新生児の腸内微生物は生涯の健康にどのように影響するか(10:33)

ヘナ・マリア・ウスィトゥパ(Henna-Maria Uusitupa)
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対訳テキスト
講演内容の日本語対訳テキストです。
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微生物は 特に乳児にとって 悪いものだと 考えがちかもしれません しかし研究者は 実はそれが 逆であることを示しました 真相はもう少し複雑なだけでなく 実際にはもっとずっと面白いのです 私たちの 良い健康状態には 微生物の適切な調整が必要なようです どの微生物でもいいのではなく 適切な組み合わせが必要です 進化の中で 我々が共存できるように適応した 微生物を使って それがうまく達成できました ですので まさに生まれた時点で 適切な組み合わせの微生物を獲得し始めるのは 驚くべきことではないと思います 少なくとも我々の一部はそうしています

帝王切開で生まれた赤ちゃんと 自然分娩で生まれた赤ちゃんでは 微生物に関して言えば 人生のスタートは同じではありません 出生後には 数え切れないほどの 幼児期の出来事や状況が 様々あって それらが腸内微生物叢の形成に さらに修飾を加えます 具体的には 乳児や母親に 処方される薬剤や その家庭にいるペットや兄弟の数 そして家の衛生状態も影響します ただ 家については 常時 完璧に清潔という状態では ないのが望ましいです 母子の栄養もそうです これらの出来事と状況は全て 腸内微生物叢の形成に 大きな役割を果たしており 生涯に渡る子どもの健康に きわめて大きな影響を及ぼします

ここで述べているのは 健康に対する小さな影響ではなく もっと大きな影響のことです 私たちがどんな微生物を獲得するかは 肥満 糖尿病 さらには いくつかのがんなどの病気の 発症しやすさに影響を与えます

今述べたこれらの人生初期の出来事の多くは 我々が影響を与えることができず 避けられないものです 例えば帝王切開は 新生児を救うために開発され 日常的に行っているものですし ほとんどの薬剤は 正当な理由で処方されています 特に乳児においてはそうです 他にも色々あります そういう訳で 乳児の腸内微生物叢の形成を 妨げる可能性のある 人生初期の出来事が発生した後に 乳児の健康を守る方法を 学ばなければなりません

私が研究者として また 乳児の健康プラットフォームの 技術的リーダーとして 日々 解決を目指している問い — 私が この講演で 答えようとしている問いとは どのようにすれば全ての乳児が どのように生まれ どんな初期の出来事に 遭遇したとしても 生涯の健康を得るための細菌を 同じく手に入れられるかです 崇高な動機に思われるでしょう そのとおりです では 実際に見ていきましょう

最初に 微生物には適切な組み合わせが 必要だと申し上げましたね 適切な組み合わせを得るために 身体に生息する微生物を 特定の順序で 取り込む必要があります これは微生物定着の進行過程として 考えることができます 私たちの身体に ごく初期に生息する微生物は 乳児の腸内の環境を変化させ 次の微生物が参入できるようにします それはまるで最初の侵略者が まず先に 他の入植者が足場とするための インフラを設営するようなものです

もし乳児が帝王切開で生まれた場合 初期段階の微生物定着に 大きな違いが生じます 母体の膣 糞便や皮膚の細菌の代わりに 主に皮膚の細菌のみが乳児の腸に入るためです すると微生物定着の進行は 全く異なるものになります 進化の過程で私たちが適応したものと 違うというだけで 帝王切開で生まれた赤ちゃんに 後年 健康上の不利益が生じるかもしれません ここでは例として体重増加を取り上げます いくつかの研究ですでに示されていますが 腸内微生物叢の組成は 体重に関連するのと同様 糖尿病や心血管疾患などの 発症の可能性に関連します そして現在 将来 肥満や体重超過になりうる人々は 既に 乳児の頃には 糞便サンプル内の微生物の一部が 欠如していることが示されています また 帝王切開で生まれた赤ちゃんと 幼少期に大量の抗生物質を 投与された赤ちゃんでは 同じ微生物が欠如している 可能性が明らかになっています この話を完結させるものとして いくつかの研究では 帝王切開で生まれた もしくは幼い段階で沢山の 抗生物質を投与された乳児は 肥満や50%もの体重過多になることが 示されています これは大きな数字です

いまここで こう思っている方も いるでしょう 「大変 帝王切開を受けたばかり」 「自分は帝王切開で生まれた」 「子供が抗生物質を投与された」 でも心配しないで下さい もしこのような微生物がいなかったり あるいはなんらかの理由で失われたりしても 後で獲得することができます でも 乳児は獲得に少し助けが必要です

すでによく知られていることの一つに 母乳栄養があります 母乳は一種の奇跡のようなものです 乳児のための栄養が含まれているのに加えて 良い微生物のための栄養が 含まれているからです

母乳栄養の乳児には好都合ですが 全員 母乳で育てられる わけではありません 母乳で育てられていない赤ちゃんが 乳児期のうちに 腸内微生物叢の形成を 阻害する可能性のある出来事に 見舞われたら それを回復するために 何ができるでしょうか?

ここからは解決策について お話ししましょう この研究分野は 近年大きく前進をしています まず 不足している微生物があれば 経口摂取できることがわかっています 摂取されて良い効果を表す微生物のことを プロバイオティクスと呼び ここ数年に渡って 臨床試験がいくつか行われています また幼児においても 後年に湿疹のリスクを減らすなど 素晴らしい効果が見られます

2つ目の革新は 研究者が母乳に注目するようになって 実現しました 母乳への注目は理にかなっていました 先ほどお話しした通り 母乳栄養は腸内細菌叢の健全な形成を 助けることがすでに知られていたからです 母乳の中にヒトミルクオリゴ糖という 固形成分が含まれていることは 1930年代には発見されていましたが その機能は 発見後 何十年もの間 謎に包まれていました 科学者は大変頭を悩ませていました なぜなら 母乳にかなり多く 含まれていたからです 全固形分の中で 3番目に量の多い物質ですが ヒトどころか 乳児にさえ消化されません では何故 母親はそれらを母乳中に 合成するのでしょうか 自分の栄養源を使って 乳児が利用できないものを? 通常自然界はそのように働いていません そうですよね? 最終的に この物質の役割が わかったときには かなり驚きました 乳児にとって最適な微生物に 選択的に栄養分を供給し その子の健康を左右していたのですから

ヒトミルクオリゴ糖には 化学構造が異なる 100を超える種類があって 今では その一部を 研究室で合成できます それらをプロバイオティクスと一緒に 母乳から摂取できない 子供や幼児向けにパッケージ化すれば 乳幼児期に微生物叢の形成を 阻害する出来事に遭遇した場合でも これを回復することができるのです

これが解決方法です 研究者として 現時点で 付け加えなければならないのは この分野の研究が まだ進行中で すべきことが まだたくさん 残っているということです 科学者がよく使う言葉ですよね ただ いろいろな状況下で 重要な微生物のうち どれが欠けているのか そして 特定の乳児の症例で 微生物叢を回復するには どんなヒトミルクオリゴ糖を どのプロバイオティクスに配合すべきかを さらに深く理解するために 私たちは着実に前進しています

この講演から覚えておいてほしいのは 確かに 自然分娩で母乳栄養の赤ちゃんは 人間が適応するように進化してきた 微生物叢を持っていますが その形成が不可能な場合でも 健康への悪影響を減らす方法が あるということです

最後に 少しの間 こんな世界を想像してください あなたが赤ちゃんを 健康診断に連れて行くと 定期的に腸内微生物叢の形成を モニターしてくれて もし乱れが確認された場合は 微生物叢を回復する製品が オーダーメイドで処方されるような 医療システムがある世界です こういう予防的な医療システムのおかげで 慢性疾患の発症が 非常に稀なものになるとしたら どれほど素晴らしいことでしょうか そんな世界を想像できますか? そんな未来が実現可能だと思いますか?

私は可能だと思います そういう未来を信じ そんな未来の発展に 貢献したいと思っています 全ての乳児が生涯に渡って 健康を維持できるように 人生の出発点が適切に 調整される未来に向けて

ありがとうございました

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このプレゼンテーションについて

生涯の健康は生まれた日に決定されていたかもしれないと、微生物叢を研究するヘナ・マリア・ウスィトゥパは言います。 この素晴らしい講演では、出生時や乳児期に獲得した腸内微生物がどのように成人期に至るまでの健康に影響するかを示し、肥満や糖尿病などの問題に取り組むのに役立つ微生物叢の新しい研究について説明します。

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