古代岩石が変える生命の起源説(09:30)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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地球の年齢は46億歳です でも人間の寿命は 100年にも満たないことが多いです では 遠い昔の話など 日常生活には関係なさそうなのに 地球の歴史を知りたいと 思うのはなぜでしょうか? ご存じの通り 私たちの知る限り 地球は太陽系で唯一 生命が誕生した惑星です 唯一 人類の生命維持を可能にする 仕組みを有しています
では なぜ地球だったのか? 珍しいことに 地球には 地殻変動が見られ 表面に液体水をたたえ 酸素が豊富な大気があるのは ご存じの通りです しかし 常にそうであったわけではなく このことは 地球の惑星としての 進化の重要な瞬間を記録している 古代の岩石から分かっています こうした古代の岩石を観察するのに 最適な場所のひとつが オーストラリア西部のピルバラです ここで見られる岩石は 35億年前のもので 地球でも最古の生物を 示すものが含まれています
古生物といって思い浮かべるのは ステゴサウルスだとか 陸地に上がろうとする魚 かもしれませんが 私の言う古生物というのは バクテリアのような微生物のことです 微生物の化石は層状構造の岩石に 保存されていることが多く ストロマトライトと呼ばれます 最初の30億年間の地球上の生命について 目にする記録といえば こうした単純な生命形態の化石が ほとんどです 化石として残っている人類の記録は さかのぼっても せいぜい数十万年です 化石の記録から バクテリアのような生命体が 繁栄の足がかりを得たのは 35億年から40億年前だと 分かっています これより古い岩石は 破壊されてしまったか 地殻変動によって 大きく変形してしまったかです ですから 残された謎は いつどのようにして 地球上に生命が誕生したかなのです こちらは 火山によって作られた ピルバラに古くからある地形です この場所での私たちの研究が 生命の起源の謎に迫る手がかりを 探り当てるとは 知る由もありませんでした
ここでの初めての フィールドワークで 1週間にわたるマッピングプロジェクトが 終わりに近づいた頃 なにやら特別なものに 行き当たりました ただのしわしわで古い岩に 見えるものは 実は ストロマトライトです この隆起部分の中央には 子供の手のひらくらいの大きさの 珍しい小さな岩がありました この岩を顕微鏡で調べるまでに 半年ほどかかり 当時 指導を受けていた内の1人の マルコム・ウォルターから 間欠石に似ているのではと 示唆されました 間欠石というのは 温泉周辺でしか生成されない岩石です
間欠石の重要性を お伝えするためには 数百年さかのぼって お話ししなければなりません 1871年に 友人の ジョセフ・フッカーに宛てた手紙で チャールズ・ダーウィンは こう書きました 「生命が温かい泉で 誕生したとしたらどうだろう 様々な化学物質が そこから さらに複雑な変化を 遂げたのだとしたら?」
「温かい泉」というのは 温泉のことですね このような環境下では 温泉に 地中の岩石に含まれる鉱物が 溶け込んでいます この水溶液が 有機化合物と混ざり合うと いわば化学工場のような 場所になるのです ここでは単純な細胞構造が 生まれうることが研究で示されており これが生命の最初の一歩に なりうるのです
ダーウィンの手紙から 100年後に 深海熱水噴出孔が 海中で発見されました これらも化学工場のようなものです こちらの深海熱水噴出孔は トンガの火山弧にあるもので 太平洋の水深1,100メートルに 位置しています 煙突のような部分から もくもくと湧き出る黒い煙のようなものも 鉱物を豊富に含んだ液体で バクテリアの養分となるものです 深海熱水噴出孔の発見以来 生命が誕生したのは 海中であると考えられてきました これには妥当な根拠があります 深海熱水噴出孔は 古代岩石によく見られるもので 初期の地球は 全体が海で覆われており ほとんど地表がなかったと 考えられているのです 初期の地球に深海熱水噴出孔が 多く見られた可能性は 生命が誕生したのは 海であるという説に よく当てはまります
とはいうものの― ピルバラでの私たちの研究によって 新たな視点が生まれ また実証されています 3年かかりましたが 私たちは ついにこの岩が 間欠石であると 明らかにできたのです この結論によって示されたのは 35億年前に ピルバラの火山に 温泉があったということだけでなく 陸上の温泉に 生命が存在したという証拠が 地球の地質記録上 30億年もさかのぼれると いうことでした ですから 地質学的な観点から言うと ダーウィンの唱えた「温かい泉」が 妥当な生命の起源説になりえるのです
もちろん 地球上でいかに 生命が誕生したかは議論の余地があり それは これからも 変わらないでしょう ですが 生命が繁栄したことは確かです 様々に進化を遂げて いまだかつてなく 複雑になっています 最終的に 人類の時代に達し 人類は自らの存在を 探求し始め 地球外の生命を探し始めました 人類を待ち受けている共同体が 宇宙のどこかにあるのか それとも 我々しかいないのか?
この謎への手がかりもまた 古代の岩石の記録にあります 25億年ほど前 バクテリアが酸素を 生成し始めたという記録があります 現在の植物のようにです 地質学者らは この後に続く時代を 大酸化イベントと呼びます これは縞状鉄鉱床という 岩石により示されています その多くは何百メートルもの 岩石の層になって オーストラリア西部の カリジニ国立公園の中を 通っている渓谷に 露出しています 空気中に酸素が生まれたことで 地球で2つの大きな変化が起きました
まず 複雑な生物が 進化できるようになりました 生物が大きく複雑になるには 酸素が必要なのです それから オゾン層もできました このおかげで現代の生物は B領域紫外線(UV-B)の 有害な影響から守られています 皮肉なことに 微生物のおかげで 複雑な生物が生まれることとなり 端的に言うと 30億年にわたる 地球の支配を譲り渡したのです 現在では 人間は 複雑な生物の化石を採掘して 燃料としています これにより膨大な量の二酸化炭素が 大気中に放たれて 私たちの先祖の微生物のように 私たちも地球に大きな変化を もたらしつつあります この影響により 地球温暖化がもたらされました
残念ながら ここでの皮肉な結末は 人類の絶滅にもなりかねません ですから 地球外の生命に 到達することができないのは 知的生命体が どこかにいたとしても 進化を遂げてしまうと 自ら絶滅の道を たどるからなのかもしれません
岩石に話すことができたなら こう言うのではないかと思います 「地球上の生命は貴重なのだ」と 40億年もの時間をかけて 生命と地球が 繊細で複雑な進化を 共に遂げてきたことの 産物なのですから その中で人類は最後の ほんの少ししか担っていません 皆さんは この事実を 指針や予測とすることもできますし 宇宙の片隅で人類がこれほど孤独なことの 説明とすることもできるでしょう いずれにせよ なんらかの視点を 得るために使ってください 皆さんが「故郷」と呼ぶこの地球で 後に残したい遺産についての 視点を得るためにです
ありがとうございました
(拍手)
正確には、いつどこで地球上に生命が誕生したのか? 科学者らは長い間、生命は30億年前に海で生まれたのだと考えてきました。そこに天文生物学者のタラ・ジョキッチと彼女の率いるチームが、オーストラリア西部の砂漠で驚くべき発見をしたのです。火山性の温泉のそばで見つかった古代岩石によって、生命の起源に関する謎についての私たちの理解が、どのように変わろうとしているのでしょうか。