科学者は学び、発言し、挑戦する自由を持つべきである(13:56)

カースティ・ダンカン(Kirsty Duncan)
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対訳テキスト
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「石鼻汁(いしはなじる)」について お話ししましょう カナダ政府機関の科学者 マックス・ボスウェル博士は 石に生える ある種の藻類を 1992年から研究しています この藻類の非科学的な名称が 「石鼻汁」です 何故かと言うと— 想像できるかと思いますが 鼻水にとても似ているからです 科学者の間では Didymosphenia geminataとも呼ばれ この藻は何十年にも渡り 世界中の川底を覆い尽くしています この藻の問題なのは サケやマスの生存や 繁殖した川のエコシステムを 脅やかすからです

実は カナダのボスウェル博士は この分野の世界的権威であり 2014年にある記者が この藻類についての記事を書くにあたって 取材を依頼したのは当然のことでした 問題は ボスウェル博士は 取材に応じることを許されなかったことです 当時の政府が 博士が記者と話すことを 禁じていたからです 110ページに及ぶメールのやり取りと 16人の政府広報機関の専門家が ボスウェル博士の前に 立ちはだかっていました ボスウェル博士が話すのは 何故 許されなかったのか? その理由が明らかになることは ないでしょう ただ ボスウェル博士の研究は 気候変動が原因で 藻が急激に繁殖した可能性を 示唆していました

一体どこの誰が 気候変動に関した情報をもみ消しますか? そう 笑ってもいいです これは実際に笑いごとのような話で 呆れるほどおかしいことだからです

気候変動の事実は 様々な理由で抑圧されます 私も大学教授だった頃 目の当たりにしました 事実の抑圧は 気候変動に関する多国間合意である— 京都議定書やパリ協定から 国が脱退する時や 産業界が排出削減基準の目標を 達成できない時にも 生じます

ところが気候変動の情報だけが 阻害されているわけではありません 他にもたくさんの科学的な問題が 「もう一つの事実」や フェイクニュースや その他の抑圧手段で覆い隠されています その実例は英国 ロシアや アメリカ合衆国でも見られ 2015年までは ここカナダでもありました テクノロジーの時代である現代 私達人類の生存が新たな発見や イノベーションと科学の発展に かかっている今 極めて重要なのは 科学者らが束縛を受けずに研究をし 他の科学者と共同研究ができて メディアにも 一般市民にも自由に発言できることです その理由は 科学は われわれの世界について そして 人間存在そのものについて 真実を発見するための 人類にとって最良の営為だからです 新しい事実が発見される度に 人類の集合的知識に付加されます 科学者には研究を追求する自由が必要です たとえそれが型破りで 論議を呼ぶようなテーマであっても 科学者には 既存の見解に挑戦する自由が必要で 気まずく不都合な事実でも 公表できる自由がなくてはなりません そうすることで科学者は 限界を押し広げます それが科学の本来の務めだからです

さらにもう一点 科学者には失敗する自由も 必要です 失敗に終わった仮説からも 学べることがあるからです その例を一番良く表している 私自身の冒険について話します その前に ちょっと昔にさかのぼります

1900年代初頭 クレアとヴェラは オンタリオ州南部に住むルームメート同士でした スペイン風邪が大流行した さなかのある夜 二人はある講義を聴きに出かけました 講義が終わると 二人は帰宅し 床に就きました 翌朝 クレアはヴェラに呼びかけ 朝食を食べに出ると伝えます 少し経って戻ると ヴェラはまだ起きていません クレアはベッドの布団をめくると 陰惨な光景を目にします ヴェラが死んでいたのです スペイン風邪のことに関して このような話はよく聴くものです 稲妻の速さで突然訪れる死

私が大学教授だった20代半ばの頃 このショッキングな事実を初めて聞き 私の科学者としての部分が その理由と原因を知りたがりました 私の好奇心が 氷で覆われた土地へと私を導き 1918年のスペイン風邪の 原因を解明する 遠征調査が始まりました 既存の医薬品を 歴史上最も致命的な病気に試そうと思いました 私の狙いは このウイルスと その変異型ウイルスに効果のある インフルエンザワクチンを開発し この病気の再来に備えることでした そこで私はあるチーム — カナダ、ノルウェー、英国 アメリカ合衆国からの 17人の男性メンバーからなる 研究グループを率い 北極海のスヴァールバル諸島へと 遠征しました スヴァールバル諸島は ノルウェーと北極の間にあります スペイン風邪で死んだ後 永久凍土に埋められた 6体の遺体を掘りだしました 凍土が死体とウイルスを 保全していることを期待しました

ここで皆さんが期待しているのは 科学的な大成果だと思います 残念ながら 私の科学に関する物語には 映画のような結末はありませんでした 大部分の科学の物語はそうです 実際 ウイルスは見つかりませんでした その代わりに ウイルスに感染した可能性のある死体を 安全に掘り起こす 新しい技術を開発しました ウイルスが含まれている可能性のある組織を 安全に取り除く 技術も開発しました 研究員や近隣のコミュニティを守る 新しい安全手順も開発できました 当初想定していた科学的発見には 結びつきませんでしたが 違う意味での科学への 重要な貢献はできました 科学の世界では 試みが失敗し 決定的な結論に至らない 場合もあり 理論が当てはまらないこともあります 科学の世界で 研究は 他人の研究や知識の上に展開し あるいはそこから更に 先を展望することです 「巨人の肩(先人の業績)の上に立つこと」 ニュートンの言葉を借りると そう言うことです 重要なのは 科学者は自由に 探求しようと思うものを選択できること 情熱を傾けるものを選べること その結果を自由に発表できることです

先程私は カナダでは2015年から 科学を尊重する態度に 改善が見られるようになったと言いました どうやってそこに到達したのでしょう? 私たちの教訓から共有すべきことは 何でしょう? それは私が教授だった時代に戻ります 私は世界中の研究機関 政府や産業界が 気候変動に関する情報を 隠蔽する様子を目の当たりにしました 私は激怒しました 夜も眠れませんでした 何故 政治家は政党に利するため 科学的事実を歪曲するのか? そこで私は 政治に嫌悪感を覚えた人なら 誰でもとる選択をしました 公職に立候補し 当選したのです

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私はこの新しい立場を使い 科学の重要性を伝えようと思いました その任務はアッと言う間に 科学の自由のための戦いとなりました 元来 私は科学者で 攻撃の標的である分野の出で 個人的に激しい怒りを感じていました 私が 沈黙させられている人達の 声になれると思いました ところがすぐに 科学者が皆 神経質になっていると分かりました 私に話をすることさえも 警戒していました

私の友人で ある政府機関の科学者は —マクファーソン氏とでも呼びましょう 政策が彼の研究に与えている影響と カナダにおける科学の状況悪化を 懸念していました その心配があまりにも深刻になり 自分の妻のメールアカウントを使い 私にメールしてきました 電話だと探し出されるかもしれないと 恐れていました 彼の妻の電話に連絡して欲しい 自分の電話が探知されないように とのことでした これが冗談であればと真剣に思います この出来事からカナダで起きていることが 一気に鮮明になりました 20年来の友人が これほど私に話すことを 恐れるのは何故なのか? そこで私は その時点でできる 処置をとりました 彼の話を聞き その内容から得た事実を 国会の議員仲間で 環境 科学 テクノロジー イノベーションの分野のことならば 全てのことに興味を示す友人に 共有しました それから2015年の選挙が訪れ 私たちの政党が勝利しました 新政府が発足しました その議員だった友人は 現在カナダの首相を務める ジャスティン・トルドーです

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彼が私を科学大臣に任命しました それから一緒に その他の政府機関と協力し 科学を正当な場所に 再度位置付ける努力をしています 私は2015年12月のあの日を 一生忘れません 私が国会で立ち こう宣言したこと— 「科学を脅かす戦いは 終りました」

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その宣言を 行動で裏付けるよう 精力を尽くしました 多くの成功を収めてきました まだまだやることも多く残っています 私たちは 文化の革新を 進めているからです 私たちが望むのは 政府機関の科学者が メディアや公衆と対話することです 時間はかかりますが そうなることを約束します なんと言っても カナダは国際社会から 科学の導き手と見られています 私達はメッセージを発信したいと思います— 科学のように 人類にとって 根源的かつ貴重なものに みだりに介入してはいけません

ですからボスウェル博士や クレアやヴェラや マクファーソンやその他多数の声の為に 科学が外部から干渉を受け 抑圧され 攻撃されるのを見た時には 声をあげてください 科学者が沈黙させられているのを見たら 声をあげてください 私たちは指導者の責任を問うべきです それは投票する権利を行使したり 新聞の意見欄に投稿したり ソーシャルメディアを通して対話を 始めることでできることです 私たちの団結した声があってこそ 科学の自由が確保できます 何といっても 科学は全ての人間の為にあり 人類によりよく 明るい より勇気ある未来をもたらすからです

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

「科学のように人類にとって極めて根源的かつ貴重なものをもてあそぶべきではありません」そう話すのは、カナダでは初めての科学大臣を務めるカースティ・ダンカン。科学の任務は限界を押し広げることだと、心から訴える感動的なトークで、研究者は都合の悪い事実であっても公表し、既存の見解に挑戦する自由を持つべきだと主張します。そして私たち全ての使命として、科学が外部からの干渉を受け、抑圧される様子を目撃したら、声を上げるべきだと言います。

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