美しい義肢をデザインする(11:04)

スコット・サミット(Scott Summit)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は工業デザイナーなので 周りにあるアイデアや オタクな人たちが 考えだすアイデアを元に 様々なかっこいい物を 生み出しています 生物学、化学、工学に関しては 全くの門外漢なのですが 今日は生体工学の話を させてください

(笑)

どうぞそのまま 聴いてくださいね

工業デザインでは 全く同じ物を多く生み出します そのマイナス面は 同一のデザインには 個性が感じられないことです 1人の人の 1つの問題のために 1つの製品を作ることは できないのです ある一定の層に訴求するモデルや 市場要求仕様に沿うような製品を 目指しているからです こうしたプロセスに 失望した私は デザインそのものを考え直し デザインし直すことにしました そこで ずっと昔に得た インスピレーションに立ち戻って 8歳の頃を思い出すと この人物に至りました MIT出身の人がいれば 知っているでしょうし タトゥーかポスターを お持ちかもしれません

(笑)

そうでない皆さんに ヒントを 彼はエンジニアのエンジニア またはデザイナーのデザイナーです 彼こそが 「バイオニクス」 という言葉を世に広め 私が幼い頃に慣れ親しんだ ポリエステル衣装の『600万ドルの男』の 生みの親です

このポップカルチャーの番組から 2つの事柄を学ぶことができます 生きている人間のために デザインをするならば 最低限の仕様で 満足するなということです それ以上にできることは たくさんあります 要求仕様をどこまでも 超えたところにこそ 大きな意味が見いだせます そして それを実現できれば それ以降の誰かの生活の質を 日々 改善することができるのです 私は この考えを デザイン哲学に落とし込み 今 運営しているスタジオとして 実現しました この考えを 広めよう としているところです 深い哲学でないにせよ 私たちには有用な哲学です

私たちは義肢を デザインしています 義肢について まず言えるのは 工学の粋を集めたものだ ということです 素晴らしい機能があり 人の生活に 実に様々な機能や動きを 取り戻します しかし 工学デザイナーの視点からは まだまだです 彫刻的な美しさや ひとつひとつの個性や 独自性や優美さに欠けています 義肢は素晴らしい 機械的かつ実用的な装置です それはそれでいいのですが 多くの人にとってはうまく働きません 人々は うちのスタジオに 緩衝材やガムテープを持ってきて 元の体の形を再現しようとします 靴下に靴下を詰め込んで かつての足の形を 再現しようとするのです それでは上出来とは言えません

私たちにとって 身体は 機械ではありませんし 機械的なだけの解決法では 代替できません 身体は個性的な彫刻であり 動く彫刻なのです キャンバスでもあります 私たちの身体性を表すだけでなく 人となりをも表しています 人間の身体のために デザインするならば 大量生産のためのデザインではなく 身体を考慮したデザインが必要です 堅固な立体ではなく曲線を 同一であることよりも 個性的であることを考えるべきです 問題は 大量生産に 縛られていることです たくさんの同一の物を 生み出せても この世でひとつの 個性的な物は作れません そこで新しいデザインのプロセスでは 大量生産をやめ 人を起点にすることにしました

これは 3Dスキャナーです 身体をスキャンすると こうなります 3Dデータが コンピュータに送られます 機能している もう一方の脚を反転させると それ以降は すべてにおいて 左右対称を再現できます 個人によって様々で 再現が難しい― 身体の対称性を実現できます 出来上がる製品は 何であれ 指紋と同じくらいに 唯一無二のものになります 実際に このプロセスでは 同じ物は2つと作れません 3D CADという コンピュータモデリングを行います この時に 個々人の好みや個性など 多くの情報をできる限り 反映させて その結果を 3D印刷します できた部品を 「フェアリング」と呼びます これはバイクを 機械から彫刻へと 整形してくれる パネルの名称に由来しています

このプロセスを チャドと試しました チャドは優れたサッカー選手で 8年前にがんで 片脚を失いました 脚の代わりに チタンでできたパイプで サッカーをするのが難しいのは 想像に難くありません 彼のための部品は 脚の形を模したもので 意図的にスポーツ用品のような 見た目に仕上げました スポーツバッグから 取り出したように見えるようにし その点では実用的でもあります 2つのことが起きました 1つ目は想定内で 彼の身体の感覚が戻りました 急に ボールをコントロールし 感じることができたのです なぜなら 8年前までの様子を 身体が記憶していたからです もう1つは チームの他のメンバーたちが 彼のことを 義肢の選手だと 思わなくなったことです もちろん 皆 知ってはいましたが そこに注目しなくなりました この価値は 声高に主張こそしないものの

大切にしたいと考えています ジェイムズはバイク事故で 片脚を失いました バイクは今でもジェイムズの 人となりや生き方の中心です 腕のタトゥーを見てください 彼のふくらはぎに当たる箇所に 3D印刷で再現しました タトゥーを再現し 形状を再現し バイクの素材を用いました その成果は 興味深いもので ひと目見ただけでは どこまでが身体で どこからがバイクか分かりません 義肢は身体とバイクの ハイブリッドで

ジェイムズは気に入ってくれました

(笑) 私たちは 人間らしく見えるものを 作ろうとはしていません 私たちが目指すのは 大胆なまでに人工的なものです すでにそこに存在している 形状を用いて 非常にかっこよくて 美しいもの― 姿を変えてくれることを 世界に見せたくなるようなものを 作ることです 彼を見て「片脚を失って 義肢をつけた人だ」とは思いません

「なんだか かっこいい」 と思うことでしょう デボラは脚の曲線を 再現するとともに すごくセクシーなものがいいと 希望しました この要望には嬉しくなりました 私たちは このレース模様を 3D印刷しました これはおそらく世界初でしょう 脚の形をレースがなぞるのではなく レースが脚の輪郭を描く義肢です 主従を転換させたのです この写真では日の光が レースに透けているのがいいでしょう 何も隠そうとはしていません 重みを支えるカーボンの部品が 露わになっています 元の彼女の脚が持っていたような 形状と輪郭を 部品に与えるだけのことです デボラにはバッグに合う 義肢も作りました

できるのをお見せしたかったからです

(笑)

(拍手) 革にレーザーでタトゥーを 施したものも作りました タトゥーを次々に 変えることができたら かっこいいと思いませんか? 気に入ってます

その人の個性を なるべく捉えるようにしています これはジョージの脚です 来週には仕上がる予定です これは私たちが使っている コンピュータの生データです 彼は古風で時代を超えるような 人となりをしているので

つやを出したニッケルに ヘリンボーン・ツイードの柄にしました

(笑) ウヴェはタトゥーが自慢なので 革にレーザーで タトゥーを入れることにしました 確かに 何ができるかを 見せつけたいというのもありますが 身体の一部となるものに 愛着を持てるようにするためもあります これは 非常に価値あることだと 考えています タトゥーには 特にわくわくさせられます どうでしょう ある人の好みとチョイスに その人の形状が 組み合わさったタトゥーから 例えば その人自体を 取り除いたら? その人の身体を表現する タトゥーだけが浮かび上がるのです 私たちの仕事は ある人にとって大事なものを 再現し 表現するということです これから身体の一部となるもの として表現します それはスピードであったり 態度であったり 装飾であったり

その人を捉えて 表現するものを できる限りの方法で表します 3D印刷と制作過程に 話を戻すと 一人一人に合ったものを作るのに 適したプロセスを採用しています 個人に合わせることができ 複雑なものを作るのにぴったりです では 脚全体を印刷したら どうなるか? それこそが 今の取り組みに先だって 考えたコンセプトでした これは3D印刷された脚で もう一方の脚と対称です アメリカで生産され そのカーボンフットプリントは極小で 資源ゴミとして再生でき 制作費用は4千ドルほど

食洗機で洗っても壊れません

(笑) これも重要なんです あまり考えないかもしれませんが 食洗機で洗っても問題ありません この元となったアイデアは 世界のどこにでも カメラとノートパソコンを持って 出かけていけば カメラを3Dスキャナにして ほんの数時間で 誰かのために 低予算で高品質の 3D印刷した義肢を作れるというものです コンセプトは実証できたので やがては実現できるはずです いい素材を使って ジョンにはこんな義肢を作りました ジョンの義肢にまつわる余談ですが 彼の婚約者がこれを見た時に

冗談で「そっちの脚より こっちの脚の方が好き」と言ったそうです

(笑) もちろん 冗談ですし 彼女は彼の苦労も知っています でも これには非常に重要なことが 含まれています 彼は「初めてだ」と言いました そんなことを言われたことがないと

彼にとっては大きな感動だったのです このプロセスは 新しいデザイン方法です 従来のプロセスを ひっくり返して デザイナーと エンドユーザーの間に対話を持ち デザイナーが主導権を一部手放して― デザイナーは嫌がりますが― むしろキュレーターとなるのです エンドユーザーは自分の身体と 好みをプロセスに譲り渡します このことはデザインの世界で 起こっている大きな変化に 通じるものがあります ここでは 個人の必要性に どこまで応えられるかによって 製品が評価されるのです 個人が最終的な製品の DNAの一部なのです 一定の層だけではなく 唯一無二の個人に

合っているかで 製品を評価するのです このことは 初期に作った義肢で 実感しました チャドが義肢をつけた時 彼は手を伸ばして 義肢に触れ 少し考えこみ 私たちに こう言ったのです 「この形に触れたのは 8年ぶりだよ」と 考えさせられました あらゆる技術を投入して 夜通し働き 全身全霊で取り組んだのは

このひと言のためだったのだと

ありがとうございました (拍手)

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このプレゼンテーションについて

義肢によって、失われた手足の見た目や感触を再現することができなくても、それを使う人の人となりを表現することはできます。デザイナーのスコット・サミットが、その人に合わせてデザインされた3D印刷の義肢を紹介します。人工的であることを大胆なまでに主張するとともに、マッチョなものからおしゃれなものまで、どの義肢も個性を体現するものばかりです。

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