中国のインターネットの急速な成長とその向かう先(12:42)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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1年に1度 世界最大の人々の移動が 中国で起こります 家族が再会、祝賀する― 40日間の旧正月の 旅行シーズンに 乗物での移動が 30億回行われるのです その旅の中でも 最も大変なのは 2億9千万人の出稼ぎ労働者の旅です 彼らの多くにとって 実家に戻り そこに残された親や子供に会う 年に1度しかない機会です
でも旅の選択肢は 非常に限られています 航空券の値段は彼らの月給の ほぼ半分となります だから彼らの多くは電車で移動します 平均移動距離は700キロ 平均移動時間は 15時間半になります 中国の鉄道は毎年 春節に 3億9千万人の旅行者に 対応しなければなりません 最近まで 出稼ぎ労働者はチケットを 買うために 何時間も 時には何日も 長蛇の列に並ばなければならず ダフ屋にだまし取られることも よくありました そして出発日が来たら 彼らは将棋倒しに近い状況に 立ち向かわなければ ならなかったのです
でも技術のおかげで 状況は改善しつつあります 今ではケータイ電子チケットが 売上の70%を占めており 駅での待ち行列が大幅に 短くなっています 手動での改札は デジタルIDスキャナーに変わり 乗車手続きが 迅速化されています 人工知能が路線網 全体に展開され 経路を最適化しています 新しい解決策が創案されています 中国配車最大手の 滴滴出行(ディディチューシン)は 「ヒッチ」という新しいサービスを 開始しました ヒッチは自家用車で帰省する人と 長距離路線を探している 乗客とをマッチングします わずか3年目にして ヒッチはこの休暇シーズンに 3千万回の旅を提供しました 最長のドライブは 2,400キロを超えるものでした これはほぼマイアミから ボストンまでの距離に相当します 出稼ぎ労働者による 莫大なニーズが 全国の輸送システムに 迅速な改善と革新をもたらしたのです
中国のインターネットは見慣れたやり方と 見慣れないやり方で発展しています シリコンバレー同様に 技術や消費者行動における 劇的な変化の中には 科学技術研究の発展で 起こるもの 企業による欲求の追求で 起こるもの 特権的な人々や若者の 気まぐれな行動で起こるものもあります
私は 消費者としても 企業のリーダーとしても アメリカハイテク産業の 申し子です だから このタイプの力については よく理解しています でも 1年半ほど前 ニューヨーク市から 香港に移り住み サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙の CEOに就任し この新たな見地に立ってみると 中国における革新や 多くの起業家たちを 後押ししている 私には馴染みのないものを 目にしました 圧倒的な需要によって 喚起される経済は 恵まれない多くの人たちに サービスを提供しています 彼らは中国経済の活況から 30年もの間 取り残されてきました 著しい差が 富める者と貧しいもの 都市と地方 学歴ある者と 無学の者の間に存在し このような格差が 土壌となって 驚くべき力を産み出す 条件を作り出しています だから資本と投資の焦点が 経済的な階層の底辺にいる 人々のニーズに向けられたとき インターネットが 真に雇用を創出し 教育を広め その他多くの進歩をもたらすのを 目にすることになります
もちろん 中国はこの新たな力が 存在する唯一の場所ではないし そのような革新が可能な 唯一の場所でもありません でも国の規模の巨大さと 新興の超大国という地位のお陰で 国民のニーズは 注目せずにいられないほどの 影響をもたらす機会を 作り出しています 中国のハイテク産業の 急速な成長を説明する時 観測筋の多くは2つの理由を 挙げることでしょう 1つ目は中国を祖国と呼ぶ 14億もの人々です 2つ目は政府の積極的な参加です 広範に渡る介入という 見方もできますが 中央政府は何年にもわたって ネットワークのインフラに 大規模な投資を行い 魅力的な投資環境を 作り出しています 同時に基準と規制を強制し これが 迅速な合意と 迅速な導入に繋がりました 世界最大のハイテク人材を 擁しているのは 教育に対する動機付けが 豊富にあるためです そして 地方にある国内企業は 以前から 市場統制によって 国際競争から 保護されてきました
もちろん 中国のインターネットを見れば その広範な検閲と ディストピア的監視の懸念に 気付かずにはいられません 例えば 中国は全国民を対象とした 社会的信用格付けを 展開しようとしていて 誠実さや正直さといった ごく質的な特性に基づいて 国民に報酬を与えたり 制限を課したり しようとしているのです 同時に 中国は1億7千万台ある 監視カメラの多くに 顔認識システムを 導入しつつあります イスラム教徒少数民族が 常時監視されている新疆省では 犯罪やテロを予測するために 人工知能が使われています
それにもかかわらず インターネットは発達し続け 私たちが思っているよりも はるかに大きくなっています 2017年末までに 中国のインターネット利用者数は 7億7200万人に達しました これは 米国、ロシア ドイツ、イギリス フランス、カナダの人口を 合わせたよりも多いのです そのうち98%が 携帯電話利用者で 92%がメッセージングアプリを 使用しています いまや ネットニュースの 利用者が6億5000万人 動画サービス視聴者が 5億8000万人います そして中国最大の電子商取引 プラットフォームであるタオバオワンは 月間アクティブユーザー数が 5億8000万人であると誇っています これはアマゾンより 8割も大きな数字です いまや中国では オンデマンドの バイクや車を利用した移動が 年100億件に及びます これは全世界合計の 3分の2に相当します だから良し悪しがあります
中国におけるインターネットが制限され 操作されているのは間違いありません でもそれは大規模で 市民生活を大幅に改善してもいるのです だから不完全ではあるにせよ 成長する中国のインターネットを 頭から否定するのではなく 真剣に検討する価値があるでしょう
きょうは あと2つ話をしましょう ルー・ツァオリョーは 江西省出身の34歳の技術者です 彼の故郷は 紅軍発祥の地であったため 共産党にとって非常に重要な 意味を持っていました でも江西省は中国の 経済活動や 製造業の中心から 離れていたので 何十年もの間に 重要性を失ってしまったのです ルーも同世代の多くと同様 大都市で仕事を探すために 若い時に家を出て 中国のハイテク・ハブの1つである 深センに落ち着きました 若者が出て行くにつれて 農村には 高齢者ばかりが残され 悲惨な貧困から脱しようと 必死にあがいています
村を出て9年後の2017年に ルーは江西省に戻ることにしました 中国の急成長する電子商取引市場が 故郷の村を復活させるのに 役立つと思ったからです 地方によくあるように ルーの家族も 地元の 特産品製造に携わっていました 彼らの場合 それは腐乳でした それでルーは 町工場を立ち上げて 地元特産品のオンライン販売を 始めました 中国の大都市では 長年にわたって 消費が拡大していましたが 最近では テクノロジーのおかげで 中国の中・上流階級による 特産品の購入額が急増しています WeChatその他の 電子商取引プラットフォームによって 地方の生産者が 元々の流通エリアをはるかに超えて 商品を販売できるように なっています
調査会社は「タオバオ村」と 呼ばれるものを数えることで このような影響の度合いを 追跡しています 「タオバオ村」というのは 少なくとも10%の世帯が オンラインで商品を販売し 収入を得ている村のことです これは この数年間で 著しい成長を遂げています タオバオ村は 2013年には わずか20村だけでしたが 2014年に212村 2015年に780村 2016年に1,300村となり 2017年末には2,100村を 超えています 現在 稼働中のオンラインストアが 約50万店舗あり 年間売上高は190億ドル 130万人の新規雇用を 創出しました ルーは村に戻った最初の年に 15人の村人を雇用して 約6万本の腐乳を販売しました 需要の急激な増加に伴い 来年には さらに30人の雇用を 見込んでいます
中国全土に点在する農村部には 6千万の子供たちが取り残され 子供の成長期に 親の少なくとも一方が 出稼ぎ労働者として 家を離れています 田舎暮らしの 全般的な困難に加え 彼らは学校に行くためにすら しばしば 長くて 危険な道のりを 通わなければなりません そういう子供が 中国の小中学生の 3割を占めています 10歳のチャン・ウェンシェンも その1人です 彼は毎日 このような 人気もない風景の中 深い峡谷を片道1時間歩いて 学校に行くのです でも甘粛省の小さな農村に着いても 学校全体で生徒は 他に2人しかいません チャンの学校のような 生徒が5人未満である学校は 甘粛省だけで1000校あります 限られた生徒間の交流と 資格を満たしていない教師 断熱さえされていない 設備の整わない校舎で 僻地の生徒は長らく 不利な立場に置かれていて 高等教育への道が ほとんど閉ざされています
でもチャンの未来は 「サンシャイン教室」の設置に伴い 劇的に変化しています 彼は現在デジタル教室に 参加しています 28校にわたる 100人の生徒が 何百キロも離れた場所からの 資格を持った認定教師による ライブストリーミング授業を 受けています いまや音楽や美術などの 新しい科目に触れられ 新しい友達もでき 自分の故郷の枠に収まらない 経験が得られます 先日 チャンはデンマークにある フレデリクスボー城の博物館を 訪れることができました もちろんオンラインでのことです
中国の外ではオンライン教育が 何年も前から存在していましたが 真に変革を起こすものでは ありませんでした おそらくは 世界の他の技術的先進地では 従来の教育制度が はるかに進んでいて はるかに安定している ためでしょう でも中国の極端な地形や広さは 大規模かつ即座に革新する必要を 生み出しました 深センのある技術系 スタートアップ企業は わずか1年で30万人の生徒を 擁するまでになりました サウスチャイナ・モーニング・ ポスト紙の推定によると 現在 中国全体で5500万人の 僻地の生徒が ライブ・ストリーミング授業を 利用できるようになっています ニーズが生み出すこの市場は 米国の幼稚園から高校までの 全生徒数よりも大きいのです
私がとても勇気づけられているのは 中国のハイテク教育に 対する民間投資額が 年間10億ドルを超え さらに 300億ドルの 公的資金の投入が 今後2020年までに行われる ことになっているからです 中国のインターネットが 成長し続けるにつれて その欠点や規制や管理など にもかかわらず かつては忘れられていた 人たちの生活が 不可逆的に改善しています 人々の欲求ではなくニーズを満たすことに 焦点が当てられているので 多くの好奇心や創造性が 掻き立てられ 目にしているような発展を 引っ張っているのです そしてまだまだ 伸びしろがあります
アメリカでは インターネット人口 つまり普及率は 現在88%に達していますが 中国では インターネット人口は まだ56%に留まっています つまり まだネットに繋がっていない 人たちの数が 6億人を超えているのです これは米国の人口の約2倍です ここには莫大な機会が存在します
この経済の代替燃料が あるところなら それが 中国、アフリカ、東南アジア アメリカの中央部など どこであれ 我々は資本と努力をもって これを後押しすべきです それが世界中で 経済的にも 社会的にも影響を及ぼすのです ちょっと想像してみて下さい 恵まれない人たちの世界的なニーズが 発明の最優先のテーマとなったら さらに何が可能になるのでしょうか? 発明の最優先のテーマとなったら さらに何が可能になるのでしょうか?
ありがとうございました
(拍手)
「中国のインターネットは驚異的なペースで成長し、今では米国、英国、ロシア、ドイツ、フランス、カナダの人口を合わせたよりも多くのインターネットユーザーが中国にはいます。 不都合な点はあっても、かつてなおざりにされていた人たちの生活が不可逆的に改善しています」とサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙のCEOゲーリー・リューは語ります。 魅力的なトークの中で、リューはAIで最適化された列車旅行のような革新的なものから、国民に賞罰を与える社会的信用格付けシステムのようなディストピア的なものまで、中国のハイテク産業がどのように発展したかを詳しく説明します。