拡張現実が変える手術の未来(11:04)

ナディーン・ハッシャシュ=ハラーム(Nadine Hachach-Haram)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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人間社会発展の理論によれば 今私たちが生きているのは 技術進歩の第四段階である 「情報化時代」です デジタル技術がもたらす接続性は 現代の奇跡です それは人々を隔てていた 時間と空間の障壁を崩し 情報やアイデアが自由に 共有される時代の 条件を作ったと言えるでしょう

しかしそういったデジタル技術で 達成されたことが 実際なし得ることの すべてなのでしょうか? そうは思いません 今日は デジタル技術が いかに私たちを さらなる高みへ連れて行けるか という話をします 外科医を生業とする者として 私がここで皆さんに お伝えしたいのは 世界には 外科医療を受けられない人々が 50億人いるという現実です 50億人です この世界人口の 7割に当たる人々は WHOのランセット委員会によれば 必要なときに 簡単な手術を受けることさえ できないのです

シエラレオネを 見てみましょう 最新の調査によると 人口6百万のこの国に 資格ある外科医は たったの10人しかいません 60万人に1人の外科医 ということです まったく驚くような数字ですが 別に私たちは遠くに 目を向ける必要はありません 最新の研究によると ここアメリカでも 日常的な外科手術に 対応するためだけでも 2030年までに外科医がさらに 10万人必要とのことです 現状のままでは この数字を満たすことはできません

これは外科医として私が懸念する 世界的な問題です それと言うのも 安全で安価な医療が 得られないために 人生を台無しに されてしまう人々を 私は目の当たりに してきたからです 手術が必要だけど 診てくれる外科医の いない患者は 難しい選択を 強いられます 待つか 遠くまで行くか 手術を受けないかです

どうすればいいのでしょう? それを解決できる手段を 今皆さんは身に付けています スマートフォンや タブレットや コンピューターです 私から見ると デジタル通信技術には ネットで買い物したり ソーシャルメディアで最新情報を得る という以上の力があります 外科医療を 受けられないといった 人々が直面する重要な問題のあるものを 解決する力があるのです それがどうやって 可能かという例を これからご紹介しようと 思います

外科医療の歴史には 当時の外科医が 直面していた難問が 技術革新によって解決された という事例が沢山あります 数百年遡ると 微生物学の進展が 消毒技術の開発につながり それが患者の術後の生存率に 大きく寄与しました それから数百年の後 鍵穴手術 あるいは 関節鏡視下手術 と呼ばれる技術が開発され 映像技術や精密機械と合わせ 手術をずっと侵襲性の 低いものにしました さらに最近では 皆さんお聞き及びと思いますが ロボット手術というのがあります ロボット工学が外科にもたらしたのは 現代の自動機械と同様 超精密性で 人間の手を 超える正確さで 微細な手術を 行うことができます でもロボット手術がもたらしたものは 他にもあります 外科医が患者の側にいずにして 治療を行うというアイデアです 外科医が画面を見ながら ロボットに指示を出すのです これは遠隔手術と呼ばれています

これらの解決法を コスト効率が良く スケーラブルなものにし 世界のどこにいる誰であろうと 救えるようにするのは 私たちの責務でしょう

実は 遠隔手術の提供には 何百万ドルもするロボットは 必要ないと言ったら どう思いますか? 必要なのは 携帯かタブレットかパソコンと インターネットと 向こう側にいる 自信を持った協力者 それに魔法の隠し味となる 拡張現実協働支援ソフトウェアです 拡張現実協働支援ソフトウェアを 使うことにより 専門の外科医が どのような医療現場へでも 携帯やタブレットや コンピューターを使って 自身を仮想的に 転送することができ その場にいるかのように 視覚的にやり取りしながら 手術の最初から最後まで 現地の医者を指導し 手術を段階を追って進めることができます

説明はもう十分なので 実際にお見せすることにしましょう これからミネソタ大学の 整形外科医である マーク・トンプキンス先生と 回線を繋ぎます 彼は関節鏡視下手術— 膝の鍵穴手術をしてくれます この患者さんは 手術がストリーミングされることに 同意していることを 申し添えておきます それから時間の都合上 お見せするのは 最初のステップである 患部のマーキングと 解剖学的な目印となる部分の 特定に留めます トンプキンス先生 聞こえますか? (トンプキンス) おはよう ナディーン

(ナディーン) TED会場のみんなが 挨拶しています

(聴衆) ハーイ

(ナディーン) ではトンプキンス先生 始めることにしましょう まず膝蓋腱のどちら側かを 切開しましょう ここと ここを切開したら 膝の中に入れるはずです

(トンプキンス) 了解 中に入ります

(ナディーン) いいですね 関節の中に 入っているところです 半月板を一通り見てみましょうか

(トンプソン) そうですね

(ナディーン) 半月板に 小さな断裂がありますが それ以外は問題ないようです 指さした方に 移動してもらえますか 十字靭帯を ちょっと見てみましょう 前十字靱帯は正常で 問題ありません ここにさっき見た 小さな半月板断裂がありますが 滑液は問題ないようです いいでしょう トンプキンス先生 時間を取っていただき ありがとうございました どうぞ続けてください さようなら

(拍手)

このシンプルな実演で テクノロジーがいかに強力なものになり得るか お伝えできたことを望みます また パソコンとウェブカムだけで 特別なものは何も使っていないことも お分かりいただけたかと思います 私たちはデジタル技術を使い 音声やテキストやビデオで コミュニケーションすることに馴れていますが 拡張現実ではもっと 突っ込んだことが可能になります 人々が直接 会っているかのように 仮想的にやり取り することができます やりたいことを描いたり やって見せたり 身振りを使ったりして 示せるというのは 単に言葉で伝えるよりも はるかに強力なのです そしてこれは優れた 教育の道具にもなります 人は直接の体験によって より良く学べるからです

これによって世界は どう変わるのでしょうか? 私の教育研究病院では これを使って 地方総合病院での 皮膚癌手術や外傷治療の 支援をしています これにより患者は 地元で治療を受けられるようになり 移動時間を減らせ 通院しやすくなり お金の節約にもなります 私たちはこれを 看護師の創傷ケアや 外来患者の診療にも 使い始めました 最近の素晴らしい 事例として 腎臓癌手術の 支援というのがあります 映像で様子を ご覧に入れましょう 少し気持ち悪いかもしれませんが ご容赦ください

(医師1) もう一度示してもらえますか

(医師2) ここのところ これが上の部分 腫瘍の外側になります

(医師1) はい

(医師2) 3センチの深さがあります ここが3センチのはずです

(医師1) はい

(医師2) 余裕をもって 完全に取り除く必要があります

(医師1) お見せしますので どう思うか言ってください

(ナディーン) この技術は世界的な 規模でも使われています 私の心に残る 一番心温まる話は ペルーのリマの北にある トルヒーリョでのことです 健康保険のない 貧しい子供たちの 口唇裂や口蓋裂の手術に この技術が使われました この町の ある病院では 外科医が1人で 必死に治療に当たっていました ソラヤ医師です ソラヤ医師は 診るべき患者の多さや この手術について 訓練を受けたことがないことで 苦労していました 慈善団体の支援により 彼女とカリフォルニアの専門医を繋げ この技術を使って 順を追って手術を案内し トレーニングし 指導してもらうことができました 数ヶ月後には 3割多くの手術を こなせるようになり 合併症も減りました 今ではソラヤ医師のチームは この手術を自信を持って単独で 上手く行えるようになっています ある母親の言った言葉を 良く覚えています 「この技術は娘に 笑顔を与えてくれました」

これこそ この技術の力だと 私は思います 境界を打ち壊せるのが 素晴らしいところです あらゆる技術的困難を超え 人々を繋ぎ合わせ みんなが医療を受けられるようにします Wi-Fiとモバイル技術は 急速に発展しています 手術を提供できる地域を 広げるためにも一役買うべきです これは専門医が赴くには 大きな危険を伴う 紛争地帯でも 使われています 人間の数より 携帯の数が多い 今の時代なら 医療を世界の隅々まで 広げられます もちろん50億の人々に 外科医療を提供できるまでには まだ長い道のりがあり 未だインターネットが 使えない人も 沢山います しかし物事は急速に 正しい方向に進んでいます 変化の可能性がここにあります 私たちのチームは世界で 活動の範囲を広げていて この技術の可能性が 見えてきています

デジタル技術によって みんなが当たり前に思っている 日常的なデバイスによって 未来のデバイスによって 私たちは本当に奇跡を 起こすことができるのです

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

手術を受けるのであれば、どこにいるかにかかわらず、最高の外科チームに当たってほしいと思うでしょう。外科医であり起業家であるナディーン・ハッシャシュ=ハラームは、低コストの拡張現実ツールを使って離れた場所から外科医が手術への協力やトレーニングをできるようにするシステムを開発しています。彼女がニューオーリンズのTEDのステージからノートパソコンを使ってミネソタの外科医が執刀する膝の手術に立ち会うのをご覧ください。「私たちが当たり前に思っている日常的なデバイスによって、私たちは本当に奇跡を起こすことができるのです」と彼女は言います。(講演中に生々しい手術の映像があります)

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