新聞にプライバシーを踏みにじられた私がいかに巻き返しを図ったか(06:18)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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5年前 私はTEDのステージに立ち 自分の仕事についてお話ししました しかしその1年後 ある夜 友達とパブを出たところで ひどい事件に見舞われました スコットランドでのことです 森の小道を歩いていた時 突然強い衝撃を感じ 2度目の衝撃を受けた時 私は地面に倒れました 何が当たったのか 全く分かりませんでした
後で分かったのは あるお宅の庭の門を開けた瞬間 そこにいた野生の牡鹿が 歩道に沿って 私めがけて突進してきたということです その鹿の角が 私の気管と食道を突き刺して 脊髄に至り 頚椎を折ったのです 親友が 私が倒れているのに気づきました 私は助けを求めて首の穿孔から 声にならない声を出していました 親友と見つめ合い 私は声を出すことができなかったのですが 親友は 思いを理解してくれました 彼女は言いました 「息をして 」 言われたとおり 息をすることに集中しながら 私はとても冷静でしたが 絶対死ぬと思っていました どうも私はその状況に満足でした 私はそれまでいつだってベストを尽くそうと 努力してきたのですから それで落ち着いて 呼吸を1回1回続ける作業に興じ 息を吸っては 吐いていました 救急車が到着した時 私には はっきりと意識があり 病院までの道のりにおける全てを分析しました 私は科学者ですから 道路を通るタイヤの音や 街灯の数 やがて見えてきた街の灯り それらを分析して 「助かるかも」と思いました そして気を失いました
いったん近くの病院に搬送された後 ヘリコプターでグラスゴーまで運ばれました そこで私の喉は治療され 私は昏睡状態に陥りました 昏睡状態に陥ってる間は パラレルワールドにいました 『ウエストワールド』と『ブラック・ミラー』を 滅茶苦茶に混ぜたような世界でした それはまた別の話ですが 地元のテレビ局は病院の前から ケンブリッジの科学者が昏睡状態に陥ったと 生中継で伝えましたが その科学者の生死やケガの程度についての 情報は得ていませんでした 1週間後 私は昏睡状態から目覚めました 目覚めたこと自体 奇跡でしたが さらに奇跡的なことに 思考機能や運動機能 呼吸機能や 摂⾷嚥下機能にも 障害が残りませんでした 3ヶ月半でそれらの機能は 回復したのです
ですが元に戻せないものが 1つありました プライバシーです ジェンダーにまつわる記事を タブロイド紙は掲載しました 私はトランスジェンダーなんです 大した事実ではありません まあ この髪の色や靴のサイズには 関心を持たれるでしょうが 前回ここでお話をした時―
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その時は―
(拍手)
ジェンダーの話など面白くないので その話はしませんでした しかしあるスコットランドの新聞には こんな見出しの記事が載りました 「オスの鹿に突き刺されたおネエの科学者」 他にも5紙が同じような見出しを 付けていました 一瞬 憤りを覚えましたが すぐに落ち着き そして頭によぎったのは 「敵に回してはいけない女に歯向い いずれ寝首をかかれる者たち」 という文言です
(笑)
私は 親切な忍者です 忍者がすることを ちゃんとは知りませんが 勝手なイメージでは 暗がりの中を こっそり通り抜け 下水道管を這い 屋根伝いに走り 知らぬ間に人の背後に迫る存在です 忍者は敵の前に現れませんし 抗議活動もせず 1つのプランに とことん集中します 私も病院のベッドの上で 他の人の身に こんなことが 起きることを減らすための 計画を考えました やり方としては 現行の仕組みを利用し 自分のプライバシーを犠牲にします 新聞社が百万人に伝えたことを 1千万人に伝える計画です
怒っている人間に対しては 人は守りを固めると考え 新聞社を攻撃はしなかったので 彼らは防衛的ではありませんでした 私は親切で冷静な内容の手紙をしたため 新聞社に送りました 米国で言えば『FOXニュース』のような 英国の The Sun紙は 私の「穏当な要求」に対して お礼を言ってきました 私が求めたのは 謝罪や 記事の撤回や 損害賠償金ではなく 自分たちが報道倫理違反を 犯したことを認め あんな書き方は間違っていたと 認めることでした 一連のやりとりの中で 私は記者たちについて知り 記者たちは私のことを知り始めました 私たちは奇妙にも友達になりました 以来 The Sun紙のフィリッパと ワインを酌み交わすことさえしています 3ヶ月後 その新聞社は 要求を全て受け入れ ある金曜日に謝罪声明が 発表されて この件は結末を迎えました 新聞社にとっては 結末でした
次の日 私は夕方のニュースに 出演しました 「英国紙6社が報道倫理違反を認める」 と銘打ったコーナーでした 司会者に 「事実をショッキングに表現することが 記者の仕事だとは思いませんか」と聞かれ こう答えました「鹿に角を刺されて 森の地べたに倒れたんです それで十分ショッキングでは?」
(笑)
そこで今度は自ら見出しを考えました 気に入ったのはこうです 「鹿は私の喉を踏みつけ 新聞が私のプライバシーを踏みにじった」 その日のBBCニュース・オンラインでは アクセス数ナンバーワン記事でした とても愉快でした
意見をメディアで 表明したその週が終わり 新しい声と意見を言う機会を 得た私は 愛と思いやりのメッセージを 広め始めました 新聞社や記者に 怒りや憎悪を抱いた瞬間に 私は自分の中に その人たちに対する 偏狭な考えがあるのに気づかされました 批判に走ることなく その人たちと対話をする必要がありました 私はその人たちを理解しようと努め そうすることにより 自分のことも理解されるようになりました
半年後 報道を規制する委員会に入るよう 要請がありました それから年に何回か Daily Mail紙の編集者 ポール・デイカーたちと お茶とお菓子を囲み 「ところでケイト 最近どう?」 なんて聞かれています 私は彼らを尊敬しています そして今 私は 議決権を持つ3人の 市民代表委員のうちの1人です 私が他の人と違うからではなく 私の意見が他の人の意見と同様に 重要だからです
皮肉なことに 時々 斜陽業界である印刷業界の方から 会いたいと言われます TEDで話した インタラクティブ印刷 その技術が業界の起死回生に つながると 考える人がいるのです
自分の中の偏狭な考えに用心して 敵の中から友達を作りましょう
ありがとうございました
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恐ろしい出来事に見舞われたケイト・ストーンは、タブロイド紙に面白おかしく書き立てられた後、自分のストーリーを語る主導権を握り、さらに人々が自分と同じようにプライバシーを失うのを防ぐ助けになる方法を模索しました。ストーンがどのように自らの手で名誉を回復したのか、ユーモアと勇気に満ちた、プライベートな内容のトークが教えてくれます。