オンラインマーケットプレイスが地域経済を脅かすことなく役立つ方法(12:19)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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2013年2月 妻と私はシンガポールに引っ越しました ちょうどその頃 Uberが シンガポールでの 配車サービスの開始を発表しました さて 妻と私は 大抵のコトに関して意見が合うのですが Uberの利用については 明らかに違いました 私はUberのテクノロジーに ワクワクしていました もう自家用車を持つ必要が なくなるかもしれないからです でも 妻はUberがタクシー運転手の仕事を 奪ってしまうと感じていました そう感じたのは 妻のサラだけではありません
世界の UberやAirbnb そしてAmazonのような いわゆる 「オンラインマーケットプレイス」が 事業を拡大し始めると 私のような多くの政策立案者から 新しいリスクにどう対処するかを 懸念する声が聞こえてきます 雇用喪失、 低賃金、課税漏れ といったリスクです さらに 企業のリーダーたちからも グローバルなプラットフォームがもたらす 激しい競争によって ローカルビジネスが食い尽くされるのでは との懸念の声が上がります 私も もちろん その道理は理解しています 詰まるところ これは基本的な需要と供給の経済なのです どの市場においても 供給が劇的に増えれば 既存のビジネス従事者にとって 価格、収益性、成長率が低下することを 予期しなければなりません
でも 私の個人的な経験では これとは逆の流れも見てきました オンラインマーケットプレイスでも インドネシアのGojekや アフリカのJumiaのように ビジネスエコシステムや周辺の地域社会に 役立つ場合もあるのです 私の見てきた良い事例では エジプトの女性タクシー運転手が 今まで直面していた タクシー業界におけるハラスメントなしに 働けるようになりました ケニアのある村でも 良い事例が見られました 景気が良くなったのです 全く知られていなかった 近所の美しい湖が 今や 国のエコツーリズムの名所と なったからです
オンラインマーケットプレイスは 成長し続けるでしょう そして 私たちの買い物や 移動手段や 取引の方法に 変革をもたらすでしょう そこで 私たちが本当に理解すべきことは これら2つの見方の間の どこに真実があるのか です より楽観的な結果を 予期すべきでしょうか それとも 暗く悲観的な結果を 予期すべきでしょうか そして マイナス面を避け プラス面だけを得る方法はあるのでしょうか 私はあると信じています
生業である戦略コンサルタントとして 私はビジネスを研究しています 根は数学者なので 逆も同様に成り立つような事象が 気持ち悪くてたまりません そこで私は基本に戻って こういう問題を立てました ― オンラインマーケットプレイスが 実際にしていることは何なのか? 彼らは何をしているのか?
まず 根本的には とてもシンプルなことをしています 売り手と買い手のマッチングです それだけです 運転手と乗客の間には Uberや 東南アジアのGrabや 中国のDiDiがあります 商人と消費者のマッチングには AmazonやAlibaba アフリカのJumiaがあります 宿泊にはAirbnbがあって 資金調達にはKickstarterです まだまだあります これらの全てに共通することは 売り手と買い手のマッチングのための 基本的な機能を 物理的な世界からデジタルの世界へ 移行することです そうすることで より良いマッチングを より早く探せるようになり 最終的に あらゆる人のもとへ より多くの価値が広まるのです さらに言うと オンラインマーケットプレイスの最大の利点は 同じ労力で より多くの価値をもたらすことです
例えば あなたがサンフランシスコの タクシー運転手だとして 1日に10時間働くとすると あなたの車の中に 実際に乗客がいる時間は 10時間のうち4時間です もし 同じ車を Uberのプラットフォームで利用すれば 乗客を乗せる時間が 1時間半増やせます つまり同じ車でも 生産性が40%向上するのです 他のオンラインマーケットプレイスでも これは証明されています 経済にさらなる価値を生み出すことが そもそもの目的なのです
さて 誰がこの新たな価値を受けとるのかを 知る必要があります 運転手に与えることも可能です つまり乗客と収入の増加です 価格を下げれば 消費者に恩恵を与えることができます あるいは プラットフォームの運営側が 恩恵を総取りすることも可能です 大抵はこの3者が 何らかの形で恩恵を分け合います では それ以外の人は?
このビジネスと直接には無関係でも 影響を受ける可能性があります もし私の近所の人が 自分のアパートを Airbnbで貸すと決めたら 前よりもたくさんの人が 家の周りに来るようになり いつもより騒々しくなって 私はこの生産性のマジックから生じる副作用を 不快と感じるでしょう これは経済学者が言う 「負の外部性」です Uber車の生産性の向上がもたらす この「負の外部性」によって タクシーの営業許可証の価値は 下がります 例えば ニューヨークでは 多いと30%も低下します これはマイナスの側面です これによって 街頭デモが起きたり 時々ですが 暴動まで起きたりします
でも これは回避できると確信しています 新興国市場で 多くの時間を過ごすにつれ 確信に近づいたのです 実際 シンガポールにいた頃 週の半分は周辺国を ― マレーシア、タイ、インドネシアを 旅していました そして オンラインマーケットプレイスの 利用者というよりは むしろファンになったのです 当時はまだよく知られていませんでしたが
中には 興味深い 戦略的なトレードオフを行い 副次的な「外部性」を 劇的に減らしたものもありました 例えば Gojekです Gojekは基本的には Uberのバイク版です インドネシアで最も人気のある オンラインマーケットプレイスのひとつです 人気の理由は Gojekが選んだ役割と 大いに関係があります 他の交通手段の選択肢と 敵対するのではなく それらを自分たちのプラットフォームに 徐々に融合することを選んだのです Gojekのアプリ内で 公共交通機関の時刻表を調べたり 長距離バスを選択するといったことです それから バイクや 従来のタクシーの予約や支払いも 同じアプリ内で可能です 現在のGojekを調査すると 従来のタクシー運転手の 10人中9人が Gojekのプラットフォームを利用してから 生活の質が向上したと考えています そして 消費者の10人のうち9人― 10人中9人もが Gojekは社会全般に良い影響を与えている と考えています
ここまで信用を得たことで Gojekは成長し こんにちの素晴らしい オンラインマーケットプレイスとなりました 食料や日用品に始まり マッサージやクリーニング宅配まで あらゆるモノを扱っています これは全て 慎重なトレードオフの結果です 他の人たちも果たす役割がある より大きなエコシステムを まとめる立場を目指したのです 独り勝ちして得た利益も 蓋を開けると 大きな市場のほんの一部だった という結末を避けたのです
Jumiaも また面白い事例です Jumiaは アフリカ版Amazonです でも Jumiaは 現地のスモールビジネスの世界に Amazonのような不安をもたらしません 理由のひとつが Jumiaは デジタル時代に向けた 現地の起業家の成長のために 彼らに積極的に投資すると 決めている点です ここで忘れないでほしいのは Jumiaは デジタルリテラシーとオンライン環境が 最低水準である国々で 利用されているということです Jumiaは このような問題に対し 一般的なロビー活動を通して 改革を目指せたでしょうし おそらく それもやっているでしょうが プラットフォーム上で eラーニングを提供する ― Jumia大学を設立しました 基本的なデジタルスキルやビジネススキルを 商人が学べるようにしたのです
私たちは昨年 アフリカの オンラインマーケットプレイスを調査しました 調査中に Jumiaで学ぶ商人の1人と出会いました 彼の名前はジョモです 2014年に仕事をクビになり その時 自分で自身のボスになりたい と決めました 独立したかったのもありますし もう2度と 解雇されたくなかったのです でも 当時 ジョモは ビジネスの 「ビ」の字も知りませんでした ですから彼は 一連の研修を通して 商品の選び方や値付けの仕方 オンライン上での宣伝の仕方を 学ぶ必要がありました 現在 ジョモは10人の従業員を持つ オンラインビジネスを営んでいます そして 数か月前に ナイロビ郊外で初の実店舗を 開店したところです 今や この大学を通じて Jumiaは ジョモのような多くの人材を 支援する可能性があります そしてアフリカの 他のオンラインマーケットプレイスと合わせて 2025年までに300万人分もの 雇用を創出できると想定できます 雇用は直接的に もしくは より広いコミュニティーを介して 創られるでしょう
そして時として その広範な影響を 考慮に入れるか 考慮し忘れるかが プラットフォームの成否を左右します 説明のために シンガポールの話に戻ります 昨年 妻と一緒に シンガポールを離れると決めた時 Uberも同じく撤退を決めました またもや同じタイミングです パターンが見えてきた気がしましたが たぶん単なる偶然だったのでしょう 実際のところ Uberは配車サービスの競争に敗れました 相手はマレーシア発のGrabです
さて 興味深いことに 妻はGrabに対して それほど不安を抱きませんでした なぜなら Grabは最初 別の名前だったからです MyTeksiという名前でした 名前の通り タクシー用の プラットフォームとして始まりました だから Grabがタクシーの域を越えて 運転手の登録を拡大し始めた時も 段階的で無理のない展開だと 受け取られたのです それに Grabはとても慎重でした どのようなセーフティネット (社会的安全網)を 全ての運転手に提供するかを考え 特別な保険パッケージや 財務に関する教育プログラムまで 導入しました
対照的に ロンドンやニューヨークや パリのタクシー運転手たちは 自分たちの営業許可証には 20万ユーロもかかっていて 大抵はローン払いなことを プラットフォーム側は 理解していないと感じていました このような社会環境についての情報を 考慮していないと 強い反感を買うことになります
GrabやJumiaやGojekによる トレードオフに リスクがないと 主張するわけではありません 彼らの成長は ある時点で 一時的に減速したか? 恐らくそうでしょう でも彼らの現状を見てください
Gojekの評価額は100億ドルです Jumiaはアフリカ全土で3つしかない ユニコーン企業の1つです Grabは Uberを 東南アジア全域から追い出しました また このようなトレードオフは 新興国市場に特有のものではないと思います AmazonやUberなどは 彼らから学び 自分たちが直面する現実に適用できます
長い目で見れば ゼロサムゲームである必要はないのです 長い目で見れば 多分これは私のアジア人的な部分が 言っているのですが 辛抱強くいることで報われます 目的や優先順位を再考することには 価値があります より大きな方程式に 当てはめてみるのです 運営者自身や利用者のことはもちろん 規制当局や 政策立案者や地域社会を含む方程式です そして何よりも 割って入ろうとしている先の 業界そのものも含まれるのです
ありがとうございました
(拍手)
Uber、Airbnb、Amazonのようなオンラインマーケットプレイスの成長は、時としてローカルビジネスを脅かすことがあります。タクシー、ホテル、小売店から仕事を奪ったり、地域社会の収入を減らしてしまいます。しかし、戦略コンサルタントのアマン・デナーニは、それ以外にも道はあると言います。Gojek(インドネシアのバイク版Uber)やJumia(アフリカ版Amazon)を例に挙げ、いくつかのオンラインマーケットプレイスでは、慎重なトレードオフの結果、地域経済における既存の事業従事者のシェアを奪わずに融合することで、長期的に全ての人に恩恵をもたらす方法を説明します。