人種的な偏見が及ぼす影響を断ち切るために(14:09)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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数年前のことです 私は 当時ほんの5歳だった息子と 一緒に飛行機に乗っていました 息子はママと飛行機に 乗っていることに大興奮で 周りをくまなく見渡して 目に入るものや 人を観察していました すると ある男の人を見て 「見て! あの人パパに似てる!」と 言ったんです その人の方に目をやると 夫には似ても似つかない人でした 何も共通点がないんです そこで 機内を見渡してみると その人が機内で唯一の 黒人男性であることに気づきました こう 思いました 「そうか 黒人だからって 皆が似ているわけじゃないと 息子に言って聞かせなくちゃ」と 息子は 顔を上げて 私に言いました 「あの人が飛行機を 乗っ取らないといいね」 私が思わず 「え? 何て言ったの?」と聞くと 息子は「あの人が飛行機を 乗っ取らないといいなと思って」と 私は「なんで そんなことを言うの? パパはそんなことしないでしょう?」 と言いました 「うん そうだけどさ」と息子 「じゃあ なんで そんなことを言うの?」と私 すると息子はひどく悲しそうな顔をして 言いました 「なんでそんなこと 言ったんだろう なんでそう思ったのか わからないよ」
私たちは深刻なまでに 人種で階層化された世界に生きているため 5歳児でさえ 何が起こりうるかを口にできます 悪事を働く者がいなくても はっきりとした憎しみがなくても これが現実です 黒人であることが 犯罪を連想させることは 私の5歳の息子にまで 植え付けられていたのです この連想は あらゆる子供たちと あらゆる人々に 忍び寄ります 私たちの思考は 世の中で目にする 人種間の格差と その辻褄を合わせるための 言説によって形作られます 「あの人たちは犯罪者だ」 「あの人たちは暴力的だ」 「あの人たちは怖い人たちだ」
私の研究チームが 実験室に参加者を集めて 人の顔を見せる実験をすると 黒人の顔を見ることで よりはっきりと素早く おぼろげな銃のイメージを 想起させることが分かりました 偏見によって 見えるものが変わるだけでなく 目を向けるものも変わります 凶悪犯罪について 考えるよう促すことで 白人の顔から目を離して 黒人の顔へと 目を向けうることも分かりました 警察官に被疑者確保や射撃や 逮捕についてイメージさせると 黒人の顔に目が向きがちであることも 分かりました
偏見は刑事司法制度の あらゆる側面に影響を及ぼします 死刑が求刑されている被告人の 膨大なデータを調べてみると より肌が黒いことで 死刑を言い渡される可能性が 2倍以上になると分かりました 少なくとも被害者が 白人の場合はそうです この影響は非常に大きく 犯罪の重大性や 被告人の魅力などを 調整してもなお 影響を及ぼすほどでした どんな条件を調整しても 黒人はその身体的特徴である 黒さに応じて 刑罰を受けていたのでした 肌が黒ければ黒いほど より死刑に処されやすいのです
偏見は教師が生徒を 叱る上でも影響します 同僚と行った研究では 全く同じ違反を繰り返した場合でも 教師は白人の中学生よりも 黒人の中学生の方を 罰しようと思うことが 分かりました 最近の研究では 教師が黒人の生徒を 集団として扱う一方で 白人の生徒を個人として 扱うことが分かりました 例えば 仮に ある黒人の生徒が悪さをし その数日後に 別の黒人の生徒が 悪さをすると 教師は2人目の黒人の生徒に対して まるで2度悪さをしたような 態度を取るのです 1人の子供の違反が 他の子供にも降りかかるのです
私たちは世界を理解するために 物事を分類します 私たちが常にさらされている 数々の刺激をコントロールし それらに一貫性を見出すためです 分類する能力と それがもたらす偏見のおかげで 脳は より速く効率よく 判断を下すことができますし 私たちの脳は予測可能に思える パターンに本能的に従って 判断をします しかし 分類することによって 素早い判断ができると同時に 分類は偏見を助長します ですから 世界を見せてくれる 能力そのものによって 目をくらまされることもあるのです 分類は選択を容易にし 引っかかりを取り除きます それでいて 重大な負の側面も 伴うのです
では 何ができるでしょうか? 私たちは偏見に囚われがちですが 常に偏見に基づいて 行動するわけではありません 偏見のスイッチを入れる 特定の条件もあれば それを打ち消す条件もあるのです
例を挙げてみましょう 多くの人が Nextdoorという テック企業を知っているでしょう この企業の目標は 地域を より強固で健全かつ安全にすることです そこで この企業は オンラインスペースを提供し 近所の人たちが情報を集めて 共有できるようにしています でも Nextdoorは やがて 人種プロファイリングに 欠陥があることに気づきました 典型的なケースでは 人々が窓の外を見て 白人ばかりが住む地域に 黒人がいることを見つけると 犯罪行為をしている証拠などなくても その人は悪さをするに違いないと すぐに決めつけるのです 様々な意味で オンラインでの行動は 現実世界での行動を 反映しています しかし 偏見を助長し 人種間の格差を深めるような 簡単に使えるシステムを作るなど あってはならないことです 偏見や格差は むしろ取り除くべきです
そこで Nextdoorの共同創設者が どうすればよいか 私を含め何人かに 相談しにきました そこで気づいたのは プラットフォームの 人種プロファイリングを抑制するには 摩擦点を加えて 人々の拙速な行動を抑える必要が あるということでした Nextdoorは選択を迫られ 行動を誘発するものすべてに対して 摩擦点を加えることにしました どうしたかというと 簡単なチェックリストを追加したのです チェックするのは3点です 1つ目に ユーザーに一呼吸置いて 「この人のどの行動を怪しいと 思ったか」を考えてもらいました 「黒人」という分類は 怪しさの理由にはなりません 2つ目は ユーザーに 人種とジェンダーだけではなく 身体的特徴を記してもらいました 3つ目に 多くの人々が 人種プロファイリングとは何であり 自分たちがそれをしていることも 知らないのだということに 気づきました そこで Nextdoorは 定義を明らかにして 「これを厳しく禁止する」と 伝えたのです 空港や地下鉄の駅にある掲示に 「何か目にしたら 声を上げること」 というのがありますね Nextdoorは これをもじりました 「何か怪しいものを目にしたら 具体的に言葉にすること」 単に人々の拙速な行動を 抑制するというやり方を使って Nextdoorは人種プロファイリングを 75%も減らすことができたのです
私が人によく言われるのは 「すべての状況と文脈に 摩擦点を取り入れるのは無理だ 常に瞬時に判断を求められる人たちにとっては 特に無理があるはずだ」と ですが 考えているよりも ずっと多くの状況に 摩擦点を導入することができるのです カリフォルニアの オークランド警察と協力して 私は同僚たちと共に 重大な罪を何も犯していない人に対する 職務質問の数を減らせるよう 手を貸すことができました 私たちは警察官に 誰かを職務質問のために呼び止める前に こう自問するように求めました 「この人を呼び止めるのは 理性からの判断かどうか」 これは言い換えると この人物を特定の犯罪と 結びつけるだけの 事前情報があるかどうかです この質問を 警察官が職務質問中に 記入する書類に差し挟むことで 焦らず 立ち止まって 「どうしてこの人を呼び止めようと しているのか」と自問することになります
2017年に 理性に訴えるこの質問を 書類に追加する以前は 職務質問の件数は街全体で 32,000件ほどでした 翌年に 質問が追加されると これが 19,000件に減りました アフリカ系アメリカ人に対するものだけで 実に 43%も減ったのです 黒人への職務質問が減ったことで 街の治安は悪化しませんでした それどころか 犯罪件数は減少を続け すべての人にとって 街がより安全になったのです
不要な職務質問の件数を減らすことは 解決法のひとつです もうひとつの解決法は 実際に行う職務質問の 質を上げることです これにはテクノロジーが 役立ちます ジョージ・フロイドの死について 皆が知っているのは 彼を助けようと集まった人々が 携帯電話のカメラを手にして 恐ろしく また命取りとなった 警察とのやり取りを録画していたからです とはいえ 有効に活用できていない テクノロジーが多くあります 現在 アメリカ全土の警察は ボディカメラの装着を 義務づけられているため 恐ろしく 限度を超えたような やり取りだけでなく 日常的なやり取りも録画されています
スタンフォード大学の 学際研究チームと協力して 機械学習技術を利用することで やり取りを収めた大量のデータを 分析し始めています 日常業務としての車両停止の様子を よりよく理解するためです ここで分かったのは 警察官が職務に徹した態度を 取っている場合であっても 黒人ドライバーに対する言葉遣いが 白人に対するよりも ぞんざいだということです 実際 警察官が使っている 言葉だけを頼りに 相手のドライバーが黒人か白人かを 予測することまでできたのです
問題は これらのカメラに 収められた映像の大半が 警察当局が 路上で何が起きているかを理解したり 警察官の訓練に 利用されたりしていないことです これは大変遺憾です 日常業務の車両停止は どのようにして 死を招くことになるのでしょう ジョージ・フロイドの事件は どのように起こったのでしょうか? 他の場合には どうだったのでしょうか?
私の一番上の息子は 16歳のときに 白人は自分を目にすると 恐怖を感じるのだと気づきました エレベーターは 最悪の状況なのだそうです ドアが閉まると 人々はエレベーターの狭い空間に 危険と結びつけるように 教えられてきた相手と閉じ込められます 息子は 相手が 居心地の悪そうなのを察知して にっこり微笑みかけて 怖くないからと安心させます 息子が話しかけると 相手の身体のこわばりがほどけて 落ち着いて呼吸できるようになります 彼らは 息子の話しぶりや言葉遣い 言葉の選び方を好ましく感じます 自分と同じような人間だと 分かるのです 私はずっと 息子は父親に似て 根っから外向的なんだと思っていました でも このことを息子と 話すうちに気づいたのです 息子の笑顔は 通りすがりの他人に 親しげに振る舞うためではなかったのだと 息子の笑顔は 我が身を守るための お守りだったのです 何千回もエレベーターに乗った経験から 自ら編み出したサバイバル法でした 自分の肌の色のせいで生じ 命までも危険にさらしかねない軋轢を 手なずける方法を 身につけつつあったのです
脳は偏見を持つように できているものです その偏見を断ち切る方法のひとつは どうしてそう思ったのかを 立ち止まって振り返ることです 自分の胸に問わねばなりません エレベーターに乗り込むときに どんな思い込みをしているのか と 飛行機はどうでしょう? 自分の抱いている無意識の偏見を 意識するには どうすればよいでしょう? そういった思い込みに 守られるのは誰なのでしょう? そして誰が危険に さらされるのでしょうか? こうした問いを投げかけて 学校や法廷や警察当局をはじめ あらゆる機関が この問いを考えるように 要求するまでは 私たちは 偏見に視界を 曇らされたままとなるでしょう そうなってしまったなら 私たちの誰一人として 真の意味での安全は得られないのです
ありがとうございました
私たちの脳は、世界を理解したり、パターンを認識したり、素早く判断したりするために物事を分類します。でもこの分類する能力のせいで、無意識のうちに偏見を抱いてしまうという重大な負の側面も伴います。この力強いトークでは、心理学者のジェニファー・L・エバーハートが、学校やソーシャルメディアから警察の行動や刑事司法制度に至るまで、社会のあらゆる場面で、この偏見がいかに不当に黒人に向けられているかを探ります。そして、この悩ましい問題を積極的に断ち切り、また向き合うのに役立つ「摩擦点」の作り方について話します。