緊急救命医による“多忙”な人生のトリアージ法(11:35)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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自分の一日や週や月を “めちゃくちゃ忙しい”と 言ったことがあれば 正直に手をあげてください 私は緊急救命室(ER) の医師ですが 私の口から“めちゃくちゃ忙しい”という 言葉を聞くことはないでしょう そして今日を限りに 皆さんもその言葉を使わないことを 願っています 忙しさに“めちゃくちゃ”を 付けてはいけない 理由は何かと言うと “めちゃくちゃ忙しい” 状態の時というのは 忙しさへの対応力が 下がっているためです そういう時には ストレスホルモンが 上昇したままになり 前頭前皮質の実行機能が 低下します その結果 記憶力や判断力 衝動を制御する機能が弱まり 怒りと不安に関わる 脳の領域が活性化します そう感じませんか? でも 実は めちゃくちゃ忙しいと 感じることなく 救急部門のような忙しさに 対応できるのです どのようにでしょうか? 我々と同じ戦術を使うのです 脳は基本的にストレスを 同じように処理しますが ストレスに対する行動は 緊急事態のストレスであれ 単なる日常のストレスであれ 改善可能であることが 研究で分かっています では“めちゃくちゃ忙しい”状態と ERでの“準備万端”状態を 比較してみましょう “準備万端”状態では どんな患者が来てもOKです 多重衝突事故に遭った人や エレベーターに閉じ込められて 胸が苦しくなった人 妙な所に異物を詰まらせた人など 受け入れる患者は様々です どこに詰まったのか 気になるみたいね
(笑)
普通の人なら おかしくなりそうだと 言うような時でも 私たちが動じることはありません なぜならERに どんな患者が入ってきても 対応可能なはずという 準備ができているからです それが準備万端状態です 私たちが習得したこの姿勢は 皆さんも身に付けることが できるのです その方法を説明します
“めちゃくちゃ”から“準備万端”へ 行くためのステップ1は 徹底的にトリアージすること “めちゃくちゃ忙しい”状態は 常に忙しく ストレスを抱えた状態です なぜなら あらゆる問題に対して 同じような反応をしているからです 準備万端状態と 比較してみましょう トリアージをするとは 緊急度合いによって 優先順位をつけることです 単にTo Doリストを うまく片す方法ではありません ロバート・サポルスキー博士の 研究によると 脅威と脅威ではないことの 区別をつけられなくて あらゆることに同じ対応を してしまう人は ストレスホルモンが 2倍になることが分かっています ですから まずこのスキルを 学ぶことから始めるのです 全てに一度に対応は できませんが そうする必要はないのです トリアージをするからです
赤ー直ちに生命の危険性がある 黄ー重症であるが 今すぐの生命の危険性はない 緑ー軽症である トリアージしたら まず「赤」に注力します というのも “めちゃくちゃ忙しい”状態の問題は 全てに対して 「赤」であるかのように 対応してしまうことだからです まずは正しくトリアージをし 何が「赤」かを知りましょう それこそ最も重要なことで 対応の成果が顕著に現れるところです
雑音に惑わされることが よくありますが 最もやかましいのが最も「赤」 というわけではありません 実際 ERにいる重症の喘息患者は 静かな時こそ一番危険な状態なのです コーヒーに入れるクリームが ないと騒いでる患者は やかましいですが 「赤」ではありません
私自身の例ですが この春のこと 自宅が浸水し 1歳の息子は急病でERにいて 4歳の娘の学校での募金活動を 頼まれており 書いていた本の最終章の執筆が かなり遅れていました 偶然にも ストレスについての章でした
(笑)
ここでの「赤」タスクは 1歳の息子の病気を治すことと 執筆を終わらせることでした それだけです 徹底的にトリアージすることが 大切なのです 浸水の修理は? 被害が拡大しないように ひとまず応急処置をしたら もはや「赤」ではありません 「赤」かとも思えたのですが 実際は単なる雑音でした まさに かなりの騒音でした 写真で一番右にいるのが 執筆に集中するため 耳栓をしている私です 周囲では機械を使って 床を乾かしています 自分にとっての 「赤」を知りましょう そして「赤」以外のものに 「赤」の邪魔をさせないこと
ところで 時々ですが 「緑」のタスクに ホッとさせられる こともあります 「ああ『緑』だから 誰も死なずにすむ」と
(笑)
完璧でなくていいんです
実はもう一つ最悪な状況に使用する トリアージの区分があります 「黒」です 手の施しようがない 患者です あきらめるしかありません 心が張り裂けそうになりますが あえてお話しする理由は 皆さんの日常の生活にも 「黒」にあたるタスクがあるからです このタスクはリストから 外さなければなりません どのようなタスクか お分かりですね 私にとって それは募金活動でした 残念ながら断ったのです ERにいる私たちは 全てをやろうとすると 「赤」を救えなくなると 分かっているからです
“めちゃくちゃ”から“準備万端”へ 行くためのステップ2は “めちゃくちゃ忙しい”ことを 想定し備えることです “めちゃくちゃ忙しい”のを乗り切ることの半分は いかに準備するかです ステップ1でトリアージしたら ステップ2ではタスクが簡単になるように 仕組むのです 選択肢が多いほど 決断に時間がかかることが 科学的に分かっています そして決断することが多いほど 脳は疲れやすくなり 良い決断をすることが 難しくなります だからこそステップ2では 日々の決断数を減らす方法を 探すことになります
毎日の生活で使える具体例を 4つ紹介しましょう 「計画すること」 週末に次の一週間の献立を 計画しましょう そうすれば水曜日の夜6時に 腹ペコの家族が ピザを頼もうと言い出しても 迷わずにヘルシーな食事を 用意できるのです 「自動化すること」 自動化できることに 頭を使わないようにして下さい 定期的な予定の設定や リストの保存 定期購入などを活用しましょう 「置き場所をまとめること」 運動をする場合は 必要な道具などは一か所に 保管して 充電をして準備をしておきましょう 探す手間が省けます 「誘惑を減らすこと」 甘いものが好きな人は? 好きですよね それ自体が“めちゃくちゃ”状態の 一つの形であり “めちゃくちゃ”状態への 精神安定剤にする人もいますが 意思力に頼るのはやめましょう 環境を変えてしまいましょう 食べ物が手の届く範囲になければ 例えば踏み台を使わないと 届かない位置にあれば チョコレートであったとしても 無意識に食べる量が7割も減った という研究があります すごいですね よく考えてみましょう
(笑)
良い選択がしやすい環境を 作りましょう
次は“めちゃくちゃ忙しい”から “準備万端”へのステップ3です 考えすぎるのをやめること ついて来て下さいね 話が変わります 私は小さな急患診療所に 勤めています 女性が陣痛でやって来た時 へその緒が赤ちゃんの首に 一重どころか 二重に絡んでいることに 気づきました 医者は私一人しかいませんでした 不安でした でも そのためにつまずくわけには いきませんでした 人間だれでも緊張して 不安になるものですが 大切なのは その後の行動なんです 初めの感情は問題ではなく 重要なことを示しているの かもしれません 問題なのはそこで 気がそれることです 頭の中でくよくよ考え始め 勝手に事を深刻化して 視野が狭まっていきます “めちゃくちゃ”状態の時の 考え方です その状態では何も 問題が解決しません
後でこの話に戻りますが その思考から逃れるためには どうすればよいでしょうか? 様々な方法を聞いたことが あるかもしれませんが 私の場合は 他の誰かに積極的に 心を向けるのが一番効果的です 目の前にいる人に 意識して目を向けます 彼らと同じ土俵に立って 彼らは何を必要とし 何を恐れ 自分に何ができるかを考えます よくある感情論に 聞こえるかもしれませんが 実際は違います 研究によると 脳が思いやりベースの思考になると 視野の狭さや考えすぎが 防げるのです 広く捉えられるようになり 脳は幅広く情報を 取り入れることができ より多くの可能性に気付き より良い決断ができるのです 試してみて下さい 考えすぎが つまずかせることがあると 知っていて下さい くよくよ考えないようにすることで 自分が自分の邪魔をする状況を 避けられるのです
あの赤ちゃんは どうなったのでしょうか? 不安な気持ちは忘れ お母さんと赤ちゃん そして二人のために 自分がすべき事に集中しました そして 首に絡まっていた へその緒をとることができました 大声で泣き 元気に動く 赤ちゃんが誕生した時にちょうど 駐車場からお父さんが 駆け込んで来ました 「男の子ですよ はじめまして 医師のダリアです おめでとうございます へその緒を切りますか?」
(笑)
そしてしばらくの間 生まれたばかりの赤ちゃんの 力強い泣き声が ER内に通常あふれる医療機器や サイレンの音をかき消しました 実は他にも 起きていたことが ありました お母さんの部屋から出てきた時に 他の患者さん達が近くに 集まっているのを目にしました 彼ら自身も病気を抱えて ERに来ているにもかかわらず この赤ちゃんを応援するために みんなひとつになっているんだと 気づきました そして一緒に喜びを 分かち合っていたのです
“めちゃくちゃ”から“準備万端”に 切り替えると こういう事が起こります 周囲の人も気づきます 自分も変わりたいと願っていても 方法がわからず 見習える人を必要としていて それはあなたかもしれません 忙しさをものにし “めちゃくちゃ忙しい”と 言うのはやめましょう 皆さんにも元々 そういう力はありましたが 今や 準備万端になったんですから
ありがとうございました
(拍手)
緊急救命室(ER)の医師は混乱を極める中、いかにして心を鎮め集中をするのでしょうか。長年の経験から、ERの医師であるダリア・ロングが日々の生活が“めちゃくちゃ忙しい”と感じ始めたときに冷静に落ち着いて対処できる明快な仕組みを紹介してくれます。