ジェントリフィケーション(地域の高級化)が、住民の追い出しではなく癒しであったら?(15:02)

リズ・オグブ(Liz Ogbu)
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対訳テキスト
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私は 社会科学の専門家ばかりの家族で 育ちました ところが 私だけが 絵を描くような変わった子でした

(笑)

母のシアーズデパートのカタログに写っている モデルのスケッチをしたり— 私が作った工作を ぎっしり詰め込むベッドルームは 私専用の画廊のようでした 創作に生きていました 私が建築家になったことには 誰も驚きませんでした でも 本音を言うと 現在ある私の 建築家としての真の基盤は ベッドルームの画廊で 始まったのではなく 家族と夕食時にテーブルを囲みながら 交わした会話にあります 人々がどのように生活し 人間関係を築いたかといった話題で 都会への人口移動が ザンビアの村にもたらした影響の話から サンフランシスコの街中にいる ホームレスに必要な 複雑な医療にまで及びました

あなたが隣の席の人と顔を見合わせて 「これ 建築とどう関係するの?」と 不思議がるのも当然ですが 実は どの話題も 「空間」に関することや その空間が私たちを 受け入れたかどうかに関わっていました 実際のところ 私たちは物理的な空間で 人間同士の一番深いつながりを共有しています 私たちの生活体験は 携帯メールやツイートだらけの この狂った時代でも 物理的な空間で展開されます 残念なことに 建築は 私たちの物語を全て 平等に伝えてきませんでした Gherkin (ガーキン)として知られる 記念碑的なビルや トランプタワーのようなビルさえ—

(笑)

いつでも 「持たざる者」ではなく 「持つ者」の物語を語っています 私はキャリアを通して 特定の人物の物語に合わせて 建築設計をすることに もっぱら抵抗してきました こういう人は ほとんどの場合 白人 男性 金持ちで 低所得層のコミュニティーに住む 大抵が有色人種の人たち等の 他の人の物語を ブルドーザーで一掃してしまう人たちです 私は いつも沈黙させられる人々の物語を 高めることに立脚した 活動を創造しようとしました その仕事とは— 「空間の公正さ」を使命としました

(拍手)

「空間の公正さ」とは 公正さを実現するには 空間が必要であり 資産やサービスとその利用の平等な配分は 基本的な人権であると 理解することを意味します では「空間の公正さ」とは 具体的には? 例をひとつあげましょう

私は何年にも渡り サンフランシスコにある ベイビュー・ハンターズ・ポイントという 歴史的にアフリカ系アメリカ人の住む地域で 昔は発電所があった土地の 再開発にあたりました 90年代に 発電所を見下ろす丘の 公営住宅に住む母親達が率いる コミュニティーグループが 発電所の閉鎖を求め戦いました グループは勝利しました 電力会社が発電所をやっと解体し 土地を除染し きれいな土壌がちらばらないよう 敷地のほとんどに アスファルトを敷きました

いかにも成功例のように聞こえますよね? ところが待ってください 土地の権利や賃貸契約等の いくつかの問題で 実際にはこの土地は 最低5から10年間 再開発不可能となりました これにより 何十年も発電所のそばで 暮らしてきた住民たちの裏庭に 今度は12万平方メートルの アスファルトの更地が出来たということです 解りやすく説明すると 12万平方メートルとは フットボールの競技場30個分の面積です 電力会社としては ここで悪者にはなりたくありませんでした 住民に借りがあることを認識し この敷地の一時使用を目的とした デザイン案を募り そうすることでこの敷地を 荒廃した土地ではなく 恩恵となることを期待しました

私はその募集に応じた 多種多様なデザインチームの一人として この4年間 発起人となった母親達や 他の住民達 地元の団体や電力会社と 協力してきました 私たちは様々なイベントを開催することで 模索しながら 「空間の公正さ」の問題に取り組むことを 試みてきました 職業訓練のワークショップや 毎年恒例のサーカス 海岸線に沿った美しい歩道まで作りました 私たちの活動した4年の間に 1万2千人以上が ここでのイベントに参加しました これがきっかけになり 人々と この土地の関係が変わったと願っています ところが最近になり 単にイベントだけでは 十分ではないことに気づきました

数ヶ月前

この地域のコミュニティーミーティングが 開催されました 電力会社は やっと長期にわたる再開発案を 具体的に協議する準備ができました ミーティングは最悪でした 多くの怒号と憤怒が交わされました 人々はこんな質問をしました 「土地を開発会社に売ったら 他の場所と同じに 高級コンドミニアムが 建つだけでは?」 「街の行政は何をやっていたんだ?」 「この地域に 何故もっと多くの職や 財源が作れないのか?」

私たちのイベントが 喜びを もたらすのに失敗したわけではありません 喜びにもかかわらず 痛みが残っていました 不公平な環境整備の歴史が もたらした痛みが この地域に工業化の跡を残し 住民は 有害廃棄物や 排泄物の近くで暮らさざるをえませんでした この郵便番号を持つ地域は いまだに一人当たりの所得が最低水準で 失業率と収監率は最高水準という 痛みを抱えています Twitter、Airbnb、Uberのような 有力ハイテク企業の本社がある街の中なのに そしてこれらのハイテク企業が— うーん — 実際には 高級化の引き金となって この地域のアイデンティーと 人口の構成を 急速に変貌させています

ここでひと呼吸入れ 「ジェントリフィケーション」について話したいと思います 私たちには 口に出せない言葉に なってしまったようです 地域の貧困層の住民が 新来の富裕層に 立ち退かされることの 同義語となってしまっています 立ち退かされた経験のある人であれば 自分の生活を保持していた場所を失う 苦しみが分かるでしょう 実際に経験がなければ 今この場で 想像してみてください 地元のお気に入りの場所や 昔からの馴染みの人とよく行き 一緒に時間を過ごした場所が 消えてしまったら— 家に帰ると 家主から通知が届いていて 家賃が倍に上がったことを告げられます そこに留まるかどうかを 自分では決められないのです すでにあなたの家には あなたの居場所がありません あなたが今 感じているこの気持ちは 相手があなたを 故意に傷つけたかどうかとは 関係ありません 開発業者のマジョラ・カーターが ある時私にこう言いました 「貧しい人々は 高級化を嫌っているわけではない 嫌っているのは 高級化の恩恵を受けるまで ここに留まれないこと」

何故 文化の抹消と経済的手段の喪失は免れぬことなのでしょうか? 過去の不当行為を認めた上で 開発を進め— 新しい物語だけでなく 過去の歴史にも 価値を見出せるかもしれません そして人々がこの地域で 暮らし続けられるように— 自分の家やコミュニティーといった 自分らしさを感じる場所に留まれるように 全力で取り組めるかもしれません

このように再考するには 過去の不公正さや そこに織り込まれた 痛みや嘆きも認識する必要性があります 私は 自分の仕事を 振り返るようになって 痛みと嘆きが 繰り返し現れる テーマだったと気づきました ベイヴュー・ハンターズ・ポイントの 開発初期にも聞きました ダリルというある男性が言ったことです 「私たちはいつも まるで島国のように 別扱いされていた— まるで無人島だ」 ヒューストンでも耳にしました 日雇い労働者と プロジェクトに 取り組んだ時も聞きました フアンの話によると 家族の生活費を稼ぐため 毎日 街角に立っていたその場所で 何度も稼ぎを奪われたそうです 彼はこう言いました 「この場所がいかに神聖か 何故誰も気づかないのか」と

こういう苦痛を 見たことがあるはずです シャーロッツビルやニューオーリーンズで 銅像の撤去を巡って起きた運動から オハイオ州ロレインや 英国のボルトンのように 産業の活力が失われ 死にかけている街まで 私たちは 地元の人の痛みを 和らげられるだろうと しばしば その場所を立て直しに駆けつけます ところが 良いことをしようとか 過ちを正そうとか 可能性の場を作りたいという 無限の願望はあっても 次々と 破られた約束や 握り潰された夢で 満たされた状況に対して 多くの場合 「知らぬが仏」を装い続けます 私たちは壊されたものの上に 建てているわけです どうりで 支えになる基盤がないわけです

私は建築家として 痛みと嘆きを抱える場所を 作る義務などありませんでした そんなことは 得策でもなければ 美を追求するものでもなく 顧客の依頼ですらありません でも 痛みのための空間があることが 変革のきっかけになる可能性もあります

自分たちの話に戻しますと 最初にこの地域での仕事を始めた頃 まず最初に取り掛かったのが 発電所の閉鎖へと導いた 活動家達へのインタビューでした 彼らの話から一貫して伝わったのは 差し迫った喪失感でした この地域はすでにその頃 変化し始めていました 人々は徐々に離れて行くか 高齢のため亡くなり 住民がいなくなるたびに 物語が失われていました 活動家らが感じていたことは この地域で起きた 素晴らしい出来事を 知る人がいなくなるのではということでした 外部から見れば そこは単なるスラム街でしたから 悪く言えば 犯罪の温床 良く言っても 真っさらな白紙に過ぎません もちろん実際には どちらでもありませんでした そこで私は仲間たちと StoryCorpsというNPOに依頼し 彼らの手助けと 電力会社の協力で 敷地内に録音ブースを設けました そこに住民らを招待し 彼らの物語を後世に残すため 記録してもらいました 住民の話を記録した数日後 試聴パーティーを開き 録音を聞いてもらいました NPR(公共放送)の 金曜朝の番組のようです

そのパーティーは 今まで参加した コミュニティーミーティングの中で 一番素晴らしい体験でした その理由は 喜びだけでなく 痛みも語られたからです 一番鮮明に覚えている二つの話です AJはこの地域で育った体験を語りました いつでも遊び相手になる子がいたこと 悲しみの思いで語ったのが 初めて警察官に呼び止められ 尋問されたこと 11歳の時でした GLは仲間のことを話しました この地域に住むことで 体験した人生の荒波のこと 同時に誇らしく語ったことが みんなに援助と力を与えるために あちこちに生まれた組織のこと 彼はそのような活動を もっと期待していました 始めに痛みと嘆きを表現する 空間を作ることで この敷地が必要とするアイデアを みんなで検討できました それから4年間の私たちの活動の基になった 素晴らしいアイデアです

何故 今ガラリと違った集会が必要なのか? それはー この地域の一部となった痛みと嘆きは 1日でできたものではないからです 癒すのにも時間がかかります セラピーに1日通ってすぐに 治る人 ここにはいませんよね?

(笑)

そういう人いますか? いないと思います 今考えてみると 試聴する機会をもっと 作るべきでした 楽しい催しだけに限らずにです 私は仕事を通して世界中を周りましたが 痛みが存在しない場所に 訪れたことは いまだに無く 癒しの可能性に欠けた場所は ありませんでした 私は建築家としての能力の向上に 努めながら仕事をしてきましたが 私の役目は人々を癒すことでもあると 今では思っています

ここでトークの要点として 癒しのための5ステップを お伝えすればいいのでしょうが 私にはその解答がありません— 少なくとも今はまだ 解っているのはその筋道だけです それはさておき この体験を通して学んだこともあります

1番目は— 全ての人の話を聞く気持ちがなければ みんなが満足する町作りはできません 将来望む建築の構想だけではなく 失われた物や満たされなかったことを 全て聞くこと 2番目は— 癒しを受けるのは「その人達」 だけのためではないこと 恵まれた環境にいる私たちは 自分の罪悪感 不快感 共犯者意識を見極めなくてはいけません NPOリーダーのアン・マークスは 以前こう述べました 「傷ついた人は人を傷つけ 癒された人は人を癒す」と 3番目は— 癒すこととは 痛みを消すことではないこと 私たちには痛みを 白紙で覆う傾向があります ベイヴュー・ハンターズ・ポイントの土地を アスファルトで覆ったように ところがそれでは治せません 癒すこととは 痛みの存在を認め それと和解すること

私の好きな引用の一つに こういうものがあります 成長の過程で 癒しは新たな信頼を生む 今 私は建築を通して癒す者として 皆さんの前に立っています 私は 自分の成長の可能性を このコミュニーティーや 一緒に仕事する仲間 この国や この世界の 成長の可能性を 受け入れる心構えができてます 私一人でその成長の旅に 出るつもりはありませんでした 多くの皆さんが 現状に不満をお持ちかと思います でも変化の可能性を信じてください 皆さんには 自分で思う以上に 苦難に負けない力があると信じています 最初の一歩には勇気が必要です 他人の痛みを見る勇気と たとえそれが不快になろうとも その痛みと共存する意志を持ち みんなが一緒に起こしうる 変化を想像してください その実現をみんなが全力を注いで目指せばいいのです

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

リズ・オグブは「空間の公正さ」の実現に取り組んでいる建築家です。「空間の公正さ」とは、公正の判断には地理的要素があり、資産やサービスを平等に配分するのは基本的人権であるという考え方を指します。彼女はサンフランシスコで、「ジェントリフィケーション(地域の高級化)」が原因で起こる、開発と発展により地域から貧しい人が追い出されるという、よくあリすぎる話に異議を唱えます。彼女はこう問いかけます。「何故 文化の抹消と経済的手段を喪失することは免れぬことされるのでしょう?」そして開発業者や建築家、政策立案者にこう訴えます。「人々がこの地域、自分の家やコミュニティーといった、自分らしさを感じる場所で暮らし続けられるように、全力で取り組んでほしい」と。

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