まったく不確かな未来へ歩む勇気(15:41)

シェキーナー・エルモア(Shekinah Elmore)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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起こり得る最悪のことは何だと思いますか ちょうど10年ほど前 ものすごく寒い診察室に座って 初めて会う腫瘍医を待っていました おびえていました 当時の私のパートナーが すぐそばに座っていたのにもかかわらず 完全に孤独な気分でした 乳癌と診断されたばかりだったのです その当時見た限りでは 右肺のスキャン画像に映っていた 白い影が 癌が既に広がっていることを 意味していました 転移性乳癌でした 当時の私はまだ医学を学ぶ前でしたが 本当に癌なのなら どういうことなのかは知っていました 不治の乳癌です 末期の乳癌です 私は27歳で 医大に入学を 許可されたばかりでしたが もう人生は終わりなのか と思いました

新しく担当になった腫瘍医は 温かい人柄の持ち主ではありませんでした 多くの優秀な医師がするように シンプルな事実にしか興味がなく 「私達の体は細胞でできています」 と彼女は話し始めました 私は話を遮りました 「私はじきに医大で勉強し始めるので そんな事は知っています」 彼女は これを振り出しに戻れという 合図として受け取る代わりに 話を進めました 癌の進行を制御するために 化学療法を始める必要があると言い さらに薬と副作用と 治療スケジュールについての 詳細を話し始めました 私は まだ肺の白い影の 生検してさえいないのだと指摘し 確かに癌なのかと尋ねました

私の質問に対し 彼女が苛立ちを隠せない 様子だったのを はっきり憶えています おそらく私が彼女の説明に ついてこれないと思ったか それどころか 現実を否定しているように 思ったのでしょう 患者として 私は単に 理解してほしかったのです― この生検は わかりきった結論を証明する ただの形式的なものである以上に 鋼の針で皮膚 筋肉 骨を貫き 私の体の奥深くの組織の一部を取り出して 問う必要がなければどんなに良かったか という問いに答えてしまうものである と 生検を受ける前の私は 転移性乳癌を患っている 可能性があるかもしれない27歳の女性 というより 転移性乳癌を患っている 可能性の高い女性に過ぎませんでした これは重要な違いなのです しかし 最高の腫瘍学研修においてさえも 重要視されていません 代わりに 私はほんの数週間先に 治療初日の予約を入れられ 退室させられました

この初診日以降 本当にたくさんのことが起きました 皮肉なことに この生検はやはり 単なる形式的なものではありませんでした 当時の担当腫瘍医は正しかったのです

(笑)

生検の結果 癌でしたが 全く違う場所に存在する 肺癌でした おかしな言い方をしますが これは素晴らしいニュースでした 転移性乳癌はなかったのです 2つの異なる癌が見つかりましたが でもどちらも限局性で 肺癌は手術で取り除けるほど 局部に限定されていました そして目まぐるしい 「攻め」の治療が始まりました 肺の手術に続く化学療法 最後は 28歳の誕生日直後の 乳房手術でした

そして2週間後 医大での勉強が始まったのです 今度の新しい担当腫瘍医は —

(笑)

事実と 事実に伴うニュアンスの両方を もっと柔軟に考えてくれる人で もっともな提案をしてくれました 医大への入学を一年間延長して 休養し 回復するための時間を 取ってはどうか というものです その通りだと思いました 集中的な化学療法のセッションを ひどくつらいと感じていました それで学長に手紙を書きました 私の置かれた状況を説明したところ 入学の延期は迅速に許可されました

しかし化学療法の副作用が落ち着き 正気にかえった私は これから1年 何をすればいいんだろうと思いました ビーチで過ごすとか?

(笑)

私はそんなに ビーチ好きでもありませんでした (笑)

それにどっちみち人生は あと何年残されているのでしょう? 私は本当に医大へ 行きたかったのです それが私の人生のパズルに欠けている 1つのピースでした

そんな訳で ぐずぐずと 決断しないでいるのはやめて 自分に問いかけました 「起こり得る最悪のことって何?」 仕事ができなくなるほど弱ったり 病気になったりするかもしれません 精神的にとても辛いかもしれません 医大を退学になるかもしれません でも 改めて その年起きた 人生最悪の出来事に比べたら 大したことないだろうと思いました だったら始めれば? 自分の生きたいように 生き続ければいいじゃない そうすることにしました

髪は全部抜けガリガリに痩せましたが 一番いいイヤリングと お気に入りのワンピースを身に着け 医大に入学しました 最初は無理していましたが だんだん馴染み始めました それがどれだけ大変だったか 言葉では説明し尽くせません 時には こんなの無理だと 思う日もありました 将来何の役の立たないことを やっているような気までしました しかし毎日 自問自答しました 「これ 今でも楽しい?」 「これはまだやりたいことなの?」 そして毎日 答えは「はい」でした 時々はかなり条件の厳しい 「はい」でしたが それでも「はい」でした

やっと落ち着いてきた頃 医大を退学しないで 済むかもと思い始めた頃 もっと衝撃的なことが判明しました 私のTP53又は略してp53と呼ばれる 遺伝子に変異があると分かったのです ゲノムの守護者として知られる p53遺伝子の変異です p53遺伝子はDNAの修復を司ります この遺伝子の変異は DNAの間違いが 修正されないことを意味します 正常な細胞が癌細胞になってしまう確率が はるかに高いということなのです それを知って 突如 私の病歴と 残酷なほどに 辻褄が合うことに気づきました 私は7歳で横紋筋肉腫という 小児癌にかかったことがあります 10代の頃再発しました これらはすべてp53が研究室で 発見される前のことでした そして若年成人乳癌と肺癌を患いました

この遺伝子変異について知り 私が将来患うかもしれない癌は 限りなくあるように思えました それでも 私は放射線腫瘍医になることを 決心したのです

(笑)

うまくいけば 研修医としての病院勤務も あと数ヶ月で修了し 新しい都市に引越し 医師そして研究者として 実質初めての仕事に就くつもりです 私には闘志があるし 恵まれてもいる 治療の助けもあるし 治療に当たってくれる医療チームと 家族と先生達もいます それに 遺伝子診断が前に進む為の知識を 与えてくれるはずでもあるからです

それでも 2020年においてでさえ それが奇跡的な治療法や 医学的な新発見を約束するわけではありません ひどく打ちのめされるような 遺伝子診断を下されるのは 不確実性と共に 生きることを学ぶということです それは病に冒された自分も診断結果も 起こり得る最悪のことではないと 学ぶという意味です 不確実性と共存することを 学ぶということは 美しくも難しい課題に満ちた人生に 歩み出すという意味です 癌は人生の物語のほんの一部に過ぎないと 経験をもって知るという意味です 人生最悪なことは 癌ではないかもしれません そうだったとしても いいんです それも人生の一部だと認め 引き受けてください ただし 自分で創作し 自らこれでいいと 認める物語にしましょう 他の誰かに書かれた物語ではなくです 他の人のアドバイスに従ってもいいですが 最終的には自分で決断してください

腫瘍科の研修も終わりに差しかかり 患者としての経験から 次のような場面で 何度も既視感を覚えます 患者が癌を患っています 幾つかの選択肢があります どの程度の治療をすることによって どの程度生活の質が損なわれるかのバランスや 苦しみを和らげる可能性と 苦しみをもたらす可能性の バランスはすべて異なります 腫瘍医が選択肢を説明しますが 話が進むうちにおかしな話になってきます 選択肢が限られてきてしまうのです 「あなたは治療を受けることも選んでも 治療しないことを選んでも構いません 攻めの癌治療をしてもいいですし 経過観察してもいいです」 そして10回のうち9.9回は 「受けられる治療はすべて受けたいです」 と患者は言います もちろんです 「すべて」を欲しがらない人がいますか?

でも 「すべて」とは何でしょうか 自宅で窓の前に座ることのできる健康状態で 陽射しを浴びて家族に囲まれることですか? それとも 指とつま先の 感覚を失っていないということですか ― 化学療法で麻痺してしまわずに? 腫瘍医にとって「すべて」とは 癌治療のことです 放射線と手術と化学療法と 新しい治療法のことです そして腫瘍医にとって 起こり得る最悪のこととは — 複数の腫瘍医がこう言うのを 聞いたことがありますが ― 起こり得る最悪のこととは 患者の転移性疾患が広がることです または 今から5年経ったら 癌が進行し 治療の放射線量を 増やさないといけなくなることです

患者であり 腫瘍医でもある私は これらの結果が悲惨ではないとは 決して言いません でもこれらは最悪のことでしょうか? 癌のコントロールを いかなる時も中心に据えて 考えるべきなのでしょうか?

たくさんの言葉にできない 計り知れない痛みを伴う 残酷なことが 癌と遺伝子変異のせいで 私に起こりました それでもまだ 私は本当に 幸運だと考えています 最悪のことは決して起こらなかったからです 私はむごたらしさと不確実性を 人生に迎え入れたものの それらを人生の中心には 置かなかったからです 転移性乳癌を患っていると 診断された時 別の医師の意見を求めボストンに行きました 他に失うものなんてないでしょう? 新しい担当医が非常に良く 安全で 標準的な 入学延期の助言をくれたものの 私は結局 医大での勉強を始めました 積極的な癌治療中なのは おかまいなしでした

他の癌患者を敬遠する代わりに 放射線腫瘍医になりました そして私と似た境遇の患者を 扱っています 毎日です 自分がもし癌で死んだ場合 将来の伴侶に与える苦悩を想像する代わりに 素晴らしい男性と結婚しました なぜなら起こり得る最悪のこととは いつでも ネガティブ思考の連鎖だからです やりたいことをやって埋めるべき 人生のページが空白になってしまいます

このようなまったくの不確かさに対して 私が向き合った最大のものは何でしょう? この子はウィリアムです 私が出会った中で最も喜びに満ちた人間で 1年余りで すでに周りの人々を 幸せな気持ちにしてくれました

腫瘍医として 私達は患者達に まるで起こり得る最悪のこととは 彼らの癌が再発したり 広がったり そのせいで 死ぬことであるかのように話します 患者として これらのことは 最も重要なことだと知っています でも私は こんな 癌に人生を決められるような考え方を改め そして私達腫瘍医が患者とこれについて どう話し合うかを変えたいのです 患者として 起こり得る最悪のこととは 癌がチャンスを奪うことです なりたいものになる能力や やりたいことをやる機会や 愛したいものを愛する力を 癌は奪ってしまうでしょう 少なくとも一時的には奪います でも この「人生の損失」を 生きていく上で最小限に抑えること それは いっそう難しいことではありますが 腫瘍医のすべき仕事の本質に近いとも言えます つまり 持っているすべての手段を 患者の生活全般にわたる状況に用いること どのように患者が苦痛を受け入れるかの 案内役となり 苦痛と共存する難しさへの深い理解を見せ 未来の苦痛への恐怖を 患者の人生の物語に入れさせないことです

私のメンターの1人はいつも 医学的な面は扱いやすいと言います 若輩の医師である私は 決してそのようには感じませんが 医学には明確な定義があります 手引きとなる権威的な医学研究が多くあり それを研修医のうちに学びます 医師にとってより難しいのは 各患者が 自分の病気による幾多の試練を切り抜けるのを どうやって助けるかを学ぶことです

振り返ってみると 本当に面白いと思うのですが 私の人生はきっちりとした 組み立てセットのように見えます まるで私自身が 連続するステップを それぞれ計画したかのようです もしかして癌は私の人生に良いものを もたらしてくれたのかもしれません まずステップ1で 医大に申し込み ステップ2で 癌だと診断され治療を受けました そしてステップ3で すべてを手に入れました 仕事と家族の両方です でも聞いてください 各ステップが大きな賭けでした どれに対しても 身のすくむような 不確実性を承知で飛び込みました そしてその勇気こそ 私が自分の患者一人ひとりに 与えようとしているものです それを医療の技術的な詳細 つまり 癌や 治療法の決定や 遺伝子変異などに 関係なく与えようと試みています 当たるか外れるかわからない 「予後」という 想像の話は度外視します 私は患者達が何を欲しがり 何を必要とし 何を望んで 何を心配しているのか 何についての理想を持ち 何が彼らをかつて 生き生きとさせていたのか そして何が癌治療のむごたらしい過程の間 彼らを支えるのかを知ろうと努めています それらを知るのに実際 それほど時間はかかりません 意識して練習することで修得される 集中した 心静かな時間を何回か持てば 知ることができます でもこれは医師と患者の共同作業であること それが重要なのです なぜなら起こり得る最悪のこととは すべてをやってくれる腫瘍医を 持つことだからです あらゆることを 癌の治療の為にしてくれますが 患者が自分の人生を歩む援助は 何もしてくれない医者なのです ありがとうございました (拍手)

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このプレゼンテーションについて

未来が不確実な時、どうやって前に進み続けますか?この勇気ある講演で、腫瘍医であり癌の生存者であるシェキーナー・エルモアは、自身が稀な遺伝子診断を受けた後に、どのように人生を受け入れたかについて語ります。そしてなぜ医師には、患者が不確かな未来と共に生きる助けをする義務があるかを信じる理由を説明します。

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