我々は自分の行動理由を本当に分かっているのか?(16:10)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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なぜ金持ちはもっと税金を 払うべきだと思うのか? なぜ最新のiPhoneを買ったのか? なぜ今付き合っている相手を 選んだのか? なぜあんなにも多くの人が ドナルド・トランプに投票したのか? どういう理由で そういう行動を取ったのか?
私達はよく そういうことを問い 答えが得られることを 期待します 聞かれたときには 自分で答えを分かっていて なぜそうしたのか答えている だけだと思っています でも本当に理由を 分かっていたのでしょうか? ジョージ・クルーニーの方が トム・ハンクスよりも好きなのは 彼の環境問題への 考え方のためだと言うとき 本当にそうなのでしょうか? まったく正直に それが自分の選択理由だと 心から信じているのだとしても 私からすると まだ何か 欠けているように感じます 主観的なものの性質上 自分自身についての主張が間違っていると 証明するのは とても難しい面があります
私は実験心理学者で 私達の研究室では この問題を 解明しようとしています 人が自分について 確信を持って言っていることが 実は正しくないことを 示せるような実験が 考案できないかと 思っていたんですが— その人自身の心について相手を引っかける というのは難しいことなので その道のプロに目を向けました マジシャンです 自由な選択の幻想を生み出すことにかけて 彼らはプロです 「どれでも一枚選んでください」と 彼らが言うとき その選択はすでに 自由ではないのです スウェーデン人の マジシャンたちに 相談にのってもらい 人々の選択結果を 操作できる方法を考え出し 本人が気付かずに 自分について間違っているとき それと分かるようにしました この操作を行う様子を 短い映像でご覧に入れましょう やっていることは簡単です 実験の参加者は 選択をしますが 私は 相手が選んだのとは 逆の方を渡します その時に彼らがどう反応し 何と言うかを見たいと思います どこで仕掛けをしているか よく見ていてください これは実際の参加者の方で 何をするかは知らされていません
(実験者) こんにちは ペタ—です
(ベッカ) こんにちは ベッカです
(実験者) こういう写真を お見せしますので どちらがより魅力的に見えるか 答えてください
(ベッカ) 分かりました
(実験者) 時々 なぜそちらの方が 良いと思うのかもお聞きします
(ベッカ) ええ
(実験者) では始めます (ベッカ) どうぞ
(実験者) なぜそちらの方が 良いと思ったんですか?
(ベッカ) 笑顔かな
(実験者) 笑顔ね
(男性) 左の方 これも何かピンときました 面白い写真です 私は写真家なので この光や見た感じが気に入りました
(講演者) ここでトリックが登場します
(女性1) こっち
(講演者) 選んだのとは 逆の方を受け取ったとき— 果たしてどんな 反応をするのか
(女性2) こっちかな もう1人よりも いい人そうに見えるから
(男性) 左の方 この人の笑顔と 鼻や顔の形がいい より魅力的だし 髪型もいい
(女性3) こっち ニヤリとしているのがいい
(実験者) ニヤリとしているのがいいと
(ニヤリとする — 笑)
(女性3) こっち
(実験者) そちらを選んだ理由は?
(女性3) さあ ホビットみたいなところかな
(笑)
(講演者) 実験の本当の目的を話したら どうなるでしょう? (実験者) これで終わりです いくつか質問したいことがあります
(男性) どうぞ
(実験者) このテストは簡単だったか 難しかったか?
(男性) 簡単でしたよ
(実験者) テスト中に 写真を3度すり替えました お気付きになりましたか?
(男性) いいえ まったく 気付きませんでした
(実験者) 全然? (男性) ええ 写真をすり替えたというのは—
(実験者) あなたが指さしたのとは 逆の方をお渡ししました
(男性) 逆の方を ははあ 気付きませんでした 注意力のなさが分かりますね
(笑)
(実験者) テストの間 時々写真を すり替えていたのに 気付きましたか?
(女性2) いいえ 気付きませんでした
(実験者) あなたが指さしたのとは 別の方を渡しました そういうのを まったく感じなかった?
(女性2) ええ
気付かなかった
(笑)
(実験者) ありがとうございました
(女性2) こちらこそ
(講演者) たぶんお分かりになったと 思いますが 実は両手にカードを 2枚ずつ持っていて 1枚を相手に渡しますが 裏が黒いもう1枚は 黒いテーブルの上で 見えなくなるという寸法です こういう写真を使ったとき すり替えに気付く人は 2割以下です 映像でご覧の通り 最後に種明かしをすると 相手はとても驚き 信じようとしないこともあります この効果がとても強く 本物だということが分かります 皆さんが私のように 自己認識に興味があるなら ここでもっと面白いのは すり替えられた選択について 彼らがどう説明するかということです
私達はこのような実験における 参加者の説明を分析しました このグラフが示しているのは 操作された試行と 操作されていない試行を 比較すると— つまり自分の選択の説明と すり替えられた結果の説明とを 比較すると 両者が 極めて 似ているということです 同じくらいに感情的 同じくらいに具体的で 同じ程度の確信を持って 説明しているのです
ここから強く示唆される結論は 実際の選択と 操作された選択とで違いがないなら 私達は絶えず理由を でっち上げているのかも しれないということです
また 参加者の言ったことと 実際の顔を突き合わせてみて こんなことが分かりました ここでは男性参加者が 左の女性の方が良いと言いましたが 右の写真を受け取ることになり 自分の選択について こんな説明をしています 「明るい感じがし バーで声をかけるとしたら こちらを選びます それにイヤリングもいい」 そもそも左の女性を選んだ理由が 何だったにせよ それはイヤリングのためでは なかったはずで イヤリングは右の女性に ついていたんですから これは事後的な理由付けの 分かりやすい例です 自分の選択を後付けで 説明しているのです
この実験が示しているのは 自分の選択がすり替えられていることに 気付かない場合 人は即座に別の理由付けを し始めるということです もう1つ分かったのは 実験参加者は自分が好きだと 思い込まされたものを 実際好むようになることが よくあるということです 同じ選択をもう一度行わせると 前には捨てた方を 選ぶようになるのです この効果は「選択盲」と 呼ばれています 私達は様々な研究を 行ってきました 消費者の選択 味やにおいに基づく選択 さらには理性的判断の問題まで
しかし皆さんが知りたいのは もっと複雑で意味深い選択にも 同じことが当てはまるのかということでしょう たとえば倫理や政治の問題です
次の例は 少し背景の説明が 必要でしょう スウェーデンでは 政治の舞台を左翼連合と 右翼連合が支配しています 投票する人はそれぞれの連合の中の 政党を変えることはあっても 一方の連合から他方へと 変えることはあまりありません 選挙前には 新聞社や世論調査機関が 「選挙のコンパス」と呼ばれる 2つの連合が 対立している論点を 並べたものを出します たとえばガソリン税は 引き上げるべきかとか 男女の公平性を上げるため 13ヶ月与えられる 有給育児休暇は 両親に等分されるべきか といったことです
スウェーデンの国政選挙前に 私達は自分で選挙コンパスを作り 通りで人をつかまえて 政治についての簡単なアンケートに 協力してほしいと頼みました 最初に2つの連合の どちらに入れるつもりかを 聞きます それから12項目の 質問をします 答えを記入してもらい それについて議論します なぜガソリン税を 引き上げるべきなのかというように すべての質問を 見ていきます それぞれの質問が左寄りか右寄りか 色で示したシートがあって それを使って集計をします この人の場合 1 2 3 4— 5 6 7 8 9個が左寄りで 全体として 左寄りだと分かります 最後にもう一度 どちらに入れるつもりか尋ねます
もちろんここにも 仕掛けがあります 誰かをつかまえて 投票の意向を聞き 質問への答えを 記入してもらっている間に こちらでは相手と 逆の答えを記入していきます そのシートを メモ帳の下に隠します 相手から答案を 受け取ったら こちらで記入したシートを 相手の答案の上に貼り付けます これで入れ替わりました それから それぞれの質問について 聞いていきます こう思ったのはなぜか? 相手は理由を述べ 一緒に全体のスコアを数えます 最後にもう一度 投票先について聞きます
まず分かるのは 相手がこのような操作に気付くことは ほとんどないということで 気付く場合でも 「私の答えを変えたでしょう」 というのではなく 「最初見たとき 質問を読み違えていたみたいです 答えを変えてもいいですか?」 と言ってきます そしてこれらの操作のいくつかが 戻された場合でも 大半の操作は 見過ごされます 9割の場合について 相手の答えを 左から右か 右から左へと 変えることができました
それで選択の理由を聞いたら どうなるのでしょう? 顔写真の実験より さらに面白い結果が 得られました 答えを読んでお聞かせします 「“政府によるメールや インターネットの大規模な監視は 国際犯罪やテロと戦う手段として 認められるべき” ということについて ある程度は認めるべきだと」 「ええ」 「どのような理由から?」 「国際犯罪やテロを取り締まるのは すごく難しいので そういった武器は 必要だと思います」 それからこの人は 朝に新聞で読んだことを思い出します 「今日の新聞にありましたが たとえばギャングのボスが刑務所内から 犯罪を続けようとしていないか 携帯を盗聴できるようにもなります 犯罪を抑止できる 可能性があるのに その力をほとんど 使えないとしたら 馬鹿げていると思います」 最後に多少のブレが見られます 「政府に自分のものを 何でも見られるのは気に入りませんが 長期的には その価値があると思います」 この人が選択盲の実験の 参加者だと知らなければ これがこの人の 本当の意見なのか 疑問を持ちはしないでしょう
投票先については どうでしょう? これもアンケートによって はっきり影響が出ます 参加者のうち10%が 左から右ないしは 右から左に変わりました 19%は元々はっきり していた投票先が 不確かになりました 不確かだったのが はっきりした人が7% ずっと不確かなまま という人が12% この数字が興味深いのは 世論調査機関は 選挙が近くなると 決め手になるのは浮動票だ みたいなことを言いますが 実際にはずっと多くの人が 態度を変えうることを これが示しているからです
指摘しておかなければ ならないのは 選挙の時に人々の投票先を 変えさせるためにこれを使うのは 認められていないことで 私達は後でちゃんと説明をし 元の考えに戻せるようにしました しかしこれが示しているのは 人々に逆の視点から見て 自問させることができるなら 相手の考えを変えることが できるということです さて
これは何を意味しているのでしょう? いったい何が起きているのか? まず私達が自己認識と 呼んでいるものは 実際には自己解釈であるということ 何かの選択をしたとき 選んだ理由を聞かれると できるだけ筋の通った説明を でっち上げるのです ただ私達は これをごく速やかに 難なく行うため 答えをあらかじめ 知っていたような気になるのです これは解釈なので 間違うこともあります 他人を理解しようとして 間違うのと同じように だから人に理由を聞くときには 注意する必要があります それというのも 「なぜこの議論を支持するのか?」とか 「なぜ今の仕事や関係を続けているのか?」 と聞くとき 質問する前には 存在しなかった態度を 相手の中に生み出すことに なるかもしれないからです
これは仕事においても 大事な話で 何かをデザインして 「これが良い/悪いと思うのはなぜ?」 と聞くとか 記者が政治家に 「なぜそう決めたのか?」と聞くとき あるいは政治家が 何かの決断理由を 説明しようとするときに 効いてくるんです
これには少し 懸念を覚えますが 明るい見方をするなら 私達は思っているよりも 柔軟だと言えるのかもしれません 私達は考えを 変えることができます 私達の態度というのは 固定されたものではないのです また他の人についても 問題について逆の視点から 検討させることができれば 考えを変えさせることは 可能なのです この研究を始めて以来 私生活においても 取り消しても いいんだというのを 相手との間の 取り決めにしています 何かを好きだと 1年前に言ったからといって 今も好きでなきゃいけない ということはないんです 一貫していなくともいいんだと 認めるなら 気が楽になるし 人間関係がずっと簡単になります
結論としては 「(自分で思っているほどには) 己を知らないことを知れ」ということです
ありがとうございました
(拍手)
実験心理学者のペター・ヨハンソンは、「選択盲」と呼ばれる、人は自分が好きなものを選んでいると自分に思い込ませているという現象を研究しています。この驚くような講演で彼が紹介するのは、「我々はなぜそうしているのか?」という疑問に答えるためマジシャンの協力のもと考案された実験で、自己認識の本質や、操作されたときに人はどう反応するかという点で大きな意味のある結果が得られています。あなたも自分で思っているほど自分のことが分かっていないのかもしれません。