社会運動に内向型人間が必要なのはなぜか(13:58)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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数年前 だいたい7年くらい前ですが 気がつくと私はフェスの仮設トイレに 隠れていました 音楽フェス用のトイレです フェスに行ったことがある人なら 想像に難くないと思いますが 3日目にもなると かなりひどい状態です 座れないくらいの惨状だったので 私は立ったままでした トイレットペーパーは切れていて あたりは泥だらけ ひどいニオイでした 私は立ったまま考えていました 「何してるんだろう 私 もよおしてもいないのに」
フェスに行った理由は 当時 気候正義に取り組む大きな慈善団体で ボランティアをしていたからです 7年前は気候変動を信じる人は少なく 世間は社会運動に対し 非常に冷笑的で 私の役目は 仲間たちと一緒に 気候正義を訴える運動に 署名を募ること 問題についての人々の理解を 少しでも深めることでした 私は気候変動と様々な不平等に 深い関心を持っていたので 沢山の人たちに話しかけました どうしても緊張するうえ ひどく消耗する活動でしたが 強い思いがあったので続けました しかし とにかく疲れるので 時々トイレに隠れていました 気候変動に対して半端な気持ちだとか サボっているのだとか 仲間に思われるのは嫌でした シフトの終わりのミーティングで 集めた署名の数を数えるのですが トイレでちょこちょこ 休んでいたにもかかわらず 数では よく一番になっていました
でも いつも他のみんなを とても羨ましく思っていました 署名活動のシフトが終わった時にも シフト始めと同じくらいの 元気が残っている人や それ以上に元気いっぱいな人も多くて 夕方コンサートに行ったり 踊りに行ったりするのを 待ちきれない様子でしたから 私の場合 それが どんなに好きなバンドでも 自分のテントに戻って寝ることしか 考えられませんでした 本当に何の気力も 残っていなかったからです ですからフェス会場で 遊びまくる元気のあるみんなが 羨ましくてたまりませんでした 同時に 内心は 怒りでいっぱいでした 「こんなの不公平だ 私は内向型なのに オフラインでする活動はどれもが 外向型向けなんだもの」 この他にも 抗議デモの行進に 加わっては疲弊していました 大使館や商業施設前での活動に 参加することもありましたが どれも 沢山の人と関わる活動で 非常に騒々しく 常に大勢の人が関わり パフォーマンス性の高いものでした 内向型向けの活動は皆無だったので まず 不公平だという 思いがありました 世の中の人の3分の1から 半分は内向型ですから 内向型の私たちが疲弊したり 社会運動は敷居が高いと 参加を諦めるのは不公平です この世界では誰もが 社会運動に関わるべきですから また そんな状況を 歯がゆく思っていました 外向型の活動でなくても 成功している活動は 沢山あったからです 騒々しいものだけではありません 人々がパフォーマンスするもの だけでもありません 必要な仕事の多くは 裏方のもので 隠れていて目につかないものでした
私は結局 運動家になりました 仕事をするなら それしかなかったからです 大学時代から活動を続け 過去10年間 大きな慈善団体で仕事として 社会運動をしてきて 今は他の仕事の傍ら 様々な団体で クリエイティブ活動の コンサルタントをしています でも 他の形の社会運動も必要だという 確信も持っていました 約7年前 手探りで 私にもできる もっと静かな形の 社会運動に挑戦し始めました 自分が運動で 燃え尽きてしまわないように そして 活動の問題点として 気になっていたことに目を向けるためでした 幸いにも オックスファムなど 大きな団体で働いていた時に 大規模な調査報告書を 沢山 読む機会がありました 政治家や企業や一般市民を 動かすものは何かや 活動の成功例や失敗例などを まとめたものです 私は凝り性なところがあるので そういう資料を全部読んで 自分でも色々試しながら 人々に従来とは違う形で社会変革に 関わってもらえる方法を探ろうと思いました 今よりも美しく 優しく 正しい世界を求めるのならば 社会運動自体も美しく 優しく 正しいものであるべきなのに そうでないことが多いからです 今日は 社会運動には 内向型人間が必要だという理由を 3つ お話します 他にも理由は沢山ありますが 3つに絞って お話します
1つめ 社会運動はしばしば 短時間で起こり 行動中心になりがちですよね 外向型の人が不正義を 目にした時にありがちなのが 「今すぐ何かせねば」 「迅速に対応せねば」という反応です 確かに対応する必要はあるのですが 活動には戦略を立てる必要がありますし 怒りに任せて行動すれば 間違いを犯すことも多いのです 私は針仕事など 手芸という方法をとっています 写真の男性がしていることです 外向型・行動型の人には 腰を据えて活動をする機会を与え 引っ込み思案で物静かな内向型の人には 社会運動を始めてもらう手段となります 手芸のような反復作業は 素早くできることではなく じっくり取り組まないといけません 繰り返し縫う作業は 社会変革における 複雑で もつれた スケールの大きな問題に考えを巡らせ 自分にできることを 探るのにもってこいです 市民として 消費者として 有権者としてなど 様々な立場から考えるわけです ひたすら縫い続けていると 批判的に分析する助けになりますし 自分の動機をしっかり 見つめ直すこともできます
専門スキルもないのに 現地に駆けつけたいだけなのか 大勢の運動に加わることが目的なのか 救い主を気取りたいという やや不純な動機なのか などです それから 針仕事を一緒にすると 外向型も内向型も両向型も 誰もが同じ土俵の中で それぞれ居場所ができ 静かで ゆっくりとした形の 社会運動なので 普段なら 内向型の声が 届きにくいような話題でも 周りに話を 聞いてもらいやすいのです 変な話かもしれませんが 縫い物をしている間は 人と目を合わせる必要がありません 引っ込み思案な 内向型にしてみれば 誰かと または数人で肩を並べて ひたすら縫い物をしつつ 思っていることを 質問できるわけです 普段は 訊く暇がなかったり 目が合うと 訊くのを 躊躇してしまうような質問です
だから物事を抽象的に 深く考える内向型も 発言しやすいわけです 「誰かを非難したり パッと出かけたりする外向型の活動も 確かに面白いとは思うけど 誰に訴えたいの? どうやって実行するの? 本当にそれが最善の方法なの?」 こういった会話を 腰を据えてじっくりできるので 外向型には行動ペースを落として 深く考える良い機会になり 一方 内向型にとっても 意見を聴いてもらえて 変革を目指す運動に 加わっている実感が持てるという 利点があります
私たちの活動の中には 自分たちの社会運動で一貫している 価値観を厚紙に縫うというものもあり 不適切な行動に走ってしまうのを 防ぐ目的があります 一例が 芸術機関との共同企画です ロンドンのV&A美術館に 150人以上が集まり 何時間でも ゆっくり座って 気になる社会問題について メッセージを縫った後 写真のように自分の考えや参加報告を ツイートするというものです
さらに 社会運動には内向型人間が 必要だというのが私の持論です 深く関わる形の社会運動が 得意なタイプだからです じっくり取り組む社会運動や 深く関わる形の社会運動が 向いているのです 今年 私たちが 学んだことがあるとすれば 力を持つ人々に働きかける時 何をすべきかについてです 自分と意見が合わない人に 耳を傾け 壁を作ったり争ったりせずに 橋を築き 攻撃的な敵ではなく 厳しい助言をする友人になるべきです
私が内向型の人々と大勢で 活発に取り組んでいること— それは 権力者に贈るものを作ることです 外で大声をあげて罵るのではなく 例えば メッセージ入りハンカチを 贈ることです 「力を無駄にせず 善いことに使ってください あなたのように力のある立場だと 苦労も多いでしょう どうしたら力になれますか?」 内向型人間に嬉しいのは こういう贈り物を作りながら 手紙を書けることです 例えば マークス&スペンサーを相手に 生活賃金の導入を訴える 活動を計画していた時 同社の取締役員14名に贈る ハンカチを手作りしました 手紙を書いて箱に詰め 年次総会に出向いて 贈り物を手渡しました 深く関わりを持つ形の社会活動として 取締役員たちと対話を行ったのです 最高だったのは 取締役会長に声をかけられた時のことです 私たちの活動を褒めちぎり 心に響いたと言ってくれました
取締役員の マーサ・L・フォックスのように ツイッターに何十万人も フォロワーがいて 業界でも強い影響力を持つ人が 本当に感動したと ツイートしてくれました 10か月も経たないうちに マークス&スペンサーと 何回も会議を行い 「生活賃金を企業が保障するのは なかなか難しいですよね でも もし御社がやれたら 業界全体が注目するはずです それに 御社の優秀な従業員たちが フルタイムで働いていながら 生活費が足りないというのは おかしいでしょう 御社のような素敵な企業には 私たちの理想のロールモデルに なってほしい」と伝えました
これが 深い交流を持つ形の 社会運動です 同社とは 何度も会議を繰り返し クリスマスやバレンタインには こんなカードを贈りました 「ぜひ 生活賃金の導入を 考えていただけませんか」 すると10ヶ月と経たないうちに 公式発表がありました マークス&スペンサーが 生活賃金導入に踏み切ったのです
(拍手)
ありがとうございます
現在は 同社が生活賃金適正導入企業として 認証される手続に協力中です これは非常に大事なことで 去る6月には 再び年次総会に出向き 取締役員たちと一対一でお会いして 実りある会話ができました ハンカチは本当に気に入っているし 私たちの活動に 心を揺さぶられたと言われ そして全員が口を揃えて もしも私たちが外に立って罵声を上げ 乱暴な形の抗議運動をしていたら 聞く耳さえ持たなかったし 対話など実現しなかっただろう と言いました
内向型人間は深く関わりを持つ形の 社会運動にとても向いています 人の話を進んで聴き 一対一での会話を好み 世間話は好まず 話題にするなら スケールが大きくて 取り組み甲斐のある問題を好み 衝突を好まず 何が何でも避けるからです 衝突を避ける性質は 力を持つ人々と関わる際に非常に重要です 毎回ぶつかっていくわけには いかないのですから
社会運動に内向型人間を 招き入れないと もったいないと思う3つ目の理由は さっきも言ったように おそらく 世界人口の半分が内向型人間であり そのうち ほとんどは 内向型だと自称はしないし 何かに気圧されてしまうことを 人に言うことを恥ずかしがります 私の場合 数年前のことですが 母のメールは全部大文字 (大声と同じ)でした 今でこそ 絵文字を使ったりと 改善されましたが 当時は 母のメールを見るなり げんなりしました 「うわっ 全部大文字だ 見たくない」 中身は優しい言葉なので 大文字なのには目をつぶって読みました 大文字だらけだと気圧されてしまうと 人に言うのは少し恥ずかしいんです でも 内向型を遠ざけるのではなく 惹きつけるような 魅力のある社会運動をするには 内向型人間の協力が必要なのです 内向型は 巨大で ど派手なポスターとか 大文字や「!」マークには 興ざめしてしまいます ああしろこうしろと指図したり こちらの注意を惹くのに必死だからです
私が 世界中の参加者と取り組んでいる 活動の一つが インパクトのある 小さなストリートアート作りです 挑発的なメッセージを入れて 歩行者の目線に ちょこんとぶら下げるのです 人に向かって説教や指図するような 内容ではありません 趣旨は 人々に 様々な形での関わりを誘いかけ 自分で考えてもらうこと 内向型は指図を嫌うからです
自分が好きなものを 緑色のハートに書いて袖口につけ 気候変動にどんな悪影響を受けるのか 語るという活動もあります これを身につけて そして もし人に なぜ「チョコレート」と書かれた 緑色のハートをつけているのか 聞かれたら 一対一の深い会話をして 「チョコレートが好きだけど 気候変動に影響されるらしいの 他にも悪影響を受けるものは 沢山あると思うから その原因ではなく改善策の 一環となりたい」と伝えることができます そして 内向型は注目を嫌うので 話題を変えて こんな風に返します 「あなたが好きなものは何? 気候変動にどんな影響を受ける?」
お店で物を「盗む」のではなく 「置いていく」活動もあります その服が出来るまでの背景を 素敵な物語として綴った— 小さな巻物を作るのです 楽しい話でしょうか 目を覆いたくなるような話でしょうか そんな巻物を お店で 小さなポケットに忍ばせます すべて小文字で すべて手書きで キスマークや顔文字を入れて リボンで結んで そうすると 見つけた人は ワクワクするんです 社会的課題に配慮のない店に 置いてきたり 前ポケットに 忍ばせることが多いです これは内向型が消耗せずに関われる― オフラインでの活動方法の一つですが 同時に 他の人々をオンラインでも オフラインでも巻き込む方法でもあります
さてここで2点 提言したいと思います 内向型の人と外向型の人 両方に対してです 両向型の人には どれもが関係あることです 外向型の人は 活動を計画する時 内向型のことも考えてください 私たち内向型が持つスキルは 外向型と同じくらい重要なのです 内向型は じっくりと 物事を深く考えることに長けており 細かい問題点を洗い出すのは 内向型の得意技です 深く関わる形の社会運動が向いているので そういう使い方をしてください 内向型は 会話や思考を創出するような 細々とした 変わった行動をとることで 人の興味を惹くのも得意なのです 次は内向型の人への提言です あなたは 独りが好きで 頭の中の世界に 浸っているのが好き でも 社会運動には あなたが必要だから 時々は自分の殻から 出てきてほしい それは 外向型に転向して 燃え尽きなさいという意味ではない それでは誰のためにもならない そうではなくて 社会運動が必要とする あなたのスキルや特性には 価値があると分かってほしい この会場にいる皆さんは 外向型でも内向型でも 両向型でも 未だかつてないほど 世界に必要とされているのです 関わらないための言い訳は 通用しません
ありがとうございました
(拍手)
内向型の人間にとって、通りを行進したり、抗議デモをしたり、一軒一軒訪ね歩いたり、といった従来の形の社会運動は、ハードルが高くストレスを感じてしまうものだ―自ら内向型を公言する元・プロ運動家のサラ・コーベットは語ります。コーベットが紹介する「クラフティヴィズム(手芸+社会運動)」は、もっとおとなしい形の社会運動です。従来よりも穏やかに社会に働きかけながら、人々に歩みを緩めてもらい、気になっている問題について深く考えてもらう手段として手芸を使うのです。 「刺繍入りのハンカチに世界を変える力はない」と、言い切れますか?