私の朝のコーヒーを担うすべての人々に感謝する旅(15:29)

A・J・ジェイコブズ(A・J・Jacobs)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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自慢する気はありませんが 私は嫌なことを見つける天才です 私の特技と言ってもいいでしょう 100個の誉め言葉と 1つの侮辱を聞いて 思い出すのは? 侮辱の方です 研究によると 私だけではないようです

残念ながら人間の脳は 悪いことに注目するようにできています 原始時代だったら 捕食動物を避けるのに 役立ったかもしれません でも現在では こんな生き方は最悪です 不安やうつの主な要因ですから

では脳に染み付いた マイナス思考とどう闘うか? 様々な研究によると 最適な方法は感謝だそうです それを知って 数年前 私の家では新たな心掛けを始めました 家族との食事の前に 感謝のお祈りを捧げることにしたんです お祈りという言い方は 正しくありません 私は不可知論の立場なので 神への感謝というより 食事が私に届くまでに 関わった人々への感謝です こんな感謝の言葉でした 「このトマトを育てた農家の方々— トマトをお店まで運んでくれた トラックの運転手さん— トマトのお会計をしてくれた 店員さんに感謝します」

これはいい習慣だと思っていました ある日10歳の息子に言われました 「ねぇパパ その人たち ここにいないよ パパの言葉は聞こえてない 本当に感謝してるなら直接言いなよ」 面白いアイディアだと思いました

(笑)

私はライターなので 本を書くために冒険するのが好きで 探求の旅に出ます ですから息子の挑戦を受けて立ちました 簡単そうに思えました さらにシンプルにするために 1つの食品に絞ることにしました 私にとって なくてはならないもの 朝のコーヒーです ところが実際には 全然 簡単ではなかったのです

(笑)

この冒険には何か月もかかり 世界中を旅しなければなりませんでした なぜなら いつもは気にかけない 何百もの人々がいなかったら 私の手元にコーヒーは 届かなかったことに気付いたからです まず コーヒー豆をお店まで運んだ 運転手にお礼を言いました でも 運転できるのは 道路があるおかげです だから 道路を舗装した人々に お礼を言いました

(笑)

それから 舗装に使うアスファルトを 作った人々にお礼を言いました そこで気付いたのです 私のコーヒーは 世の中にある他の様々なものと同様に あらゆる業種の 驚くほど多くの人が 力を合わせて初めてできるのです 建築家、生物学者、デザイナー 鉱夫、ヤギ飼い— 本当にあらゆる職業の人々です

私はプロジェクトを こう名付けました 「Thanks a Thousand (本当にありがとう)」です 最終的には千人以上に 感謝の気持ちを伝えたからです とてつもなく大変でしたが 素晴らしい経験でした このプロジェクトを通して 普段 目につく うまくいっていない 3つや4つのことではなく うまくいっている何百ものことに 目を向けるようになったからです また世界が驚くほど密接に 繋がっていることも感じました いくつもの教訓を得ましたが ここでは5点に絞ります

1点目は 視線を上げること 私の感謝の道は 地元のカフェのバリスタから始まりました ニューヨークの ジョー・コーヒーです バリスタの名前はチャング 誰よりも明るい人です 笑顔が素敵で 熱烈なハグをしてくれます しかし彼女でも バリスタは大変な仕事です 危険な状態な人と関わるからです

(笑)

そう 朝のコーヒーを待ちきれない人々です

(笑)

客に怒鳴られて 涙を流すこともあります 9歳の女の子に ホットチョコレートに浮かべた クリームの形が気に食わないと怒られたことも 私はチャングにお礼を言い 彼女も私のお礼に対して お礼をしてくれました そこでやめておきました 永久の感謝ループにしたくなかったので

(笑)

チャングにとって一番辛いのは 人間として扱われないことだそうです みんな 彼女を自販機のように扱います クレジットカードを渡す時も 携帯から視線を上げようともしません 話を聞いていて 自分もそうだと気づきました 私も嫌な客の一人だったんです その瞬間 誓いました 人と関わるときは 2秒間かけて 相手に顔を向け きちんと目を合わせること 人間と向き合っていることを 実感するためです 相手は 家族がいて 夢を持ち 高校時代の恥ずかしい思い出もある 人間なんです その一瞬の関わりは 自分と相手 両方の人間性や幸せにとって すごく大切なことです

2点目は バラの香りをかぐこと それと土や肥料の香りも チャングの次に この男性 エド・カウフマンにお礼を言いました エドはカフェで売る コーヒーを選ぶ仕事をしています 南米やアフリカなど 世界中を歩いて 最高品質の豆を探します 私はエドにお礼を言い お返しに プロがコーヒーを味わう時の 方法を教えてくれました これが なかなかの儀式なんです まずコーヒーをスプーンですくい 大きな音を立てながらすすります マンガみたいに大きな音で これは口の中 全体に 霧状のコーヒーを行き渡らせるためです 味蕾は頰の内側や 口蓋にもあるので 全体で味わう必要があるんです エドはこのように飲み そして 表情を明るくして こう言いました 「このコーヒーは ハニークリスプ種のリンゴ それから土と メープルシロップの風味があるね」 私もひとすすりして 言いました 「私が感じるのは コーヒーの味だ

(笑)

コーヒーらしい味がする」

(笑)

でもエドの影響を受けて 私もコーヒーを5秒間 舌の上に留まらせるようにしました 忙しいのは誰だって同じですが 5秒くらいはとれます 舌触りや酸度や甘みについて じっくり考えるんです 他の食べ物でも 同じような味わい方をはじめました 味わうことは感謝に直結します 心理学者によると 感謝とは 少しだけ時間をとって それを できるだけ長く保つこと そして時間の流れを 遅くすることだそうです 人生がブレた映像みたいに過ぎ去ることも よくありますが そうならないように

3点目は 身の回りにある 隠れた傑作に気付くことです 今年 最も印象的だった会話は コーヒーカップのフタを 発明した人との会話です それまでは コーヒーカップのフタについて 考えることなんて ほぼ皆無でした でも 発明家のダグ・フレミングと 話すのはとても楽しかったです とても熱く語ってくれたからです このフタのために流した血と汗と涙は 私の想像を絶するものでした ダメなフタはコーヒーを 台無しにするそうです コーヒーを楽しむ時に非常に重要な 香りを遮ってしまいかねません 彼はとても革新的です まるでフタ界のイーロン・マスクです

(笑)

彼がデザインしたこのフタには 逆さの六角形があり そこに鼻を近ずけて 香りを最大限楽しむことができます 彼と話すのは楽しかったうえに 見渡せば 数え切れないほど 傑作があることに気づかされました 誰も意識しませんが 例えば 私のデスクランプのスイッチには 親指にぴったりフィットする くぼみがあります よく出来ていると その背後にあるプロセスは ほとんど見えないんです でも そこに注目すると 畏敬の念が湧いてきて 人生を豊かにできるんです

4点目は 実際に感じるまでフリをすること プロジェクトの終盤で 私は感謝熱に浮かされていました 起きてから数時間は メールを書いたり 手紙を送ったり 電話をかけたり 相手に会ったりして 私のコーヒーに関わってくれた お礼を伝えました 正直に言うと それほど乗り気でない人もいて こんな感じでした 「一体 何なんだ? マルチ商法か? 何が欲しいんだ?何を売ってる?」 でも大半の人は 驚くほど感動してくれました コーヒーが保管される倉庫で 害虫駆除を担当する女性に 電話をしました 私は言いました 「おかしな話と思われるかもしれませんが 私のコーヒーを虫から守ってくれる お礼が言いたくて」 彼女は「確かに変だけど とても嬉しい」と言ってくれました 迷惑電話と正反対でした この電話は彼女だけでなく 私にも影響を与えました 私は毎朝いつも 寝起きは不機嫌なのですが 無理をして 感謝の手紙を一通書き さらに次 さらに次と書いていって そのうちに気づいたんです 感謝しているように振る舞えば やがて本当に感謝の気持ちが 芽生えるということに 私たちの心を変化させる 行動の力は本当にすごいものです 私たちは思考が行動を変えると 思いがちですが 行動が思考を変えることだって よくあるんです

最後にお伝えしたいことは 「六次の感謝」を実践することです この感謝の道を辿っていると どの場所でも どこに停まろうと 感謝すべき人が新たに100人でてきます 私はコーヒー豆農家にお礼を言いに コロンビアまで行きました 農場は山中の小さな町にあり カーブだらけの 崖っぷちの道路を行くことになりました すると急カーブを曲がるたびに 運転手が十字を切るんです 私は言いました 「十字を切ってくれてありがとう—

(笑)

ただ ハンドルは ちゃんと握ってくれるかい? すごく怖いよ」 でも 何とか着きました そこで農家の グアニーゾ兄弟に会いました 小さな農場で おいしいコーヒーを作っています フェアトレード以上の値段で 売れるそうです コーヒーの栽培の仕方を見せてくれました 豆は コーヒー・チェリーという 果実の中にあります 兄弟に感謝し 彼らは「他の大勢がいなかったら コーヒー作りはできなかった」と言いました 豆から果肉を取る機械は ブラジルで作られ 農園を走り回るトラックは 世界中で作られた部品で できています 実はアメリカからコロンビアへ 鉄も輸出されています そこで私はインディアナに行き 鉄の生産者にお礼を言いました それで強く感じたんです 1杯のコーヒーを 作るために必要なのは 村1つでは足りなくて 世界なんだって

今のグローバル経済や グローバル化には 欠点がたくさんあります でも長期的な利点は すごく大きいし 本物の進歩が起きていると思います 過去50年 私たちは いろいろな面で向上しました 世界で貧困が減りつつあります だからこそ 私たちは 自分たちだけの世界に 引きこもりたいという誘惑に 抵抗すべきなんです 孤立主義や自国至上主義の台頭に 抵抗すべきなんです

これが最後の話につながります 感謝を実践のきっかけにすることです 感謝には欠点があるのではと 心配する人もいます 感謝ばかりしていると 現状に満足してしまって 「すべて最高 本当にありがたい」 という気持ちになりやしないかと でも実際に起こるのは逆のことです 調査によると 感謝すればするほど 他者を助けようとするようになります 自分の調子が悪いと 自分にしか集中できません 一方 感謝されると 他の誰かに手を差し伸べたくなるんです 私自身 これを経験しました もちろん 私はマザー・テレサではないし 自己中心的な時が まだ かなり多いです ただこの冒険の前よりは マシになっています なぜなら この冒険を通して サプライチェーンの途中で 搾取が行われていることに気付いたからです 私にとって当たり前のものでも 世界中 何百万人もの人々の 手には届かないことに気づきました

例えば水です コーヒーは98.8% 水です だからニューヨークの貯水池で働いて 私に水を届けてくれる数百人と 蛇口をひねれば 安全な水が使えるという奇跡に お礼を言いに行くべきだと思いました 世界中の何百万人という人々には そんな贅沢は与えられず 何時間も歩かないと 安全な水が手に入らないのですから そして 人々が水を得る支援をするため 自分に何ができるか考えるようになり 調べて「Dispensers for Safe Water (安全な水を施す会)」という 素晴らしい団体を見つけ 参加するようになりました ノーベル賞を取れるとは 思っていませんが ほんの小さな一歩 ちょっとした実践です それも すべて感謝のおかげです だから私は 周りの人や 友人や家族に 自分なりの感謝の道を 辿るように勧めるのです なぜなら それは人生を変える 経験だからです

コーヒーでなくても 何でもいい 靴下や電球でもいいのです 世界を旅しなくたって ちょっとした感謝の印は表せます 目を合わせたり 好きなロゴを デザインした人に感謝の手紙を書いたり これは考え方の問題です 私たちのあらゆる小さな行為に 大勢の人が関わっていることに気付いてください そして忘れないでください あなたが今 座っている椅子の布地を 誰かが工場で作っていること— 誰かが鉱山に入って銅を掘り このマイクを作れたおかげで 私が皆さんに感謝の言葉を 伝えられたことを 私の話を聞いてくれて 本当にありがとう

(拍手)

(歓声)

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このプレゼンテーションについて

作家A・J・ジェイコブズは、本質的にはシンプルに見えるアイディアの探求に乗り出しました。彼が朝飲む一杯のコーヒーに携わったすべての人に、直接お礼を言うのです。千回以上「ありがとう」と言い終えて、ジェイコブズは探求に伴い世界中を旅したことを振り返ります。そして、旅の途中で学んだ人生を変えるような教訓を教えてくれます。ジェイコブズは言います。「いつもは気にかけない何百もの人々がいなかったら、私の手元にコーヒーは届かなかったことに気付いたんです。」

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