中国の公害や気候変動との戦い—その真相やいかに(12:19)
講演内容の日本語対訳テキストです。
自動スクロールはしませんので、映像に合わせてスクロールさせてご覧下さい。
自分の目を信じられない瞬間はありますか 2年ほど前 友人がウルムチ市から この写真を送ってきました 中国北西部に位置する 新疆ウイグル自治区の主都です まさにこの日 友人は自分の目を信じられませんでした iPadのアプリで大気の状態を チェックしてみると 数値は良好な状態を示していました 汚染度は500段階の中の1でした しかし 外を見ると 目に映る状況は全く違っていました 背景に見えているのはビル群です
(笑)
その数値は真実 つまり 目に映り 吸っている空気の状態を 全く反映していませんでした この理由はPM2.5という 微小粒子状物質を 測定していなかったためです PM2.5の濃度が急上昇した2012年当時 米国大使館は 「常軌を逸した汚染」とツイートし 中国国民はソーシャルメディアを使って なぜ 公式の大気汚染統計と 自分達の実感が かけ離れているのか 疑問を投げかけ始めました
今や こういった疑問を皮切りに 中国国内で環境意識のようなものが高まり 中国政府は汚染問題に 取り組まざるをえなくなりました 今まさに 中国は環境問題で世界の先頭に立つ 機会を得ているのです しかし 今日 私が描き出す中国のイメージは 多面的なものです 将来有望な兆しもありますし 不安を感じさせる傾向もあり 注意深く見守る必要があります 身近な話に戻しましょう
私が中国の環境政策の進歩を 目にするようになったのは 博士課程在学中に 中国でフィールドワークを していた2011年頃でした 私は ある疑問の答えを求めて 中国全土を渡り歩いていました 一人の部外者として 懐疑的な視点で抱いた疑問です えっ 中国が環境問題に対し 取り組んでるっての? 環境政策はあんの? どんな政策よ? 当時 PM2.5のデータは 政治的にデリケートな問題とされており 政府によって機密情報とされていました しかし 市民の間で 健康被害に対する関心が高まり 彼らは政府機関に対して さらなる透明性を要求しました 私自身も社会の進歩と意識の高まりが 中国全体に拡大するのを実感し始めました 例えば デパートでは 有害なPM2.5を除去する 空気清浄機を販売し始めました 市民はPM2.5を音楽フェスの タイトルに付けたりもしました
(笑)
中国南部の深セン市にある ゴルフ場に行った時のことですが 垂れ幕に PM2.5からの避難所だと 宣伝文句が書かれていました ゴルフはパーより下でも 平均以下の空気は禁物だと 上海の環境保護局は 空気質指数(AQI) にちなんだ名前の マスコットを作ることにしました 市民に大気の状態を より広く周知させることが目的です 私はAQIガールと呼んでいます 大気の状態に応じて マスコットの表情と髪の色が変わるのです 5年経過した今も 彼女は上海の大気の状態を伝える 最も笑顔の存在です
それから2015年に CCTVのリポーター出身のチャイ・ジンは 『ドームの下で』という ドキュメンタリーを制作しました レイチェル・カーソンの『沈黙の春』に なぞらえたもので レイチェル・カールソンは 農薬の人体に対する有害性に 人々の目を向けさせましたが 同様に『ドームの下で』は 大気汚染によって 中国国内だけでも 毎年 百万人が早死にしている事実を 大衆に印象付けたのです その動画は 1度の週末で 1億回以上 再生されました 中国政府が 何らかの社会不安が起きるのを恐れ ネットから削除するまでの間にです しかし 時すでに遅しでした
大衆の大気汚染に関する抗議の声に 突き動かされた中国政府は おそらくは自己保身のために 大局的かつ断固として 大気汚染やその他多くの環境問題の根本原因である エネルギーシステムの問題に 対処する方法を 考え始めたのです 何しろ 中国では 電力の3分の2が石炭由来です 中国には世界で最も多くの 石炭火力発電所があり 世界全体の40%を占めます この事実があるため 中国政府は 2014年に 石炭に対する 徹底的な対策を開始しました 小規模な炭鉱を閉鎖し 石炭消費量に規制をかけ さらにオーストラリア一国分に相当する 石炭火力発電所の建設を中止しました 中国政府はまた クリーンな 再生可能エネルギーに対し 莫大な投資をしてきました 水力 風力 太陽光発電などです そのエネルギー転換の速度と規模は まさに驚異的でした いくつかの統計を使って このことを説明させてください 水力発電量に関して 中国は世界最大です 世界全体の3分の1を占めています 水力発電だけで 全ての中国人民が 家2軒ずつ使えるほどの 電力を賄えます 三峡ダムの名前を 聞いたことがあるかもしれません この写真です 世界最大の発電所で 水力で発電しています 風力発電に関して 中国は全世界の3分の1の発電量を占め 群を抜いて世界一の規模です 太陽光発電に目を向けると 中国はここでもトップです 実際 105ギガワット相当の 太陽光発電設備の設置という 2020年に向けた目標を あっという間に達成してしまいました しかもこれは 政府が 2009年から2015年にかけて 何度も引き上げた後の目標値でした 昨年 わずか7か月間で 中国は35ギガワットという 途方もない太陽光発電設備を設置できました これは 米国の太陽光発電総量の 半分以上に相当します 中国はこれを わずか7か月間で 達成したのです 太陽光発電の驚異的な拡大は 宇宙からも確認できます スライドは スタートアップ企業 SpaceKnow が可視化したものです 2020年までに中国は 風力と太陽光の発電量だけで ドイツ全体の電力消費量に匹敵する見通しです 全くもって 驚異的です
中国のクリーンエネルギーに 対する取り組みが 実際に効果をもたらしているという証拠が 現在 確認できます 大気汚染の減少だけではなく 世界の気候変動に関してもです 中国は世界最大の カーボンフットプリントを持つ国です データを見てみると 中国の石炭の消費量は 2013年にすでにピークを迎えていた 可能性があります これを主な根拠として 中国政府は主張しています 2020年までに達成すると宣言した CO2削減目標を 既に前倒しで達成したと このような石炭消費量の削減は 中国全土の大気汚染の改善にも 直接繋がっています 青で示した部分がそうです 中国の大部分の主要都市において 大気汚染が30%も改善されました 大気汚染の減少は中国に住む人々の 寿命を伸ばしています 2013年と比較して 平均寿命が2年半伸びました 黄色い点が示すのは 大気汚染が最も改善された都市です
もちろん 冒頭で話した通り 過度な楽観視は控えて 十分に注意を払うべきでしょう なぜなら まだデータが確定しているとは 言えないからです 昨年末のことです 世界のCO2排出量が一定であった 約3年間を経て CO2排出量が 再び増加しているとの 科学的な予測が提出されました これは 中国で消費される化石燃料の増加に 起因するとされました ですから 前述したピークは まだ迎えてないかもしれません しかし 統計情報とデータは 未だに不確かです なぜなら 中国はよく石炭の統計データを 後から改定しているからです おかしな話ですよね この分野の研究を始めてからずっと 私はTwitterで 他の気候モデル研究者と 中国の二酸化炭素排出量は 増加中なのか減少中なのか それとも変化していないのか突き止めようと 論争を続けているんですから 言うまでもなく 中国はまだ急速に発展中の国であり 様々な政策を試しているところです ドックレス型の自転車シェアリングのような— これは環境負荷の低い 交通手段として もてはやされましたが 一方で このような 自転車廃棄所の写真からは 負の側面が見えてきます 時に 問題解決策を急速に進めすぎて 需要を越えてしまうこともあります それに 中国では未だ石炭が主役です 少なくとも現時点では
では なぜ中国の環境政策に 注目する必要があるのでしょう それは 中国国内の環境政策が 他の国々にも 影響を与えるからです チャイ・ジンの言葉を借りると 私達は皆 同じ「ドームの下」にいるのです 中国で発生した大気汚染は 国境を越えて広がっていき 遠く離れた北アメリカの人々にも 影響を与えるのです 中国が「輸出」しているのは 大気汚染だけではありません 援助やインフラや技術もそうです 習近平主席は2013年に 「一帯一路」構想を提唱しました これは 1兆ドルに及ぶ大規模な インフラ投資プロジェクトであり 対象は60ヵ国以上に及びます 過去を振り返ってみると 中国が国外に対して行うインフラ投資は 「クリーン」とは限りませんでした 中国の市民団体である GEI(地球環境研究所)が調べたところ 中国は 過去15年間にわたり 68ヵ国以上で240基以上の 石炭火力発電所に 投資を行ってきました 「一帯一路」の一環です 国内の石炭火力発電量の 4分の1以上に相当する量を 国外に輸出したことになります
これから分かるのは 中国は国内をきれいにしながら 汚染を他国に 輸出しているという事実です 汚染を他国に 輸出しているという事実です 温室効果ガスにはパスポートなどありません 中国は実際に世界をリードしているのか という問いに答えるには 中国は実際に世界をリードしているのか という問いに答えるには まだ議論の余地があるということです
しかし 時間は残されていません 私は気候モデルの研究をしてきましたが 将来の見通しは明るくありません 危険な気候変動を回避したいと思うならば 現状の政策では不十分です リーダシップが何としてでも必要なのです ですが 例えば米国には期待できません 米政府は昨年の6月に 気候変動に関するパリ協定から 離脱する意思を表明しました 結果として 人々は中国にリーダーシップの 不在を埋めることを期待しています
中国はまさに地球環境の命運を握る 舵取りのポジションにいると言えます 排出量取引やクリーンエネルギー 大気汚染に対する彼らの施策から 多くの教訓を得られます 例えば クリーンエネルギーは 環境に良いだけではありません 大気汚染を減らし 命を救うことができるし 経済にとってもプラスです 昨年 中国は 世界のグリーン関連の雇用増加の 30%に貢献しています 米国はどうでしょう たったの6%です
ですから 今日私が描いた中国のイメージが あの大気汚染のデータのように 霞んだ見通しの悪いものではなく 中国が推進するクリーンエネルギーのように すっきり晴れ渡ったものになることを願います 中国が正しい方向に進んでいたとしても まだ道のりは長いことは みんな知っています
もう一度質問させてください 自分の目を信じられますか データや統計情報は信用できますか 中国の大気汚染は改善しており 石炭に対する徹底的な対策が功を奏している といったデータのことです では 中国の太陽光発電の設置状況が分かる 最新の衛星写真を見てみましょう 写真をよく見てください 見えますか 真相はパンダに聞くしかなさそうですね
ありがとうございました
(拍手)
中国は世界最大の公害源であると同時に、今や世界最大のクリーンエネルギー生産国でもあります。中国は今後、どちらの道へ進み、それが地球環境にどんな影響を与えることになるのでしょう。世界最大の人口を抱えるこの国が、どう代替エネルギーに基づく未来を創造していくのか、急速な工業化がもたらした環境破壊にどう向き合っていくのか、データサイエンティストであるエンジェル・スーが解き明かします。