印刷できる柔軟な有機太陽電池(10:16)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私が左右で違う靴を履いているのに 気付かれたかもしれません 見た目がおかしいし 履き心地が すごく変ですが これで示したいことが あったんです 左の靴は 持続可能な フットプリントを示していて 天然資源を 地球が再生できる 範囲内で利用し 二酸化炭素を 森や海が吸収できる 範囲内で排出します 安定した健全な状態です 今日の状況は むしろもう一方の靴のようです 大きすぎます 2017年には 地球が再生できる1年分の資源を 8月2日の時点で すでに使い切っていました これはいわば ひと月分のお金を 18日までに使い切ってしまい その月の残りは 借金で暮らすようなものです そのようにして何ヶ月か 過ごすことはできるでしょうが 暮らし向きを改めなければ そのうち大きな問題を 抱えることになります
この過剰利用の破壊的影響については みんな知っての通りです 地球温暖化 海面の上昇 氷河や極地の氷の融解 ますます極端になっていく気候 この問題の大きさには 苛立ちを禁じ得ません これが余計に苛立たしいのは 解決法があるというのに みんなやり方を変えようとしないことです 今日は 新しいソーラー技術が 持続可能な建物の未来に いかに貢献できるかという話をします
エネルギー需要の4割は 建物で消費されているため この消費に取り組むことで 地球温暖化ガス排出を 大幅に減らせます 持続可能性の原則に沿って 設計された建物は 必要な電力を 自分で作り出します これを実現するには たとえば断熱性の高い 壁や窓を使うなどして まずエネルギー消費を 極力抑える必要があります そのような技術は 既に商品化されています それから温水や暖房のための エネルギーが必要です これは太陽熱利用システムや ヒートポンプで 地面や大気から 再生可能な形で 得ることができます この技術も既に 利用可能になっています
あと必要なのは電気です 再生可能な発電方法は 原理的にいくつかありますが 屋根に風車のある建物や 水力発電設備のある庭というのを どれほどご存じでしょうか たぶんあまりないでしょう 理に適わないからです でも太陽は 屋根や壁面に 豊富なエネルギーを送ってくれています このエネルギーを建物の表面で集めることの 可能性は とても大きなものです ヨーロッパを例に見てみましょう 太陽に対して 適切な向きで あまり陰にならない面を すべて使うなら 太陽電池から得られる電力で 総エネルギー需要の 3割を賄えます
02:52 でも 現在の太陽電池には 問題があります 費用効率は良いのですが デザイン的には あまり柔軟性がなく 美観という点で 問題になります 太陽電池のある建物というと このようなものを イメージするでしょう 太陽光発電所には 良いでしょうが 建物や通りや 建築物となると 美観が問題になります 太陽電池のある建物を あまり目にしない理由が ここにあります 単にそぐわないのです私たちのチームでは まったく異なる 太陽電池技術に取り組んでいます 有機太陽電池です 「有機」というのは 光の吸収や電荷輸送に 金属ではなく 炭素を主体とした素材を 使っているということです 私たちが使うのは 真珠の首飾りみたいに 異なる繰り返し単位が連なった 高分子化合物と フラーレンという サッカーボールみたいな形の 小さな分子の 混合物です この2つを混ぜて溶かし インク状にします すると 柔軟な素材のロールに 連続的に塗装する スロットダイのような 印刷技術を使って 印刷できるようになります 印刷された薄い層は 太陽エネルギーを吸収する 活性層になります この活性層は とても効率的です ほんの 0.2μm の薄さで 太陽エネルギーを 吸収できます 髪の毛の太さの 100分の1という薄さです 別のたとえをするなら この高分子1キロで インクを作ったなら その量で サッカー場の広さの 太陽電池を 印刷できます 有機太陽電池は 極めて少ない原料で製造でき これは持続可能性という点で 重要なことだと思います
印刷すると このような 太陽電池モジュールができます これはプラスチックフィルムのように見え 性質も似ています 軽量で 曲げることができ 半透明です それでも 屋外の太陽光や 室内の光を集めることができ ご覧のとおり 小さなLEDを灯せます これはプラスチックの形で使え 軽量で 曲げられる点を 生かせます 軽量という点は 暖かい地域の建物では重要です 屋根が重い物を余分に載せられるようには デザインされていないからです たとえば 冬期の積雪は 想定していません 重いシリコン製の 太陽電池は使えませんが この軽量なソーラーフィルムなら ぴったりです 曲げられるという点は 膜状の建築構造と太陽電池を 組み合わせる場合に 重要になります シドニーのオペラハウスの「帆」が 発電所になるところを想像してみてください この太陽電池フィルムはまた ガラスのような通常の建築資材と 組み合わせることもできます どのみち外壁のガラスは 多くの場合 安全合わせガラスとして 膜を挟んだ構造になっているので 製造プロセスでもう一層 膜を追加するのは大変ではなく それによって 太陽電池を含んでいて 発電のできる 建築材料ができます
見た目が良いという以外にも この統合型の太陽電池には 大きな利点が2つあります はじめにお見せした 屋根の上の 太陽電池を覚えていますか? この場合 最初に屋根を葺き それから2番目の層として 太陽電池を設置します これは設置のコストを 高くすることになります 統合された太陽電池の場合 建築現場で設置する物は 1つで済みます 建物の外側と太陽電池を 同時に取り付けられるのです 設置コストを 節約できるだけでなく 資源の節約にもなります 2つの機能が1つの要素に 統合されているからです
前に光利用の話をしました 私はこの太陽電池パネルが 気に入っていますが 皆さんの好みや デザイン上の必要は 違っているかもしれません でも大丈夫 この太陽電池は 印刷過程で形やデザインを 容易に変えることができます これは建築家や 建物の所有者に 柔軟に対応でき 好きな形で この発電技術を 取り入れてもらえます
これが研究所の中だけのものでないことを 強調しておきたいと思います 広く普及するまでには まだ何年か かかるでしょうが もう商品化の 間際に来ており すでに製造ラインを持つ 企業が何社かあります 企業では製造能力を 拡大しており 私たちもインクを 量産できるようにしています
(靴を履き替える)
フットプリントは 小さい方が快適です
(笑)
適切な大きさ 適切な規模です 私たちはエネルギー消費を 適切な規模に戻す必要があります 建物をカーボン・ニュートラルにする というのも重要です ヨーロッパでは 2050年までに 既存の建築の脱炭素化をする という目標を掲げています そのために有機太陽電池が 大きな役割を果たすと期待しています
実例をいくつか ご覧にいれましょう 有機太陽電池を大々的に印刷した 初の商用事例です 「商用」と言ったのは 太陽電池が 産業設備に印刷されたということです これは「ソーラーツリー」という名で 2015年ミラノ万博の ドイツ館です 日中には日よけとなり また夜の照明のための 電気を作っています 太陽電池の形に 六角形が選ばれた理由が分かりますか? 簡単です 建築家は 床に影で 模様を作りたいと思い そう依頼し その通りに 印刷されたのです 実際の製品とはだいぶ違いますが この自由な形の作例は 私たちの予想以上に 訪れた建築家達の想像力を 刺激したようです
こちらの事例は 私たちがターゲットとしているものに より近い形のものです ブラジルのサンパウロにある オフィスビルで 半透明な有機太陽電池パネルが ガラス外壁に統合されていて いくつもの役割を果たしています 1つには 中の会議室に 日陰を提供すること もう1つは 革新的な方法で 会社のロゴを表示することです そしてもちろん 発電によって 建物のエネルギー消費を 抑えています
これは建物が エネルギーの消費者でなく 生産者になる 未来を指し示しています 太陽電池が建物の外面に 調和して取り込まれて 資源効率と見た目の良さを 両立している様を 見たいと思います 屋根用にはシリコン製の太陽電池が 適する場合もあるでしょう でも すべての外壁や その他の部分も生かそうと思うなら— 半透明な部分や 曲面や 日よけなどには 建築家が望む どのような形にもできる 有機太陽電池が 大いに役に立つことでしょう
ありがとうございました
(拍手)
見慣れた太陽電池とは違い、有機太陽電池はインクに溶かせる化合物でできていて、単純な手法で好きな形に印刷できます。それによって得られるのは、軽量で柔軟で半透明な、太陽エネルギーを電気に変えるフィルムです。それがどうやって作られ、世界の電力事情をどう変え得るかを、ハナ・ブルクシュトゥマが解説します。