肖像写真で見る、前衛的なアフリカの美(13:23)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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1996年 私は グッゲンハイム美術館の依頼で 『Uses of Evidence』という 大作を完成しました それは立方体で― とても大きな立方体でした 四方の側面にはそれぞれ窓があり 来館者は中を覗き込むことができます 立方体の外側には 西洋のメディアと文学でよく描かれるような アフリカとアフリカ人の写真を コラージュにしました 窓から内側を覗くと全く対照的です 立方体の内側にあるのは アフリカの人々の 穏やかで 文明化された 国内のイメージです 家族や友人達 ナイジェリアの職業人― 作家や詩人 ファッション・デザイナーなど様々です 問題は この作品の外側と内側のイメージは 両方とも真実であるのに 西洋のメディアが捉える アフリカ人像は 要するに 良く言っても原始的で アフリカの野生動物と 判別し難いようなものが 圧倒的に多いということです 残念ながら 私がこの作品を制作した 1996年以来 状況はあまり変わっていません
私は1994年に プロ写真家として活動を始めましたが 写真への情熱や熱意は 子供時代にまで遡ります 私の両親はほぼ毎月 子供達の写真をプロの写真家に 撮ってもらっていました 撮影は 私達兄弟にとって 洋服屋が仕立てた最新の衣装で 着飾る機会にもなりました 後に寄宿学校に行くようになった時 友人達と私はポラロイドカメラを買って その後 私は自画像の実験を始めました 言うなれば 元祖セルフィ―的自撮り写真です
(笑)
『Cover Girl 1994』は 私の最初のメジャーな作品で アメリカとヨーロッパで好評を得て あっという間に 大学で使われる アート作品集に掲載されました 『Cover Girl』シリーズで 私がしたかったのは 全く予想外の でも心から納得できるようなイメージを 雑誌の表紙に再現することでした 『Cover Girl』シリーズは アフリカ人をより複雑に描写する 新たな手法を提示しました
『Cover Girl』同様 『Sartorial Anarchy』シリーズも 自画像から成ります 2010年にスタートした 現在も継続中の作品です 各写真で私は 様々な伝統、国、時代の 全く異質な衣装を組み合わせました 時代や文化をミックスすることで 相容れない異質な衣装に 調和すら生み出すことができました こうした異質性が 見事な芸術的祝福のもととなりました
例えば 『Sartorial Anarchy #4』では イートンやオックスフォードの 伝統的なボートレースに由来する カンカン帽を アフガニスタンの 緑色の伝統的コートと アメリカのボーイスカウトの シャツと組み合わせ― 文化のぶつかり合いを 上手くまとめました 『Sartorial Anarchy #5』では 18世紀イギリスに由来する マカロニ風のカツラを着けました これをイギリスの ノーフォークジャケットと ナイジェリアのヨルバ族の ズボンと合わせ 更にあり得ないことに 手には南アフリカのズールー族の 戦闘用ステッキまで持たせました 身に着けた全てが 調和して共存しています 『Sartorial Anarchy』で 私は写真の構成に より注力するようになりました また 色彩が持つ広大な可能性― 色が持つ感情を喚起する力や 見る人の心理に与える衝撃 その詩的な魅力 意味や論理の領域を超越した 色彩の無限の包容力を探求し始めました
さて次は ノリウッド (ナイジェリア版ハリウッド)です 2014年10月 30有余年ぶりに私は ナイジェリアのラゴスに戻り ナイジェリアの映画業界で活躍する 64人の写真を撮りました 業界を代表する人物 次代を担う新進のスターも撮りました アフリカの映画製作者達が 本当の意味でアフリカの物語を語るのは ノリウッドが最初です 恋愛、ホラー、ギャングから アクションまで— 彼らの様々な映画が描く ナイジェリア人達には 複雑な深みがあります 別名「ナイジャ」とも言われる あらゆるナイジェリア人達の原型— 奇人、目立ちたがり屋、気をひく女 ギャング、金持ち、収賄政治家 売春婦、ポン引き― 誰もが闊歩しています もちろん中には チンピラや 社会的敗者もいますが あらゆる人が活写されます ノリウッドはアフリカを映し出す優れた鏡です
いつものように私は 全ての肖像に指示を出します 被写体の顔の向きから 頭の角度 指の表現 手のしぐさ 眼差し 全体的な物腰や表情に至るまでです 何枚か写真の説明をしましょう
ジェネヴィーヴ・ナジー ノリウッドのトップ女優です この写真で私が取り入れたのは 古代エジプト王朝時代の ナイル川流域文明のアフリカ文化 つまりエジプト、スーダン、エチオピアです 被写体に堂々とした落ち着き 冷ややかさ 優雅さを醸し出しました
タイウォ・アジャイ=ライセットは ノリウッドの大女優です 彼女がそこにいるだけで 衆目が集まります だから背を向けてもらいました 振り返って 威厳のある眼差しを こちらに向けています 私達の承認を求める 必要などない人です 既に誰もが認めていますから
サディク・ダバーです 会った時 黙っていても滲み出る 威風堂々とした雰囲気が 彼にはありました この肖像では ごく普通に座ってもらいましたが 着ている特上のナイジェリア製カフタンから 身分が分かります 大成功した人です
ベリンダ・エファです 彼女の肖像では 色彩表現をとことん追求しました 体の曲線を強調した ぴったりした青のロングドレスを着て 緑のベルベットの長椅子に 座ってもらいました 敢えて多色のカーペットを敷いて 鮮やかな色で ゴシキノジコ鳥の華麗さを喚起させました 画面内の全てが 人物と調和するように計算しました
09:37 モナリサ・チンダは その存在自体が 華美なライフスタイルを 表していると言えるでしょうか 彼女の肖像を見れば 言わずもがなでしょうアレックス・エクボの肖像で強調したのは シンプルな優美さと威厳 そして青と白の二色の ハーモニーです
エインナ・ウィグウェは ノリウッドの人気イケメン俳優です どことなく遊び人風の雰囲気があって それが彼の危険な魅力になっています 肖像の構成や仕上げをしていて そう感じました
ノリウッドは アフリカの新たな展開です それはモダンであると同時に ポストモダン メタモダンでもあり 大胆で セクシーで抜け目なく 注目に値する流行の発信源です プロジェクトのフィナーレとして ノリウッド・スター達を集めて 総勢64人のグループ肖像を 撮りました 題して『The School of Nollywood』 1509年頃制作された ラファエロ作 『School of Athens(アテナイの学堂)』に 触発されました ヴァチカンに飾られています このグループ肖像は ラファエロの『School of Athens』と ちょうど同じサイズで 横が8メートル強 縦が2メートル弱あります
ノリウッドはまた アフリカでは従来見られなかった ある種の現代性を体現しています 考えてみてください アフリカ発のもので ノリウッドのスター達ほど 至るところで 目にすることができるものなんて エジプト、スーダン、エチオピアの ナイル川流域文明以来 ずっとなかったのですから ノリウッド以外では アフリカのイメージは今も 古い『ナショナル・ジオグラフィック』式の サファリ的な観点で 語られています しかし アフリカ人達は歩み続けていますし ノリウッド映画に自分達の 見事に多様な姿が描かれていると 分かっていますから 彼らはやがて 自分達の好ましいイメージを伝え 後世に残そうとするでしょう 西洋ではハリウッドが昔も今も この役目を果たし続けています
こんなこと言ったら 驚くかもしれませんが 現代的な背景の中で アフリカ人を描くのは アート界ではタブーに近いことです― つまり 上品で小奇麗な服を着たり マニキュアやペディキュアをしたり 髪をセットしたりしてはいけないのです
(拍手)
1枚ずつ 肖像写真で 世界に向けてアフリカを美化し続けることも 私の仕事の一環です
ありがとう
(拍手)
その華やかなキャリアと作品群を通じて、イケ・ウデは西洋のメディアに溢れているアフリカ人達のネガティヴなイメージを拒絶する創造的な方法を発見しました。ウデが、これまでの作品を振り返りながら、多くの文化に由来する衣装や小道具、ポーズを一堂に組み合わせ、アフリカの多様で複雑な美しさを表現した肖像写真を紹介します。