インポスター症候群を生かす(13:34)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私は多くの成功を 経験してきました 10年以上前 大学を出てすぐに 友人のスコットと 会社を始めました 事業の経験はなく 大きな計画というのも ありませんでした 始めたときの目論見は 就職せずに済ますということで―
(笑)
毎日スーツを着て仕事に 行きたくはなかったのです その点はうまくいきました
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今では何千という 素晴らしい社員を抱え 地球上の何百万という人が 我々のソフトウェアを使っています 地球外でさえ使われています 現在火星に向かっているところです だから仕事に関して 私が自分で何をしているか 分かっていると 思うことでしょう 打ち明けると 私はいまだに 何をやっているか 分からないと感じることがよくあります 私は15年間 そんな風に感じてきて その感覚は「インポスター症候群」と 言うのだと知りました
力不足な自分が偽物のように 感じられることはありませんか? ただ勘とでまかせで 誤魔化してきただけで
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誰かに問われそうになると いつも固まってしまう そんな風に感じたことは 沢山あります
最初の人事部長となる人の 面接をしながら 人事部のある会社で 働いたことがなかったとか
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面接に向かいながら 「何を聞いたらいいんだろう?」と ビクビクしていました スーツだらけの重役会で Tシャツ姿でいて 略語が飛び交っているのを 聞いていると 5歳児になった気がして ひそかにメモしておきます 帰ってからWikipediaで 調べられるように
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始めたばかりのころに 誰かから電話で 支払勘定を求められ 「金をよこせと言ってるのかな くれると言っているのかな?」と 戸惑ったものです
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それで受話器をふさいで 「スコット お前が会計ね」と 電話を渡しました
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当時は2人とも 様々な職務をこなしていました
私にとってインポスター症候群は 背の立たないところにいて そこから逃げることもできない という感覚です 自分は そこにいるには スキルも経験も不足していると 心の中では 分かっていますが すでに そこにいるわけで どうにかする必要があります 放り出すわけにはいきません 失敗やできないことへの 恐れとは違います どうにか切り抜けよう という感覚であり 誰かにバレてしまう かもしれないという恐れです そしてバレてしまったとしたら そりゃそうだと 思う気持ちです
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好きな作家のニール・ゲイマンが 「優れた芸術を作る」という 大学卒業生へのスピーチの中で これを見事に言い表しています 間違えないように 読むことにします
「ドアをノックする音がし そこにはクリップボードを 手にした男が立っていて バレてるんだ もう終わりだと 告げられるんだと思っていました ちゃんと仕事に 就かなきゃいけないと」
ドアをノックする音を聞くと 私はいまだ クリップボードを手にした 黒服の男に 時間切れだと 言われそうな気がします 料理下手な私は それが子供たちのピザの配達人だと 分かってホッとします
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これが必ずしも悪いことではないというのは 言っておきたいです この感覚には 良い面もあるのです 私は別に「さあ始めよう」というような やる気を出させる話を しようというのではありません 私自身のインポスター症候群の 経験を振り返り それをどう手なずけ 良い方向の力にしてきたか ということです
その良い例はAtlassian社で 初期に経験したことです 創立4年目で 社員は70名ほどでした 監査人のアドバイスに従って― 良い物語の多くは監査人の アドバイスで始まるものですが―
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「ニューサウスウェールズ州 起業家オブ・ザ・イヤー」に応募し 40歳未満の若い起業家部門で 受賞して驚きました 40歳未満の若い起業家部門で 受賞して驚きました 部門は8つありました 競争相手になる人たちの名を見て 授賞式に行こうとさえ 思わなかったので 余計驚きでした それでスコットがメダルを 受け取りに行きました それから その全国版の 授賞式があって 今回は出席すべきだろうなと 思いました スーツを借りて 出会ったばかりの 女性を誘って― その人のことは 後で話します―
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盛大でフォーマルな式に 出かけました 驚きはショックに 変わりました その晩の最初の賞となる 若い起業家部門で 他の州の代表を破って 「オーストラリア 若き起業家 オブ・ザ・イヤー」を受賞したのです ショックから醒めると たくさんのシャンペンが出てきて パーティが始まり それで終わりと思い とても楽しんでいました
その晩の最後の賞では 私たちのショックが みんなのショックになりました 他の部門の人たちを破って 私たちが「オーストラリア 起業家 オブ・ザ・イヤー」を受賞したのです 誰もがとても驚き 発表者のアーンスト・ アンド・ヤング社CEOの 封筒を開けて最初の言葉が 「マジか」でした
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それから気を取り直して 私たちの受賞を告げました
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身の丈を超えていることは 重々承知していました そこからさらに 水が深くなります モンテカルロで開かれる 「世界 起業家オブ・ザ・イヤー」に オーストラリア代表として出て 他の40か国の代表と 競うことになったのです
新たに借りたスーツを着て ポルトガル代表の ベルミロ・デ・アゼヴェドという素敵な人物と ディナーの席で 一緒になりました まったくすごい人です 40年 会社経営をしてきた 65歳の人で 3万人の従業員がいます 当時 私たちは社員70人でした 売上が40億ユーロです ワインを2杯ほどあけてから 私は自分がここにいるべきでないと 感じていることを打ち明けました 身の丈をとうに超えていて 誰かが気づいてオーストラリアに 送り返されるんじゃないかと
彼はしばらく私を見つめてから 自分もまったく同じように 感じていると言いました たぶん受賞者はみんな そう感じているだろうと そしてスコットや私や技術のことは 何も分からないが 何かを正しくやっているはずだから それをただ続けていけばいいと
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これは私にとって 大きな気づきの瞬間でした 1つは他の人も同じように 感じているのが分かったこと もう1つは どんなに成功しても その感覚は消えないと分かったことです 成功した人は偽物みたいには 感じないものと思っていましたが むしろ逆だったのです
これは仕事でだけ 感じるものではなく 私生活でも起きます 草創期にはAtlassian社の仕事で オーストラリアとサンフランシスコを 毎週行き来していたので カンタス航空のビジネス ラウンジに入れるだけの ポイントが溜まりました これほど私に似つかわしくない 場所もありません
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ジーンズや短パン、Tシャツ姿の私を見て 声をかけてもらっても変わりません 「どうした 迷子になったか?」 しかし人生における 出来事というのは 予期していないときに 起きるものです
10年以上前のある朝 週次出張のため そこにいると 私とは別世界の美しい女性が ラウンジをまっすぐ 私の方へと歩いて来ました 誰かと思い違えて 人違いなので このときの私は 正真正銘の偽物です
(笑)
いつものように固まったり 紳士らしく思い違いを 指摘する代わりに 会話をそのまま続けました
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典型的なオーストラリア人のでまかせが 良い方向に転んで 電話番号を交換することになり 2か月後には授賞式に その女性を連れて行きました 10年以上経った今 その人が私の妻になり 素晴らしい4人の子供に恵まれたことを とても幸せに思っています
(拍手)
毎朝目覚めて 寝返りを打って妻を見ると 「あなた誰? 誰に許可をもらって このベッドにいるの?
出ていって!」と 言われそうな気がします そんなことには なりませんが 妻も時々同じように 感じているのではと思います
そしてこれは私たちが 良い夫婦生活を 送れている理由なのです この講演のための 下調べをしていて うまくいく夫婦関係に見られる 特徴の1つは どちらも自分が力不足だと 感じていることだと知りました 相手の方が自分より ずっと魅力的だと思い 自分を偽物のように 感じているのです そこで固まらずに ありがたいと思い 良いパートナーになろうと 頑張ることで 良い関係を築くことができます だからそういう感覚を覚えても 固まらないことです 会話をどうにか 続けていきましょう 相手が思い違い していたとしても
実際の自分とは 違うと感じるとか 人に買いかぶられるというのは よくあることです もっと最近の例ですが 2、3か月前に 子供と夜遅くまで起きていて テスラがその大型産業用蓄電池で サウス・オーストラリア州の電力危機を 解決できると言っているのを Twitterで見ました
考えなしにツイートしまくって 本気で言っているのかと 彼らに挑みました そうやって大きな丘の上の 小さな石を蹴って 自ら引き起こした雪崩に 巻き込まれることになりました 数時間後にイーロンが 大まじめだとツイートを返し 契約後100日以内に 100メガワット時の施設を 作れると言いました 世界最大規模のバッテリーです それから大騒ぎになりました 24時間もせずに あらゆる主要メディアが メッセージやメールで 接触を求めてきました 「エネルギー専門家」の意見を賜りたいと
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当時の私といえば 子供のおもちゃ用の 1.5v単三電池と サウス・オーストラリア州に作られ 電力危機を解決するかもしれない 100メガワット時の産業用蓄電池の 違いも分かっていませんでした インポスター症候群が 慢性になったように感じました
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すごく変なことに なっていきました こう思ったのを 覚えています 「クソッ 妙なことを始めて 抜けられなくなっちまった ここで放り出したら オーストラリアの再生可能エネルギー普及を 遅らせることになりかねず まったくの馬鹿者に 見えるかもしれない Twitterで変なことを 言ったばかりに」
自分に取れる唯一の道は 固まってしまわずに 学ぶことだと思いました それで私は1週間かけて できる限り学ぼうとしました 産業用大型蓄電池や送電網や 再生可能エネルギーや 関係する経済的なこと そもそも実現可能な案なのか 主任科学者や 連邦科学産業研究機構 複数の大臣とも話し それぞれの側の 主張を聞きました 首相ともTwitterで やり取りしました 夜のニュース番組で専門家のように 見せることさえできました
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でもその結果として サウス・オーストラリア州では 蓄電池の入札を行い 90社以上が応札しました そして数か月の間に 国内の議論は 議会で石炭を手に仰々しく 化石燃料支持が訴えられていたところから 大規模再生可能蓄電池を 構築するのに 最適なバッテリーの種類は何か ということに移りました
私は人生のその時点までには 自分が偽物であることを よく自覚していました 背の立たない深みにいることを 分かっていました でもそれで固まってしまう代わりに できる限り学び 馬鹿に見えることの恐れを モチベーションにして それを前向きの力に 変えようとしたんです
成功者は偽物みたいには感じないと みんな思っていますが 多くの起業家と知り合って むしろ逆だということを 知りました でも最も成功している人たちは 自分に疑問を持つ代わりに たえず自分の考えや知識が正しいか とことん自問しています 水が深すぎるときには アドバイスを求めることを 恐れません それをみっともないことだとは 思っていません そのアドバイスを使って 自分のアイデアを磨き 学んでいるのです 時に背の立たないところに いるのは構いません 私はしょっちゅうそうです それは別にいいんです 脱出ボタンを押せない 状況にあっても 固まってしまわず その状況を生かし 麻痺してしまわずに それを良い力に 変えようとすればいいんです この「生かす」というのが大切です これはインポスター症候群を 克服するという 馬鹿げた通俗心理学ではなく 自覚の大切さの話です 実際 今まさに偽物だと 感じているのをよく自覚しています 私は一種の疑似専門家として 数か月前に講演を 引き受けたときには 名前さえ知らなかった 感情について語っているのです それが何よりの例証に なるでしょう
(笑)
ありがとうございました
(拍手)
自分の能力に疑問を持ち、化けの皮がはがれないかと不安になったことはありませんか? それは「インポスター症候群」と呼ばれ、そう感じているのはあなただけではないと、起業家でCEOのマイク・キャノン=ブルックスは言います。このユーモアがあり共感できる講演で彼は、インポスター症候群が成功につながった経験を語り、どうすればそれをうまく生かせるかを示します。