未来の自動フォーカス老眼鏡(6:42)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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私たち全員が毎日頼りにしている 「あるもの」が これから失われたり すでに失われたりしています もちろん鍵のことです
(笑)
というのは冗談で 私がこれから話したいのは 最も重要な感覚のひとつ 視覚です 毎日 私たちはほんの少しずつ 目のピント調節の能力を失っていて 最終的に 全く調節が できなくなります こういう状況のことを老眼と呼び 世界の20億人が影響を受けています そう 20億です もし 老眼の人が身近にいなくて 「その20億人はどこにいるの?」 と思うなら ここで詳細を話す前に ヒントを出しましょう 老眼鏡や 遠近両用眼鏡をかけるのも 老眼が原因です
始めに 老眼に至るまでどのようにして ピント調節能力が 失われるかについて述べます 生まれたばかりの赤ちゃんは 6.5センチほどの近さまで 目の焦点を 合わせられます 20代半ばまでには その約半分の調整能力の 10センチ程度までになります まだ 十分近い距離なので その差に気づかないでしょう しかし 40代後半までには 最も近くても約25センチ あるいは もっと遠くなるかもしれません この時点を越えると 読書など近見視力の作業に 影響があらわれ 皆さんが 60歳になる頃には 半径1メートル以内のものが はっきりと見えなくなります
今 皆さんの中には 「彼が話しているのは 老眼になる一部の人たちのことで 自分には関係ないだろう」 と考えている人がいるかもしれません しかし 違います 文字通り ここにいる皆さん全員が もし今 そうでなくても いつかは老眼になるのです 厄介だと思われたでしょう 老眼は長いあいだ 人類を悩ませてきました そして私たちは様々な解決を 試みてきました 例えば 机に向かって 本を読んでいるとしましょう もし老眼なら おそらくこのような感じに 見えるでしょう この雑誌のように 近くのものは何でもぼやけて見えます 解決策を考えましょう まずは 老眼鏡 老眼鏡のレンズは 単焦点で 近くの物体に焦点が合うように 調整されています しかし 遠くの物体は 焦点から外れます つまり 眼鏡を頻繁に かけたり外したりしなければ いけません 解決策として ベンジャミン・フランクリンが発明したのが 「ダブル・スペクタクル」です 今では 遠近両用眼鏡とも呼びます 遠くを見たい時には 視線を上に 近くを見たい時には 視線を下にすればいいのです 現在は 上下の度数を徐々に変化させ 境目をなくした累進レンズもあります こうしたレンズの欠点は どんな距離においても 視界が狭くなってしまうことです 上から下に向かってこのように 分割されるためです なぜそれが問題かというと 例えば はしごや階段を下りている 場面を想像してみてください 次の足場を確認したくても ぼやけている なぜでしょう 足元を見下ろす時は レンズの手元用部分で見ますが 手の届かない遠い位置にある次の段は 目からすれば遠方に相当するのです
次にあげる解決法は あまり一般的ではありません しかし コンタクトレンズや レーシック手術と並んであげられる モノビジョンというものです これは 利き目の焦点を遠くに合わせ もう一方を 近くに合わせるというものです 脳は 非常に賢いので それぞれの視野で 最もはっきり見える部分を 組み合わせてくれます しかし 両目とも少しずつ 違う物を見るため 両目で距離を測るのが 難しくなります
では どうすればいいのでしょう? 様々な解決策を考えてきましたが いずれも 自然なピント調節を 復元することはできません 見ただけで焦点が合う ということは 期待できません
なぜでしょう? これを説明するために まずは 人間の目の構造を 見ていきたいと思います 異なる距離にピントを合わせる 機能を果たす目の部分を 水晶体と呼びます 水晶体の周りには筋肉があり これが水晶体の形状を変え この形状変化が 度の調節につながるわけです 老眼になるとどうなるのかというと この水晶体が硬くなり 形状変化ができなくなります
さて これまでに挙げた解決策を もう一度考えてみましょう すべての解決策にある共通点で しかし 私たちの本物の目とは異なる点 それはどれも度数が固定であり 海賊の義足のようなものだということです では 視力に対して 現代の義足に 相当するものは何でしょう?
ここ数十年で登場し 急速に発展している 「可変焦点レンズ」と 呼ばれるものがあります それにはいくつかの種類があります 機械可動型 アルバレス・デュアルレンズ 可変型液体レンズ そして 電子切り替え型液晶レンズ これらのレンズには メリットとデメリットがありますが 視覚的な体験については 妥協はありません どんな距離でもシャープに見える フルビジョンの視界
すばらしい 私たちが求めるレンズは 既に存在するのです 問題は解決したのでしょうか? そんなに単純ではありません 可変焦点レンズには 少し複雑な問題を伴います レンズ単体では どの距離に焦点を 合わせればよいのか分かりません 私たちが必要としているのは 遠くを見ると遠くの物がはっきりと見え 近くを見ると 近くの物に焦点が合うよう 自分で考えるまでもなく ピントを合わせてくれる眼鏡です
私がここ数年スタンフォード大学で 取り組んできたのは レンズにこうした正確な判断力を 搭載することです 私たちの試作品では まず 仮想と拡張現実システムの技術を借りて 焦点距離を推定します 視線追跡機能を用いて 目が見ている方向を判定し 両眼の視線方向を使って 三角測量することで 焦点を推定できます また 信頼性を高めるために 距離センサーも追加しました これはカメラになっていて 視界を見渡し 物体との距離を教えてくれます そして 視線方向を元に 距離の推定値の2つ目が得られます この2つの推定値を照合して 可変焦点レンズの度を アップデートするという仕組みです
次に私たちが行ったのは デバイスを実際にテストすることでした 老眼の人を100人募り 私たちのデバイスを試用してもらい 性能を測定しました そして 私たちはこの「autofocals」が 未来の眼鏡だと確信しました 参加者はよりはっきりと物を見たり 素早くピント調節ができるようになり これまでよりも簡単で より質の高い 視力矯正体験ができたのです 簡単に言うと 視覚に関して「autofocals」は 現在の焦点固定の視力矯正にあるような 妥協は 一切しません
しかし 先走りするつもりも ありません まだ私たちのチームには やるべき仕事が多く残っています 例えば 私たちのこの眼鏡ですが 少し…
(笑)
大きいかも? 理由の一つは 研究用・産業用の 大きめの部品を用いているからです もう一つの理由は 視線追跡のアルゴリズムの制約で 眼鏡の全てをしっかりと 固定することが必要だからです プロジェクトが進み 研究段階から会社設立に向けて いずれは未来の「autofocals」を もう少し普通の眼鏡に 近づけていく予定です これを実現するためには 視線追跡技術の性能を 大幅に向上させる必要があります また より小型で効率的な電子回路や レンズを採用する必要もあります とはいえ 現在の試作品でも 可変焦点レンズの技術が 優れた性能を発揮し 従来の固定的な視力補正の性能を 上回ることが 証明できました あとは 時間の問題です
近い将来 いつ どの眼鏡を使えばいいのか 心配することはなくなり ただ 大切なものにだけ 焦点を当てられる日が来るでしょう
ありがとうございました
(拍手)
人間は年齢を重ねるにつれ、目の焦点を調節する能力が徐々に失われていきます。長い人類の歴史を通して経験されてきたこの現象には、遠近両用眼鏡やコンタクトレンズ、あるいはレーシック手術のような処置で対応されてきました。ニティシュ・パドマナバンが紹介する最先端の技術、動的自動フォーカスレンズは、人間の視線をを読み取り、それに合わせて遠近のピントを調節できる文字通り「目の保養」となる技術です。