私がヘイトメールの送り主とコーヒーを飲む理由(15:21)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私の受信ボックスは もう何年も ヘイトメールや 中傷メールであふれています 2010年に 私はその手のメールに 返信することを始めました 一緒にコーヒーを飲んで話さないかと 差出人を誘うのです これまでに 何百人もの人と会ってきました その人たちから学んだ大事なことについて お話ししたいと思います
私はクルド系の両親のもと トルコで生まれ 幼い頃に 家族で デンマークに移住しました 2007年には マイノリティ出身で 初の女性議員を目指して デンマーク議会選挙に 立候補しました そして当選しました じきに 私のことを疎ましく思う人もいると 気がつきました 当選してからというもの ヘイトメールが当たり前になりました たとえば こんな言葉で始まるメールです 「お前のようなムスリム女が 我々の議会に何の用だ?」 返信は一切しませんでした メールはただ削除していました 差出人と私の間に 相容れる点は 何もないと思っていたのです 彼らは 私のことを理解せず 私も 彼らを理解していませんでした そんなある日 同僚の議員が言いました ヘイトメールは保存しておくほうが良い 「あなたの身に何か起きたときに 調査の手がかりになるから」
(笑)
「もし」ではなく 「何か起きたときに」ですよ
(笑)
ときには 自宅にまで 悪意に満ちた手紙が届けられました 公共の場での議論への関与を 深めるにつれて ヘイトメールや脅しの数も 増えていきました しばらくして 私は秘密裡に転居しました 家族を守るために とりわけ 気を使うことが必要になりました そして2010年に ネオナチからの 嫌がらせが始まりました 街角でムスリム女性を 攻撃していた男からの嫌がらせです 嫌がらせは どんどんエスカレートしました 子どもたちと動物園に行ったときにも 電話がしつこく鳴り続けます ネオナチです その男が近くにいるような気がして 帰ることにしました 家に戻るなり 息子が尋ねました 「どうして そんなに嫌われているの? その人は ママのことを 知らないのに」 「どうしようもない人もいるの」と私 その時の私は 実に賢明な説明だと 思っていました それに 大半の人が 同じように答えることでしょう あの人たちは — 頭が悪く 洗脳されていて 無知なのです 私たちは善良で 彼らは悪人です 以上
数週間後 私は友人の家にいました 一連のヘイトや人種差別のことで すっかり頭にきていました すると友人は 連中に電話をかけて 訪問するのはどうかと提案したのです 「殺されちゃう」と言うと 「デンマークの国会議員に 手荒なことはしないよ」と彼は言いました 「それに もしも殺されたら 殉教者ってことになる」
(笑)
「つまり どう転んでも損はないよ」
(笑)
考えもしなかったアドバイスでした 帰宅してから パソコンの電源を入れ ヘイトメールを全部保存してある フォルダを開きました 文字通り何百通もありました メールの冒頭はこんな感じです 「テロリスト」 「ムスリム女」 「ネズミ」 「娼婦」 メールの件数が一番多かった人に 連絡を取ることに決めました 彼の名は インゴルフでした 連絡を取るのは一度だけ 少なくとも試したのだ と言うためです たいへん驚いたことに 彼は電話に出ました 私はまくし立てました 「オズラムという者です ヘイトメールをたくさん貰っています 私たちはお互いのことを知りません お宅を訪問するので コーヒーを飲みながら話をしませんか?」
(笑)
電話は沈黙しています やがて彼は言いました 「妻に聞いてみないと」
(笑)
なんてこと? レイシストに奥さんがいる?
(笑)
それから数日後 彼の自宅を訪問しました 彼が玄関の扉を開けて 握手の手を差し出した瞬間を 一生忘れないでしょう 私は非常にがっかりしました
(笑)
私が想像していた人物とは かけ離れていたからです 私が想定していたのは 恐ろしげな人物 汚くて 散らかった家でした 違いました 家にはコーヒーの匂いが漂い 私の両親が使っていたのと 全く同じコーヒーセットが出てきました 結局 彼の家に2時間半も滞在しました 私たちは たくさんの共通点を見つけました 偏見の持ち方まで似ていました
(笑)
インゴルフはこう言いました 待っていたバスが 10メートルも離れたところに 停まるのは 「ムスリム野郎」が運転手だからだと 私も身に覚えがありました 若い頃 待っていたバスが 10メートルも離れたところに バスが停まると 運転手は間違いなくレイシストだと 確信したものです
自宅に帰ってから この経験は 非常に複雑な気持ちを 呼び起こしました 一方では インゴルフは 良い人でした 気さくで話しやすい人でした しかし その一方で 明らかに人種差別的な考え方の人物に 自分と多くの共通点があると思うと 我慢がなりませんでした やがて 苦々しくも 私は気づいたのです ヘイトメールの送り主と同じ程度に 私も偏見を持った人間だったのです
これが #DialogueCoffee と名付けた 活動の始まりでした 要するに コーヒーを囲んで 私に酷いことを言う人と対面して 私を知りもしないのに 私のような人を嫌う理由を 理解しようという試みです この8年間 この活動を続けています 接触を図った人の大半は 会ってくれました その多くは男性ですが 女性にも会いました いつも向こうの家で会うということを ルールとして課しました 彼らを信頼していることを 最初に伝えるためです いつも食べものを持参しました 一緒に食べることで 共通点を探しやすくなり 互いに穏やかな気持ちになるからです
この取り組みの中で 大切な教訓を得ました ヘイトメールの送り主たちは 労働者で 夫であり 妻であり 私やあなたのような親でした だからといって その行為が許されると 言っているのではありません ただヘイトに満ちた見方は拒絶しつつ それを表明する人は 拒絶しないことを学びました そして コーヒーの対話を始める前に 私が恐れていたのと同じように 私が訪ねた相手もまた 知らない人を恐れているのだと発見しました
こんな活動の中で ある主題が繰り返し現れました 相手が ヒューマニストであっても レイシストでも 男性でも 女性でも ムスリムでも 無神論者でも 誰もがこう考えているようでした 集団に対する過度の一般化や ヘイトの問題で悪いのは他の人だ やつらが 自分たちを悪者扱いするのを やめるべきだ 政治家やマスコミ 隣人 10メートル先で止まるバスの運転手が 悪いというのです 私が「あなたはどうですか 何ができるのですか?」 と尋ねると たいていはこんな答えです 「私に何ができるというのか 影響力もなく 権力もないのに」 その感覚はわかります 私も 人生の大部分において 権力も影響力もないと 思っていたのですから デンマーク議会の一員と なったときですら そうでした でも 今 実際は違うと知っています われわれ誰もが 今いる場所で 力と影響力を持っています だから 決して 決して 自分の可能性を 見くびってはいけません
#DialogueCoffee の 訪問で学びました あらゆる政治的信念の人が 見方の異なる他者を悪者にしうるのです 自分でも経験があります 子どもの頃 外国人のことが嫌いでした 当時 自分は極端な信仰観を持っていました しかし トルコ人やデンマーク人 ユダヤ人やレイシストとの付き合いが 自分の偏見に対する免疫となりました 私が育った家庭は労働者階級で 自分の人生を通じて 私と議論したいという 多くの人と私は会ってきました それが私の見方を変えてきました 民主主義的な市民として 橋を架ける人としての私が形作られました ヘイトと暴力を防ぎたいと願うなら できるだけ多くの人と できるだけ長く できるだけオープンな 対話をする必要があります これはディベートや 批判的対話によってのみ 人を悪者としない対話を あくまでも追及することによってのみ 達成できることです
みなさんに質問をします 家に帰ってから数日の間 自分に正直になって 考えてください 容易なはずです 他の誰にもわかりませんから その問いは こうです あなたは誰が悪者だと考えますか アメリカのトランプ大統領の支持者は 嘆かわしい連中だと思いますか トルコのエルドアン大統領に投票する人は 狂信的なイスラム教徒だと思いますか フランスのルペンに投票するのは 愚かなファシストだと思いますか バーニー・サンダースに投票する アメリカ人は幼稚なヒッピーだと思いますか
(笑)
これらの表現はどれも 彼らを中傷するのに使われてきました こんなことを言うと 理想主義者だと思われるでしょうか?
みなさんに課題を出したいと思います 今年の終わりまでに あなたが悪者だと思う誰かに 政治的 ないし文化的に 同意できない誰かに 何も共通点がないと思う誰かに 声をかけてください そんな人物を #DialogueCoffee に誘ってください さっきの インゴルフ ― あなたのインゴルフを 見つけてください 彼か彼女にコンタクトをとり #DialogueCoffee のために 会おうと声をかけてください
#DialogueCoffee を始めたら 次のことを忘れないでください まず 拒まれても あきらめないでください #DialogueCoffee の訪問までに ときには1年近くかかったこともあります 2つめ 相手の方の勇気を認めてください あなただけが勇敢なのではありません あなたを家に迎え入れる 相手の人も勇敢なのです 3つめ 会話の最中に判断を 差しはさまないでください 会話の大半は両者の共通点について 話してください そうそう 食べものも持参で 最後に 会話はポジティブに 終わらせましょう また会うことになるからです 1日では橋は架けられません
我々の生きる世界では 多くの人が他者について こり固まった しばしば極端な 見解を持っています 他者のことを大して知らないのに 自分よりも 相手方に 多くの偏見を見いだすことでしょう そして相手方を自分の人生から排除します ヘイトメールは削除 自分と似ている人とだけ関わり 他者を 軽蔑すべきという カテゴリーで語ります フェイスブックで友達を解除し 差別したり グループや人を 人間扱いしない人に会ったときにも 差別したり グループや人を 人間扱いしない人に会ったときにも 見解に異論を唱えるための 対話などはしません こうして健全な民主主義社会は 崩壊するのです 民主主義のための 個人の責務を果たさないときに 民主主義を当たり前と思いがちですが そうではありません 会話は民主主義の中で 最も難しいことです また最も重要なことです
私からの課題です インゴルフを見つけてください
(笑)
会話を始めてください 確かに 人と人の間に溝ができていますが その溝を越える橋を架ける能力を 誰もが持っています
最後に友人の言葉を引用します セルジオト・ウザンは 息子のダン・ウザンを テロ攻撃で亡くしました 2015年に コペンハーゲンの ユダヤ教教会が襲撃されたのです セルジオトは 復讐という考えを拒み こう言いました 「悪を打ち負かすのは 人の間の善意だけだ 善意は勇気を要求する」 友よ 勇気を持ちましょう
ありがとう
(拍手)
オズラム・シーケッチが2007年に女性ムスリムとして初めてデンマークの国会議員に当選して以来、彼女の受信ボックスにはヘイトメールが溢れかえっています。最初のうちは、狂信者たちの仕業としてメールを削除していましたが、友人から思いがけない助言をもらいました。ヘイトメールの送り主を辿り、一緒にコーヒーを飲んではどうだろうか、と言うのです。それはやがて、何百回もの「コーヒー対話」へとつながりました。 シーケッチは、直接顔を合わせての対話こそが、ヘイトを解きほぐす最強の力となると述べ、同意できない人との関わりを試みることを訴えます。