LiDAR(ライダー)で全地球をスキャンしよう(13:08)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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今まで訪れた中で 最も驚嘆した場所が ホンジュラスのモスキティア熱帯雨林です 考古学の現地調査は 世界中で行ってきたので ジャングルの踏査が どんな感じか 分かっていたつもりでした でも 私が間違っていました これほど間違えたのは 正直 生まれて初めてです
(笑)
まず 寒さに震え上がりました 気温は32度でしたが 湿気で全身ずぶ濡れです しかも木々の樹冠が厚すぎて 光が地面に全く届きません 乾くということがないのです すぐに もっと衣類を持ってくれば 良かったと思いました その最初の夜 何者かがハンモックの下で しきりに動き回るのを感じました 未知の生物たちが 薄いナイロン地の裏側を こすったり つついたりするのです しかも騒がしいので ほとんど眠れませんでした ジャングルはとてつもなく騒々しいところです まるで賑やかな町の中心にいるようです
夜が更けるにつれ 眠れないことに 苛立ちがつのってきました 明日も 丸一日あるのにと 夜明けにやっと起きて見ると 気配の主の痕跡が 生々しく残されていました 動物の足跡やひづめの跡や ヘビの通った線が 辺り一面に あったのです さらにショッキングだったのは その動物たちが 白昼も姿を現わして 我々を全く恐れないことでした 人間と接した経験がないので 恐れる理由もないのでした
この地にやって来た目的の 未調査の都市へと歩くうちに ここが 自分が来た中で唯一 一片のプラスチックも見えない 場所だと気付きました それほどの奥地でした 皆さん きっと驚かれたでしょう そんな人跡未踏の地が 地球上にまだあったなんてと でも これは事実なのです 人が何世紀も足を踏み入れていないか 誰も一度も来たこともないような場所が まだ何百か所もあるのです
考古学者になるには 素晴らしい時代です この地球を理解するための ツールやテクノロジーが かつてなく 充実しているからです しかし 時間はあまり残っていません 今ある生態系や文化遺産は 気候変動によって危機にさらされています 私の仕事には20年前なら感じなかった 切迫感があります どうすれば 手遅れになる前に 全て記録に留めておけるのか?
私が学んだ考古学の手法は 1950年代から使われている 伝統的なものです 全てが変わったのは 2009年7月 メキシコのミチョアカンでのことでした 私は古代プレペチャ帝国を 調査していました 知名度は低いものの アステカと同時代の 重要な帝国です その2週間前 私のチームが 未知の集落があると報告していたので 我々は 建物の遺構の地図を 手作業でこつこつ作っていました 建物は何百もありました
考古学の基本手順は 集落の外縁を見つけ出すことです それによって大枠が掴めるので 大学院生たちに促されて 私がやることになりました そこで 私はエナジー・バー数本と 水とトランシーバーを掴み 一人で歩いて出発しました 「外縁」など数分で見つかると 高をくくってね 数分が経ち 1時間が経って ようやく荒れ果てた溶岩流の 反対端に到達しました おっと 古代の建物の遺構は その間ずっとありました これは都市なのか? ああ 畜生
(笑)
これは都市だ
小さな集落に思えた この場所が 実は 古代の大都市だったのです 大きさは26平方キロメートル そこに 現在のマンハッタンに 匹敵する数の 建物の遺構があります これほど大きな古代集落だと 全ての調査に数十年は掛かるはずです つまり 自分のキャリアの残り全部です 自分のキャリアの残り全部を こんなところで費やしたくない ―
(笑)
汗まみれで くたくたになりながら ストレスを溜め込んだ 院生たちを なだめつつ ―
(笑)
余った ピーナツバタージャム・サンドを 野犬に 投げ与えつつ ところでこれ 意味がないんです メキシコの犬って実は ピーナツバターが嫌いなんです
(笑)
考えただけで 退屈で涙が出そうでした
そこでコロラドに戻り 同僚の研究室に 首を突っ込みました 「なあ もっとマシな手があるはずだろ」 すると彼はこう尋ねました 「LiDAR(ライダー)という 新技術を知ってるか」 調べてみると それはレーザーパルスの高密度グリッドを 飛行機から地表に向かって 照射する測距技術でした これにより地表面と 地上の全ての構造物の 高解像度スキャンが行えます 得られるものは画像ではなく 高密度な 3D の点群です そのスキャンを行うお金は十分あったので 早速やってみました その会社はメキシコへ行き LiDARを飛ばし データを返送してきました
それから数か月かけて 私は デジタル森林伐採を学びました 木や藪などの植生を取り除いて その下にある古代遺跡の姿を 明らかにするのです
初めてデータを可視化したときには 泣いてしまいました それを聞いて皆さん さぞ驚かれたでしょうね 私 とても男らしく見えますから
(笑)
たった45分飛んだだけで LiDARが収集したデータの量は 手作業では何十年も掛かったはずの 量と同じでした 全ての家の遺構 建物 道路 ピラミッド 信じがたいほどのディテール それらが何千もの人々の生活を 描き出しています そこで生きて 愛して そして亡くなった人々の生活を しかも そのデータの質ときたら 伝統的な考古学調査のものとは 比べ物にもなりませんでした 遥かに 素晴らしかったのです この技術は考古学という分野そのものの 将来を変えると思いました その予想は当たりました
我々の研究が とある映画制作グループの 目に留まりました 彼らはホンジュラスの 失われた伝説の都市を探していました その探求には失敗しましたが 代わりに未知の文化が 今も 手付かずの熱帯雨林に 埋もれていることを LiDARを使って記録しました 私もデータ解釈への協力を引き受け その結果 モスキティアのジャングルに 足を踏み入れることになりました プラスチックが一切なく 好奇心旺盛な動物が沢山いる場所です
我々の目標はその古代遺跡が LiDARが識別したとおりの形で 地上にあるか検証することでしたが 確かにありました 11か月後 私は考古学の精鋭チームと 現地に戻りました スポンサーはナショナル ジオグラフィック協会と ホンジュラス政府です 我々は1か月で 400以上の遺物を発掘しました 遺物にちなんで その遺跡は今 「ジャガーの街」と呼ばれています
我々はこの遺跡を現状のまま保全する 道義的・倫理的な責任を感じました しかし 現地入りしてほどなく 変化が否応なく訪れました 我々が最初に来たときヘリコプターで 着陸した 細い砂利道は消え失せていました 薮は払われ 木々は伐採されて 数機のヘリコプターが同時に着陸できる 大きな発着場が出来ていました 植生がなくなったため たった一回の雨季で 我々がLiDARスキャンで見た 古代の用水路は 損傷したり破壊されてしまいました また 私がエデンと呼んだ場所にも ほどなく大きな空き地と 中央キャンプと 照明灯と 野外教会が出来ました つまり 我々が現状を保全しようと どんなに努力しても 変化は免れなかったのです 我々が最初に実施した 「ジャガーの街」のLiDARスキャンが ほんの数年前には存在していた街の姿の 唯一の記録になってしまいました
大まかに言えば これが我々考古学者にとっての 問題なのです 現地調査を行えば 何らかの変化は避けられません ただでさえ 地球は変化しています 古代遺跡は破壊され 歴史が失われています
今年も 我々を震撼させる事件がありました ノートルダム大聖堂の火災です シンボルの尖塔は崩落し 屋根もほぼ全壊しました 奇跡的に 美術史家の アンドリュー・タロンと 彼の同僚が 2010年にLiDARを使って 大聖堂をスキャンしていました 当時の彼らの目的は 聖堂の建築方法を調べることでしたが 現在 彼らのLiDARスキャンは 大聖堂の最も包括的な記録となっており 再建の際にかけがえのない 資料となるはずです 彼らには 火災の発生もデータの使われ方も 知るべくもなかったでしょうが 幸いにもデータは残りました
我々は今ある生態系や文化遺産が 未来永劫残ることが 当たり前だと思っています しかし 残らないのです 南カリフォルニア建築大学や ヴァーチャル・ワンダーズなどの組織が 信じがたい働きぶりで 世界の歴史遺産を記録し続けていますが 地上の景観に関しては これに並ぶものがありません 熱帯雨林の50パーセントが 既に失われました 約7万3000平方キロメートルの森林が 毎年消失しています さらに 海面上昇により 都市や国や大陸が 判別不能になるでしょう そうした場所を 我々が記録に残さない限り 未来の人々がその存在を 知るすべはなくなります 地球をタイタニック号に例えれば 我々は既に氷山に衝突しており 全員が船に乗ったまま 楽団が演奏している状態です 気候変動が今ある文化遺産や 生態系を破滅に追いやるのに もう何十年も掛かりません しかし 座して 手をこまねいているという選択肢は もう我々にはないのです 救えるものは何でも 救命ボートに乗せるべきではありませんか?
(拍手)
私がホンジュラスとメキシコで 行ったスキャンを見れば 今必要なのが スキャン スキャン またスキャンであり それを可能な限り続けるべきなのは 明らかです まだ間に合う 今の内に こうした気持ちから始まったのが アース・アーカイヴです この全く新しい科学的な取り組みは LiDARで全地球を スキャンしようというもので まずは 最も危惧される地域から着手します
その目的は3つ 目的1:今現在の地球を記録して 基礎資料とすること それを元に気候変動の 効果的な緩和を目指します 変動を計測するには2種類のデータ つまり ビフォアとアフターのデータが必要です 今のところ 我々が持つ ビフォアの高解像度データは 地球の一部分にすぎません そのため変動を計測することができず 現在行われている活動のどれが 気候変動との闘いに効果を上げているのか 評価することもできないのです
目的2:バーチャル地球を作成すること それを使って 多くの科学者が同時に 今の地球を研究できるようにします 私のような考古学者は 未調査の集落探しを行い 生態学者は木の大きさや 森林の組成や年齢を調べ 地質学者は水文学や断層や 地殻変動を研究することができます 可能性は無限大です
目的3:地球の記録を保存すること 我々の遠い子孫が将来 失われた文化の歴史遺産を再現して 研究できるようにします 科学技術の進歩に伴って 彼らは新たなツールやアルゴリズムや AIまでも 現在のLiDARスキャン データに適用して 今の我々が想像もつかないような 疑問を投げ掛けるでしょう
ノートルダムのように こうした記録の使われ方を 我々が知るすべはありません しかしそれらが極めて 重要になることは分かります アース・アーカイヴは将来の世代への 究極の贈り物なのです というのも実のところ その影響を全て見届けるには 私は寿命が足りません 皆さんも同じでしょう だからこそ 行う価値があるのです アース・アーカイヴは 人類の将来に託す賭けなのです 皆が一緒に 力を合わせて 人間として 科学者として 気候変動に立ち向かい 正しいことを行うと決め 現在の我々のためばかりではなく 先人たちの功績をたたえ その恩を将来の世代に渡して 遺産を引き継いでもらうための 賭けなのです
ありがとうございました
(拍手)
フィルムや新聞が記録として保存され、種子さえ保管されている現在、地球の全表面の記録が保存できたら?考古学者のクリス・フィッシャーが、ホンジュラスのジャングルで古代都市の地図を作った経験をきっかけに、LiDAR(ライダー)つまり飛行機からのレーザー光照射による地図作成の技術を使って、地球の全表面をスキャンしようと訴えます。私たちの文化や生態の遺産を後世に残すために。