仕事のやり方を変えるために、何を捨てる覚悟があるか?(13:11)

マーティン・ダノサストロ(Martin Danoesastro)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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鳥が群れをなして飛ぶ様子を ご覧になったことがあるでしょうか? 何千もの動物が 完全に一体となって飛ぶのです 心惹かれますよね ここで注目したいのは こうした鳥の動きは 1羽のリーダーに皆が追従していたのでは なし得ないということです 追従する形では 群れとしての反応が 遅くなりすぎます 科学者によれば こうした群れは いくつかの簡単なルールにより 全体の整合性を取っています ルールがあることで 各個体が自律して決断を下しながらも 群れとして飛行の一体性も 維持されるというのです このような形で全体の整合性を取ることで 個々の自律性が保たれ その自律性のお陰で 群れは迅速かつ柔軟に動けるのです

さて このことが 私たちと 何の関係があるのでしょう? この事例が示すことこそ 私が 今の仕事のやり方で 一番変えないといけない と信じていることなのです 世界の動きはどんどん加速し より複雑化しています 私たちは 仕事のやり方を 改める必要があります 目的を中心に据えて整合性を取り 官僚主義を排除し 本当の意味で皆が 早く決断できるようにするのです ただ問題は それを実現するために 何を捨てる覚悟があるかです

数年前に 私が仕事をしていた銀行は デジタル変革に乗り出したい と考えており 商品を よりシンプルで分かりやすく 時代に合ったものにしようとしていました 銀行の内部事情をご存知でない方も いるかもしれませんので 典型的な昔ながらの銀行がどんな様子か お話ししましょう スーツ姿の人がたくさんいて エレベーターに乗り込んで 自分の部署に向かいます そして 営業担当は営業担当と 技術者は技術者と といった具合に座ります 会議には20人もの人が集まり そこでは何も決まりません 優れたアイデア? あったとしても 大量のパワーポイントに埋もれています そして 部門間での引継ぎが 延々と行われ 何をするにも 途方もない時間がかかります ですから この銀行は 変革にあたっては 仕事の仕方を抜本的に変えて 商品化のスピードを上げる必要がある と考えたのです でも どうやって?

そのヒントを得るために 私たちは より革新的と思われる会社を いくつか見てまわることにしました GoogleやNetflix、 Spotify、Zapposなどです そのうちの1社で 廊下を歩いていた時のことを覚えています 2014年12月 私たち 経営コンサルタント1名と 銀行員数名は 場違いなところに来た よそ者のように 感じていました そこはビーズクッションや フード付きトレーナー 頭の切れる独創的な社員で あふれていました 会社組織はどうなっているのか 私たちは尋ねました 組織図が出てくるもの と思っていたところ 彼らが出してきたのは 私たちが見たことのないような図でした 「班」「支部」「族」といった 面白い名前が付けられた その図で 組織について説明を受けました

私たちは何とか自分の世界に 当てはめて考えようと質問を重ねました 「部下は何人いますか?」

「ケースバイケースです」

「上司は誰ですか?」

「ケースバイケースです」

「業務の優先順位は誰が決めるのですか?」

「ケースバイケースです」

私たちがどれだけ驚いたことか 組織の基本原理とも言うべきことを いくつか聞き出そうとしたのに 「ケースバイケース」というのです

でも そこで1日を過ごすうち 彼らのやり方が よく分かるようになりました 彼らは 小規模で自律的なチームにこそ 力があると考えていたのです 小さなスタートアップ企業のようなチームで チームには それぞれ 商品担当やIT技術者がいて チームで アイデアを設計し組立て 顧客への検証も実施することができたのです それも 社内の他の助けを借りずにです 部門間の引継ぎも必要ありませんでした チームの中に 必要なスキルが 全てそろっていたからです

そして その日の終わりに 皆で集まって それまでの気付きについて 話し合いました 彼らのやり方を 気に入り始めた私たちは すでに このアイデアのいくつかを 銀行に取り入れる方法を考え始めていました すると 受け入れ側の1人で 1日中 黙っていた男性が 急にこう言い出しました 「私たちのやり方を気に入られたようですが 1つ質問があります 何を捨てる覚悟がありますか?」

何を捨てる覚悟があるか? その場で答えは出せませんでしたが 彼の言うことはもっともだと思いました 変化とは 新しいものを 取り入れるだけではなく 同時に 古いものの一部を 捨てることでもあるのです さて ここ5年以上 世界中の会社と協働して 各社での仕事のやり方を 変えようとしてきました 当然 どの会社にも うちでは そのやり方は通用しないと 懐疑的に思う人はいるものです 「我々の商品はもっと複雑なんだ」とか 「彼らのところと違って うちのITシステムは古いんだ」とか 「うちの業界では 規制があるから無理だ」とか

でも この銀行でも その後に仕事をした 他の会社でも 変えることはできました 1年も経たないうちに マーケティングや商品企画 流通やITの間に昔からあった壁を 取り払いました 3千人の従業員は 350の部門横断的なチームに再編されました 商品担当は商品担当と 技術者は技術者と座るのではなく 今や 商品担当と技術者が 同じチームのメンバーなのです 誰でも 口座開設を担うチームや モバイルアプリのチームなど さまざまなチームの メンバーになりえます 新しい組織の立ち上げ日に 初めて握手する人たちもいましたが 実は それまでお互い 2分もあれば行ける場所に座っていたのに 過去10年間 メールや進捗報告を 送り合っていたのでした こんな声も上がったものです 「あー 君だったのか 俺がいつも督促していたのは」

(笑)

でも今は 毎日コーヒーを 一緒に楽しむ仲です 商品担当がアイデアを思いつけば ただ それを話して 隣に座っている技術者から 意見をもらえば良いのです すぐに顧客相手の検証に 移すこともできます 引継ぎも パワーポイントも お役所仕事もなし ただ やるべきことを すれば良いのです

でも そこに至るのは 簡単ではありません やはり ここで 「何を捨てる覚悟があるか?」を 問わねばならないのです 自律的な意思決定には 部門横断的なチームが必要です 決定にあたっては 組織内で 上へ下へと決裁を取りに走るのではなく チーム自身で決めてほしいのです でも そのためには チーム内に その決定に必要なスキルや専門性が そろっている必要があります ここで 難しいトレードオフが出てきます 異なる建物、都市 はたまた異なる国で働く人たちを 物理的に再配置できるのか? あるいは ビデオ会議システムの拡充に 投資すべきか? 仕事のやり方について どうやってチーム間で 一貫性を持たせるか? マネジメントの基盤のようなものが まだ必要なのです

こうした組織構造や業務プロセス 手続きを変えることは どれも簡単ではありません でも 結局のところ 一番 変えるのが難しいのは 自らの行動だと気づきました 説明させてください

チームに 小さなスタートアップ企業のような 俊敏さ 柔軟性 独創性を持たせるには 権限を与えて自律させる必要があります つまり リーダーが部下に 何を いつ どうするか 命令していては 立ち行かないのです マイクロマネージャーは要りません その代わり 社員1人1人が リーダーにならないといけません 肩書きなど関係ありません 全員が立ち上がって 主導するわけです

とはいえ チームがそれぞれ バラバラの方向に 走ったのでは困ります それこそ大混乱に陥ります ですから 鳥の群れのごとく 「整合性」と「自律性」が 同時に必要なのです 組織において これを実現するためには 新しい行動が必要で 新しい行動を取り入れる度に 何か古いものを捨てなければ いけません リーダーが確保すべきは 組織にいる1人1人が 「何のため」という 組織全体に関わる目的と 「何を」という全体の優先度を中心に 整合性を取ることです そして チームを自由にして 信頼することで チームが正しく決断し 目的を達成できるようにするのです

整合性を取るには オープンで透明性のある意思疎通が必要です 一方で「情報こそ力なり」と 言われることもあります マネージャーによっては 独占していた情報を皆に共有することで 力を失うと感じる人もいるのです また マネージャーだけではなく チーム間でも オープンで 透明性のある意思疎通が必要です こうした会社では チームはたいてい短距離走型で仕事し 疾走が終わる度に 集まって報告会を行い 自らの成果を共有し 透明性を保つのです そして毎日 チーム全員が 各自の業務について 進捗報告を行います こうした透明性に 人は不快感を覚えることがあります 突然 隠れる場所が なくなってしまうのですから やることなすこと 皆から丸見えになるのです ですから 整合性を取ることは 簡単ではありませんし 自律性を持たせるのも 明らかに 簡単なことではないのです

別の会社の幹部の1人は かつて自分がいかに上手く 進捗把握していたかをよく語りますが 今 仕事の進み具合を知ろうと思ったら 進捗報告書を読むのではなく チームがいる現場に足を運び 集まりに参加する必要があります そして 何をするか 指示を与えるのではなく どうサポートできるかを考えます 進捗ばかり追いかけていた人にとって これは抜本的な変化です でもその幹部はこう言いました 「昔のやり方のとき 私が統括しているなど幻想だった 現実には結局 多くのプロジェクトが 遅延し予算超過に陥ってしまった 今は透明性がもっと高くなったので 必要に応じて 早めに軌道修正を かけられるんだ」

中間管理職も 変わる必要があります まず 引継ぎやパワーポイントは 要りませんから 中間管理職もそれほど必要なくなります 昔のやり方では 頭を使う人と 汗をかく人とに分かれていました 従業員はただ命令に従うだけでした でも 今の中間管理職は ただ部下を管理するだけではなく プレイングマネージャーとなることが 期待されます 想像してください これまで10年間ずっと 人に指示ばかりしていた人が 再び自分でやることを 期待されているんです

明らかに このやり方は 万人向けではなく 優秀な人も会社を去ります でも 結果として 新しい文化が生まれ 序列構造が弱くなってきます これら全てを成し遂げるのは 大変なことです でも その価値はあります 私が仕事をしてきた会社では 年に数回しか 新しい商品を投入していませんでしたが 今や 数週間ごとに 新商品の発表をしています しかも 引継ぎやお役所仕事がなくなり 組織全体がより効率的になっています そして もし今 これらの会社の廊下を 歩いたならば 新たな活力を感じることでしょう とても大きなスタートアップ企業の廊下を 歩いているような感じです

公平のために言うと これらの会社は まだ勝利宣言できていません でも この新しいやり方にして 少なくとも 変化に際して より一層周到に 対応できるようになっています 世界の動きはスピードを上げ 複雑さを増しており 仕事のやり方を 立ち上げ直さなければいけません それを変えるうえで 一番難しいのは 組織構造でも 業務プロセスでも 手続きでもなければ 上層部が責任を負えばよい ということでもありません 組織に所属する者全てが リーダーとなり 変化を受け入れることです 皆が主導して変えていく必要があります

ですから問題は 何を捨てる覚悟があるのか? ありがとうございました (拍手)

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このプレゼンテーションについて

俊敏さや柔軟性、独創性を兼ね備えたチームを作って、凝り固まった労働文化に挑むには、何が必要でしょうか? 変革を専門とするマーティン・ダノサストロは、全ては1つの問いかけから始まると言います。それは「何を捨てる覚悟があるか」です。どのような組織にすれば、あらゆる階層の人が速やかに意思決定し、変化に対応できるようになるか、イノベーションの先進企業と後進企業から学んだことを紹介します。

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