「人であること」という言語(14:46)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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(ポエト・アリ)こんにちは (観客)こんにちは
(アリ)質問です 皆さんは いくつの言語を話しますか 言葉通りの質問です 頭の中で数字を出してください 簡単だと思う人もいるでしょう 「1つだね あんたが今話してるだろ 以上!」みたいな 逆に迷っている人もいるでしょう 「元カレや元カノから 罵り言葉ばかり教わった言語も 数に入れていいのかな」 もちろんいいですよ 自分に優しくね 僕自身 数えてみたら4つでした お酒が入ると5つになるという説も
(笑)
(イタリア語)ワインが入れば イタリア語も話せます
(拍手)
どうも!
ところが よくよく考えてみたら 83言語にもなり 83で数え疲れて 止めましたが 「言語」というものの定義を 見直さざるをえなくなりました 辞書の最初の定義は 「人間のコミュニケーション手段 音声または文字の形をとる 特定の構造や慣例に従った 語の使用から成る」 最後に出てくる定義は 医学 科学 技術など 専門分野に関するものです 独特の言い回し つまり専門用語がありますから でも僕が一番気になったのは ど真ん中にある定義です 「特定の集団や国で使われる コミュニケーションの仕組み」 この定義を変えたいわけではありません 人間が携わる全ての物事に 当てはめてみたいんです 人は自分で思っているより ずっと たくさんの言語がわかるはずですから では トークが終わるまで ある1つの言語を使いたいと思います 皆さん全員がネイティブである言語です
そうすると 少し趣向が変わり もはや「講演」ではなくなります 「会話」になります 「会話」である以上 何らかのやりとりが必要です やりとりをするためには ある程度の意欲が 双方に なければなりません 意欲さえあれば すごいことが起こることもあります 少しばかり意欲があればいいのです そこで 比較的リスクが低く 万人に通じる体験を選んで 皆さんに意欲があるかどうかを 測ることにしました 「幸せなら手を叩こう」
(拍手)
よしきた!
(スペイン語)スペイン語がわかる皆さん お立ちください そして隣に座っている人を見て 噴き出してください
(笑)
(英語)ありがとうございました お座りください
少し居心地悪く感じた人 あなたをネタにして笑ったわけでは ありませんので ご安心を 単に スペイン語がわかる皆さんに 立ち上がってもらい 近くに座っている人を見て 笑い声を上げてもらっただけです ちょっと意地悪でしたよね ごめんなさい でも この短い時間で 何かを感じた人がいるはずです 他の人の母語を話すと しばしば言語の働きに気づかされます つながりや絆を生むといった 効果のことです 一方で その言語がわからない人に 与える作用を忘れがちです 相手を孤立させ 疎外感を感じさせてしまうということに この感覚を意識しながら 言語について 色々とお話していきましょう
(ペルシャ語) (英語)今 ペルシャ語で 「ペルシャ文化における“t'aarof”という 概念を説明したい」と言いました 英語には相当する言葉が存在しません あえて言うなら「極度の礼儀正しさ 極度の謙遜」あたりですが いまいち言い表わせていません なので例を出します 男性2人がバッタリ会ったら 大抵 ひとりが 相手のほうを向いてこう言います (ペルシャ語) (英語)意味は「あなたに恩がある」です もうひとりはこう返答します (ペルシャ語) (英語)意味は 「あなたのためにシャツを開こう」です 相手はこう返事します (ペルシャ語) 「私はあなたの召使だ」 それに対し 相手はさらに こう言います (ペルシャ語) (英語)文字通りに訳すと 「私はあなたが踏みつけている土」
(笑)
ピンと来なかった人のため こちらが具体例です
(笑)
このような例を出した理由は 知らない言語には それまで知らなかった 概念がついてくるものだからです もうひとつ言うと 言語といえば単語の意味を理解することだ と考える人もいますが 僕は言語とは 単語に自分にとっての 意味付けをすることだと考えています
ここにある単語の羅列を パッとスクリーンに映した場合 これが何なのか即 理解できる人もいるし 若干解読に苦労する人もいるでしょう 「多分 ここを境にはっきりと分かれる」 っていう線が 35歳以上か 35歳以下か だと思います 理解できる年齢層の皆さんは 今のがショートメール特有の SMS語だとわかります 最大限の意味を最小限の文字に込めた 文字列のことで そう言うと 「言語」の定義に 結構似ていますよね 「特定の集団で使われる コミュニケーションの仕組み」 さて ショートメール上で 喧嘩になったことがある人なら コミュニケーション方法としては 今ひとつだと証言できるでしょう でも 今 お見せしたものが 今どきのラブレターだとしたら?
一緒に文字を追ってください 「今のところ 大好きだよ いいところを すごい 引き出してくれるから 超ウケる ていうか 最近どう? だって 君って可愛いと思うし 僕的に つき合ってくれたら嬉しいな 君がフリーだったらだけど ちなみに ずっと君のそばにいるからね とにかく また連絡して 返信不要 元気でね 誰かが この文を見るかもとか わかんないし どうでもいい その話はしないで またね バイバイ ハグ&キス 人生は一度きりだぜ」
(拍手)
現代のロミオかジュリエットってとこですね
さて 今 笑った人 もうひとつ別の言語がわかるということです 説明不要の言語「笑い」です 世界で最も普遍的な共通言語のひとつです 誰も説明を必要としないし 誰にでも自然に起こるものです お笑いや音楽がどこにでもあるのは そういうわけです 不思議と 言葉での説明を超越し 膨大な量の意味を伝える力があるからです
どんな言語を学んでも 別の言語への入り口になります 知れば知るほど 表現が広がります 誰でもしていることですが 新しく出会った概念を 自分にとっての既知の現実 という枠を通して見ています だからこそ言語は重要なのです 他人とだけでなく 新しい世界とも繋がる手段だからです その本質は 見る 聞くことだけでなく 感じ 体験し 共有することでもあるのです
さて 様々な言語を取り上げましたが まだ この世で最も深遠な部類に入る 言語の話はしていません 「経験」という言語です だから 誰かと話をしているとき お互い経験済みの話であれば あまり説明する必要がなく だからこそ 経験談を話していて 相手が いまいち話についてこれないとき 誰もがまず こう言うのです 「実際その場にいてみないとね」 この話だって 今この場にいないと 実感がわかないものかもしれません この感覚 説明しがたいですよね
研究も兼ねて 最後は もう一度 皆さんに参加してもらいます 今度は「経験」という言語です これから登場する言語が ご自分が知っている言語だったら 立ち上がって そのまま立っていてください ご自分の判断で 「わかるよ」と示してください そうすれば僕にも 皆さんがこの 「経験」という言語がわかるのだと わかりますから さあ この言語がわかりますか? 子供のころ 小学校では 学年末にお祝い会があって いつも場所を多数決で 遊園地かウォーターパークか選んでいた ウォーターパークだけは嫌だった 水着を着なきゃいけないから みんなはどうか知らないけど 僕は試着室の前に来ると 時々 勝手に汗が出てくる だって試着した服が 僕の体型じゃ マネキンみたいにはならないと 予想がつくから
あとはこれ 家族親戚のお祝いや 集まりの席で おかわりをしたいとき — いつもだったけど —
(笑)
したらどうなるかという計算で 頭がいっぱいだった 親戚の僕を見る目が 「まだ食べる気か? もういいだろ?」 って感じだったからさ ほっぺたに「つねって」って 見えない文字でもあったのかな ここで もじもじし始めた人 笑った人 立ち上がった人 立ち上がろうとしている人 あなたが理解した言語は 僕が愛を込めて名付けた — 「子供の頃太っていた語」です 体型に関する劣等感はどれも この言語の方言のようなものです
立ったままでいてください 僕の話す言語がわかる人は 立ってくださいね 請求書を2枚握っているとして 1つは電話料金 もう1つは電気料金 「ど・ち・ら・に・し・よ・う 片方払って 片方捨てよう」 要は「今は両方支払う余裕がない」ってこと 知恵を絞って 切り抜けなきゃなんない 今 立った人は ギリギリでやりくりする「生活苦」 という言語がわかったということです この言語が話せるくらいの経験を持つ 恵まれた皆さんは 「欠乏」ほど向上心をかき立てるものはない ということをご存知でしょう 資質に恵まれない 容姿に恵まれない 金銭的に恵まれない そんな 「痩せた土地」こそ 懸命に耕され 最も実りある種が 収穫されることも多いのです
次の言語はわかるでしょうか ピンと来たらすぐに立ってください 告知を聞いた時 「勘弁してよ」って思った 「よりにもよってそれかよ それだけは嫌だ」 次に 質問を始める 「確かですか?」 「転移してるんですか」 「あとどのくらいなんですか 先生」 これに続く返答で 誰かの余命が判明するんだ 食欲がありそうなら 家族全員テーブルに急いだ いつも家族みんな一緒に食べてたから これからもずっとそうするんだから と 負けが見えてきて なぜなのか理解できなかった だって 何かと戦うとき 正しい精神で臨めば 必ず勝てるって教わってきたから なのに 勝てないなんて 立ち上がった人は よくおわかりのはず 今のは「愛する家族が がんと戦うのを見守る」という言語です
(拍手)
死に至る病なら どれもが この言語の派生言語だといえます
これから話す言語が最後です いや 聞いてるって はいはい いや そうじゃなくて 聞いてるってば
(笑)
だから聞いてるだろっての
(笑)
真っ暗な部屋で ブルーライトが顔を照らす中 ベッドに横になっている 皆さんの中にも 僕みたいに 顔に携帯を落っことした人がいるはず
(笑)
こんなのもありますね? 助手席ではパニック 「道路を見ろっての!」 立ち上がった人は 僕が「つながりを断つ言語」と 呼ぶものがわかる人です 「つながりを求める言語」だと 言われますが 「つながりを断つ」がいいと思います 「つながるに飢える」ではなく 「断絶」のほうの意味です 人と人の断絶です お互いからの断絶 今いる場所や 自分の思考からの断絶 心はどこか他の場所にあるのです
まだ座っている人は 取り残される気持ちがおわかりでしょう
(笑)
(拍手)
こんな気持ちがわかるはずですね 誰もが皆 参加しているのに — 自分は違う そんな少数派の気持ちです 皆さんの言語を話しているので どうぞ立ってください 共通の言語を話しているわけですから この少数派であるという言語は 皆さんが学ぶ言語の中でも 最も重要な部類に入ります 弱い立場に置かれたときに感じることが 逆に自分が強い立場に立ったときの 行動を決定するでしょう
ご協力ありがとうございました お座りください 次が最後の言語になります
(拍手)
今度は座ったままでどうぞ 「アレ」が何のことか わかるでしょうか
世界中の女の子のほとんどが 愚痴ってる「アレ」 世界中の詩のほとんどが 題材にしてきた「アレ」 ラジオから流れる音楽のほとんどが 嘆く わめく 毒づく「アレ」 歌謡業界じゃ歌詞として 吐き出される「アレ」 世界中の歌のほとんどで 語られてる「アレ」 失恋した知り合いのほとんどが 失ったまま歩き回るか 存在を疑い始めるか 失って途方に暮れる「アレ」 暗闇に潜む影のほとんどが 忘れ去ってしまった「アレ」 世界中誰もがそれなしでは 正気を失う「アレ」 男も女も誰も それなしでは 生きていけず 苦しみ 空っぽになる「アレ」 埋まったページのほとんどが その話で埋まる「アレ」 [「アレ」=愛] 流される涙は そのために流される「アレ」 感じたことのある人は 正直に認める「アレ」 それなしの人生では 目的を見失ってしまう「アレ」 その渦中にいれば 大声で語りたくなる「アレ」 全世界誰もが何のことか知ってる「アレ」 それを拒絶した俺は間違ってた と 傷心 絶望 慟哭する「アレ」 それなしでは 心の傷や痛みは癒えない「アレ」 それについて感じていることは 隠せない「アレ」 それについて誰もが理想を持ち 夢を見て 懇願する「アレ」 「アレ」の何がそんなにすごいんだろう 「アレ」なしじゃ 人生も夢に過ぎないって 真剣に知ろうとしてるってこと? 物書きでしかない僕が 「アレ」について何を明かせるというのか
どうして 世界で最も 万人に語られている言語が 言い表すとなると 最も苦労する言語なのでしょうか どれだけ本を読んで セミナーに出て どれだけライフ・コーチングの セッションを受けても 飽き足りることがありません さて お聞きしますが 冒頭に数えていただいた 言語の数は変わりましたか? 次誰かに会ったときは ぜひ考えてみてください 「この人と共通の言語は何だろう」 何も思い浮かばなければ 「では 何の言語を共有できるだろう」 と考えてみましょう それでも何も思い浮かばないなら 「自分は何の言語を学べるだろうか」 と考えてください その会話がどんなに自分には 無関係でどうでもいいことのように その時は思えたとしても そのうち必ず 自分のためになると 保証しましょう
ポエト・アリでした ありがとうございました
(笑)
「あなたは自分が思っているよりもずっとたくさんの言語がわかるはずだ」とポエト・アリは言います。「言語」という概念がいかに「単語の集まり」をはるかに超越し、「愛」「笑い」「孤独」など、万人共通の体験を伝え、そして、私たちみんなを結びつける「文化」「感情」「思想」などへと導いてくれるのかを明かしていく、奥深いトークです。