超耐性菌と闘う新兵器(10:13)
講演内容の日本語対訳テキストです。
自動スクロールはしませんので、映像に合わせてスクロールさせてご覧下さい。
さて…私達は今 正に 本物の戦争の只中にいます。それは私達が負けを 喫しつつある闘い 超耐性菌との戦争です。
皆さんは私が超耐性菌について 話をするのに 何故サッカーファン達の写真を 見せるのだろうとお思いかも知れません。リバプールのファンが イスタンブール戦での 勝利を祝っている 10年前の写真です。後方で赤いシャツを着ていますね。あれが私です。私の隣で赤い帽子を被っているのが 友人のポール・ライスです。この写真を撮った2、3年後、ポールは ある小手術を 受ける為に入院し、超耐性菌に関連した 感染症に罹り 亡くなったのです。私は心底ショックを受けまし。彼は働き盛りの 健康な男でした。その場ですぐに2、3人のTED関係者から多くの激励を受けました。私は超耐性菌に対する 自分なりの 私的な宣戦布告をしました。
では 少しばかり超耐性菌について お話ししましょう。これは抗生物質の広範な導入に伴って 1940年代に始まりました。その時以来 薬に耐性のあるバクテリアが 出現し続け、私達はこれらのバクテリアと 闘う為に 次々と 新薬の開発を強いられてきました。そして この悪循環が 結局 超耐性菌を生み出す原因になったのです。超耐性菌とはそのバクテリアに対し 効果的な薬剤がないもののことです。皆さんも 少なくとも この超耐性菌の いくつかをご存知だと思います。これらは 今日あるものの中で より一般的なものです。
昨年 超耐性菌に関連した疾病で およそ70万人が 亡くなりました。今後を予想すると、このままこの問題に対して基本的に薬剤をベースにしたアプローチを続けて行くならば、最も確かな見積りでは、今世紀の中頃迄に 世界中で耐性菌による死者数が 1000万人になるというのです。1000万人ですよ。それは死因の全体像からすると 昨年全世界で がんで 亡くなった人の数を上回ります。我々の進んでいる道は酷い状況で、この問題に対し 薬剤ベースのアプローチが 機能していない事はかなり明白です。
私は物理学者です。この問題に対し 物理学としてのアプローチ――つまりこれまでとは 異なるアプローチが出来ればと 思っています。この状況の下で 確かだとまず分かっているのは、実際にあらゆる種類の微生物、ウイルス、バクテリアを 死滅させる方法を私達は知っているという事です。それは紫外線を使った方法です。実に100年以上前から 分かっていた事です。皆さん 紫外線とはどんなものか ご存知ですね。赤外線、可視光線を含む光スペクトラムの 短波長の部分が紫外線です。私達の観点からして重要な事は、紫外線はバクテリアを死滅させ、そのメカニズムは薬剤がバクテリアを死滅させるのとは全く異なるという事です。紫外線は他のどんなバクテリアとも同様に薬剤に耐性のあるバクテリアを 死滅させる事が出来ます。紫外線はすべての菌を 死滅させるのに長けており、最近では部屋や作業面を消毒するのに多く使われています。
こちらは 殺菌紫外線で 消毒された手術室です。しかし今ご覧のこの写真には、人は誰も写っていません。それにははっきりとした理由があるのです。紫外線は実のところ健康に害をもたらします。私達の皮膚の細胞を傷つけ皮膚がんを引き起こしたり、目の細胞を傷つけ白内障のような目の疾患を引き起こす可能性があります。だから周囲に人がいる時は 従来の殺菌紫外線を使う事は出来ないのです。しかし当然ながら、大抵の場合、人がいる時に消毒をしたいものです。だから理想的な紫外線とは、超耐性菌を含む全てのバクテリアを死滅させられ、かつ、人が浴びても安全なものであるべきでしょう。ここで物理学者のバックグラウンドを持つ私がこの話に関わります。
物理学者の同僚と共に、ある特定の波長の紫外線なら、全てのバクテリアを死滅させて、その上で人にとって安全であるはずだと気づきました。その波長とは遠紫外線(UV-C波)と呼ばれるもので、紫外部スペクトルの 短波長部分です。ではどのように機能するか見てみましょう。ここでご覧に入れるのは、皮膚の表面です。皮膚上部の空気中にバクテリアを浮遊させて、従来の殺菌紫外線を照射すると何が起こるか見てみます。お見せしているように、殺菌紫外線はバクテリアを 死滅させるのに長けていますが、一方ご覧のようにそれは皮膚の上層を透過し重要な皮膚の細胞にダメージを与え、結局そのダメージが皮膚がんを引き起こす可能性があります。
では遠紫外線と比較してみましょう。同じ状況で、皮膚上部の空気中に バクテリアがいます。ご覧のように、今回も遠紫外線が完璧なまでに上手くバクテリアを死滅させますが、遠紫外線は 皮膚の中まで透過出来ません。それには十分な確固たる物理的根拠があるのです。遠紫外線は非常に強く、全ての生体物質に吸収される為、単純に あまり遠くまでは 届かないのです。さてウイルスやバクテリアは非常に微小なものです。遠紫外線は確かにそれらを透過し死滅させますが、それは皮膚を透過出来ず、皮膚表面にある死滅した細胞層さえ透過出来ないのです。このように遠紫外線はバクテリアを安全に死滅させられるのです。
これが理論です。それは機能し、かつ安全であるはずです。実際にはどうでしょう? 本当に機能するでしょうか? 本当にそれは安全でしょうか? その事に私達の研究室では過去5、6年に渡って取り組んでいます。私は両方の質問に対し、喜んで 声を大にして イエスと言います。そうです。機能もするし、安全でもあります。喜んでそう言いますが、私はそう言える事が 当然だと思っています。それは純粋に 物理法則によるものだからです。
将来を見てみましょう。私達は今 全く新しい兵器を手にし ワクワクしています。それは超耐性菌と闘う上では 安価な兵器だというべきでしょう。例えば 遠紫外線が手術室にあります。調理場にも設置されています。ウイルスの拡散を防ぐという観点から、遠紫外線が学校に設置され、インフルエンザや麻疹が 拡散するのを防いでいます。遠紫外線が空港や 飛行機に設置され、H1N1ウイルスのようなものが 世界的に拡散するのを防いでいます。
私の友人ポール・ライスに話を戻しましょう。彼は私達の故郷であるリバプールでは有名で、皆に愛された政治家でした。リバプールの中心部に彼を記憶しておく為、像が建立されました。それがこちらです。しかし私は、超耐性菌との闘いでの大きな前進をポールの遺産にしたいと願っています。光の力で防御すれば それは実に私達の手の届く所にあるのです。ありがとうございました。
(拍手)
クリス:ちょっと待って。デイビッド、質問があります。
(拍手)
クリス:デイビッド、どこまで開発が 進んでいて、これを公開して 夢を実現するにあたって どんな障害が残っていますか?
デイビッド:これがどんなバクテリアも 死滅させる事は皆さんご存知ですが、私達は始める前から そうだろうと思っていました。でも もちろんその点を 実験で確かめました。安全に関して 本当にたくさんの試験をしなければなりません。効果に関してというより、安全に関しての試験を短期的な検査と、何年も経って悪性黒色腫にならないことを確かめる為に、長期的な検査の双方が必要とされます。現時点では、これらの研究はかなり上手くいっています。もちろんFDAへの対応も必要な事ですが、それは当然の事です。FDAの承認無しでは、現実には絶対使えないのですから。
クリス:最初はアメリカで 始めようと計画していますか? それとも どこか他の国で?
デイビッド:2、3ヶ国――日本とアメリカでです。
クリス:これが安全な手法だという点で、生物学者や医者を納得させられましたか?
デイビッド:そうですね。想像通り、懐疑的な考えもありますが、誰もが紫外線は安全でないと知っていますからね。だから、誰かがここに登場して「この特定の紫外線は安全ですよ」と言うには何か証拠が必要です。でもデータがあるのです。それを主張しようと思っているのです
クリス:上手く行く事と良いですね。これは潜在的に非常に重要なものですからね。皆に話をして頂き、どうもありがとうございました。ありがとうデイビッド。
(拍手)
1940年代に抗生物質の使用が拡大し始めて以来、私達はバクテリアが進化するよりも早く、新たな薬を生み出そうとしてきました。しかしその戦略はうまくはいきません。薬剤耐性を持ち超耐性菌として知られるバクテリアによって、昨年およそ70万人の人々が亡くなり、2050年までに年間の死者は1千万人に上るといわれています。それは毎年がんで亡くなる人の数を上回ります。物理学はここで役に立つでしょうか?放射線科学者であるデイビッド・ブレナーは、科学の最前線からのこのトークの中で、生命を救う可能性のある武器、つまり遠紫外線のUV-C波と呼ばれる紫外線ならば、私達の皮膚を透過することなく、安全に超耐性菌を死滅させることが出来るという話をします。TEDのキュレーター、クリス・アンダーソンとの質疑応答が続きます。