電子政府とはどのようなものか(13:44)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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30年ほど前に 私の国はすべてを根底から作り直す 必要に迫られました 長年のソビエト支配の後 エストニアは独立を回復しましたが 何も残されていなかったのです インフラも 行政も 法律もありません 混とん状態でした 必要に迫られた 当時の指導者たちは 私達の国にできる限りの 大胆な選択をしました 実験的なことや不確かなことが たくさんありましたが 幸運な部分もありました 頼りになる 優れたビジョナリーや 暗号専門家や 技術者がいたことです 私はまだ子供でした 今日では私の国は 世界で最も 電子化された社会と言われています
私の国エストニアでは 2001年以来 税の申告はオンラインで行われています 2002年以来 電子IDと電子署名が使われています 2005年以来 投票はオンラインで行われています 今ではおよそ思い付く あらゆる公共サービスが オンラインで行われています 教育 警察 裁判 起業 手当の申請 自分の医療記録の参照 駐車違反に対する申し立てまで オンラインで行え 実際オンラインではできないことを 数え上げたほうが早いくらいです 出向く必要があるのは 自分の身分証の受け取りと 結婚・離婚 不動産を売るとき それくらいのものです ですから 毎年確定申告のときを 楽しみにしていると言っても 驚かないでください
(笑)
しなきゃいけないのは ソファに座って携帯を取り出し 所得と控除について記入済みのページを 何度かスワイプして 送信ボタンを押すことだけです 3分後には 還付金額を見ていて 何か得した気がします 税理士も 領収書集めも 計算も必要ありません 役所には7年間訪れていません
今日の技術の可能性を考えれば 迷路のように込み入った 役所の手続きなど 現代生活に存在すべきでは ないでしょう そのようなものは エストニアでは 電子化された政府の協調的努力によって ほぼ完全になくなりました たとえば電子内閣の大臣の書類棚は 完全にペーパーレスです
そのような展開の 中心にある考えは 国の役割を変えるということと 信用の電子化です 考えてみてください ほとんどの国で 人々は政府を信用していません 政府も国民を信用していません 紙ベースの煩雑な 形式的手続きが その問題を解決するものと されていますが 実際には解決しません 生活を面倒にしているだけです エストニアの経験が 示しているのは テクノロジーは 信用を取り戻す手段になり 効率的で利用者中心の サービスを作って 市民のニーズに積極的に 応えられるようにできるということです
それが実現できたのは お役所仕事を そのまま電子化することによってではなく いくつかの強い一般原則を定め 規則や手順を作り直し 不要なデータ収集や タスクの重複を除き オープンにし 透明化することによってでした
今日のeエストニアの 基本原則について 簡単にお話ししましょう まずデータや情報について プライバシーと機密性を 保証する必要があります これは国が発行し どこでも使うことができる 強力な電子IDによって 実現されています エストニア国民は 全員持っています このIDには電子署名があって エストニアとEUの両方で 受け入れられ 使用でき 法的拘束力があります システムで利用者が誰であるかが 安全で適切な方法で確認されると その人の個人データや 公共サービスがすべて 1つのアプリから 利用できるようになり 電子的な署名で あらゆる手続きができます
2つ目の原則は 最も影響が大きかったもので 「一度きり」の原則と 呼ばれています これは国が同じデータを 2度以上要求することも 2か所以上に保存することも できないというものです たとえば出生証明書や 結婚証明書を 当該登記所に提出していれば そこが そのデータの保管される 唯一の場所であり 他の役所から再び提出を 求められることはありません 一度きりの原則は とても強い規則であり 国のデータ収集の仕組みの全体や 何の情報を集め その維持に誰が責任を持つかを定めていて データの集中化や 重複を避けさせ データが最新状態に 保たれることを保証しています
この分散的アプローチは 単一障害点の問題を 避けることにもなります 一方で データは複製することも 2度以上収集することも できないので 公的機関のサービス提供のために 情報に常時 安全確実にアクセスできるような 仕組みが必要になります
それが X-Road と呼ばれる データ交換プラットフォームの役割で 2001年から稼働しています 幹線道路のように 公的なデータベースや登録簿と 地方自治体や企業を結び リアルタイムで 安全な管理された データ交換ができるようにし それぞれの活動について 監査可能な記録を残します こちらはX-Road上のデータ要求や 接続されているサービスの 状況を示している 画面イメージです こちらは公共データベースや 企業データベースの 実際の接続状況を表した図です ご覧のように 中心になるデータベースというのは 存在しません
機密性とプライバシーは 非常に重要ですが デジタルの世界では 情報の信頼性と完全性も 運営上重要になります たとえば誰かが皆さんの アレルギーに関する医療記録を 医師や本人の知らないところで 改変したとすると 治療が致命的なものに なりかねません ですからエストニアのような デジタル社会で 紙の原本がなく 電子的な原本しか ないというとき データや データ交換規則 ソフトウェア ログファイルの完全性は きわめて重要です ブロックチェーンが話題になる ずっと以前の 2007年に考案された 一種のブロックチェーンを使って データの完全性の確認と保証を リアルタイムで行っています ブロックチェーンは 私達の監査役であり データへのアクセスや操作が 記録を残さずに行われることが ないようにしています
データの所有権はシステムを設計する上で もう1つの重要な原則です 政府や技術系そのほかの 世界の企業が 皆さんについて集めたデータを 自分のものにしていることに 不安を感じませんか? データにアクセスさせてはくれないし それがどう使われ どう第三者に共有されているのか ちゃんと示されていません 私にはすごく 気にかかる状況です
エストニアのシステムは 集められた個人データは本人のもの という原則に基づいています だから本人はどんなデータが集められ 誰がそれにアクセスしたかを知る 絶対的な権利を有しています 警察や医者や政府関係者が 市民の個人データを見るときには 必ずログインした上で 職務上必要と認められた情報にのみ アクセスします また情報へのアクセスを 要求すると 必ずログに記録されます この詳細なログは 国の公共サービスの一部で 真の透明性を実現し プライバシー侵害があれば 本人に分かるようになっています
もちろんこれは eエストニアの設計原則の 単純化した要約です 今政府は人工知能を活用できる 新世代の公共サービスの構築に 取り組んでいます 出産 失業 起業といった その人の人生における 状況に応じて 自動的に起動される 一貫したサービスです
紙の写しがない デジタル社会では 問題が起き得ます 私達はシステムの堅牢性を 信頼していますが 2007年の経験があり 用心にこしたことはありません 最初のサイバー事件があって ネットワークの一部が ブロックされ 何時間もサービスが 利用不可になりました 私達は乗り越えましたが この出来事から サイバーセキュリティは プラットフォームの強化と バックアップの 両面で 最重要課題になりました
何もかもが近くにある 小さな国で 全国規模のシステムを どうバックアップしたものでしょう たとえば国外の 治外法権のある大使館に データのコピーを 取っておくことができます 現在 そのようなエストニアの 最も重要なデジタル資産を保持する データ大使館がいくつもあり たとえ国土が攻撃に さらされた場合でも 途切れることのない行政 データの保護 そして最も重要な主権の維持を 可能にしています
その短所は何かと 思っている人もいるでしょう 完全にデジタル化することは 管理の上でも コストの上でも より効率的です コンピューターを通して やるというのは 人間的要因や 政治家や 民主プロセスへの参加の重要性が 下がるような印象を 持つかもしれません テクノロジーが行き渡ることで 自分のスキルが古びることを 脅威に感じる人もいるでしょう 残念ながら国の運営を デジタルシステムに移しても 政治権力争いや 社会における対立が なくなるわけではなく それは前回の選挙で 目にしたことです 人間がいる限り なくならないでしょう
最後になりますが 世界のどこからでも すべてのサービスにアクセスできるのであれば エストニアに住んでいない 外国の方にも 一部のサービスを 利用可能にしてはどうでしょう? 5年前に eレジデンシー(電子居住者)プログラムという 国営事業が立ち上げられ 今では何万人もの人が 加入しています 136か国のビジネスパーソンが. 電子的に会社を作り オンラインで取引し EUの法的枠組みの下 eエストニアのシステム上で 仮想的に会社を運営しており 私のIDと同様のeIDカードを使って それを世界のどこからでも行えます エストニアのシステムは 人間中心で 場所に縛られません すべての人が使え オープンで 信頼性があることに重きを置いています セキュリティと透明性を 中心にしています データはその対象である 正当な所有者の手にあります 私の話を聞くだけでなく やってみてください
ありがとうございました
(拍手)
諸手続きのための紙の書類への記入が不要になったとしたらどうでしょう? エストニアではそれが現実になっています。eエストニアと呼ばれるソビエト後の野心的なデジタル化への移行のおかげで、市民は起業からパソコンでの投票まで、ほとんどすべての公共サービスをネットから利用できます。このプログラムの専門家であるアンナ・ピペラルが、エストニアの電子政府を支える主要な設計原則について解説し、他の国もこれに倣って旧態依然とした役所仕事を払拭し、市民の信頼を取り戻すべきである理由を示します。