人はなぜ怒るのか そして怒りはなぜ健全なのか(13:06)

ライアン・マーティン(Ryan Martin)
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対訳テキスト
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友達から こんなメッセージが 来たとします 「ありえないことが起きた マジふざけんなっての!」 いちおう友達として 詳しく話を聞くと スポーツジムや職場や 前の晩のデートでのことを 話しはじめます あなたは話を聞き 怒りの理由を 理解しようとします そこまで怒ることなのか 密かに疑問に思うかもしれません

(笑)

助言しようとするかもしれません こういうことを 私は毎日しています 怒りを研究するのが仕事だからです 職業上 勤務中は たくさんの時間を費し— それどころか プライベートでも— 人はなぜ怒るのかを研究しています 人は怒っているとき どんなことを考え 何をするのか 乱闘を始めるのか モノに当たるのか ネットに全部大文字で書き込んで 八つ当たりするのか

(笑)

また 想像つくと思いますが 人は私の仕事について知ると 自分自身の怒りや 腹が立ったことについて 話したがります セラピストが必要だからではなく― そういうケースもたまにありますが― 怒りは万国共通だからに 他なりません 誰でも感じるものですし 誰でも理解できるものです 生後数ヶ月の頃に すでにあった感情です 欲求が満たされないと 泣いて訴えたでしょう 「パパ ガラガラを取ってくれないって 何のつもり? よこせっての!」

(笑)

怒りは 10代にかけても続きます 私の場合 母が証人です ごめんね お母さん そして最期の最期まで 感じるものです 事実 怒りは私たちの人生で 一番辛いときにも起こります 嘆きや悲しみの一環として 自然と そして当然感じるものです ひいては 人生最高のときでさえ 起こるものです 結婚や休暇のような 特別な節目においても ありふれた不満のせいで 台無しになったりします 悪天候に交通機関の遅れ 起こった瞬間は ものすごく嫌ですが いったん何とかなれば 記憶に残らないものです

色々な人と 怒りについて たくさん話をしますが その会話を通じて わかってきたのは 多くの人が― 会場の皆さんも きっとそうでしょうが― 怒りを問題だと みなしていることです 人生を振り回されるとか 人間関係を壊されるとか 怖いとさえ感じるからかもしれません どれも気持ちはわかりますが 私の観点は少し違います そして今日は 怒りについて とても大事なことをお教えします 怒りは人生において 健全な力であり 力強い味方だということです 怒りを感じるのは 良いことであり 必要なことなのです

以上を理解するには 少し話を戻して そもそも なぜ人は怒るのかという 話をしなければなりません 大部分はジェリー・ディッフェンバッカー博士 という怒り研究家が 1996年に書いた本に登場する— たちの悪いタイプの怒りの対処方法が 元になっています たいていの人 そして 皆さんにとっても 怒りの仕組みはごく単純です 刺激されると怒るのだ と これは人々が使う言葉の端々に表れます 「こういうノロノロ運転 本当イラつくんだよな」 「あいつ また牛乳出しっぱなしでさ 頭に来たよ」 極めつけは 「私は怒りで困ってはいない 周りが私の気に障ることを してこなきゃいいだけだ」

(笑)

この種の刺激についての 理解を深めるために 友人 同僚 さらには家族も含め たくさんの人に話を聞きました 「どんなことに カチンと来るのか どんなことで怒るのか」 ところで ちょうどいい機会だから 言っておきますが この仕事をしてて 得したと思うことの1つが 「同僚の神経を逆なでする方法 完全リスト」を 10年以上かけて作り上げたこと いつか役に立つでしょうから

(笑)

とにかく 興味深い回答が 集まりました こんな感じです 「応援してるスポーツチームが負けたとき」 「他人がものを噛む音がうるさいとき」 ちなみに 信じられないくらい よくある答えです 「歩くのが遅すぎる人」 これは私も同感です そして外せないのが 「環状交差点」

(笑)

冗談抜きで 環状交差点ほど 運転していてイラつく場所はありません

(笑)

どうでもいいなんて言えない 原因もあり 人種差別や性差別やいじめや 環境破壊といった 人類全体が直面する地球規模の問題に 憤るという人もいます しかし 時に 非常に特殊な むしろ珍答ともいえるものも 「シャツが直線状に濡れたときだね 公衆トイレで洗面台に うっかりもたれかかったときのアレ」

(笑)

確かに気持ち悪いですよねぇ

(笑)

「USBメモリだよ 入れる方向は2通りしかないのに なぜか必ず3回目でないと入らない」

(笑)

事の大小や 一般的な理由か 特殊な理由かにかかわらず こういった例を並べて検討すると 共通点を導き出すことができます 人が怒りを覚えるのは 不快な状況や 不公平に感じる状況 目標達成が妨げられる状況 避けられたかもしれない状況 自分が無力に感じる状況 どれも怒りの元です しかし そこで覚える感情は 怒りだけに限りませんよね 怒りは単独では起こりません 私たちが怒りを感じるとき 恐怖や悲しみなど 他の様々な感情を 伴うことがあります

ただし 怒りとは 少なくとも 刺激単体が 引き起こすものではありません 当然ですね でないと 誰もが同じ理由で 腹を立てないといけなくなります 腹が立つ理由は 私とあなたでは異なります ということは 他にも何かあるはずです それが何かというと その人が刺激を受けた瞬間にしていることや 感じていることが影響するそうです 「怒る前の段階」といって 空腹だったり 疲れていたり 何か心配があったり 時間に遅れそうになっていたり こういう状態のときは その分だけ 刺激を強く感じるのです でも 一番の鍵になるのは 刺激そのものでも 「怒る前の段階」でもありません 刺激をどう解釈するか 自分の境遇の中で どう受け取るか なのです

人は 自分に何かが起きると まず 判断を下します 良いことか悪いことか 公平か不公平か 非難したり 罰すべきことか これが「一次評価」です 出来事そのものを査定します 自らの境遇において 何を意味するのかを判断し 次に どの程度ひどいことか 判断します これが「二次評価」です 「これまでの人生最悪 と言うべき出来事か 我慢できることか」 という判断です

例えば 車でどこかに 向かっていると想像してください 先に言っておきますが 私が悪い事をする天才だとして あなたを怒らせる状況を 仕立てあげたいなら ほぼ間違いなく 車の運転中を選びます

(笑)

本当のことです どこかへ向かっていることが 大前提になるので 渋滞 他の車 道路工事など 途中で出くわす ありとあらゆることが 目的達成を阻むものに感じるでしょう 法で定められた交通ルールや 暗黙のルールまでが 日常的に 目の前で 破られています 通常は何事もなく済みます ルールを破っているのは 二度と会うこともない 匿名の誰かです 怒りの矛先を向けるのには もってこいです

(笑)

とにかく あなたは車の運転中 よって怒る準備は万端 そんなとき すぐ前の車が 法定速度よりずいぶん遅く走っています イライラするのは ノロノロ運転の理由を こちらは知りようがないからです これが「一次評価」です 状況を見て「ひどいな 非難に値する」と判断します しかし続いて 「別に急いでないし どうでもいいか」と 判断するかもしれません これが「二次評価」です 腹は立ちません

しかし これが就職面接に 向かう途中だったとしましょう 起こっていることは同じですね 一次評価の結果は変わりません 非難に値するひどいことだと でも あなた自身の余裕が 確実に違います 一転して 今度は 面接に遅れそうだからです 一転して 理想の仕事が遠のいていきます ガンガン稼げるはずの仕事が

(笑)

理想の仕事が 誰かに取られてしまい 自分は文無しになってしまう 貧乏生活が待ち受けている もう諦めて 引き返そうか 実家に戻ろうかな

(笑)

それもこれも 目の前のあの人のせいだ いや 人じゃない 鬼だ

(笑)

俺の人生を台無しにするためだけに やって来た鬼だ と

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さて この思考の流れを 「破局的思考」といいます 物事を最悪の方向に解釈することです 怒りが慢性化した人に 最もよくあるタイプの考え方です 他にも色々あります 「因果関係の誤解」 怒っている人は理由を 無関係なものに転嫁する傾向があり しかも相手は人に限りません モノのせいにすることもあります バカらしいと思う人 車の鍵が見つからない時 こんなことを言ったんじゃないですか 「鍵はどこ行ったんだ?」 鍵は自分で勝手に 逃げ出すものですからね

(笑)

過度に一般化する傾向もあります 「いつも」「絶対」「毎回」が口癖です 「私っていつもこんな目に遭う」 「欲しいものは絶対手に入らない」 「ここに来る途中 信号という信号が赤だった」 他人より自分の欲求を優先させる 「わがまま」もあります 「あいつがノロノロ運転してる 理由なんか知るか 俺が面接に間に合うように スピード上げるか 道を譲れよな」 おしまいは 「怒りをかき立てるレッテル貼り」 他人をバカ アホ 鬼などと呼ばわり この場では口に出してはいけない言葉が 軒並み飛び出すことも

(笑)

長い間 心理学では このような思考を 「認知のゆがみ」「理不尽な思い込み」 などと呼んできました 確かに 理不尽なものもあります まあ ほとんどの場合そうです しかし 時には 筋の通った怒りもあります 世の中には不公平や 残忍で利己的な人が 存在しますし ひどい扱いを受けたときは 怒っていいどころか 怒ることが正しいのです

今日のトークから 憶えて帰ってほしいことを1つ挙げるなら 怒りという感情が 私たちに備わっているのは 私たちの祖先が 人間になる前も なった後も 怒りのおかげで 進化の上で優位に立てたからです 恐怖が危険を知らせてくれるように 怒りは不当な物事の存在を 知らせてくれます もうこれ以上は耐えられないという 脳からのメッセージなのです さらに怒りは 不当な物事に 立ち向かう原動力にもなります ここ最近 腹を立てた時のことを 思い出してください 心拍数が上がり 呼吸が荒くなり 汗をかき始めたでしょう これは交感神経の働きです 「闘争・逃走本能」としても 知られており これが作動することで 対応する力が湧くのです 以上は自覚のある反応ですが 同時に 消化も遅くなります エネルギーを節約するためです だから口の中が乾くのです 手足の隅々に血液を送るために 血管も広がります だから顔が赤くなるのです どれも 現代の人類に受け継がれた 複雑な生理反応の一部です 人類の祖先が 厳しい大自然の力に 立ち向かう際に 役立ってきたからです

問題は 祖先たちが 怒りを処理するために 行ってきたような 肉体を使った戦いが 現代では合理的でも 適切でもないことです カッとなるたびにゴルフクラブを 振り回すわけにはいきません

(笑)

でも いいこともあります 人間になる前の祖先たちには なかった能力があるのです それは感情を制御する能力です 手を出したくなっても 自分を抑えて 怒りを 別のもっと生産的な何かに 向けることができます 怒りが話題にのぼると どうすれば怒らずに済むか という話になりがちです 落ち着きなさい リラックスしなさい 気にするな などと言われます どれも 怒りは悪であり 怒りを感じるのは 悪いことだという前提に立っています

私はそれよりも 怒りを 動機づけと考えたいと思います 喉が渇けば 水を一杯飲みたくなり お腹が空けば 一口食べたくなるように 怒りは不当な物事に対処する 動機にもなるのです 何に対して怒ろうかと 頭をひねる必要はありません 冒頭の話に戻ると 確かに 怒る価値もないような くだらないこともありますが

人種差別 性差別 いじめ 環境破壊などは 実際に存在しますし 許しがたいことです このような問題を解決するには まず怒りを感じ その怒りを元に 戦うしかありません 戦う際には 攻撃性も 敵意も暴力も不要です 怒りを表す方法は無限にあります 抗議運動をしたり 編集部に手紙を書いたり 社会運動に寄付や ボランティアで貢献したり アートや文学を創作したり 詩作や作曲をしてもいいし お互いに相手を思いやる 共同体を作って 非道な行為を許容しない というやり方もあります

この次 怒りが わき起こってきたときは 抑え込もうとせずに その怒りが教えてくれていることに 意識を向けて 前向きで生産的な何かに 向けてみてください

ありがとうございました

(拍手)

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このプレゼンテーションについて

怒り研究家のライアン・マーティンが、人はなぜ怒るのかをこれまで研究してきた経験に基づき、怒りが起こる背景にある認知プロセス、健全な怒りであればむしろ有用であるのはなぜかを解説します。 「怒りという感情が私たちに備わっているのは、私たちの祖先が、人間になる前も、なった後も、怒りのおかげで進化の上で優位に立てたからです」

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