宇宙建築家の冒険(12:44)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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12歳のくらいの時でしたが 宇宙に関する展示会へ 父に連れて行ってもらいました ここからそう遠くない ブリュッセルでのことです 1988年だったと思います 冷戦が終結した頃です アメリカとロシアがしのぎを削っていた時代で その一部が展示会にも垣間見られました NASAはスペースシャトルの 巨大な写真を持込みましたが ロシアはミール宇宙ステーションを 持ってきました 実際には訓練用モジュールでしたが 内部に入ることができ すべて試すことができました それは実物で すべてのボタンがあり すべての配線があり 宇宙飛行士が食事し そして働く場所でした 家に帰ってから 私はすぐ宇宙船を描き始めました でもSFに出てくる宇宙船ではありません 違います 技術設計図でした どの様な構造を構成すべきか 配線をどの様に走らせ ねじをどこに打つかを示した 切取内部図でした
宇宙工学者にはなりませんでしたが 幸い建築家になれました この写真は 私がこの15年間に参加した プロジェクトの一部です プロジェクトはそれぞれ異なっていて まったく違う形状でしたが それは異なる環境に建てられ 異なる制約があったからです 設計が本当に面白くなるのは すごく過酷な制約が あるときだと思います
各プロジェクトは 世界の様々な場所で行われました 数年前 この地図では不十分になりました 小さすぎたのです これを加える必要がありました なぜなら欧州宇宙機構の 月面上のプロジェクトに 関わることになっていたからです 月面上の住居の設計を依頼されました もう1つはNASAの 火星プロジェクトで 火星での居住についての コンペティションでした
建築家として 新しい場所を訪れ 何かを設計する時には まず地元の建築物— 前例を観察します でも月面では このようなものしかないので 当然ながらそれは困難です あるのはアポロ計画の遺産だけです 最後の月面着陸の時 私は生まれてさえいませんでした そして彼らはたった3日しか 過ごさなかったのです これではキャンプに行くようなものですよね とても高額なキャンプですが
他の惑星や月に 何かを建築する際に とても悩むところは どうやって建材を運ぶのかです 第一に 例えば1キログラムの物体を 月の表面に運ぶには 大体20万ドルくらいかかります とても高額です なのでとても軽量にしなくてはいけません 第2に スペースです 運搬スペースは限られています これはアリアン5ロケットです このロケットで使える空間は 直径4.5m 高さ7mと それほど大きくないのです そういうわけで コンパクトであるか コンパクトにできること 軽量であることが 建築システムに求められ その答えの1つが ここにあります とてもコンパクトで とても軽量です 実際に 先ほど膨らませたのがこれです
でもこれには大きな問題があり インフレータブル(空気注入式)のものは 壊れやすいということです 保護が必要です 月のような 非常に過酷な環境で 使うなら 特にそうです 考えてみてください 月面基地の温度差は 200度にもなります 月面基地の片側が摂氏100度の時に 反対側では摂氏マイナス100度になるのです 人間をそれから 守る必要があります
次に 月には磁場がないので 太陽放射や宇宙線などの あらゆる放射線が 月面を直撃します こういったものからも 宇宙飛行士を 守る必要があります そして3つ目 忘れてはいけない重要なことは 月は大気を持っていません やってくる隕石は燃え尽きることなく 月面に衝突します 月の表面がクレーターだらけである原因です 宇宙飛行士を隕石からも 守る必要があります
するとどんな構造物が必要でしょうか 最良の選択は洞窟です 洞窟は大量の物体に囲まれています そんな物体が必要なのです 物体があることによって 温度変化から保護でき 放射線から保護でき 隕石からも保護できます これが私たちの解です 青い部分が見えるでしょうか これが月面基地の 膨らませる部分です 広い居住区や実験スペースが 作れます 円筒が取り付けられていますが それが必要なサポート機能を備え 生命維持装置や エアロックもあります その上にドーム状の構造があり 大量の物体により 内部を保護します ではこれらの材料は どこから持ってくるのか? コンクリートやセメントを 地球から月に運ぶのでしょうか? もちろんそんなことは 重すぎるので出来ません 費用が膨大になります 現地調達するんです
現地の材料を使うのは 地球上でも同じです どこで建設する時も どの国に建設する時も その土地にある材料は何かを調べます 月で問題となるのは 現地の材料は何かということです 実はそんなにたくさんはありません 本当のところ たった1つ 月塵です しゃれた科学名で言うと「レゴリス」 月面表土です 素晴らしいことに それはどこにでもあります 表面を覆っているのです およそ20cmから数mの厚みで どこにでもあります でもその材料で どの様に建設するのでしょう? 私たちは3Dプリンターを使います 3Dプリンターとは どんなものかと尋ねたら 想像するのは こんな抱えられるくらいの大きさで 手のひらサイズのものを 印刷するやつでしょう 月面基地を建築するために 巨大な3Dプリンターを運ぼうとは 思っていません そこの装置ほどのサイズの もっと小型なものを使うつもりです これがその小さな装置 小型ロボットローバーです 小さなシャベルを持ち レゴリスをドームに運搬し レゴリスの薄い層を 積み重ねていきます そしてロボットがそれを 1層1層固めていきます 数カ月かけて基地が完成するまで 作り続けます
3Dプリンターで印刷するのは かなり独特な構造です ここにサンプルを持ってきました 独立気泡構造と呼ぶものです まるで自然物のようです 外殻構造の一部として これを使用する理由は 凝固させる必要があるのは 特定の部分だけだからで 地球から運搬する凝固剤の量を 少なくすることができ 軽量なものができます
ちなみに— 何かを作って その上に保護用ドームを かぶせるアプローチは 火星プロジェクトでも活用しました この画像には3つのドームがあり ドーム構造を製作している プリンターが見えます 火星と月とでは 大きな違いがあることを 説明しましょう この図は 地球と月と その間の40万kmの距離を 同じ縮尺で 描いたものです 火星に行くとなると 距離は遙かに遠くなります この写真は 火星に下り立ったローバー キュリオシティが地球を撮ったものです ここにポツンとあるのが地球です 4億km離れています この距離で問題となるのは 月に比較して1000倍も遠いということで 例えばマーズキュリオシティと 直接無線でやり取りはできません 地球から遠隔操作ができないのです 「ローバー 左に曲がって」 という訳には行きません なぜなら火星に届くだけで 20分もかかるのです ローバーが左に曲がったとして 更に20分経ってようやく 「はい 左に曲がりましたよ」と返事が来ます この距離では ローバーやロボットは 自律的に働くことが不可欠です 最大の課題は 火星ミッションはリスクが高いことです ほんの数週間前に目撃した通りです 火星ミッションの半分が 火星にたどり着けないのだとしたら どうしたら良いのでしょう?
月で行うように1、2台のローバーを 作るのではなく 何百ものローバーを作るのです 皆さんもご存知の シロアリ塚のようなものです シロアリの半分を取り除いたとしても 蟻塚を作ることができます 時間は余分に かかるかもしれませんが それと同じようにやるんです もしローバーやロボットの半分が たどり着かなくとも 時間は余分にかかるにせよ 完成させることはできます ここには3種類の 異なるローバーがあります 遠くに掘削ローバーが見えます レゴリスを掘削するのが得意です そして運搬ローバーがあります レゴリスを建築現場へ運ぶのに 威力を発揮します そして最後にあるのが 小さな脚を持つかわいいやつ そんなに動く必要がありません レゴリスの層の上に行って止まると マイクロ波で焼き固め 層を重ねてドーム構造を作り出します
これは— 実際試したかったので 遠征することにし ロボットの群れを作りました この通りです 10台作りました ちょっとした群れです 6トンもの砂を用意し これらの小さなロボットが 実際にうまく砂を運べるか 試しました この時は地球の砂でしたが そして遠隔操作ではありませんでした 右に行けとか左に行けとか指示はなく 事前に決めた経路もありません 与えたのはタスクだけです 砂をあのエリアから このエリアに運べと そして岩のような障害物に出くわすと ロボットは自分で解決しなければ なりません 別のロボットに出くわしたときも 判断できる事が求められました バッテリーが尽きて半分が脱落したとしても タスクを完遂できなくてはなりません
冗長性が必要です これはロボットだけではなく 住居にも言えることでした 火星ミッションでは 3つのドームにすると決めました 1基が届かなかったとしても 残りの2基で基地を作れます ドームはそれぞれ生命維持装置が 床に埋め込まれているので 単独でも機能するのです
建築家としてなぜ宇宙に携わるのか? こんなことに関わるのはおかしい と思うかもしれません 特殊な技術が必要な領域ですから 本当に困難で とても制約の多い問題も 創造的な視点 デザイン的な視点なら 解決できると 私は確信しています 地球外居住のような プロジェクトには デザインと建築が 本当に必要だと実感しているんです
ありがとうございました
(拍手)
銀河系のほかの場所でどう暮らすのか? 地球上では、建造物を作るための天然資源は豊富ですが、そういった物資を月や火星に送るのは厄介で費用も膨大になります。地球外に家を建てるのに、ロボットと宇宙塵を使って3Dプリントするという先鋭的な計画を持つ建築家、ザビエル・デ・ケステリエに耳を傾けましょう。 そう遠くない(かもしれない)未来を語るこの魅力的なトークで、新分野である宇宙建築について学んで下さい。