生体データでより良いストーリーを描き 社会を変える方(07:40)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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15年の間 人々の考えを 変えようとしてきました 大衆文化と新技術を利用して 人々の文化規範を変えるのが 私の仕事です 人権問題を知ってもらうためのゲームを作り 不公平な移民法を知ってもらうための アニメも作りました ホームレスに対する認識を変えるために 位置情報を利用した 拡張現実アプリまで 作りました ポケモンGOよりずっと前ですよ
(笑)
しかしそのうち ゲームやアプリが 人の態度や行動を 本当に変えることができるのか 疑問に思い始めました もし変えられたとして その変化を測れるのかということもです その過程の背後には どんな科学が存在するのでしょうか そこで焦点を変え メディアやテクノロジーの開発ではなく 神経生物学的な効果の測定を始めました
私が発見した事を お話しします ウェブ 携帯端末 仮想現実や拡張現実は 神経システムを書き換えていました それらは文字通り 脳の構造を変化させます 精神に良い影響を与えようと思って 私が使っていたテクノロジーが 実は 共感や意思決定に必要な脳の機能を むしばんでいたのです それどころか ウェブや携帯端末に依存することで 認知能力や感情が奪われて 私たちは社会的にも情緒的にも 能力が低下しているかもしれません 私は自分が この人間性喪失の 共謀者であるかのように感じました
社会問題についてのメディアを 作り続ける前に テクノロジーが及ぼす悪影響を 分析する必要があることに気づきました この問題に立ち向かうため 考えました 「どうやったら 共感のメカニズムや 認知 感情 動機といった要素を 私たちの行動を促す ストーリー材料を作る原動力に 変換できるのか」 この問いに答えるため 私は機械を作らざるを得ませんでした
(笑)
オープンソースのソフトの生体認証機器で Limbic LabというAIシステムの開発です この機器は 脳や身体の メディアやテクノロジーに対する 無意識的な反応を計測するだけでなく 得られた生物学的反応に基づいて 内容を適用させる― 機械学習を利用しています
私の目標は どんなストーリー材料の組み合わせが その特定の視聴者の興味を 最もそそるのかを突き止め 社会的公平 文化 教育に関わる機関が より効果的なメディアを 制作できるようにすることです
Limbic Labは2つの要素から成っています ストーリーエンジンとメディアマシンです ある視聴者が メディアコンテンツの 観賞や利用をしている間 ストーリーエンジンは 脳波や心拍数 血流 体温 筋肉収縮 また視線や顔の表情といった 生物物理学的なリアルタイムデータを 取り込んで 同期させます データは ストーリー展開や キャラクターの会話 カメラの角度などにおいて 特徴的な場面から集めます ドラマシリーズ 『ゲーム・オブ・スローンズ』の あるラストシーンのように 突然 全員が死ぬような場面です
(笑)
その人の政治理念も サイコグラフィックス(心理学的属性)や 人口統計的データと併せて システムに統合されます その人をより深く理解するためです
例を挙げましょう 好きなテレビ番組と 社会正義に対する考えの関係を見ると 移民問題を重要な問題の 上位3位内に挙げるアメリカ国民は ドラマ『ウォーキング・デッド』を 好む傾向にあります 興奮を味わう為なのですが それはアドレナリンの計測でわかります
一人の人間の生物学的特徴と 調査への回答を組み合わせて 独自のメディアパターンが できあがります そして私たちの予測モデルが メディアパターンの共通性を見つけだし どんなストーリー材料が その人を不安や無関心ではなく 利他的な行動へ導くのかを教えてくれるのです データベースに テレビシリーズからゲームまで 様々なメディアから 多くのパターンを集めるほど 予測モデルの精度が上がります つまりメディアゲノムを 初めて解読しているのです
(拍手と歓声)
ヒトゲノムは人間のDNA配列にある― すべての遺伝子を特定するのに対し メディアパターンの 増大するデータベースは ある個人のメディアDNAを 特定することができるのです
既にLimbic Labのストーリーエンジンは コンテンツ制作者がストーリーを洗練させて 特定の視聴者の共感を 個人レベルで引き出すのに役立っています
Limbic Labのもう一つの要素である― メディアマシンは メディアがどのように情緒的 生理的な 反応を引き起こすのかを調べ 個人特有のメディアDNAを対象とした コンテンツライブラリからシーンを抽出します
人工知能を生体データに適用することで 個々人に特化した経験を作り出せるのです リアルタイムの無意識な反応に基づいて 選ばれた内容を利用するのです 非営利団体やメディア制作者が リアルタイムで 視聴者の感想を 知ることができたらどうでしょう そして その場で内容を変えられたら? 私は それが将来のメディアの姿だと思います
これまで メディアや 社会変革戦略のほとんどは 大衆としての視聴者に 訴えかけようとしていました しかしこれからのメディアは 個人毎にカスタマイズされるのです メディア消費のリアルタイム計測と 自動メディア制作が標準化することで 私たちはじきに サイコグラフィックスと 生体データとAIを融合させたものを利用して 個々人の要求に応じたメディアを 消費するようになるでしょう 個人のDNAに合わせて 薬をカスタマイズするようなものです 「バイオメディア」と呼びましょう
私は現在 ノーマン・リア・センターと共同で Limbic Labの予備研究を行っています ストーリーのあるテレビ番組の トップ50を調査対象にしたものです しかしある倫理的なジレンマを抱えています もし私の開発したツールが 武器として使われるとしたら それを作るべきでしょうか Limbic Labをオープンソース化し だれもが利用できるようにすることで リスクも生じます 支配的な政府や利益至上主義の企業が フェイクニュースやマーケティングや 大衆操作のために プラットフォームを私物化するかもしれません ですから私の研究を 視聴者にとって 遺伝子組み換え情報のラベルと同等に 透明性のあるものにすることが 非常に大事だと考えています ですが それだけでは不十分です クリエイティブ・テクノロジストとして 私たちには責任があります 現在のテクノロジーが 文化的価値観と 社会的行動に どのように影響するかを 十分に検討するだけでなく 未来のテクノロジーがどこへ向かうのか 積極的に議論しなければなりません 私たちが 倫理的に 確約できることを願います 身体の情報を利用して 本物で公正な物語を作ることを― それはメディアとテクノロジーを 有害な武器ではなく 人を癒すストーリーにするためなのです
ありがとうございました
(拍手と歓声)
どんな物語に私たちは動かされるのでしょうか。この問いに答えるため、クリエイティブテクノロジストであるハイディ・ボイスヴァートは人々の脳と身体がさまざまなメディアに対して無意識のうちに示す反応を計測しています。得られたデータを元に、どのように私たちの共感や正義感を引き出すストーリー材料を特定し、さらに大規模な社会変革をも導けるのか、彼女の考えを語ります。