世界最長の海中トンネルはどうやって建設されたか(5:09)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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ヨーロッパの2つの大国に 挟まれたイギリス海峡は 古くから世界で最も重要な 航路の1つです しかし その歴史において イギリス海峡は岩石海岸である上に 時化になりやすく 横断するのは危険なことでした 19世紀初頭の技術者は 33キロ離れた両国間をつなぐ 様々な計画案を提出しました 人工島を橋でつなげる計画 浮遊式の構造物から 水中のトンネルをつり下げる計画 既存のどのトンネルよりも2倍長い 海底トンネルを作る計画などがありました 19世紀末頃には この最後の提案がヨーロッパの人たちの 興味をかき立てました トンネルの掘削機が考案され 海底下に安定した チョーク・マール層を見つけると この空想上のトンネルは 現実味を帯びてきました しかし 工事の喫緊の課題に対処できる 技術者はいませんでした
当時 イギリス人は地理的な孤立を 戦略的に優位と捉えており フランス侵攻の恐怖から トンネル計画は頓挫しました 空中戦が始まったことで このような恐怖は過去のものとなりましたが 新たな経済問題への懸念が これにとって代わりました 最初に掘削してから100年後に イギリスとフランスは ようやく合意に達し 民間資金を投じて工事が進みました 1985年にフランスとイギリスの 企業グループが 約140億ポンド相当の費用をかけて トンネルを建設しました それまでで最も高額な インフラ整備プロジェクトとなりました
独立したトンネルが3本という設計で フランス行きの鉄道トンネルが1本 イギリス行きの鉄道トンネルが1本 その間に保守用トンネルが1本 ありました トンネル間をつなぐ渡り線や 避難通路や通気孔が設置され 総延長200キロを超える トンネルとなりました 1988年 イギリスとフランス側の両方から 掘削をはじめ 中間地点で合流する計画でした
フランス海岸での初期の調査により 建設対象地域に多くの断層線が見つかりました これらの小さな亀裂から 水が岩盤に染み込むので 技術者は防水性の掘削機を 開発しなくてはなりませんでした イギリス側は乾燥していると見込み 通常の掘削機で工事を進めましたが 着工からわずか数か月後 未検出の亀裂から海水が入り込みました この湿ったチョーク層を掘削するのに イギリスは注入剤を使って 掘削した後にできた亀裂を塞ぎ さらには 主トンネル坑の掘削前に 前方のチョーク層の補強工事を 行うこともありました
このような障害がありながらも 双方ともフル稼働で掘削を開始しました 1,300トンにも及ぶ掘削機で 毎時約3.5メートルを掘進しました 掘り進むごとに覆工用のリングを設置して 掘削済み部分を固定し 掘削機の後方で 作業車が通れるようにしました
フル稼働で作業しながらも 工事は慎重に進められました チョーク層は不安定な岩層と 粘土層の間にあり 前回の測量で100か所以上の ボーリング坑が開いていました さらに 双方とも絶えず座標を確認し 誤差が互いに2センチ以内で 収まるようにしました この精密な軌道を維持しつつ 掘削作業員は 衛星測位システムを使い また 古生物学者は 掘り出された化石を使って 正しい深さかを確認しました
工事期間中 13,000人以上の作業員が投入され うち10人が犠牲になりました トンネルを掘り始めてから2年半後に ようやく貫通しました イギリスの作業員 グラハム・ファッグが フランス側に現れ 陸続きであった氷河時代以降では イギリス海峡を渡った最初の人になりました
まだ工事は残っていました 渡り線やポンプ室の設置から 約160キロの線路、ケーブル センサーの敷設などです 1994年5月6日 トンネル完成を記念する 開通式が行われました 16か月後に全線開通し 乗客用の列車と乗用車とトラック用の 貨物シャトル列車が運行しました
こんにち 海峡トンネルを 年間2千万人以上の乗客が行き来しており 海峡の通過時間は 約35分となっています あいにく 誰でも合法的に 乗れるわけではありません 何千もの難民が このトンネルを通って イギリスへの入国を試み 命を落とした人もいます このような悲劇から トンネルの南側入口は 紛争が起こる場所へと変容しています 願わくば この建造物の歴史を振り返ることで 人々の間の障壁を取り除くことが 最高の人道的行為であると 思い出して欲しいのです
ヨーロッパの2つの大国に挟まれたイギリス海峡は、古くから世界で最も重要な航路の1つです。しかし、その歴史において、横断するのは危険なものでした。技術は両国をつなぐ様々な計画案を出し、その中には既存のどのトンネルよりも2倍長い海底トンネルを作る計画もありました。アレックス・ジェンドラーが英仏海峡トンネル建設の詳細をお話しします。