大気中から二酸化炭素を取り除くことで気候変動を止められる?(08:57)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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危険な気候変動を防ぐために 二酸化炭素排出量の削減は急務です これには議論の余地が無いでしょう この会場の皆さんには 特にそうですね しかし少々議論の余地があります それだけでは不十分だということです 私たちは気温上昇を 1.5℃以内に抑えるための 炭素予算を ほんの数年で 使い尽くしてしまうでしょう 2℃上昇分の予算でも およそ20年で使い尽くします 私たちは排出量を とても急速に削減するだけでなく 二酸化炭素を 大気中から取り除く必要があります
ありがとう
(笑)
私は提案される様々な技術の実効性を 評価する仕事をしています 植物に二酸化炭素を取り込ませ これが 木の栄養になったり 土壌の地下深く あるいは 海中に運ばれ 貯蔵することもできるでしょう 人工樹木と呼ばれる大きな設備で 大気中から二酸化炭素を 除去することも出来るでしょう こうしたアイデアが実現するためには それらが大規模になっても 安全、経済的で しかも 社会的に受け入れられる方法で 適用できるかどうかを考える必要があります こうしたアイデアには トレードオフがつきものです 完璧なものはありませんが 可能性を秘めているものが多くあります どれも 単独での解決は見込めません 特効薬はありませんが 組み合わせる事でひょっとすると 気候変動を食い止める 効果が得られるかもしれません
私はあるアイデアについて 独立で研究をしています 天然ガスを使って発電するものですが その時に 空気から二酸化炭素を 一緒に取り込みます 一体 どういう仕組みなのかって?
Origen Powerの処理工程では 天然ガスを燃料電池に供給します 化学エネルギーのおよそ半分は 電気に変わり 残りは熱になり これによって石灰石が 石灰と二酸化炭素に分解されます
この辺りで多分私の気が触れていると 思われるでしょうね 二酸化炭素を発生させるなんて しかし重要な点は 燃料電池と石灰窯で発生した 二酸化炭素はどちらも全て純粋であり これは本当に重要なことです なぜなら このような二酸化炭素は 利用したり 低コストで地下深くに貯蔵できることを 意味するからです その過程で生産される石灰は 産業利用できます そしてその過程で 二酸化炭素を大気中から除去します これは全体としては 二酸化炭素を減少させる過程であり 大気中から除去することになります
通常 天然ガスで発電した場合 1キロワット時(kWh)あたり およそ400グラムの二酸化炭素が 大気中へ排出されます この過程によるのならば マイナス600グラムとなります 現状では二酸化炭素排出量の 1/4が発電によるものです 仮に もし全ての発電を この方法に置き換えると 発電からの排出を 全て除去出来るだけでなく 他のセクターからの 排出分も削減できる事になり 全体で二酸化炭素排出量を 60%削減できる可能性があります
石灰を海水に直接加え 大気中の二酸化炭素が引き起こす 問題の1つである 海洋酸性化に対する中和剤として 利用することもできます 実際にこれは費用対効果が高く 石灰を海水に加えると それを工業的に使う時の 2倍もの二酸化炭素を吸収します
しかし ここからがとても複雑です 酸化した海洋の中和は 良い事ではあるのですが 我々は環境への影響を 完全に理解しているわけではないので この処方が実際に 治療しようとしている疾患よりも かえって悪い結果をもたらさないか 評価する必要があります この安全性を評価するための実験には 段階的なガバナンスを 制定する必要があります
そしてその規模ですが 危険な気候変動を避けるために この先数十年で我々は何兆もの — 「兆」ですよ — 大気から何兆トンもの 二酸化炭素を取り除かねばなりません それにはGDPの数%の費用がかかるでしょう 防衛費並みの予算がかかり 多くの産業活動を犠牲にし 有害な副作用を伴うものと 考えてみてください 莫大な規模だと思いますか? だって それは 私たちが 直面する問題の規模が 莫大であるために他なりません それも途方もなく大きいのですから
もはやこれら厄介な問題を 避けることはできません どちらにせよリスクがつきまといます 気候変動により変わってしまった世界 それとも 気候変動が起こり その対策を 試みたことで変わった世界 避けられれば何よりですが でも私たちはもう目を瞑り耳を塞いで のんきにしては いられはしません 自らが成長し 自分たちの行動が もたらす結果に向き合うべきです
(拍手)
気候変動の解決策を話すことが 排出量の削減努力を削いでしまうかって? これは現実的な問題で 排出量の削減こそが最も重要な課題であり 私たちのアイデアに効果があるかは 不確実であることを強調すべきです 検証を行っていますが なおも調べることがあります
我々は気候変動を治せるでしょうか? それは分かりませんが やらずして治ることはありません 私たちには傲慢さの無い野心が必要です 清浄な大気を取り戻し 安定した気候と健康な海洋を 維持できる水準にまで 二酸化炭素量を削減するという 野心が必要です
これは測り知れない事業となります 大聖堂の建立事業に例えると 事業を始めた者たちは 設計図を描き 基礎工事までは 行うかもしれませんが 尖塔をてっぺんまで 建てるには至りません その作業を行う権利は 子孫たちにあります 私たちの中でその日を目にする者はいませんが 未来の世代が完成するという希望を抱いて 我々が始めるべきです
皆さんは世界を変えたいでしょうか? 私はそうは思っていません 私は世界を変えたいのではなく 本来なるべき姿になれば良いと 思っているんです
ありがとうございました
(拍手)
(クリス・アンダーソン)ありがとう いくつか質問をさせてください 石灰を海に投入するという アイデアについて教えてください 一見 とても納得の行きそうな 海洋酸性化への対策ですね より多くの二酸化炭素を 吸収するのですから これには実験が必要だと 説明されましたが 責任のある実験とは どのようなものになるでしょう?
(ティム・クルーガー) 一連の実験が必要でしょう 非常に小さな段階を踏んで 徐々に行わなければなりません 例を挙げれば 新薬の治験では いきなり人を対象にした 治験をやったりはしません 小さな実験から始めるでしょう ですから最初は海中ではなく地上で 隔離した環境に置かれた 特殊な容器の中で実験します そしてそれが安全に行えると確信できれば 次の段階に進むのです そうでなければ進まない 段階的に進めていくのです
(アンダーソン)でも誰が 出資するでしょうか? これは地球全体にそれなりの影響を 及ぼしますからね これがこの事業が 前進していない理由でしょうか?
(クルーガー)小規模な実験なら 領海内で行えるでしょう そして公的機関による 支援が期待できます 最終的に この方法により地球規模で 海洋酸性化に取り組むことになれば いずれの国の領域にも属さない 公海でそれを行い 国際社会で取り組む必要があるでしょう
(アンダーソン)領海も公海も 海は全て繋がっていますから 石灰は流れ出るでしょう 地球上で実験するとの話を耳にしたら 人々は怒り出すことでしょう これにはどう対応しますか?
(クルーガー)とても重要なことに 触れて下さったと思います これが社会的存在意義を 認められるかどうかという問題で この計画は容認されないかも知れませんが 私たちはこの推進を試みる勇気を持ち 何ができるのかを探り オープンな姿勢で取り組むべきです そして透明性をもって 人々を巻き込む必要があります 事前に人々の了解を得ておくことです 了解を得ようとした時に 「いいえ それはやめて欲しい」 という答えが返ってきたとしても それを受け入れるべきです
(アンダーソン)ありがとうございました
(クルーガー) ありがとうございました(拍手)
私たちは気候変動を「治療する」ことができるでしょうか?地球工学研究者ティム・クルーガーは、それをやってみたいと考えています。彼は有望な手法—大気中から二酸化炭素を取り込みつつ、発電に天然ガスを用いる方法を紹介します。地球温暖化によって引き起こされる、既に壊滅的とも言われている結末を迎えることを阻止するために、創造的で慎重さを要し、かつ自然への大規模な介入が求められる、この議論を呼ぶ科学的な試みについて、可能性とリスクの両方をさらに学んでみましょう。