1通のショートメールで手の届く危機支援を世界へ(11:21)
講演内容の日本語対訳テキストです。
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「14歳です 家に帰りたい」
「私はベス あなたの味方よ もっと話して」
「家出は初めてじゃないけど こんなことに巻き込まれたことない お酒に薬を入れられたんだと思う」
「危険を感じているみたいね 一番速く助けを呼ぶ方法は 自分で911(緊急通報用番号)に 電話することよ」
「 アハハ! もし奴らに聞かれたら 殺されるわ 今にも別の男が入ってきて犯されそう お願い急いで」
「分かった 危険な状態にいるのね 私が911に電話して助けを呼んであげる よく勇気を出して相談したわね」
「ありがとう ベス 警察に用心するよう伝えて 奴らは武器を持ってる」
私がこの話を公開できるのは この国じゅうのニュースメディアで 広く報道された出来事だからです 私達は911に電話しました 警察はこの少女と 他2人の少女を救助し 3人の男を逮捕しました 全員がサンノゼの モーテルにいるところでした
私はナンシー・“ベス”・ルブリン 共同創立者兼CEOを務める Crisis Text Lineは 24時間年中無休の無料サービスです ショートメールやMessengerを使って 心や行動に問題を 抱える人々を助けています クライシス・カウンセラーとしての ここでの名前は “ベス” です たまたま先ほどの会話の 担当だったわけですが これこそが当サービスの主旨です 他人が他人に手を差し伸べることで どん底にいる人が 生き続け 孤独感が和らぎ 自分自身の強さを改めて思い出す というものです
Crisis Text Lineは 2013年8月にひっそりと シカゴとエルパソで立ち上がり それから4ヶ月と経たずに アメリカの全市外局番コードに 対応するようになりました それは このサービスを使った人達が とても良い体験をし 友達に教えたからです 自然に成長したというわけです そして6年半で 約1億5000万件の メッセージを処理しました この 24時間年中無休の 無料サービスの利用者は 若い世代に集中しています SMSでの相談なので 若者中心なのです 利用者の45%が17歳未満です また貧困層が多く 人種も様々です 17%はヒスパニックで 44%はLGBTQです
相談内容を上位5つを挙げると 人間関係 鬱 不安障害 自傷行為 そして 相談のおよそ4回に1回が 自殺願望です 相談者の全員が辛い思いをしています それでも 当サービスの利用者は 通常 約86%の満足度という 評価をくれます 高評価の理由は そのテクノロジーやデータ そして「人」です
まず テクノロジーです このサービスはアプリではありません ダウンロードが必要なものではないのです 無料で 複雑なアンケートもありません とても使いやすいんです SMSを送るだけなのですから 機械学習を用いて 相談内容の深刻さで優先順位をつけます たとえるなら 病院の救急処置室が 足首を捻った子供よりも 銃による傷を優先するようなものです 私達も同じやり方をします つまりリスクの高い案件を優先します 錠剤を1瓶まるまる 一気飲みした人などは 他の人より優先されるわけです
これが命を救うための データサイエンスです でもカウンセリングをするのは人間です これまでに28,000人以上の ボランティアカウンセラーが研修を受けました オンラインでの申し込み後 身元調査を経て 約30時間のトレーニングという流れです 合格した人が — 誰でも合格するわけではなく 合格率はたった33%ですが — 自宅のソファから人命を救えるのです 「ギグ・エコノミー(単発参加型経済)」 ベースのボランティア活動です UberやLyftの ボランティア版というわけです フルタイムのスタッフもいます 関連分野で修士号を持つ人達で 管理責任者として すべての会話を監督し 必要に応じ介入します
テクノロジーとデータと ボランティア労働モデルのお陰で たくさんの 苦しんでいる人々に 手が届くのです 他に頼るつてがない人達 例えば 親に相談できない 十代のゲイの少年 親はゲイでなくなるよう 祈れとしか言わないからです あるいは午前2時まで眠れない少女 期末試験への不安に苛まれています 自分を愛してくれる人達を 失望させたくないからです そこで相談が来るわけです そんな彼らに 私達は愛情を持って接し 支えとなり 自身が持つ本来の強さを 思い出させてあげます そして彼らの安全を守るため 何をすべきか話し合います それから こう伝えます もし悩みを打ち明けて 気持ちが晴れたとしたら — 利用者の68%が それまで誰にも話したことのなかったことを 私達に話した と言っています — もし私達に打ち明けて 気持ちが晴れたなら 明日は 身の回りでもう1人だけ 打ち明けられる人を探しなさい と
そして会話の後 相談者は 先ほど話し合った 安全でいるための計画を実行します それから眠りについたり 日記を書いたりするかもしれません あるいは BTSやLizzoを聴いたり 手紙を書いたりするかもしれません 姉妹や上司や自分宛に書いて 近い将来読み返すための手紙です こうして危険を逃れるのです
時折 人は妄想を抱きます 自分や他人を傷つけるための 計画 手段 タイミングについての妄想で 私達には それを鎮められません 例えば5年前のクリスマスイブに 相談してきたテキサスの男性ですが 他人に苦痛を与える時にだけ 喜びを感じると打ち明け 女性を殺したい その夜 殺しに行くつもりだと話しました そのように差し迫った状況では 911にかけます 911には感謝しています というのも そのテキサスの件は 報道によると 911はその男性の家に警官を送りました 男性は弾丸を込めた武器の山と 記録によると 人間の足も所持していたそうです
現在 介入救助を要請する相談は 全件数の1%以下です それでも1日約26件になります その中で1週間に6件は 殺人に関する相談です 典型なのが学校銃撃犯です これまでに32,000件の 介入救助をしてきました
私達のデータも外部機関による調査も 私達が多くの人命を救い 彼らの人生を変えたことを 裏付けています 私達は 制度を変えるための手段として データを利用しています 例えば 私達が見いだした最善の方法 つまり自殺願望のリスク評価に使う 最適な言葉とは 「自殺を考えていますか?」 という言い方ではありません 代わりに 次のような言い方をします 「死についてや 死ぬことを考えていますか?」 「自分の手で死を選ぼうと 考えていますか?」 このような表現を使ってもらえるよう 報道関係者に共有し (自殺予防の)活動家とも共有しましたし 全国緊急番号協会(NENA)や 911協会にも 自殺への第一応答者が 最善の措置をとれるよう助言しています さらに復員軍人援護局と協力し 自殺願望のある退役軍人を 特定しようとしています
(溜息)
痛み とはアメリカ人だけでなく 人類全体の体験です だから私達の組織は拡大してきたのです 今までは 活動を一国ずつ広げてきました アイルランド 英国 カナダでは 英仏両言語で 一国ずつというペースを 維持することもできますが そのペースだと私達のサービスが 世界人口の3分の1にさえ 届くまでに数十年かかるでしょう それでは遅すぎるのです COVID-19が 3月初旬に広がり始めてから 相談件数は40%増加しました そのうち78%に 「動揺している」「怖い」 「パニック」等の言葉が登場しました 人々はCOVID-19についての不安から 症状について神経質になり 最前線で働く家族を心配します
隔離そのものの影響も出てきています 人々は日常の活動から遠のいていて もしかしたら 虐待者と一緒に 自宅隔離しているかもしれません 性的虐待が48%増加していますし 家庭内暴力は74%増加しています 私たちが見てきた ウイルスと都市封鎖の最大の影響の一つが 経済的なストレスです 破産したら 住む場所をなくしたら どうしよう などという 経済的な破綻への恐れから 相談してくる人も増えています 今 現在 相談してくる人たちの32%が 世帯収入2万ドル以下だと 自己申告しています いつもの比率は19%ですので 増加しているというわけです
よってサービスの素早い拡大が必要です 何ヶ月もの間 言語ごとにサービス拡大する という宣言を計画していました 5言語での対応を今後5年間で可能にし 世界人口の32%が利用可能になる という計画です そこへCOVID-19が起きて 状況は変わりました 今では5年かけるなど 悠長すぎると感じます
だから今日 今ここで 半分の時間でやると約束します 5言語を2年半で達成します どこであっても スペイン語で 英語でも ポルトガル語でも フランス語でも対応します 5番目の言語は? アラビア語です 私達がこれからサービスを提供する相手は 精神衛生サービスがなかなか受けられず 現状のデータが殆どない国々と国民達です 対象には携帯電話を持つ移民も含まれます そして若者 しばしば調査対象外にされますが 携帯を持っていますからね
私達はテクノロジーを使いやすくしてくれる 言語に移行しようとしています― なぜならSMSに加えて WhatsAppとMessengerも 使うつもりだからです 世界的に展開すれば 真夜中でも 相談を受けるキャパが増えます タイムゾーン全体で サービス提供できるからです つまりは 世界中で 他人が他人に 手を差し伸べるようになるということです 世界をまたぐ 巨大な 愛の組織といったところですね
TEDコミュニティが 私達の無謀な夢を 支援してくれてきたことは 私とチームの皆にとって ただただ ありがたいことです 私達の感謝を表す最良の方法は 私達は準備万端で気合十分です と皆さんにお知らせすることです これから 皆さんの支援を活用し 世界中の 何百万という命に 影響を与えていきます 今は辛い時期ですよね 心が乱れ 気が滅入ります 時には 誰もが孤独を感じます 隔離中は特にそうです でも何歳の人でも どんな状況にいる人でも どこに住んでいる人でも 私達と繋がる方法は 皆さんの指先やポケットの中にあります
例の 売春を強要された少女のことを ここ数週間 色々と考えました 私が相談を受けた あの子です どこか安全な場所にいてほしいと思います 私には 彼女がどうやって隔離生活をしているか 誰と一緒にいるかわかりませんが 無事を願っています 去年 彼女がどうやって 私達の電話番号を知ったのか どうやって携帯を手に入れて 助けを求められたのかさえ分かりません 聞かなかかったからです どうでもいいことだったのです 大事なのは 彼女が私達に連絡できたこと そして番号を知っていたこと そして迅速に助けを呼べたこと これこそがゴールなのです 助けを得ることが それを避けることよりも簡単になること 苦難の時や 危険が迫っている時 人と距離を 置かなければいけない時においても 決して誰も独りにしないこと Crisis Text Lineがあれば 誰も 決して本当に独りではないのです
[AudaciousProject.orgで この取り組みをご支援下さい]
もし危機に瀕している人々を、シンプルなショートメールを使って、いつでも、どこでも、助けられるとしたら? この考えに基づいて設立したCrisis Text Line(ショートメールを利用した危機支援サービス)は、助けを必要とする人々と、訓練を受けたボランティアのクライシスカウンセラーを結び付ける、24時間営業の無料サービスです。共同設立者兼CEOのナンシー・ルブリンの言葉でいえば、世界中で他人が他人に手を差し伸べる、巨大な愛の組織のようなものです。新たに4言語での対応を可能にし、地球の3分の1の人々に対して決定的に重要な救命支援を提供するという彼らの壮大な計画について見ていきましょう。(この野心的な計画は、地球規模の変化を巻き起こし、その活動資金を支援する、TEDの取り組み「The Audacious Project」に参加しています。)