どうやって難民に精神衛生の支援をもたらすことが出来るか(5:25)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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この2年半の間 私はギリシャや地中海の 海岸線や救援船 また難民キャンプで 活動する 唯一ではないものの 数少ない小児精神科医の1人です 確実に言えることは 私達はいま精神衛生上の 大惨事を目撃しており それが私達の大多数に影響を及ぼし 世界を変えてしまうということです
私はハイファに住んでいますが 最近は 殆どを海外で過ごしています ギリシャのレスボス島で過ごし 地中海の救助船に乗っている間に 何千隻もの難民船が海岸に到着し 150万人以上の難民で ごった返していました その4分の1は子供で 戦争と困窮から逃れて来ます どの船も それぞれ違う 苦痛とトラウマを運んで シリア、イラク、アフガニスタン アフリカ諸国からやって来ます 過去3年だけでも 1万2千人以上の難民が 命を落としました そしてこの残酷で 深い傷となる経験によって 心や精神の健康を損なった人が 何十万人もいます
オマーの事をお話ししましょう 5歳のシリア難民の男の子です 彼は窮屈なゴムボートで レスボス島の岸に辿り着きました 自分の身に何が起こっているのか 理解出来ず 恐怖で泣き叫びながら 新たなトラウマを 負いつつありました これが「ゴールデンアワー」だと すぐ気づきました このわずかな時間でなら 私は この子の物語を変えられる— 彼が生涯に渡って 思い返す物語を変えられるのです 私は彼の記憶を 組み立て直す事が出来るのです 私は素早く手を差し伸べて 動揺する 彼の母親にアラビア語で話しかけました
(アラビア語で) "Ateeni elwalad o khudi nafas" 「その子を預かります 一息ついて下さい」 母親は私に子供を手渡しました
オマーは怯え 恐怖に満ちた目で 私を見て言いました (アラビア語で) "Ammo,"「おじさん」 "shut hada?"「あれは何?」 彼は上空を旋回している 警察のヘリコプターを指差していました
「ヘリコプターだよ! 大きなカメラで 君の写真を撮っているんだ だってオマー 君みたいなすばらしくて 強いヒーローだけが 海を渡って行けるんだから」
オマーは私を見て 泣くのを止め こう訊きました (アラビア語で)"Ana batal?" 「僕がヒーロー?」
私は15分間 彼と話をしました そして彼の両親にその後にすることの 助言をしました この短い心理的な介入のお陰で 将来に於けるPTSDや 他の精神障害の 発症を減らし オマーが教育を受け 労働力となり 家族を養い さらにその先に向かう 準備が整うのです どうやって? 良い体験の記憶を高めるのです 感情を蓄積する扁桃体に その記憶が保存されます 将来 その良い体験の記憶が甦れば トラウマを残す記憶と 闘ってくれるのです オマーにとって 海の匂いは 単にシリアからの辛い航海を 思い出させるだけのものでは なくなるでしょう 何故ならオマーにとって この話は 今や勇気の物語となっているからです
これがゴールデンアワーの力 すなわち トラウマを別の観点から捉え 物語を作り直せるときなのです ただ この難民危機だけでも 適切な精神衛生上の支援を受けていない子供が 35万人以上いますが オマーはその中の1人に過ぎません 35万人の子供達に対して 私は たった1人です
私達は紛争中 救援チームに加わってくれる 精神衛生の 専門家を必要としています そこで妻と私、友人達は "Humanity Crew" を共同設立しました これは難民や強制移住者に対する 心理社会的な援助と 精神衛生介入の 救急対応を専門とする 世界でも 数少ない 救援組織の1つです 彼らに適切な介入を施す為に 難民達がたどる道のりにそった 4段階の心理社会学的な アプローチを創出しました 最初は 精神衛生の救助員として 海上や救助船の上で 次に 難民キャンプや病院で さらに国境と言語の壁を乗り越える オンラインクリニックで 最後に 避難先の国々に 難民が同化できるよう支援しています
2015年に於ける 最初のミッション以来 Humanity Crewは 資格を保持し 更に訓練を受けた ボランティアやセラピストによる 194の代表団を有しています 私達は1万人以上の難民に対し 2万6千時間の精神衛生の援助を 行なってきました 精神衛生上の大惨事を防ぐために 私達にはできることがあります 私達は救急対応が単に身体だけでなく 心や精神にも必要である事を 認識する必要があるのです 精神への影響は 殆ど目には見えませんが ダメージは生涯続く可能性があります
私達人間と機械を区別するものは 私達の内に在る 美しく繊細な魂だ という事を忘れてはなりません より多くのオマーを助ける為に 懸命に取り組みましょう
ありがとうございました
(拍手)
(喝采)
(拍手)
世界的な難民危機は精神衛生上の大惨事であり、強制移住や紛争によるトラウマを克服するために心理的支援が必要な人々は何百万人にも上ります。心の傷を癒すため、小児精神科医でTEDフェローのエッサム・ダオドは、難民キャンプや救援船、ギリシャや地中海沿岸で、短時間かつ強力な心理的介入を行い、難民(その4分の1は子供)が自分達の体験の意味付けを再把握する手助けをするという活動を続けています。ダオドはこう言います。「精神衛生上の大惨事を防ぐために、私達にできることがあります。私達は救急対応が単に身体だけでなく心や精神にも必要である事を認識する必要があるのです」