孤独を理解するためのビデオゲーム(12:34)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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皆さんは 孤独だと 感じたことがありますか? 誰かとつながりたいという 衝動に駆られても 本当に連絡を取りたい相手が 誰もいないように思えたことは? 金曜の晩に 誰かと一緒にいたいのに 外出する元気は全くなくて 家で一晩じゅう Netflixを観て ますます独りぼっちだと 感じたことは? 自分がまるでモンスターになって ちゃんとした人間たちの 狭間にいるみたいに感じます これが私にとっての 孤独です
私はアーティストなので アートを通じて感情を分かち合うことで 自分の感情を整理します 感情を誰かと分かち合って 相手がそれを理解し 向こうの感情も分かち合ってくれたら 感情に根差した深いつながりが 築けるのです だからこそ 何百という人に囲まれて 相手を次々に変えたって やっぱり孤独だと 感じることがあるんです さっき言ったような より深いつながりが できていないからです
私はいつでも幸せそうな子どもでした たぶん ほとんどの写真で にっこり笑っているか 周りを笑わせています でもそれも… まあ 今もそうといえばそうですが 私がたくさんの友達の輪に 入っていたのは 10代後半頃に 別の街に引っ越すまでのことでした 初めて働くことになったんです 漫画家として 世界中にわんさかいる 伸び盛りの若者たちと同じように 私は全エネルギーを 仕事に注ぎ込んでいました でも もし1日あたりの 自分のキャパシティのうち90%を 仕事で成功するために費やしたら もちろん すっからかんになって 人生の 他の重要な側面を 何も気にかけたりできません 人間関係なんかです 大人になってから 豊かな友達関係を築くのは ひと仕事です 常に関係を保とうとしなければなりません オープンで 正直でいないといけません 私はそういうのが とても苦しかったんです 私は自分の本当の気持ちを カモフラージュしがちだからです 常に幸せそうに見せたり 他のみんなも幸せな気分に してあげたくて みんなの抱えている問題を 解決してあげようとしたり 私たちの多くはこういうことに 罪悪感をもっていますよね これは自分自身の問題を 考えないようにする楽なやり方だからです でしょ? ね? ね? ね?
(笑)
ということで
ターニングポイントとなったのは 私の心を虐待的に痛めつけてくる相手と 付き合っていた時でした ほんの数年前のことです 彼は私を孤立させ 私はますます独りだと 感じさせられました 人生で最悪の時でしたが 私の目を覚まさせてもくれました それは初めて 私が心の底から 孤独を感じた時だったからです
多くの人たちは自分の感情を アートに込めています とめどなく生み出される本 映画に絵画 音楽 全てアーティストの 本当の感情で満たされています 私もアーティストとして 同じことをしました 私の感情を分かち合ったんです みんなが孤独に対処するのを 助けたいと思いました そう 私のアートを通して 孤独を理解し 真に体験できるように してあげたかったんです それも双方向的な物語 つまり ビデオゲームの形でです
それで私たちのゲーム ― 『Sea of Solitude(孤独の海)』では あなたはケイというキャラクターです あまりにも強い孤独感に苦しんで 彼女の心の中の感情 つまり 怒りや 希望のなさ それから無価値感が 外側に現れ出て 彼女はモンスターになってしまいます このゲーム というかケイは 実際のところ 私の姿で これは苦しい闘いを克服した 私の道のりなんです このゲームの舞台は 実は ケイの心の中です 彼女の涙で洪水の起きた世界を 歩いていきます 天気は 彼女の気分によって 気分の変化に沿って変わります そして ケイが唯一 身につけているもの 唯一の持ち物は バックパックです これは私たちが皆 生涯で背負う 荷物を表しています そしてケイは 自分の感情に きちんと対処する方法を知らないので バックパックはどんどん大きくなり ついには破裂してしまいます そして最終的に彼女は 自分の苦闘を克服することを迫られます
私たちの物語では 様々な孤独の在り方を示しています 社会から排除されるという孤独は 本当によくあります ゲームの中で ケイのきょうだいは 学校でいじめられ とにかく隠れて逃げ出したいと 思っています そこで彼を濃い霧に包まれた 巨大な鳥のモンスターで表現しました プレイヤーは実際に 彼の学校の中を歩いて追体験し 本当にひどい傷つきを 感じることになります それを彼は感じてきていたんです 長い間 彼にしっかりと 耳を傾ける者がいなかったからです でも友達や家族が 話を聴こうとし始めた その瞬間 このような孤独を克服する 最初のステップが作られます
人間関係の中にだって孤独があることも このゲームでは表現しています 両親が子どものためだけに 共に暮らしていて 結局 家族みんなを傷つけたりする そんな孤独です 私たちはプレイヤーを文字通り 争っている両親の間に立たせて その間にいるあなたは 負傷します 両親は娘のケイがそこにいることに 彼女が倒れるまで 気づきもしないのです
メンタルヘルスの問題を通して 孤独を表してもいます ケイのボーイフレンドは うつを患っています 時と場合によっては 自分自身の健康にまず目をやることが 何よりも大事だということを表しています このボーイフレンドは 自分の感情をカモフラージュする傾向もあって 孤高で 輝くように白い狼のように 一見すると見えますが ガールフレンドであるケイと 関わるようになった瞬間 彼のその仮面は剥がれ落ち その下からは黒い犬が現れます うつです
時折 私たちは 顔に笑みを貼りつけて すぐそばで起きている問題に 向き合わずにいます それでは結局 事態が悪くなりかねません 周りの人たちにも影響するし 関係にもダメージが及びます
そしてケイ自身のことは いくつかの基本的な感情へと 引き裂かれた存在として描きました 助けてくれる感情もあれば 足止めしようとする感情もあります 「自己懐疑」という巨大生物は ケイにいつも いかに彼女が無価値かを言い聞かせ 降参すべきだと 言い続けます 現実生活と同じように 「自己懐疑」は行く手を阻んでおり それを乗り越えるなんて 不可能に思えます のさばる「自己懐疑」をやっつけるのは 時間のかかるプロセスです でもゲームの中では ゆっくりと小さくしていくことができ それにより自己懐疑を 健康な疑いに転換させ ついには その感情からの助言を 信じられるようになります 「自己破壊」も登場します いつも水面近くに身を潜めている 巨大生物です 「自己破壊」は実のところ このゲームでのメインの敵で あなたを涙の海に沈めてやろうと 常に画策しています でもその生き物があなたを 沈めようとしても それより少し前の時点で あなたは目を覚まし 再び前に進むチャンスを得るのです 私たちが示したかったのは どんな人も 人生では 困難を経験するものですが 少なくとも 立ち上がって 前に進もうとすれば かなりの確率で 苦しい闘いから抜けられるのです 一歩一歩ですが
喜びは ケイにとって 心に抱いたり 触れたりしにくいものです いつも離れたところにあります 私たちは喜びを 子ども版のケイとして描きました 黄色いレインコートを着ていて 涙の海でも力を奪われたりしません でも喜びは 執着にも変化して ケイを苦しめることもあります 彼女がボーイフレンドに 執着しだした時がそうです 喜びが正常に戻るのは ケイが あることを悟る時です 自分の幸せは 他の誰か次第ではなく 自分次第なんだということです
私たちのモンスターは こんなに巨大で恐ろしいんですが それに抗おうとするのを脱して 近づいていくなら 間もなくそれは モンスターなんかではなく 人生が投げかけてくるものに圧倒されただけの 弱い存在なんだと分かるでしょう
これらの感情は全て 自己懐疑も 自己破壊でさえも このゲームの中では 完全には消滅しません 大事なことは 喜びや幸せだけを追い求めるのでなく 自分のあらゆる感情を きちんと受け入れて そのバランスをとることなんです 大丈夫でない時があっても 大丈夫でいられるようになることです
誰もが 誰かに聞いてもらいたい 自分だけの孤独の物語を持っています 私はそのことに気づいて 全てが変わりました 自分の感情に はるかにオープンになり 自分の私生活に はるかに 集中するようになりました 友達や 家族との生活です このゲームをリリースした時 まさに何千ものファンが メッセージをくれました 自分の物語を聴かせてくれて 自分はもう 独りぼっちじゃないと 言ってくれました 私たちのゲームを プレイしたことによってです 多くの人たちが 希望を感じられたと言ってくれました 自分の先行きは明るいと ここ数十年で初めて思えたって セラピーに通おうと思っていると 多くの人が教えてくれました このゲームをプレイして 自分の苦しみを克服できるのではと 希望を持てたからです このゲームはセラピーではありません そのつもりで作ってはいません 単に私が友達と 自分たちの物語を 私たちの思うアート つまり ビデオゲームで分かち合っただけ でも私たちは 1つ1つのメッセージに 深く感謝しています 気持ちが楽になったって 言ってくれて 私たちは自分の物語を 分かち合っただけなのに
ですから 私は人助けをしたいという衝動を 完璧には克服できていませんね でももう 克服したいとは 思っていません それを愛おしく思っています 私に必要だったのは それを健康的な程度に抑えることでした より深い人間関係を築くことを もう邪魔したりせず かつ 周りの人たちとつながるのを 助けてくれる程度にです
ですから もし皆さんの心の中に 負の感情から生まれた モンスターが住んでいるなら 単にそのモンスターをやっつけることを 目指せばいいということではなくて 私たち人間が複雑な存在であることも 理解してください あなたの生活の中でどの部分が多くを占め どこが足りなくなっているでしょう ほとんど抱かない感情は何でしょう もしかすると強く感じすぎて それを抑えようとしているのかも しれませんが とりわけ大事なのは このことを理解していることです 幅広い感情や苦しみの1つ1つが 私たちを私たちらしく してくれているんです 人間として
ありがとうございました
(拍手)
アーティストであるコーネリア・ゲッペルトによる、視覚的にすばらしいビデオゲーム『Sea of Solitude(孤独の海)』の世界に足を踏み入れましょう。このゲームは、孤独や自己懐疑といった「モンスターたち」と戦うことで、いかにメンタルヘルスというものの複雑さや心の不調に、私たちがもっとうまく向き合える助けになりうるのかを探究しています。