人工知能の時代におけるアート(11:52)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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こんにちは レフィックです 私はメディアアーティストです データを絵の具に 思考を筆代わりに 人工知能(AI)の支援を得て 絵を描きます 建築空間をキャンバスにして 機械と共同で 建物に夢や幻覚を見させます 一体何のことかと お思いかも知れません ですので 私の作品とその世界を ご覧に入れましょう
想像力の威力を目のあたりにしたのは 8歳の時 イスタンブールでの 子供時代のことでした ある日 母がビデオテープを 持って帰ってきました SF映画の 『ブレードランナー』でした すっかり魅了されたことを 今でもはっきりと覚えています 見事な建造物が立ち並ぶ 近未来のロサンゼルスは 未だかつて見たことのない光景でした この光景が 私の夢想の中に 決まって出てくるようになりました
2012年 UCLAの デザインメディアアート学科のー 大学院に進学するべく LAに着いた時 レンタカーを借りて 市街まで車を走らせました あの近未来の世界を この目で見たかったからです ある台詞が 私の頭の中で 繰り返されたのを思い出します そのシーンでは アンドロイドのレイチェルが 彼女の記憶が実は 自分のものでないことに気付きます 他人の記憶であることを デッカードが告げてしまうのです その時以来 私を動かし続けている 疑問があります 「機械は 人間の記憶で 何ができるのだろう?」 別の言い方をすれば 「21世紀における AIであることの意味とは?」
アンドロイドや 人工知能はどれも 人間の協力あってはじめて 知的になります アンドロイドや人工知能は 人間が 作りたいと 頭では思っていても 能力的にできないものを 作ることができます 例えば 皆さんのソーシャルネットでの 活動を考えてみてください やり取りするほどに 知的になっていきます もし機械が学習したり 記憶を処理したりできるのなら 夢を見ることもまた 可能でしょうか? 幻覚を見ることは? 無意識に記憶したり いろんな人が見る夢を 結び付けるのはどうでしょう? 21世紀におけるAIであることの意味は ただ何も忘れないことなんでしょうか? もしそうであるなら これは 私たちが何世紀にもわたり 様々なメディアを通じて 歴史を捉えようと努力してきた中で 最も革命的なことではないでしょうか? 言い換えるなら リドリー・スコットの『ブレードランナー』以来 どれだけ進歩したのでしょう?
そこで 私は2014年に スタジオを立ち上げ 建築家や コンピューター科学者 データ科学者 脳科学者 音楽家や 作家まで 私の夢の実現のため 加わってもらいました 「データは絵の具となりうるのか?」 メディアアートを建造物に埋め込み 仮想と現実の世界を衝突させようと 乗り出した時 最初に問うた疑問です 「データの中の詩」と私が呼ぶものを 思い描きはじめました
初期の作品の 『ヴァーチャル・ディピクション』は パブリックアートのデータ彫刻で サンフランシスコ市の依頼でした この作品は サンフランシスコの町に流れる 繋がりの網目を表現することで 生きた都市空間における 壮観な美的体験へと 見る者を引き込みます また この作品が教えてくれるのは 日常生活の中では 目につかないデータ 例えばご覧いただいている ツイッターのフィードなどが いかに可視化でき 集団的に経験できる 感覚的知識に変わるかということです
実際 データは 経験してはじめて知識となり 知識や経験というものは 様々な形を取り得ます それらの関連性を 人工知能の 際限のない可能性から探っていた時 私たちはまた 人間の感覚と 自然をシミュレーションする人工知能の能力の 関連性についても考えました
そうした問いが 風のデータの作品に 取り組んでいた際に生まれました これは視覚化された詩 という形を取り ウィンドセンサから収集した 隠れたデータセットを元に 生成アルゴリズムを活用して 風速や風向や突風のデータを 優美なデータの絵の具に 変換しました その結果 生まれたのは 瞑想的にして思索的な経験でした この『ボスポラス』と題した 動的データ彫刻作品は 自然現象を新たに想像する 人間の能力を問う 似たような試みでした マルマラ海の 高周波レーダーから 集めたデータを用いて 海表面データを収集し その変化する動きを 人工知能を使って投影して 穏やかながらも 絶え間なく移ろう 人工の海景色の中にいるような感覚を 生み出しました
頭でものを見る行為は しばしば「想像」と呼ばれますが 私の場合 建築物を想像するというのは ガラス、鉄筋、コンクリートの 範囲を超えて 最も深い没入の可能性を探り 建造環境において人間の知覚を 拡張する方法を実験することです
人工知能の研究は 日々進歩を遂げており より大きく より知識豊富なシステムに 接続されているような 感覚に陥ります 接続しているような 感覚に陥ります
2017年 私たちは イスタンブールにある 文化的資料の オープンソース図書館を見つけ 『アーカイブ・ドリーミング』の 制作がはじまりました 世界初の AIを用いた パブリックアート作品の一つで 270年分 170万件の資料を AIを使い検索します この時 刺激を受けたものの一つが アルゼンチンの作家 ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説 『バベルの図書館』です この物語では巨大な図書館として 想像された宇宙が描かれ そこには ある形式と文字で書かれた410頁の 存在しうるあらゆる本が収められています この刺激的なイメージを 通して考えたのは AIの時代に 膨大な知識庫を いかに身体的に探索するか ということでした 結果生まれたものは ご覧のような ユーザー主導による 没入型の空間です 『アーカイブ・ドリーミング』は 図書館での経験を このAIの時代において 大きく変えました
『マシン・ハルシネーション』はニューヨークの 公開されている写真の集成を通して 時間と空間を探索する 体験ができる作品です この唯一無二の 没入型プロジェクトを行うにあたり 機械学習アルゴリズムを使って 1億を超えるニューヨークの写真の 発見と処理を行いました 物語るための革新的なシステムを デザインし 人工知能を用い 新たな画像を 予測したり 幻覚化したりして ニューヨークの町の過去と未来が 夢幻的に融合していく情景に 入り込めるようにしました
知識の記憶や伝達へと プロジェクトを 深化させていくにつれ より強く思うようになったのは 記憶とは静止した思い出ではなく 過去の出来事の 絶えず変わりゆく 解釈だという点でした 私たちが思案したのは 人工知能がいかに 夢を見ることや 思い出すこと 幻覚を見ることといった 無意識や潜在意識で起きることを シミュレーションできるかでした それによって生まれたのが 『メルティング・メモリーズ』と題した 記憶が蘇る瞬間を 視覚化した作品です
これは ある悲しい出来事から 着想を得たもので その頃 私の叔父がアルツハイマーと 診断されたのです 当時 頭がいっぱいだったのは まだ思い出せるうちに 何をどう記憶しているかということを 讃える方法を見つけることでした 私は 記憶は姿を消すものではなく 溶けていき 姿を変えるものと 捉えるようになりました 人工知能の力を借りて カリフォルニア大学 ニューロスケープ・ラボの 科学者たちの協力により 記憶が作られる際に脳から出る信号を 解読する方法を教わりました 叔父は 記憶を処理する 能力を失いつつあったものの 脳波データから生まれたアート作品は 記憶の形を探求し 叔父が失ったものへ 敬意を捧げるものとなりました
現代のLAは ほぼ大部分が 子供の頃に 思い描いていたものとは かけ離れたものですが ある建物だけは例外です ウォルト・ディズニー・ コンサートホール(WDCH)で 私の憧れるフランク・ゲーリーが 設計しました 2018年に ロサンゼルス・フィルから 電話があり オーケストラ創立100周年を記念する 作品の制作を依頼されました これを受け ある疑問を 追求しようと決めました 「建物は学ぶことはできるのか? 夢を見ることは?」 答えを出すべく LAフィルとWDCHの アーカイブの全記録を収集しました 具体的には デジタルアーカイブ化された 77テラバイトに及ぶ記憶です 人工知能を用いて 100年分の 全アーカイブデータが 建物の外壁にマッピングされました 42台のプロジェクタを用いた 近未来的なパブリックアート体験が ロサンゼルスの中心部で実現し 『ブレードランナー』のLAに 一歩近づいたのです 建物が夢を見ることができるとしたら あの時がまさにそれです
では 機械の心の中への 最後の旅に参りましょう 今 私たちは 過去30年に行われた すべてのTEDトークの データの世界に すっかり入り込んでいます このデータセットには 7,705回分のトークが収められています これを秒換算すると 740万秒となり その一秒一秒が このデータの世界に表されています ここにご覧いただいている 画像はすべて 数々のトークの中の 唯一無二の瞬間を表しています 人工知能を用いることで 全部で48万7千個ある文を トピック毎の 330個の クラスターにしました 自然 地球規模排出 生物種絶滅 人種問題 計算 信頼 感情 水 難民 それぞれのクラスターを アルゴリズムで連結し 1億1300万の線分を生成して 新たな概念的関係を明らかにします ステージ上で問われた質問を すべて記憶できたら 素晴らしいと思いませんか?
こうやって 数々の偉大な思想家たちの 心の中に 機械と一緒に入り込んで 様々な感情に触れ それが学習すること 記憶すること 疑問を持つこと 想像すること すべてに同時に繋がっていて 心の持つ力を拡大するのです
私にとって この場にいることが まさに21世紀における AIであることの意味なのです 人間が夢見るしかできないことを 機械の知能が 学び 記憶できるようにすることは 私達の手にかかっているのです
ありがとうございました
人工知能の心の中はどんな風なのでしょう?映画『ブレードランナー』に描かれた近未来のロサンゼルスの建築のビジョンにひらめきを得たメディアアーティストのレフィック・アナドルは、自身が開いたスタジオで、建築家、データ科学者、脳科学者、音楽家らと協力して、アートと人工知能を融合させています。テクノロジーと創造性の未来について考えを一新させる異世界のような作品の数々をご覧ください。