリップの球根が 年に43億個生産されています。
2015年にブラジル南部の鉄鉱石鉱山で 2つのダムが決壊し ブラジル史上 最悪となる 環境破壊を 引き起こしました 6,200万立方メートルの廃棄物が ダムの決壊と共に流出し 数多くの村を破壊しました このベント・ロドリゲス村もその1つで 洪水によって こう変わりました この災害で19人が命を落としました その後長期間にわたって きれいな飲み水を得らない人が 50万人に上り またドセ川に流入した廃棄物は 650kmに渡る流域を下って 海へと流れ込み その途上で数知れない 植物や動物の命を奪っています。
そして最後は シリア危機に関するものです この内戦では何十万人もが 命を落とし 何百万人もが移住を 余儀なくされました この砂漠地帯は ヨルダンのマフラクで 内戦が始まった2011年に 撮られたものです 今年2017年に撮られた画像と 比較すると ザータリ難民キャンプの建設を 見ることができます。
アポロ8号の宇宙飛行士が 初めて目にした 月の地平から昇る 地球の姿のように 私が今日紹介したような 宇宙からの景観は かつては想像さえ できないものでした 美しい画像を楽しんでいて それが何なのか知ったとき それでも好きだという事実に 戸惑うかもしれません 私の作品で作り出そうと思っているのは そういう緊張感です なぜなら そのような思索 そのような内的な対話が 地球により大きな関心を抱き それに対してどうするか 注意を払うことに繋がるからです。
地球を俯瞰することの重要性が かつてなく大きく なっていると思います 高高度で飛翔するカメラという 驚くべき技術を用いて 人類の行動による未曽有の影響を 観察し 監視し 暴き出すことができるのです 皆さんが科学者であれ 技術者であれ 政治家であれ 投資家であれ 芸術家であれ 私たちがもっと広範な視点を 取り入れることで 何が起きているのか 真実を受け止め この惑星の長期的な健康を 深く考えるなら より良い より安全で より賢明な未来を 私たちの唯一無二の故郷のために 作り出すことができるでしょう。
ありがとうございました。
(拍手)
宇宙から地球を見た時の感動は宇宙飛行士の人生を変えると言います。作家であり芸術家でもあるベンジャミン・グラントは、それと同じ想像を超えるスケールと美の感覚を、人類が地球に及ぼす影響を示す一連の衛星画像によって引き起こそうとしています。グラントは「もし我々がもっと広い視野を持ち、何が起きているのかという真実を胸に抱いて地球の長期的な健康を真剣に考えるなら、この唯一無二の故郷のためにより良く、より安全で、より賢明な未来を築けるでしょう」と語ります。